58 / 347
第2章 研磨という技術
19話 口論
しおりを挟む
ヒロトシは、領主シルフォードから今回の謝礼を受け、家に帰ってきた。そして、その日はもう仕事が終わる時間だった。
「くううう……また仕事が出来なかった……明日は磨きの仕事をやらないとな……」
ヒロトシは、明日は仕事をする予定で明日から頑張ろうと思い、自分の家に入った。
「旦那様おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま。今日は何もなかったか?」
「それが、生産者達が店にやってきて、旦那様と面会したいと言ってきました」
「そうなんだ……それでどうしたんだ?」
「生産者達は、店で売っている武器のミスリルの出どころの事で話したいらしく、今度の店の休日に話を聞かせてほしいという事です」
「そうか。わかったよ」
「えーっと、只ならぬ感じだったのですがよろしいのですか?」
「ああ、いいよ。いずれ、生産者と言っても押し寄せたのは採掘者達だろ?」
「なぜそれを?」
「まあ、それは想定内の事だよ。むしろ今まで気づかなかった方が、俺としてはびっくりしているからね」
「ダンナ様は、採掘者が何を言ってくるのかわかっているのですか?」
「というか、分からないほうがおかしいだろ?」
「えっ?」
「セバスは見当がつかないのか?」
「私にはちょっと……」
「嘘だろ?㋪は、ダンジョン前に捨てられる鉱石をタダで持って帰り、㋪でミスリルの武器を格安で売っているんだよ。そうなれば苦情を言いに来るのは当然じゃないか」
「ギルドじゃなく、何で生産者が?」
「この場合生産者じゃないな。採掘者だよ。考えて見なよ。採掘者はダンジョンから危険な目に遭いながら、ミスリル鉱石を持って帰って来るんよ。その鉱石からは少量のミスリルしか抽出できないから、採掘者は泣く泣く捨てているんだよ」
「なるほど……その捨てる鉱石を拾い、ミスリル製の武器を作り元手をかけず、㋪だけが大儲けしているのが気に入らないと……」
「そういうことだな」
「では、どうするのですか?」
「どうもしないよ。納得して帰ってもらうだけだよ」
「納得ですか?……」
「ああ。納得してもらうしかないよ」
「そんなに上手く行くものなんですか?」
「わからん」
セバスの心配をよそに、ヒロトシは他人事のようにあっからかんとした様子だった。
「そんな事よりお腹すいたな……今日は、領主様と話しをして疲れたよ。お偉いさんと会話すると気疲れだけして精神が削れるから、家で仕事している方がいいよ」
「やはり、魔道砲の設置を求められていたのですか?」
「ああ……本当に聞き訳が無くてな、特に役員がうるさかったよ」
ヒロトシは、スタンピードで大活躍した魔道砲を、城壁の上から取り外していた。それを不服に思った町の役員達が、ヒロトシに訴えていたのだった。
役員達が、文句を言うのは当然だった。スタンピードを退けたような兵器とも言える魔道具が、ヒロトシに許可を得ないと出してもらえないからだ。
ヒロトシは、この魔道砲を町の所有物にはしたくなかった。それに、あの城壁の上に設置したままだと磨きのメンテナンスが欠かせないからだ。
それならば、磨きをしてヒロトシ自身のインベントリに保管しておけば時間経過は無く、いつでもすぐに万全な状態で保管できるからである。
今回セバスに預けたのは、ヒロトシがガーラの町に出張したからであり、ヒロトシが町にいれば預ける事もなく、本来なら+5の状態で魔道砲を仕様で来たのだ。
「まあ、どっちにしても魔道砲は威力がありすぎるからな。そんなのを常時町の城壁に飾っておくのは危険だ」
ヒロトシは、この魔道砲をあの場所に放置するのは危険と言い、常に見張りをつけないといけないと言って断り、インベントリに収納してしまっていた。
今回、役員達がその交渉をヒロトシにしてきて、とても精神がすり減ってしまったのだった。
