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第3章 新しい研磨

8話 発展するミトンの町

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 ヒロトシは、ようやく日々の日常を取り戻して、研磨依頼を請け負っていた。そして、生産ギルドからのミスリル武器を大量に仕入れ、それを冒険者に販売していた。

「こんなに、ミスリル武器が!」
「こいつはすげえや!」
「ホント、ミルリルは軽くていいわね。あたしでも扱いやすよ」

 冒険者は購入したての武器を、すぐに㋪美研に研磨の依頼をだした。ミスリル装備をヒロトシが800#研磨をすることで+3装備になる。

 販売したばかりの武器は、傷も入っていない為とても磨きやすいのだ。本来なら、金剛砂のついたバフを3工程とサイザルバフとキャラコバフの全5工程で仕上げる事になるが、傷の入っていない武器は2工程で済んでしまうので、ヒロトシからすれば大儲けになる。

「お待たせしました。こちらでよろしいですか?」

「マインちゃん、本当に待ったよ。おおおお!すげぇ!なんだこの軽さは!」

 前日に自分の武器を預けた冒険者は、ミスリルの軽さとマジカル効果で剣のスピードに感動していた。

「お気に召して良かったです。主にちゃんと伝えておきます」

「ああ!ヒロトシ様に直接お礼を言いたいのが本音だが、俺のようなものが気軽に会えるお人じゃないのは分かっているのでよろしく頼むな」

「はい!研磨のご利用ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています」

 受付嬢のマイン達は、冒険者達に深々と頭を下げ見送ったのだった。




 そんな日々を過ごしていた頃、ヒロトシはガインとブロッガンに手すりになるパイプを磨かせていた。

「主!これでどうだ?」
「見て頂けるか?」

「ほう!お前達やるじゃないか。まさか1年ちょっとで、ヘアラインが見れるものになるとはな……」

「「本当か?」」

「じゃあ、これで鏡面研磨を教えてくれるのか?」

「待て待て。見れるようになったと俺は言ったんだ」

「「えっ……」」

「これでは売り物にはならんな」

「どこがだよ!ちゃんと見てくれ!」
「そうだどこが悪いんだ?」

 ガイン達が憤慨するのも分からなくもない出来だった。素人には分かり辛い場所に傷があり、ヒロトシからすれば十分な出来ではなかったのは確かだった。
 その問題の個所は、溶接個所を金ヤスリで仕上げた目がちゃんと取れていない事だった。そこを、ヒロトシは指摘したのだ。

「お前達ここをよく見てみろ。髭が出ているだろ?」

 髭とは、ヘアラインが真っ直ぐに通ってなくて歪んでいることを指す。

「「あっ……」」

「まあ、良くはなっているからまだまだ頑張れ!」

「いつになったら……主の役に……」

「そんなに焦るな。お前達はまだ始めたばかりなんだからな。それに言っておくが、この手すりにはカーブの部分も普通にあるんだぞ?」

「「……」」

「そのカーブも直線部分のヘアラインにつなげないと意味が無いんだからな。習得する技術はまだまだあるから焦んじゃない!」

「「そ、そんな……」」

「まあ、焦るなとは言ったが、頑張らないとシェリーとハンナに追い抜かれても知らんぞ?もし追い抜かれたら、お前達はハンナとシェリーの下に就いてもらうからな」

「「う、嘘だろ……」」

「当たり前だ!何で実力があるほうが上に就けると思ってんだ。そんなお前達にいい事を教えてやろう!」

「「いい事ってなんだ?」」

「シェリーとハンナは、女性っていうこともあり繊細に物事をやってのけるんだぞ?」

「「繊細というなら、自分達だって!」」

「お前達は何を勘違いしている?さっきも言ったように、お前達のヘアラインは下地の金ヤスリの目が取れていないんだ。それのどこが丁寧に仕上げているんだ?」

「「うっ……」」

「確かに今はシェリー達の方は、ヘアラインの線が薄い。だが、コツを掴めば力の入れ方で、十分に商品になるんだぞ?」

「「そ、そんな!」」

「お前達は、ヘアラインの前にバフのかけ方からやり直せ!」

「「……」」

「返事は?」

「「は、はい!」」

 ガインとブロッガンは、自信があった為、気落ちしてヘアラインの修業をやり出したのだった。すると、その話を聞いていたシェリーとハンナが、ヒロトシに駆け寄ってきた。

「「今の話は本当ですか?」」

「今の話って何だ?」

「わたし達が、班のリーダーになると言う話です」

「お前達ではまだまだ無理だよ」

「「えっ……」」

「そんな事より、お前達は自分の事をもっと商品を見つめ直せ!なんだ?このヘアラインは!全然、力が入ってないじゃないか?」

「「でも……下地の目は……」」

「そんなのは当たり前だ!お前達はヘアラインを引く力が足りないから、バフの目が残っているんだ。ガイン達の商品は見れるようになっているが、お前達のはそれ以前の問題だ!分かったらやり直せ!」

