研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第3章 新しい研磨

22話 想定外の戦力

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 闇ギルドが、遂にミトンの町に押し寄せてきた。その一報は前と同じく冒険者が慌てて町に帰ってきた事から始まった。

「た、大変だ!北の森に数年前と同じようにアンデット集団が!」

「なんですって!」

 冒険者の一人が慌てて飛び込んできたと同時に、町に警戒を報せる鐘が鳴り響いたのだ。そして、受付嬢であるミルファーが、他の受付嬢にギルドマスターに報せる様にと指示を飛ばしていた。今やミルファーは、受付嬢の中間管理職にまでなっていて、頼れる上司の1人になっていた。

「貴方は、ギルドカードの招集アラートを鳴らして」

「はい!」

 これにより、ミトンの町の外近辺にいる冒険者達には知らせが届き、町に帰って来るだろう。そして、すぐにヒロトシに伝令を飛ばしたのだった。

「だれか!ヒロトシ様に伝令を!」

「わかった!俺が行ってくる!」

 その間に、冒険者が続々とギルドに集まってきていた。当然領主のシルフォードや、町の役員達も集まってきていた。

「ついにやって来たか……闇ギルドめ」
「しかし、今回はあの程度なら、ヒロトシ様の援助が無くても行けそうですな」
「たしかに!」

 町の首脳陣は余裕の笑顔で構えていた。前回とは違い、冒険者はもちろん町の兵士や国の衛兵達は、㋪美研で装備が+3になっていたのである。これは単純計算で5倍以上の戦力と変わらなかった。

「しかし、ヒロトシ君の予見は見事に当たったな……」

「本当ですね。あれから1年の月日が経ち、こちらとしても準備が整えられました」
「本当にヒロトシ様は、ミトンの町の守護神の生まれ変わりですね」
「そうですなあ!」

「「「「「「わははははははは!」」」」」

 本来であれば、作戦本部はスタンピードが起こると悲壮感で沈み切っているのが当たり前だが、ヒロトシの助言でシルフォード達町の役員は、この日の為にあらゆる準備をしていたので余裕すらあったのだ。

「食料の備蓄は?」

「この町なら切り詰めれば1ヶ月は大丈夫です」

「薬草や聖水は?」

「前回の時のスタンピードの時の3倍は備蓄しています」

 前回の時には無かった聖水も準備を怠らなかった。これは町が大きくなり、聖水が作れる施設も出来たことにあった。

「大変だ!」

「なにがあった?」

 余裕で構えていたギルドに、新たな情報が舞い込んでギルドマスターの顔に冷や汗がながれた。

「西の方角、ガーラの町に続く街道にアンデット集団が!」

「何だと!そんな馬鹿な⁉北の森の間違いではないのか」

「いいえ、我らはガーラの町に向かおうとしてたのですが、丘を越え少し行った所の森の中に!」

 ギルドマスターは、すぐに作戦本部にこの事を報告した。これにはシルフォード達役員も驚きを隠せなかった。この事で、戦力を2つに分けないといけなくなり、先ほどまでの余裕が消え失せたのだった。
 そしてこの後、シルフォード達は絶望に叩き落とされる事になる。冒険者達が町の外から続々と帰って来た時に、新たな情報が持たされた。

「ギルドマスターに連絡を、東の山の裾野付近にアンデット集団が出現!」

「なんですって!それは本当なの?」

 報せを聞いたミルファーは大声を上げてしまった。これで北と西と東の3方向からスタンピードが起こった事になる。

「ギルドマスター、たった今別の情報が入りました」

「今度は何だ!」

「ひ、東の山からもアンデット集団が……」

「ば、馬鹿な……そんな事が!」

 そして、最後に南からもアンデットが、出現したと報告があった。最後に、又冒険者がギルドに駆け込んできたのだ。

「た、大変だ!南の森に!」

「う、嘘でしょ……南からもアンデット集団が出現したと言うの?」

「ち、違う!そんな生易しいものじゃない!ドラゴンゾンビが!」

 ドラゴンゾンビと聞き、ギルド内は静まり返ってしまった。

「嘘……」
「嘘じゃない!俺達はこの目で確認をしたんだ!あの巨体がいきなり出現したんだ」
「そうだ!この町はもう終わりだから、早くギルドマスターに言って町の人間を退避させないと、とんでもない事になるぞ!