「ご主人様。そんな時はお風呂に入ってゆっくりしてください。今お湯を沸かしましたので」
そう言って話しをしてきたのは、メイドのアヤだった。今までは風呂の湯沸かし器の操作はヒロトシがしていた。市販されていたのは魔力量がとんでもなく多くいり、他の者が操作が出来なかった。
しかし、ヒロトシが魔道具を作れるようになり、魔力消費の少ない物に作り替えたのだ。作り替えたというより、部品を磨き魔力電動効率を伝えやすくしただけで、少しの魔力で起動することができるようになっていた。そのおかげで、普通の人でも十分に風呂の水を温めれる様になったのだ。
「アヤ。ありがとな。晩御飯前にゆっくりさせていただくよ」
「はい。ゆっくりしていてください。お風呂から上がる頃には、晩御飯が出来ると思います」
「いつもありがとな」
「とんでもありません。わたし達の方こそ、いつもご主人様に感謝しています」
「それでもありがと」
そう言ってヒロトシは、お風呂に入るのだった。
「アヤ……私達は、本当に旦那様に仕える事が出来て幸せ者だな」
「セバスさん、本当にそうですね」
そして、ヒロトシが風呂から上がると晩御飯が用意してあり、マイン達も席の前でヒロトシを待っていた。
「ごめんごめん!ちょっとゆっくり浸かり過ぎてた」
ヒロトシが席に着くまで、セバス達は自分の席の前で直利不動で待っているのはいつも後景だった。前からヒロトシは席に着いて待っていてくれと言ったのだが、頑なにみんなはそれを拒否していた。
ヒロトシの仕事は、研磨作業なのでどうしても風呂が長くなるので、ずっと立って待っていると悪いと言ったのだが、セバス達は本来ならば奴隷の身分で、主とテーブルを同じにするのでさえ恐れ多いのに、先に自分達が座るなんてとんでもないと反論したのだ。
それからずっとこのスタイルである。
「旦那様、謝る必要はありません」
「でもなあ……いつも悪いと思っているんだぞ?」
「そんなこと思う必要もありませんよ」
「まあ、いいか……みんな早く座ってくれ」
ヒロトシが席に着くと、みんな一斉に席に着いた。しかし、今日はこのまま食事する事は無く、ヒロトシはカノンを呼び寄せた。
「あ~!みんな、今日はもうちょっと待ってくれ」
ヒロトシはそういうと、みんながヒロトシに注目したのだった。
「カノン。ちょっとこっちに来てくれ」
「はい……」
カノンは、ヒロトシに呼ばれて席を立ちゆっくり側に行った。あの大爆発で羽根が無くなり、体の重心が傾きゆっくり歩かないとすぐに転倒してしまうからである。
「長い間、待たせてしまってごめんなさい」
「えっ?」
「これを飲んでくれ」
ヒロトシは、エリクサーをカノンに渡したのだった。
「こ、これは?」
「エリクサーだよ。今日手に入ったんだ」
「どうやってこれを……」
「今日領主様にもらったんだよ」
「嘘です!領主様が、エリクサーを譲るだなんて……貴族様は、普通は万が一の時の為に、何本か用意しておくものです」
「いや……本当だって!」
「このエリクサーはどうしたのですか?購入したのですか?」
カノン達は、ヒロトシの活躍により、ヒロトシが領主に無理を言って、大金を叩いて購入したと思っていた。
「いやいやいや、これは本当に貰ったんだよ?今回、領主様に会ったのはスタンピードを撃退した謝礼でお招きして頂いたんだ。しかし、その謝礼金は100億ゴールドだったんだ」
「「「「「ひゃ、100億ゴールド⁉」」」」」
100億と聞き、この場にいる全員が身を乗り出し大声を出したのだ。
「そんなお金を、ご主人様は受け取ったのですか?」
「いや……それなんだがな……」
ヒロトシは、そのお金を分割にしてほしいと、領主から言われた事を説明した。それで、自分はそんな大金貰ってもしょうがないから、5億とエリクサーにしてもらったと言ったのだった。
「はぁあ⁉ご主人様は、私にエリクサーを飲ませる為に、95億で購入したと言うのですか?何を考えているのですか!」
