研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第3章 新しい研磨

39話 町同士の交易

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 ヒロトシ達は、ミトンの町へ帰ってきた。

「これは領主様。おかえりなさいませ!交渉の方はいかがでしたか?」

 衛兵は、コンテナに乗っていた領主に話しかけた。このコンテナには窓も設置されていて、外から話しかけることができる。
 しかし、衛兵が見たシルフォードや幹部達の顔は沈み切っていた。それを見た衛兵は、交渉が上手く行かなかったのを察したのだった。

「し、失礼いたしました……」

 衛兵達からしたら、ヒロトシが同行したので、てっきりうまくいくと思っていたのだ。だからつい嬉しくなって、領主に上手くいった前提で話しかけてしまったのだ。

 しかし、衛兵がヒロトシの顔を見たら、ニコニコしていた。その顔を見てさっぱりわからなくなったのだ。そのまま、ヒロトシ達は生産ギルドの会議室に向かった。

「おおお!アリベス。帰って来たか」

「ただいま帰りました。すこし、会議室を借ります……」

「お、おい!どうしたんだ?上手く行かなかったのか?」

 アリベスの顔を見たギルドマスターは焦っていた。シルフォード達は、生産ギルドの会議室で重い雰囲気となり、声を荒げていた。

「ヒロトシ君!あれはどういう事だ?」

「まあまあ。落ち着いて下さいよ」

「落ち着いている場合か!塩がミトンの町に入ってこなくなるのだぞ?今はまだいい。町には備蓄があるから半年ほどは何とかなるだろう」

「それよりガーラの町にある工場は閉鎖して売りに出してください。もう、あの町に工場があっても意味はありませんからね」

「それは当然だ!その手配ももうしたよ」

「さすが、シルフォード様行動が早い!」

「何を呑気な事を!これから町の物価は上がっていきどうにもならなくなる……分かっているのか?」

「まあ、俺の意見を聞いて下さいよ」

「今回ばかりは、ヒロトシ君がどうあがこうがどうにもならん!」

「俺は前に塩が足りなくなり塩を作って帰って来たのを忘れたのですか?」

「ヒロトシ君が塩をこの町に提供してくれると言うのか?」

「いや、そんなずっとは無理ですよ。まあ、これを見てください」

「なんだこれは?」
「ヒロトシ様……これはなんですか?」
「こんな真っ白な石は見たことありませんね……」
「これがどうしたと言うのですか?」

「これは塩ですよ。岩塩という物です」

「これが塩?」
「何を言っておる。塩とは砂の様にさらさらしている物だ」

「これを砕くと……まあ、いいので、ちょっと舐めてもらえますか?」

「こ、これは!」
「しょっぱい!」
「た、確かに塩だ!」
「これを、どこから?」

「シルフォード様には信じられないと思いますが、山にある地層から取れたものですよ」

「な、なんだと?塩が山から?」
「そんな事信じられる訳が!」

「まあ、聞いて下さいよ。これをどこから入手したと思いますか?」

「どこだと言うのだ!」

「ダンジョン前の屑石集積場ですよ」

「なんだと?屑石場から?なんでそんなとこに?」

「たぶん、採掘師の誰かが採掘したけど鉱石じゃないから捨てたものだと思います。それで俺は採掘場を調べてみたんですよね」

「それでどうしたのだ?」

「そしたら何と、ミトンの鉱山には膨大な岩塩の地層があるじゃないですか」

「ま、まさか!」

「この岩塩が何よりの証拠ですよ。しかし、これを普通にするにはちょっと手順がありましてですね」

「どういうことなんだ?」

「この岩塩はそのまま食すと、体には毒なんですよ……」

「それじゃあ、駄目じゃないか。と、いうか……さっき舐めてしまったぞ?」

「大丈夫ですよ。ちゃんとした処理をしたものです。この岩塩を採掘したら、錬金術で塩分と汚染物質をわけてください」

「なるほど……そうすることで、塩分だけを取り出せると言うのか」

「そういう事です」

「そして、これを砕けば塩の出来上がりと言う訳です」

「ヒロトシ君は、これがあったからあんな強気で!」

「まあ、そういう事です」

「ま、まさか……塩が山から取れるとは思わなかった……」



 そして、1ヶ月ほどが過ぎていた。

 この事は採掘師達にも朗報だった。今まで鉄鉱石しか採掘できない駆け出しの人間にとって、塩を採掘することで生活が豊かになったからだ。
 そして、それは錬金術師にも新たな依頼が舞い込む事になり経済がまわることになる。海の塩とは違い、角が無くうまみがあるのだ。これはミトンの町の人気商品になる事になる。

「この塩は本当にうまいぜ!」
「肉にあうよなあ」
「ホントだぜ。少し高いが納得できるものな」

 ミトンの町では、早速売り出される事になり、ガーラの町を必要とする事が無くなった。これに苛立ったのがガーラの領主であるフォルゼンであった。

「一体どういうことだ!なんで、山側にある町から塩が売り出されるのだ!」

「分かりません……何でこんなことになったのか」

「それであの塩はどんな塩なのだ……」

「それが手に入らないのです」

「何故、手に入らぬのだ!」

「そ、それは……うちがミトンへの塩の輸出を止めたから、あちらも塩の輸出はしないとのことで……もし、ミトン産の塩が欲しいのであれば、5倍の値段を払えと……」

「馬鹿な!5倍だと⁉」




「領主様!やっと少量ですが、手に入りました」

 会議中に、幹部の一人が慌てて会議室に飛び込んできて、息を切らしていた。

「とりあえず少量ですが、他の町に輸出されたものを入手したのですが、海の塩とは違い雑味や角が無いのです……物凄くまろやかな味わいで、他の町でも凄く人気になりつつあります」

