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第2章 研磨という技術

33話 二人のアンジェリカ

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 ヒロトシは、ミトンの町に帰ってきていたが、まだ陽が上がらず城門は閉まったままだった為、城門前で立ち往生していた。
 シルフォードは、城門横にある小さな出入口を激しく叩いて、城門を守る兵士に門を開けてもらおうとしたのだった。

 すると城壁の上から兵士の一人が応答した。

「夜が明けないと、城門は開けられない!もう少しその場で待つが良い!」

「私だ!シルフォードだ。横にある小門を開けなさい!」

「なにぃ~~~!シルフォード様だ?いい加減な事言うと承知せぬぞ!」

「いい加減な事ではない!今まで闇ギルドに囚われていて、ヒロトシ君に救助してもらったのだ!」

「もう許さん!我が主人の名を語り無礼者が!」

 小門から、兵士達が勢いよく出てきて、槍を構えてきたのだ。

「我が主人シルフォード様は、屋敷でお休みになっておるわ!いい加減な……こ……とを……」

 シルフォードを照らしたライトで、城門を守っていた兵士は目を見開いた。そこには、まぎれもない主人の姿があったからだ。

「こ、これは……ど、どういう事だ……」

「隊長さん、まずは槍を納めてくれないか?」

「こ、これはヒロトシ殿!これはどういうことだ?」

「隊長さん、ここにいるお人が本当のシルフォード様です。そして、今屋敷にいる人間は真っ赤な偽物です!」

「そんなバカな!貴様も偽者ではないのか?身分証は?」

 ヒロトシはギルドカードを提出した。それと同じくシルフォードから貰った感謝状も提出したのだった。

「こ、これは!」

 感謝状など身分を証明するには十分であり、兵士達はすぐに槍を収めたのだ。

「し、失礼しました!」

「信じてくれて良かった」

「この感謝状はヒロトシ様しか持っていませんから、偽者のはずがありません。そして、我が主人を救って頂きありがとうございます!」

 町の兵士は、シルフォードに臣下の礼をして、その場に片膝をつき頭をさげたのだった。

「もうよい!お前達は町に不審者を入れない様に業務に従っただけだ。当り前の行動をしただけだ!」

「勿体ない言葉。ありがとうございます!」

「それより、ジョンだったな?」

「はい!第6番隊隊長ジョンと言います!私の名前を覚えてもらっていてありがたく存じます」

「お主はこの証拠も持ち、第6場番隊を率いてフォーガンを逮捕せよ!」

「フォーガン様を?一体どういうことですか?」

「あの者は闇ギルドを利用して、この町を乗っ取る計画を立てた裏切り者だ!」

「なんですと⁉それは本当ですか?」

「その証拠がこれだ!今すぐ逮捕せよ!」

「「「「「「はっ!」」」」」」

 第6番隊はすぐに、7番隊と門番を交代しフォーガン宅に乗り込んだのだった。そして、6番隊の一部はシルフォードと一緒に行動を共にして、シルフォードの屋敷に突撃をしたのだった。

「ヒロトシ殿!ここから先は通す事は出来ません!」

「マリク!私が許すからいい。お主は私一緒にベルナータとアンジェリカの安全を確保だ!」

 ヒロトシの後ろから現れた、シルフォードにびっくりしたのだった。

「なっ!我が主が何で?」

「訳は後だ!今は我が妻と娘の安全を!」

「で、ですが!シルフォード様の……」

 マリクは、目の前に出来事に頭が混乱していた。何で我が主が外にいるのか理解できなかった。そして、騒がしくなった屋敷の前に、シーズが目を覚ました。

「一体なんだ?」

 窓の外を見たシーズは血の気が引いたのだった。屋敷の前にはシルフォードとみられる人間がいたからである。

「ど、どういう事だ?あいつは闇ギルドに囚われているはずなのに……」

 シーズは急いで、アンジェリカの部屋に向かったのである。シーズはアンジェリカの部屋の扉をノックした。見張りの兵士がいなかった。外の騒ぎに持ち場を離れてしまっていた。アンジェリカも、屋敷の前が騒がしくなり目を覚ましていたのだった。

「だ、誰?」

「私です。この部屋の扉を開けてください!」

「お、お母様?ちょっと待ってください。すぐに開けます」

 アンジェリカは、ベルナータの声にその扉を開けたのである。

「お母様!どうやって部屋を……」

「表が騒がしかったので、部屋の前の兵士がいなくなったのに乗じて抜け出せたのです」

「でも、ご無事でよかった……」

 アンジェリカは、ベルナータに安堵から涙を流し抱きついた。シーズはベルナータに変装し、アンジェリカを人質にしてここから抜け出す事にしたのだ。

「とにかくここは早く出て逃げましょう!」

「いったいどこに?」

「こっちよ!応接室に屋敷から抜ける脱出口があるわ。そこから㋪に助けを求めましょう」

「分かりましたわ。お母様」

 二人は部屋から出ようとすると、兵士達が戻ってきたようで見つかってしまった。

「奥方様!アンジェリカ様!なんで部屋から……今出てはいけません!危険ですから部屋に戻ってください!」

「アンジェリカこっちよ」

「は、はい!」

 アンジェリカは、ベルナータに化けたシーズに小部屋に連れ込まれてしまった。部屋に入るとベルナータが豹変したのである。

「ち、ちくしょう……何でばれたんだ!」

「お、お母様……」

 部屋に連れ込まれたアンジェリカは、母が男のような声に変わって恐怖に震えて後づ去りした。すると、部屋の扉が激しくノックされ、大きな声で兵士が怒鳴ってきた。

「お嬢様!ここを開けてください!」

「こうなったらしょうがねえ……」

 シーズは、アンジェリカの姿に変化したのだ。アンジェリカは、自分そっくりなった自分の母の姿にびっくりして声が出せなくなった。
 そこに、扉が蹴破られたのだった。部屋に飛び込んだ兵士は自分の目を疑いその場で硬直してしまった。