「何を怒っているんだよ……」
「そんなエリクサー……頂く事なんかできるはずないでしょ……」
「なんでだよ?これは、カノンの為に貰って来たんだ。カノンが飲まないと意味が無いだろ?」
「旦那様……」
「何だよセバス、今大事なことを……」
「そのエリクサーは、旦那様が万が一の時の為に保存しておいてください」
「何を馬鹿な事を!」
「馬鹿はご主人様です!」
「なっ……」
カノンは、ヒロトシが自分の為に大金を使って、エリクサーを手に入れてきた事は本当に嬉しく思ってはいた。しかし、奴隷の為に貰えたはずのお金を断り、エリクサーを手に入れてきた事に、どうしようもない罪悪感が生まれていたのだった。
「ご主人様は本当にお優しい方です。私の為にエリクサーを貰ってくれたことは本当に嬉しいです」
「だったら何でそんなに怒っているんだよ?」
「ですが、私はご主人様の奴隷です。そんな所有物に95億だなんて……何を考えているのですか?」
「黙れ!それ以上言うと俺はお前を許さないぞ!」
ヒロトシは、カノンが自分の事を所有物と言ったことに腹を立てた。家族だと思い、どんなことをしてでもカノンの傷を治したかった。
「何を言っているのですか?明らかにご主人様の行動は異常です。どこの世界に奴隷に95億ものエリクサーを使う人間がいるというのですか?」
「そんなのしらん!どこにいるいると聞かれるのならここにいる。俺が、カノンの傷をどんなことをしても治すと言ったじゃないか?それの何が悪い?」
「ご主人様は、95億を捨てたのと一緒なのですよ?私のせいで、ご主人様が手にいるはずだった物を無駄にさせたのですよ?」
「はっ!馬鹿な事を……このエリクサーで、カノンは元に治るんだ。全然無駄じゃないだろ?」
「しかし!」
「しかしもかかしもない。俺がもらった金をどう使おうが、勝手じゃないか?それとも、カノンにいちいち許可を得ないと、物も買えないというのか?」
「そんな事を言っているのではありません!」
「もし仮に、この買い物で俺が無理をして奴隷に落ちたとしたら、怒られるのも納得しよう。しかし、店は順調に売り上げを伸ばしている。借金など全くないじゃないか?」
「そうじゃなくて、奴隷にエリクサーなど!」
「じゃあ、いらないというのか?だったら、このエリクサーはこのまま……」
「はい、ご主人様の万が一の……」
「叩き捨てる!」
ヒロトシは、持っているエリクサーを振り上げて、床にたたきつけようとした。それを見たマイン達は悲鳴を上げたのだった。
「きゃあああああああ!ご主人様、何をするのですか?」
振り上げたヒロトシの腕を、カノンは必死に掴みかかり、エリクサーが破壊されるのを阻止したのだった。
「だって、いらないんだろ?俺も使う必要が無いからな」
「今は必要はありませんが、万が一の時にご主人様が使用したらいいじゃないですか?」
「今、必要なのはカノンだろ?その為に、俺はこのエリクサーを手に入れたんだ」
「ですが!」
「それに、俺は今までお前達を奴隷として扱ってはいないはずだろ?ずっと信頼できる仲間や家族として扱ってきたはずだろ?お前達はそれでも頑なに自分は奴隷だと言ってきたけどな」
「でも、奴隷というのは確かな事で……」
「じゃあ、俺は、今日からお前達を奴隷として扱うと言ったら納得するのか?」
「「「「「「「えっ⁉」」」」」」」
マイン達が一斉に声を上げた。
「当然今食卓にある食事は、水っぽい具のないスープだけになり、風呂も無くなくなる。夜の12時まで働き詰めになし、ガイン達は当然夜中の3時まで研磨の修行で、朝は5時起きで働く事になるんだぞ」
「主!そ、それはちょっと待ってくれ……本当に死んでしまう」
「だが、奴隷というのは主人の思い方ひとつなんだろ?カノンは、今の状態で普通に俺の護衛が務まるのか?」
「そ、それは……」
「勤まらないんじゃ、ここにいても意味はないよな?」
「うっ……」
