研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第3章 新しい研磨

20話 懇願

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 ㋪美研で売り出されたクッキーは大人気商品となった。サトウキビを絞りエキスを煮詰める作業も、魔晄炉を使い効率化をした事で作業も早くなった。
 そして、このクッキーは砂糖を少量にしても、十分甘さを感じ取れたのは運が良かったと言うしかなかった。

「ちょっといいかね?ヒロトシ君に取り次いでもらいたい!」

 これにとびついたのは、貴族であるシルフォードだった。王都でも滅多に入荷しない砂糖を使ったお菓子の事で㋪美研にやってきたのだ。

「こ、これは、領主様。こんなところにやって来るなんて、連絡を受ければご主人様に報告したものを」

 マイン達は、領主が店にやってきたことに驚いたのだった。

「そんな事よりこれはいったいどこから!」

 シルフォードは慌ててクッキーを指さしたのだ。

「それは、いくら領主様でも教える事は出来ません。申し訳ありません」

「とにかく君達では話にならん!ヒロトシ君と会わせてくれ!」

「わかりました。それではこちらにどうぞ」

 マインはシルフォードを客室に案内して、ヒロトシを呼びにいった。

「まさかシルフォード様が、位の一番にやって来るとは思わなかったな」

「ご主人様は誰が来ると思ったのですか?」

「そりゃ生産ギルドか商人ギルドだろ」

「た、確かに……」

「じゃあ、準備してから行くからシルフォード様をよろしく頼む」

「それは、もうセバスが対応してくれてますよ。あのお菓子を出して」

 マインはそう言って、ヒロトシにウィンクをして業務に戻っていった。それを聞き、ヒロトシは苦笑いをした。

「お待たせしました」

 ヒロトシが客室に入ると、シルフォードは立ち上がりヒロトシに詰め寄った。

「ヒロトシ君!これはいったいどういう事なんだ?」

「まあ、落ち着いて下さい」

「これが落ち着けるわけがなかろう!エルフ国の特産である砂糖をどうやって手に入れたのだ?」

「それは、いくらなんでも教えられませんよ。商人の仕入れ先などその商人の強みですよ?」

「では、言い方を変える。まさかとは思うが、砂糖豆が魔の森で見つかったと言うのかい?」

 シルフォードは、ヒロトシがこの半年の間自分の土地に出向いていることで、そのように推測をしたのだった。

「いいえ。違いますよ。魔の森では砂糖豆は見つけていません」

 ヒロトシが見つけたのは、砂糖豆ではなくサトウキビなので嘘は言っていない。

「では、どこからこんな貴重産物を!」

「それはシルフォード様にも教えられません」

「うぐっ……」

「では砂糖の収穫量はどれほどなんだ?町に卸すほどあるのかい?もしあるのなら……」

「エルフ国から、毎年ごく少量しか他国に輸出されないんですよね?そんな事聞く方が、おかしな話だと思いませんか?」

「うっ……」

「君は、エルフ国とも繋がりがあると言うのかね?」

「何を言っているんですか?俺はずっとこの町にいるではありませんか?そりゃ3日に一回は日帰りで自分の土地には出向いていますが、その工程でエルフ国になんか行けないのは分かるでしょ?」

「しかし、砂糖なんてどこから!」

「どこからと言っても、仕入れ先を教えるわけにはいきませんよ」

「むぐぐぐ……本当に砂糖を卸してもらう事は出来ないのかね?」

「そんな事をすれば、この店で売るクッキーはなくなり、民衆の不満が爆発しますよ」

「それは……」

「それにこの砂糖は、この町で使うつもりで仕入れたものです。この糖分は冒険者達が少しでも疲れた時に、体力を回復させるものと思っています。まあ、町の人達にも日頃の疲れを癒してもらう為でもありますが」