「こ、これはいったい……」

 兵士の前には、震えながら腰を抜かしているアンジェリカが二人いた。

「この者を捕らえてください!」

「何を言うの。あなたこそあたしの真似をして!」

 兵士は、外に出て屋敷の中にいるシルフォードが偽者と聞き、アンジェリカの保護をする為部屋に急いできたのだが、奥方だったはずの人間とお嬢様がこの部屋に入ったはずなのに、お嬢様であるアンジェリカが2人になってしまったのだ。

「ねえ!早くこの者を!」

「何を言っているのですか!私が本当のアンジェリカです」

「いいえ!私が本物のアンジェリカです!」

 するとそこに、ヒロトシがやってきた。

「急いでやって来たのに、まさかこんなことになっているとはな……」

「ヒロトシ殿!」

 すると、廊下からどたどたと騒がしく兵士達がやってきて、シルフォードとベルナータもこの場所にやってきた。

「ヒロトシ君、アンジェリカがどこにもいないのだ!」

「主様!この部屋に……しかし大変な事が!」

「どうしたというのだ?」

 シルフォードは、部屋の中を見てびっくりして目を見開いた。

「どうなっているんだ。これは?」

「どちらかが偽者ですよ。このスキルでシルフォード様になりきって、今はアンジェリカ様にその姿を変えているんです」

「何だと……ベルナータ鑑定をしてくれ」

 シルフォードの妻であるベルナータは鑑定持ちである。すぐに鑑定したのだが、両方ともアンジェリカと表示されていた。

「どちらも本当のアンジェリカと……」

「はぁあ?そんなわけあるまい!どちらかが偽者であろう!」

「普通の鑑定では無理ですよ」

「どういうことだ?」

「この変装はスキルレベル5の変装です。まず見破るには鑑定の上級スキルである看破じゃないと無理ですよ」

「お父様!私が本物です!」

「何を言うのよ。私が本物です」

「こ、これでは……どちらが偽者か……」

「大丈夫ですよ。俺ならわかります」

「そ、それは本当か?」

「ええ、任せておいてください」

「早くこの者を捕らえてください!」

「何を言うのよ!偽者は貴方でしょ!」

 ヒロトシは、とっくに神眼でシーズを見破っていた。そして、ヒロトシはシーズの前に立ち、手を差し出したのである。

「そ、そんな……私が本物なのに!」

 手を差し出されなかった方の、アンジェリカは目に涙を浮かべた。

(クックック……やはり嘘だったか。俺の変装が見破られるわけはねえ)

 シーズはヒロトシの手を取った瞬間、ヒロトシはシーズ腕を取り羽交い締めにした。

「お前が偽者だよ!」

「ぐわあああ!は、放せ!」

「アンジェリカ様!早く離れて!」

「は、はい!」

 アンジェリカはヒロトシの声に驚き、シルフォードとベルナータに抱き寄せられた。

「な、なぜわかった?」

「お前の三文芝居は面白かったよ!お前はこんな事をしたんだ。もう処刑される人間に言ってもしょうがない。気にせず死んで行け!」

「ち、ちくしょううううう!もう少しで、この町を思い通りになったものを!しかし、覚悟しろよ。俺が死んでも闇ギルドはお前をつけ狙う。これは決定事項だ!わはははははは!」

「お前は馬鹿か!もう闇ギルドは、俺どころかこの町には一切手出しはしないよ。というより、出来ないと言った方が正解だな」

「馬鹿な事を!闇ギルドがミトンの町に手を出せないだと?」

「いいか、死んでいくお前に教えておいてやる。ここに本物のシルフォード様がいるという事は、どういう事だと思う?よぉ~~~く考えてみな?」

 シーズは、顔が真っ青になった。

「ま、まさか貴様……」

「そう、北の森にあった闇ギルドミトン支部は壊滅したよ。当然、ガーランドも始末した。あの人数がいなくなったんだ。もうそう簡単に手が出せるような戦力は残っていないよ」

「ち、ちくしょうううううう!は、はなせ!」

 シーズには、ヒロトシの腕力から抜け出す事は出来なかった。そして、ヒロトシは羽交い締めしていたシーズを絞め落した。

「もううるさいから気絶してろ」

「は、はな……せ……」

 気絶したシーズの姿は、アンジェリカの姿から、オッサンの元の姿に戻ってしまった。

「正体はこんな男だったの……なんか不愉快だわ!」

「ぷっ!」

 アンジェリカの一言に、緊張感が一気に吹き飛び、その場は笑いに包まれたのだった。


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