「俺はカノンたちをタダ甘やかしている訳じゃないんだぞ?家族として大切にしているが、みんなが協力して日々働いているからこそ、この生活が維持できていると思っているんだぞ?それともお前達が過労死したら、新しい奴隷を購入したらいいと本気で言うのか?」
「それは……」
「もし、それを推奨するならカノン……お前達を奴隷商店に売却して、俺は別の町に行き目立たず一人で、自給自足の生活をするよ」
「「「「「そ、そんな!」」」」」」
「旦那様、ちょっとお待ちください!」
「セバス、俺はこのまま小さな一人で住める家を、森に建てたらどうなると思う?」
「だ、だから……ちょっ、ちょっと……」
「この家には強力な結界が張ってあって、盗賊は一切入れないし安全だよね?森の中でも、同じ結界を張れば一人でも、自由に生活は可能だと思わないか?」
「旦那様!私達が悪かったです!お許しください!私達を、今まで通り旦那様にお仕えさせてください。どうかこの通りです」
セバスは、ヒロトシに頭を深々下げたのだった。それに続き、他の者達も頭を下げたのである。
「ちょっと外に出てくる。お前達は、ご飯を食べて部屋に戻っていろ」
ヒロトシは、そのままミトンの町に出て行くのだった。
「くううう……また仕事が出来なかった……明日は磨きの仕事をやらないとな……」
ヒロトシは、明日は仕事をする予定で明日から頑張ろうと思い、自分の家に入った。
「旦那様おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま。今日は何もなかったか?」
「それが、生産者達が店にやってきて、旦那様と面会したいと言ってきました」
「そうなんだ……それでどうしたんだ?」
「生産者達は、店で売っている武器のミスリルの出どころの事で話したいらしく、今度の店の休日に話を聞かせてほしいという事です」
「そうか。わかったよ」
「えーっと、只ならぬ感じだったのですがよろしいのですか?」
「ああ、いいよ。いずれ、生産者と言っても押し寄せたのは採掘者達だろ?」
「なぜそれを?」
「まあ、それは想定内の事だよ。むしろ今まで気づかなかった方が、俺としてはびっくりしているからね」
「ダンナ様は、採掘者が何を言ってくるのかわかっているのですか?」
「というか、分からないほうがおかしいだろ?」
「えっ?」
「セバスは見当がつかないのか?」
「私にはちょっと……」
「嘘だろ?㋪は、ダンジョン前に捨てられる鉱石をタダで持って帰り、㋪でミスリルの武器を格安で売っているんだよ。そうなれば苦情を言いに来るのは当然じゃないか」
「ギルドじゃなく、何で生産者が?」
「この場合生産者じゃないな。採掘者だよ。考えて見なよ。採掘者はダンジョンから危険な目に遭いながら、ミスリル鉱石を持って帰って来るんよ。その鉱石からは少量のミスリルしか抽出できないから、採掘者は泣く泣く捨てているんだよ」
「なるほど……その捨てる鉱石を拾い、ミスリル製の武器を作り元手をかけず、㋪だけが大儲けしているのが気に入らないと……」
「そういうことだな」
「では、どうするのですか?」
「どうもしないよ。納得して帰ってもらうだけだよ」
「納得ですか?……」
「ああ。納得してもらうしかないよ」
「そんなに上手く行くものなんですか?」
「わからん」
セバスの心配をよそに、ヒロトシは他人事のようにあっからかんとした様子だった。
「そんな事よりお腹すいたな……今日は、領主様と話しをして疲れたよ。お偉いさんと会話すると気疲れだけして精神が削れるから、家で仕事している方がいいよ」
「やはり、魔道砲の設置を求められていたのですか?」
「ああ……本当に聞き訳が無くてな、特に役員がうるさかったよ」
ヒロトシは、スタンピードで大活躍した魔道砲を、城壁の上から取り外していた。それを不服に思った町の役員達が、ヒロトシに訴えていたのだった。
役員達が、文句を言うのは当然だった。スタンピードを退けたような兵器とも言える魔道具が、ヒロトシに許可を得ないと出してもらえないからだ。