「「はっ、はい!」」

 シェリーとハンナは、ヒロトシに注意をされて慌てて作業をしだし持ち場に戻った。

「ご主人様って、仕事になると怖い……」
「でも、わたし達も頑張らないとね」

 ガインとブロッガンも、まだまだと思いなおしていた。

「俺達ももっと頑張らないとな」
「ああ!班長を奪われてたまるかってんだ」

 ヒロトシは4人のその様子を見て、口角をあげたのだった。ヒロトシの教え方は、昭和の時代を生きてきた親方に習った物だった。
 ヒロトシも又、ある程度プレッシャーを与えられながらも、研磨技術を覚えてきたので、この方法しかしらなかった。その中でも、自分の経験を積み教え方を身に着けてきたが、人に教えると言うのは難しいなあと思い、その4人を見ていた。



 そんな中、半年が過ぎたころ町には賑わいがあった。とうとう、王都から騎士団が到着したのである。この半年にギルドでは依頼を出し、王国騎士団の兵舎が建設されていたのだ。ヒロトシが表彰され、ミトンの町は王国にとって重要な街と認められた事の証だった。
 これにより、王国騎士団が町の城門や色んな場所を警護に当たる事になり、さらに強固な街として民衆達に認識される。
 
「シルフォード様、ただいま到着いたしました。今後は我々を部下だと思い色々指示をだしてください。我ら王国騎士団58番隊隊長ゼリク以下50名は十分に役立って見せます」

「遠路はるばるよく来てくださった。これからは私の為でなく町の人達の為、貴方達にも活躍してもらいます。こちらこそどうぞよろしく頼む」

「「「「「はっ!」」」」」」

 58番隊はミトンの町に出張警備隊として3年間の任務にあたる事になった。3年経つとまた次の部隊が派遣される事になり、58番隊は王都に帰り出世する形になるのである。
 つまり、こういった出張を任される騎士団のメンバーは優秀で、次世代の王国騎士団を担う者達で構成されていた。
 その為、若い人間が多いが剣の実力はとてつもなく高いのだ。それから、王国騎士団が在中する町として、ミトンの町は更に大きくなる。王国から補助金が出る事になり、インフラ整備が行われる様になるからだ。

 まずは、物資輸送のために街道が広くなり、ガーラからの行商がしやすくなる。ガーラの町は塩の生産が盛んな場所であるため、他の町からの行商人が数多くいる。
 その為、街道が広くなれば魔物が襲ってきても逃げれる可能性が上がり、ミトンの町に足を延ばそうと考える行商人が増えるのだ。




 そして、ミトンの町でも変化が起きていた。そう、冒険者の存在である。

「今回のダンジョンも余裕で10階層まで行けたぜ」
「なにを!俺達だって10階層は余裕だぜ」
「はっ!俺達は15階層を攻略出来たんだぜ」
「「「「「おおお!すげえなあ」」」」」
「これもヒロトシ様のおかげだぜ」
「そうだよな。俺達この町で移り住んでよかったぜ」

 ミトンの町では、冒険者がより深い階層に潜る事が出来るようになり、レア素材をギルドに持って帰ってくるようになっていた。
 そのレア素材を使って生産者が、武器や防具又は魔道具を生産し始める事になる。そして、それらの素材を求めて行商人がやって来る。完全に経済がまわり出してくることになっていた。

「どういう事だ?手鏡を仕入れに来たのに何でもう売り切れなんだよ?」

「申し訳ありません……ギルドでも1ヶ月に50セットが精一杯なんです」

「なんだよ……あの手鏡は他の町で人気なのによ……」

 ギルドは、今まで他の町のギルドに流していた。しかし、今は行商人に売る方が儲かるようになっていたのだ。

「申し訳ございません……」

「次の入荷はいつになる?」

「1ヶ月後ですが、この町に滞在して待っている行商人の方もいます。もし購入されるのなら、あなたも滞在しないと購入することが出来ないかもしれません」

「本当かよ……」

 今は行商人が、この町に来るついでに他の町の商品を持ってくる方が多いのだが、鏡やレア素材がこの町にはあると知られてきている。その為、そのレア素材を買い求めこの町に滞在し、他の町に行きそれらを売って儲ける形に変わってきていた。

 それを聞き、行商人はため息をついた。

「今回は、鏡の購入は諦めるか……」

「よろしいのですか?」

「ああ……しょうがないよ。他の素材を手に入れたこともあるし、今回はそれを他の町に持っていく事にするよ」

 ちなみに、この行商人はブラッディーベアの毛皮を手に入れ、他の町の貴族に売る予定にしていた。それを一緒に手鏡と思っていたが諦めることにした。ブラッディーベアの毛皮は光沢があり貴族達から人気の品であり、寒い地域に行けばバカ売れする事間違いないのだ。

 こうして、ヒロトシが思っていた通りに町は大きくなっていき、ヒロトシの思惑通りになってきていたのだった。



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