「だが、その砂糖があれば君の店はもっと儲かるのだぞ?」

「確かにこれを領主様やギルドに売れば、㋪にはとんでもない金が入ると思いますよ」

「そうだろ?だったら!」

「でも、もう金や名誉なんかもいらないんですよね?」

「なっ!」

「名誉はローベルグ様から、土地を貰い王都で認知されています。この町に派遣されている衛兵から、毎回我が国の英雄だって挨拶されるんですよ」

「それは!しかし金はいくらあっても……」

「今までどれだけ報奨金を貰ったと思っているのですか?人生何周もできますよ。それに生活は、研磨業務で十分ですよ」

「だが……」

「これ以上金を使おうと思ったら、俺自身の町を作るしかないですよ?本当にそれでいいのですか?」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ!」

 ヒロトシは、シルフォードにミトンの町を出て、自分の町を作ると脅したのだった。

「そうなって困るのは、シルフォード様だと思うのですが……それなら、ここは目をつむって町の売り上げが上がる事で納得した方がよろしいのではありませんか?」

「君という人間は……」

「こういっては何なんですが、ミトンの町の財政はもう大丈夫でしょ?」

「それはそうかもしれんが、砂糖があればさらにこの町は!」

「シルフォード様そんなに欲張らない方がいいですよ。これは俺が仕入れたものであり、ミトンの町にとって幸運だっただけの物です。欲張ると痛い目に遭うと忠告しますよ」

「だが……」

 シルフォードは、どうしても諦める事が出来ないようで引いてくれる気配が無かった。

「どうしても、諦められませんか?」

「そんなの聞くまでもなかろう。これがミトンの町の産物になればどれほどの功績に!」

「それは違いますよ。ミトンの町の功績でも産物じゃありません」

「なぜだ!」

「俺の功績であって、ミトンの町とは関係ないじゃありませんか。この砂糖は、シルフォード様主体でミトンの町で生産して行なったものですか?」

「それはそうだが……しかし、この町から売り出す物であろう?」

「シルフォード様、もうちょっと冷静になりましょう。シルフォード様の気持ちは分からないわけではないですが、鏡はこの町の産業ですか?違いますよね?」

「そ、それは……」

「この町の産業は、シルフォード様がやっているシャープネスオイルであるポーションだけです。もし、この町から他の町に輸出している物がそうだと言うのなら鏡は税金対象にはならないはずです」

「ぬううう……」

「シルフォード様、今回は諦めてください。エルフ国でも外の国に砂糖を小量しか輸出しないのに、俺みたいな個人店がそんなに多くの砂糖を卸す事などできません」

「それはそうだが……」

「本当ならこれは売り出すつもりもなかったほどなんです」

「そ、そんな!」

「まあ、聞いて下さいよ。個人店で仕入れるとなれば本当にごく少量です。しかし、この町の人達は本当にいい人ばかりだと思います。あのクッキーはその感謝のしるしとして売っただけです」

「……」

「当然、シルフォード様にも感謝はしていますよ。だから砂糖を使った菓子が欲しければ、㋪で購入してください」

 ヒロトシの説明に、シルフォードは大きくため息をついた。

「もう一つ聞きたい」

「なんでしょうか?」

「これから先、砂糖の仕入れ量は上がる可能性はないのか?」

「それはわかりません!しかし、もし上がって町に卸す事が出来るようならシルフォード様に相談しますよ」

「本当だね?」

「俺が今まで嘘をついた事が?」

「ついた事はないが、黙っていたことはたくさんあるだろ?」

「まあ、そういう事になれば諦めてください。俺にも理由があって黙っているんですから」

「そんな事を言うでない!」

「俺の性格上無理です。自分が有利にするには俺はどんなことでもしますよ。自分が得意とすることは薄切りに出して行けって、昔からよく言うでしょ?」

 そう言われてしまえば、シルフォードはもう何も言えなかった。これらの事は貴族の世界でも切り札を取っておくのは当たり前の事だった。
 馬鹿正直になんでも言う事は愚かな行為だからだ。砂糖はヒロトシにとって研磨と同じように強みの一つであり、この町には絶対に必要と思わせる商品の一つだと、シルフォードは思い知らされたのだ。

 シルフォードが引いた後、当然だが生産ギルドが突ってきたのは言うまでもなかった。ヒロトシは、シルフォードに言ったことをもう一度説明しないといけなくなり、その日はドッと疲れるおもいをした。


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