ヒロトシは、この魔道砲を町の所有物にはしたくなかった。それに、あの城壁の上に設置したままだと磨きのメンテナンスが欠かせないからだ。
それならば、磨きをしてヒロトシ自身のインベントリに保管しておけば時間経過は無く、いつでもすぐに万全な状態で保管できるからである。
今回セバスに預けたのは、ヒロトシがガーラの町に出張したからであり、ヒロトシが町にいれば預ける事もなく、本来なら+5の状態で魔道砲を仕様で来たのだ。
「まあ、どっちにしても魔道砲は威力がありすぎるからな。そんなのを常時町の城壁に飾っておくのは危険だ」
ヒロトシは、この魔道砲をあの場所に放置するのは危険と言い、常に見張りをつけないといけないと言って断り、インベントリに収納してしまっていた。
今回、役員達がその交渉をヒロトシにしてきて、とても精神がすり減ってしまったのだった。
「ご主人様。そんな時はお風呂に入ってゆっくりしてください。今お湯を沸かしましたので」
そう言って話しをしてきたのは、メイドのアヤだった。今までは風呂の湯沸かし器の操作はヒロトシがしていた。市販されていたのは魔力量がとんでもなく多くいり、他の者が操作が出来なかった。
しかし、ヒロトシが魔道具を作れるようになり、魔力消費の少ない物に作り替えたのだ。作り替えたというより、部品を磨き魔力電動効率を伝えやすくしただけで、少しの魔力で起動することができるようになっていた。そのおかげで、普通の人でも十分に風呂の水を温めれる様になったのだ。
「アヤ。ありがとな。晩御飯前にゆっくりさせていただくよ」
「はい。ゆっくりしていてください。お風呂から上がる頃には、晩御飯が出来ると思います」
「いつもありがとな」
「とんでもありません。わたし達の方こそ、いつもご主人様に感謝しています」
「それでもありがと」
そう言ってヒロトシは、お風呂に入るのだった。
「アヤ……私達は、本当に旦那様に仕える事が出来て幸せ者だな」
「セバスさん、本当にそうですね」
そして、ヒロトシが風呂から上がると晩御飯が用意してあり、マイン達も席の前でヒロトシを待っていた。
「ごめんごめん!ちょっとゆっくり浸かり過ぎてた」
ヒロトシが席に着くまで、セバス達は自分の席の前で直利不動で待っているのはいつも後景だった。前からヒロトシは席に着いて待っていてくれと言ったのだが、頑なにみんなはそれを拒否していた。
ヒロトシの仕事は、研磨作業なのでどうしても風呂が長くなるので、ずっと立って待っていると悪いと言ったのだが、セバス達は本来ならば奴隷の身分で、主とテーブルを同じにするのでさえ恐れ多いのに、先に自分達が座るなんてとんでもないと反論したのだ。
それからずっとこのスタイルである。
「旦那様、謝る必要はありません」
「でもなあ……いつも悪いと思っているんだぞ?」
「そんなこと思う必要もありませんよ」
「まあ、いいか……みんな早く座ってくれ」
ヒロトシが席に着くと、みんな一斉に席に着いた。しかし、今日はこのまま食事する事は無く、ヒロトシはカノンを呼び寄せた。
「あ~!みんな、今日はもうちょっと待ってくれ」
ヒロトシはそういうと、みんながヒロトシに注目したのだった。
「カノン。ちょっとこっちに来てくれ」
「はい……」
カノンは、ヒロトシに呼ばれて席を立ちゆっくり側に行った。あの大爆発で羽根が無くなり、体の重心が傾きゆっくり歩かないとすぐに転倒してしまうからである。
「長い間、待たせてしまってごめんなさい」
「えっ?」
「これを飲んでくれ」
ヒロトシは、エリクサーをカノンに渡したのだった。
「こ、これは?」
「エリクサーだよ。今日手に入ったんだ」
「どうやってこれを……」
「今日領主様にもらったんだよ」
「嘘です!領主様が、エリクサーを譲るだなんて……貴族様は、普通は万が一の時の為に、何本か用意しておくものです」