「ぐぬぬぬぬ!」

「あの時、ヒロトシがそういう態度でいいのかと言った本当の意味はこれだったのか……」

「まさか、こんな事になるとは私達にも読めませんでした……申し訳ありません……」

 ヒロトシが言った本当の意味は、オークションの不参加ではなかった。ダンジョン前で屑石の処理の時に見つけた岩塩だったのだ。それを鉄鉱石の山から見つけて、ミトン所有の鉱山に岩塩があると予想をしてその存在を発見したのだ。

 ミトンの町の会議室では、ヒロトシとシルフォードと幹部達が笑顔となっていた。
 
「ヒロトシ君、本当にありがとう!これでミトンの町はまたもや君に救われた事になる」

「シルフォード様は本当に調子がいいんだから。あの時取引を断られた時の顔は、本当にこの世の終わりのような感じでしたよ。あははははは!」

「そうイジメるでない!あの時は本当にそう思ったのだ」

「しかし、ちょっと思う事はあって、お願いがあるのですがよろしいですか?」

「なんだね?君にはもう足を向けて寝る事は出来んからな、私が出来る事なら言ってくれ」

「ガーラの町ですよ。何でもミトン産の塩を5倍で購入しろと言ったそうじゃないですか?」

「何が悪いのだね?あいつ等は塩を売らないと言ったのだぞ?あのままではミトンの町はどうなっていたか。5倍で売ってくれるだけでも感謝して欲しいぐらいだ」

「それは止めて、通常の値で売ってあげてください」

「何を言っているんだね!正気か?」

「ええ。正気ですよ」

 ヒロトシのお願いに、シルフォードや幹部達の顔が曇り、ヒロトシの言う事を否定したのだった。

「なに馬鹿な事を言っているのだ。あ奴らは、ミトンの町を破滅させようとしたのだぞ?」

「シルフォード様!今回の事をちゃんと振り返ってください!」

 ヒロトシがいきなり大声を出した事で、シルフォードはビクッとなり背筋が伸びた。

「いきなり大声を出してすいません……いいですか?今回こういう事になったのは、ミトンの貴族がガーラの町に迷惑をかけたことが発端です」

「そ、それは……」

「だからですね、ミトンの塩を通常で取引する代わりに、あの事件の事を許してほしいと言うのです」

「馬鹿な!そんな下手に出る行為を……」

「下手に出る訳ではないです。今まで通りの交易を復活させる為です。いいのですか?ガーラの町には塩だけではないはずです。海の幸自体、ミトンの町に入ってこなくなりますよ?」

「それは……」

「今回の事で悪いのは、明らかにミトン側です。ここは、ちゃんと謝罪の意を示すべきです。じゃないと、ガーラの町と犬猿の仲になりますよ」

 シルフォードは、ヒロトシの言葉に耳を傾け目をつむった。そして、会議室にいた幹部達もまた今回の事を振り返っていた。そして、シルフォードは目を開き、周りにいた幹部役員達に話しかけた。

「分かったよ……みんなもそれでいいか?」

「「「「「はい!」」」」」

 ヒロトシの提案は受け入れられたのだった。そして、すぐにシルフォードはガーラの町に訪問をして、今回の事を謝罪し、ミトン産の塩を通常販売することで、ガーラの町から許しを得たのだった。

「まさか、貴台からこのような申し出があるとは思いませんでした」

 フォルゼンは、すっかり気をよくしていた。

「今回は私達の町の貴族が迷惑をかけて本当に悪かった。それなのに5倍と言う値段を吹っ掛けてしまい、本当に申し訳ない」

「ですが、どうしていきなり考えを改めたのですか?最初、儂達の方がへそを曲げて、ミトンの町に迷惑をかけたのに……」

「これもヒロトシ殿の助言のおかげですよ。私達も最初フォルゼン殿の言動に腹を立てていたのですが、それでは駄目だと怒られまして……」

「ほう……まだ成人したばかりの子供がシルフォード様に……末恐ろしい男よのう……」

「ええ……ヒロトシ殿は先を見通す目を持っておられる……」

「しかし、ヒロトシ様は……あの時、儂らを追い詰めたのでてっきり、今回の事も反対なされると思っておったのになぜ……」

「先ほども言った通り、ヒロトシ殿は先を見通す目を持っておられる。ひょっとしたら、最初からこのような着地地点を考えておったのかもしれませんな……」

「まさか!それが本当なら、儂等貴族は完全に、ヒロトシ様の手のひらの上だったじゃないか?」

「そうだったのかもしれませぬな……だが、実際我らの町は救われたと言えよう……」

 実際ミトンの町は、塩が手に入るようになり救われたが、塩には埋蔵量がある。数百年はもつのか、どれだけあるのか分からくて無限ではない。そうなればシルフォードの孫より、先の代に迷惑をかける訳には行かないので、遺恨を残さず仲良くしておいた方がいいのだ。
 また、ガーラの町はミトン産の塩のせいで、売り上げが落ちる可能性があった。そのせいで人口が減っては滅亡してもおかしくないのである。
 大袈裟だとは思うが、この世界では人口が減ると、魔物や盗賊がいる為、本当に危険であり、ちょっとの事で命が危険にさらされるのだ。

 それで一つの町が滅ぶと、街道の中継地点が長くなると行商できなくなり、その方面には疎遠となりその街道沿いには魔物が増え危険になるのだ。
 そのため、町の交易は重大なものであり、それを気づかせてくれたのがヒロトシだったのだ。


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