「退避は無理です」

「何でだよ!ドラゴンゾンビは移動に時間がかかる。こんな事を言っている間に早く行動に移したら!」

「駄目です、どこにも逃げ場がないんです」

「何を言っているんだ!北に逃げればまだ!」

 すると、ギルドにいたSランク冒険者達が止めたのだった。

「違うんだ……もう、北と西と東にアンデット集団が出現しているんだ……俺達は逃げる方向が無い……」

「馬鹿な事を!そんな事があり得るのか?」

「ああ……今ミトンの町は、アンデット集団に囲まれているんだ。逃げ場なんかどこにも……」

 そこに知らせを聞いたヒロトシが、ギルドに入ってきた。

「今どういう情況だ?」

「「「「「「「「ヒロトシ様!」」」」」」」」

 ギルドに入ってきたヒロトシの姿を見て、ミルファーたちが歓喜に沸いた。

「ヒロトシ様!いい所に」

「それでどういう情況だ?」

 ミルファーから、今の状況を聞きヒロトシは大笑いをした。その姿をみてミルファーは怒り、他の冒険者達はヒロトシが気が触れてしまったのだと思った。

「何を笑っているのですか?」

「いや、ごめんごめん。闇ギルドも必死なんだと思ったら、なんか笑えてしまって……いやああ、笑った笑った」

「笑っている状況ではございません!いったい何を考えているんですか!」

「まあ、そんなに怒るなって、所詮アンデットの集団だ。俺達が力を合せればどうにでもなるよ!」

「う、嘘ですよね?それは本当ですか?」

「ああ!嘘は言わないよ」

 ヒロトシの言葉に、さっきまで沈んでいた冒険者は勇気がわいてきたのだ。

「まずは、ギルドマスターに会わせてくれ」

「わ、分かりました」

 ミルファーは、ヒロトシを作戦会議を開いている作戦本部に連れていった。会議室は次々目の前が暗くなるような情報で静まり返っていた。

「失礼します。ヒロトシ様を連れてきました」

 ミルファーが、ヒロトシを連れてきたと言ったとたん、町の要人たちは一斉に席を立ち、ヒロトシに駆け寄ったのだ。

「皆さん落ち着いて下さい」

「ヒロトシ君これが落ち着いてなど……」

「いやぁ……まさか闇ギルドが、四方から攻めてくるとは思いもしませんでした」

「「「「何を呑気な事を言っているんだね」」」」

 これには、シルフォードが何かを言う前に、側近の役員達が怒鳴ってしまったのだ。

「まあ、待ってくださいよ。シルフォード様、俺が一年前言った言葉を覚えていますか?」

「何をいきなり?」

「俺は一年前、闇ギルドの奇襲を助言した時のことですよ」

「ああ。それは覚えているよ。だから私は今日のこの時の事を考えて色々と準備してきたつもりだ。しかし、それを上回る勢力に愕然としている……」

「俺はあの時、闇ギルドなんて俺なんか必要ないと言い、そればかりか魔道砲も必要ないと言いましたよね?」

「ああ!確かに言った」

「でも、それを撤回しますよ。まさかここまでの戦力を用意するとは思いませんでしたから。まあ、敵ながら天晴れと言っておきましょう」

「しかし、今更天晴れと言っても、この状況はどうにもならんではないか」

「いやいや……何を言っているのですか?」

「じゃあ、ヒロトシ君はこの状況はなんでもないと言うのか?」

「まあ、自分で言うのも何なんですが、冒険者達と協力すれば訳ないと思いますよ」

「「「「「馬鹿な事を!」」」」」

 ヒロトシの言葉に、役員達は慌てるのだった。数年前は北の森からのスタンピードだったが、今回はそれと同等のスタンピードが3方向と、南からはSランク級というドラゴンゾンビが確認しているのである。慌てるなという方が無理な状況だった。

「まあ、皆さんの気持ちも良く分かりますが、まずは俺の作戦を聞いて下さい」

 その言葉に、シルフォードとギルドマスター達が役員達を収めたのだ。

「こうなったら、ヒロトシ君の意見を聞くしかない!お前達も黙らぬか」

「「「「「領主様がそう言うなら……」」」」」

「まず第一に王国騎士団は北門の守りを。シルフォード様の兵士達を東門。冒険者達を西門に配備します」

「つまりアンデット集団は、全員で対処すると言う事だな?」

「はい。その通りです。その際に対処するのは一方向に魔道砲を2機設置しますのでよろしくお願いします」

「魔道砲を以前より2機増やしたのかね?

「いえ、4機増やしました。後の2機は南門に設置します」

「そういえば南門は誰が?」

「俺と俺の護衛メンバーだけで守ります」

「馬鹿な!ヒロトシ君と奴隷達だけだと?一番厄介な相手ではないか!」

「それは大丈夫です。俺だけでも十分ですが、俺は魔道砲を作動させるだけです」

「「「「馬鹿な!ドラゴンゾンビを奴隷達だけでどうにかなるとは思えん!」」」」

「大丈夫ですよ。その奴隷達は、今やこの町で敵う者がいない程訓練を積んでいます」

 ヒロトシは、シルフォードにミルデンス達は魔の森の魔物達と討伐できる程強いと説明した。ヒロトシが闇ギルドが攻めてきても自分はおろか、魔道砲もいらないと言った意味はここにあったのだ。

 1ヶ月周期でシュガー村の守りで今や、魔の森の中を探索できるほどに強くなっていたミルデンス達にとって、ドラゴンゾンビは脅威ではなくなっていたのだった。

「その言葉、本当に信じていいのだな?」

「大丈夫ですよ。任せておいてください」

 シルフォードは、ヒロトシの目を見つめて確認したのだった。シルフォードは今の状況はもう、ヒロトシの提案に乗るしかないとも思っていたので、全員にこの作戦を指示したのだった。


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