「いや……本当だって!」
「このエリクサーはどうしたのですか?購入したのですか?」
カノン達は、ヒロトシの活躍により、ヒロトシが領主に無理を言って、大金を叩いて購入したと思っていた。
「いやいやいや、これは本当に貰ったんだよ?今回、領主様に会ったのはスタンピードを撃退した謝礼でお招きして頂いたんだ。しかし、その謝礼金は100億ゴールドだったんだ」
「「「「「ひゃ、100億ゴールド⁉」」」」」
100億と聞き、この場にいる全員が身を乗り出し大声を出したのだ。
「そんなお金を、ご主人様は受け取ったのですか?」
「いや……それなんだがな……」
ヒロトシは、そのお金を分割にしてほしいと、領主から言われた事を説明した。それで、自分はそんな大金貰ってもしょうがないから、5億とエリクサーにしてもらったと言ったのだった。
「はぁあ⁉ご主人様は、私にエリクサーを飲ませる為に、95億で購入したと言うのですか?何を考えているのですか!」
「何を怒っているんだよ……」
「そんなエリクサー……頂く事なんかできるはずないでしょ……」
「なんでだよ?これは、カノンの為に貰って来たんだ。カノンが飲まないと意味が無いだろ?」
「旦那様……」
「何だよセバス、今大事なことを……」
「そのエリクサーは、旦那様が万が一の時の為に保存しておいてください」
「何を馬鹿な事を!」
「馬鹿はご主人様です!」
「なっ……」
カノンは、ヒロトシが自分の為に大金を使って、エリクサーを手に入れてきた事は本当に嬉しく思ってはいた。しかし、奴隷の為に貰えたはずのお金を断り、エリクサーを手に入れてきた事に、どうしようもない罪悪感が生まれていたのだった。
「ご主人様は本当にお優しい方です。私の為にエリクサーを貰ってくれたことは本当に嬉しいです」
「だったら何でそんなに怒っているんだよ?」
「ですが、私はご主人様の奴隷です。そんな所有物に95億だなんて……何を考えているのですか?」
「黙れ!それ以上言うと俺はお前を許さないぞ!」
ヒロトシは、カノンが自分の事を所有物と言ったことに腹を立てた。家族だと思い、どんなことをしてでもカノンの傷を治したかった。
「何を言っているのですか?明らかにご主人様の行動は異常です。どこの世界に奴隷に95億ものエリクサーを使う人間がいるというのですか?」
「そんなのしらん!どこにいるいると聞かれるのならここにいる。俺が、カノンの傷をどんなことをしても治すと言ったじゃないか?それの何が悪い?」
「ご主人様は、95億を捨てたのと一緒なのですよ?私のせいで、ご主人様が手にいるはずだった物を無駄にさせたのですよ?」
「はっ!馬鹿な事を……このエリクサーで、カノンは元に治るんだ。全然無駄じゃないだろ?」
「しかし!」
「しかしもかかしもない。俺がもらった金をどう使おうが、勝手じゃないか?それとも、カノンにいちいち許可を得ないと、物も買えないというのか?」
「そんな事を言っているのではありません!」
「もし仮に、この買い物で俺が無理をして奴隷に落ちたとしたら、怒られるのも納得しよう。しかし、店は順調に売り上げを伸ばしている。借金など全くないじゃないか?」
「そうじゃなくて、奴隷にエリクサーなど!」
「じゃあ、いらないというのか?だったら、このエリクサーはこのまま……」
「はい、ご主人様の万が一の……」
「叩き捨てる!」
ヒロトシは、持っているエリクサーを振り上げて、床にたたきつけようとした。それを見たマイン達は悲鳴を上げたのだった。
「きゃあああああああ!ご主人様、何をするのですか?」
振り上げたヒロトシの腕を、カノンは必死に掴みかかり、エリクサーが破壊されるのを阻止したのだった。
「だって、いらないんだろ?俺も使う必要が無いからな」
「今は必要はありませんが、万が一の時にご主人様が使用したらいいじゃないですか?」
「今、必要なのはカノンだろ?その為に、俺はこのエリクサーを手に入れたんだ」
「ですが!」
「それに、俺は今までお前達を奴隷として扱ってはいないはずだろ?ずっと信頼できる仲間や家族として扱ってきたはずだろ?お前達はそれでも頑なに自分は奴隷だと言ってきたけどな」
「でも、奴隷というのは確かな事で……」
「じゃあ、俺は、今日からお前達を奴隷として扱うと言ったら納得するのか?」
「「「「「「「えっ⁉」」」」」」」
マイン達が一斉に声を上げた。
「当然今食卓にある食事は、水っぽい具のないスープだけになり、風呂も無くなくなる。夜の12時まで働き詰めになし、ガイン達は当然夜中の3時まで研磨の修行で、朝は5時起きで働く事になるんだぞ」
「主!そ、それはちょっと待ってくれ……本当に死んでしまう」
「だが、奴隷というのは主人の思い方ひとつなんだろ?カノンは、今の状態で普通に俺の護衛が務まるのか?」
「そ、それは……」
「勤まらないんじゃ、ここにいても意味はないよな?」
「うっ……」
「俺はカノンたちをタダ甘やかしている訳じゃないんだぞ?家族として大切にしているが、みんなが協力して日々働いているからこそ、この生活が維持できていると思っているんだぞ?それともお前達が過労死したら、新しい奴隷を購入したらいいと本気で言うのか?」
「それは……」
「もし、それを推奨するならカノン……お前達を奴隷商店に売却して、俺は別の町に行き目立たず一人で、自給自足の生活をするよ」
「「「「「そ、そんな!」」」」」」
「旦那様、ちょっとお待ちください!」
「セバス、俺はこのまま小さな一人で住める家を、森に建てたらどうなると思う?」
「だ、だから……ちょっ、ちょっと……」
「この家には強力な結界が張ってあって、盗賊は一切入れないし安全だよね?森の中でも、同じ結界を張れば一人でも、自由に生活は可能だと思わないか?」
「旦那様!私達が悪かったです!お許しください!私達を、今まで通り旦那様にお仕えさせてください。どうかこの通りです」
セバスは、ヒロトシに頭を深々下げたのだった。それに続き、他の者達も頭を下げたのである。
「ちょっと外に出てくる。お前達は、ご飯を食べて部屋に戻っていろ」
ヒロトシは、そのままミトンの町に出て行くのだった。
0
お気に入りに追加
425
あなたにおすすめの小説
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
【完結】悪役だった令嬢の美味しい日記
蕪 リタ
ファンタジー
前世の妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生した主人公、実は悪役令嬢でした・・・・・・。え?そうなの?それなら破滅は避けたい!でも乙女ゲームなんてしたことない!妹には「悪役令嬢可愛い!!」と永遠聞かされただけ・・・・・・困った・・・・・・。
どれがフラグかなんてわかんないし、無視してもいいかなーって頭の片隅に仕舞い込み、あぁポテサラが食べたい・・・・・・と思考はどんどん食べ物へ。恋しい食べ物達を作っては食べ、作ってはあげて・・・・・・。あれ?いつのまにか、ヒロインともお友達になっちゃった。攻略対象達も設定とはなんだか違う?とヒロイン談。
なんだかんだで生きていける気がする?主人公が、豚汁騎士科生たちやダメダメ先生に懐かれたり。腹黒婚約者に赤面させられたと思ったら、自称ヒロインまで登場しちゃってうっかり魔王降臨しちゃったり・・・・・・。もうどうにでもなれ!とステキなお姉様方や本物の乙女ゲームヒロインたちとお菓子や食事楽しみながら、青春を謳歌するレティシアのお食事日記。
※爵位や言葉遣いは、現実や他作者様の作品と異なります。
※誤字脱字あるかもしれません。ごめんなさい。
※戦闘シーンがあるので、R指定は念のためです。
※カクヨムでも投稿してます。
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる