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第2章 研磨という技術

16話 悪徳商人の逮捕

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 スタンピードから助かった町は、長い歴史の中でも類は見なかった。それほどまでに、スタンピードは恐ろしい災害である。

 そして、森の中を抜けたヒロトシは冒険者達から祝福をうけた。

「ヒロトシ!お前本当にとんでもない奴だな」
「そうだぜ」
「ホントお前は町の英雄だ!」

「まあ、そんなことあるかな?」

「「「「「こいつ!調子に乗りやがって!」」」」」

 ヒロトシは、冒険者達からもみくちゃにされたのだった。そして、そのまま町の城門に入ると、町の人間から冒険者と共に拍手を受けた。
 そして、領主のシルフォードは冒険者や生産者、このスタンピードに係わった人間、すべてに感謝の意を表明し頭を下げたのだった。

 そして、後日冒険者や生産者達には謝礼が支払われた。ヒロトシはまた、領主の屋敷に招かれる事になる。

 スタンピードの恐怖から解放された町は、お祭り騒ぎのように湧き上がっていた。その中ヒロトシは、町の倉庫に海で作ってきた塩を出すことにした。

「領主様少しよろしいですか?」

「ヒロトシ君、よく戻ってきてくれた。君が戻ってこなければ、ミトンの町はエルダーリッチに占領されていただろう」

 シルフォードは、団長のマリクから森での事を報告を受けていた。

「いえいえ。俺だけじゃ、この結果にはなりませんでしたよ。みんなが頑張ってくれたおかげですよ」

 シルフォードは、ヒロトシに握手をして何回も頭を下げて感謝したのだった。

「それでですね。塩の方は、どこに置いたらよろしいですか?」

「そ、そうか?塩を本当に、仕入れてくれたのだな?ここに出してくれるか?」

「えっ⁉ここにですか?出来たら保管場所まで運びますよ」

 シルフォードは、ヒロトシが塩を持ってきてくれたのは感謝したが、期間が1ヶ月だった事もあり、そんなに量はないと思っていたのだった。

「大丈夫だよ。それくらいは、兵士にやってもらうから遠慮しなくてもいいよ」

「本当にいいのですか?」

「何を遠慮している。君は、この町の絶対的英雄なんだから遠慮することはないよ」

 ヒロトシは、シルフォードがそこまで言うのならと思い、麻の袋に入った20kg塩をドンドン、インベントリから出していった。

「ちょっと待ってくれ!」

 シルフォードはその量の多さに焦り、ヒロトシを止めたのだった。

「どうかしましたか?」

「どれほどあるのだ?まさか、こんなにあるとは思わなかったのだが……」

「まあ……数えていませんが50tはありますよ」

「50tだと⁉」

 その会話を聞いていた町の人間は、さらに歓声を上げたのだった。

「だから、言ったじゃないですか。量があるから保管場所を聞いたのに」

「わ、悪かった……まさか1ヶ月で、そこまで持ってくるとは思わなかったのだ……」

 これらの塩は、町の財政で値が上がる前の価格で、ヒロトシに支払われる事になる。そして、この塩のおかげで、ミトンの町のインフレは収まることになるのだが、これによりガーラの悪徳商人は塩の在庫を抱える事になり、経営が一気に苦しくなる事になるのである。

 その一週間後の事、ガーラの町ではある変化が起きていた。

「どういうことだ!ミトンの町では塩が足りないはずであろう?」

「いえ、もうあの町では、そんなに高い塩は売れる事はありません」

「馬鹿な!現に今も、山賊は街道沿いに砦を構えて……」

 さすがと言っていいほどの商人の情報網は速い。三日ほど前から、塩の価格が元に戻ってきていた。

「セラダスさん……貴方はそれでも商人の端くれですか?それはいつの情報ですか?」

「な、何だと⁉」

「まあ、貴方と関わり合いになる商人はもういないと思いますがね」

 行商人は、セラダスと関わり合いになる商人は、もういないと言い切ったのだった。

「な、なんだと!いい加減な事言うと……」

「何を焦っているのですか?ああ!それともう一つ教えてあげますよ。貴方が大事にしている山賊ですが、5日6日前ぐらいに討伐されていますよ」

「な、何だと!」

「商人の情報網ではもう有名な話であり、殆どの人間が知っている事です」

「なっ⁉私の所にその情報は……」

「何でだと思います?あなたも馬鹿な事をしたものだ……」

「馬鹿な事だと?」

「これは、商人の中でも一部の人間しか知らない事です。なんでも、闇ギルドに依頼を出し、ミトンの町に塩を行商させない事で塩の値段を意図的に釣り上げ、大儲けしようとした大馬鹿な塩問屋がいたそうですよ」

「ば、馬鹿な……わ、私は知らないぞ!どこにそのような証拠が……」

「いやいや、わたしも噂を聞いただけですよ。貴方の店とは、私は一言でも言いましたか?」

「お主は、先ほど私に馬鹿な事をしたものだと言ったではないか?」

「いえいえいえ。私は貴方の店の塩の価格が高すぎる設定を言ったのですよ。とにかく、貴方の店の価格では行商しても儲けは全く出ませんからね。その証拠に、この町にも行商の馬車がいっぱいいるのに、貴方の店には誰も来ないではありませんか?」

「しかし、お主は……」

「わたしは貴方に呼びとめられただけです。貴方の店には用はありませんよ」

「なんだと!用が無いとはどういう意味だ!以前は、お主に色々サービスしたではないか!」

「それは当たり前ですよ。私も金儲けを生業とする者だ。貴方の機嫌を取りできるだけ安く交渉するのは当たり前だろ?しかし、今のあなたに機嫌をとって何になるというのだ?」

 セラダスは、行商人にそのように言われて、顔を真っ赤にして怒鳴ろうとして、行商人につかみかかった。

「私を殴っても状況が変わるとは思いませんよ」

「なんだと?」

「ほら、周りをよく見てくださいよ。みんな、あなたの事を不審に思っていますよ」

 セラダスは、行商人の言葉にハッとなり周りを見渡すと、町の人間が自分の事を白い目で見ていたのだった。

「ぐっ……もうよい貴様とは、もう取り引きなど絶対しないから覚悟いたせ!」

「まだ自分が商売が出来ると思っているとは本当にめでたい人だな」

「何だと!それはどういう意味だ!」

 すると、その行商人はセラダスの事を鼻で笑った。そして言葉を続けたのだった。

「ほら!お迎えが来たようですよ」

「何⁉」

「セラダス!お前に行商人無差別殺害容疑が掛かっておる!大人しくしろ!」

 ガーラの町の衛兵が、セラダスに飛びかかり逮捕したのだった。

「ち、ちくしょう!放せ!俺は何も知らない!」

「黙れ!こちらには証拠の品がちゃんとある!お前が闇ギルドと取引をして、塩の行商人の命を奪ってほしいと依頼書が出てきたのだ!」

 衛兵は、証拠の依頼書をセラダスの目の前に提示したのだった。これにはセラダスは反論の余地は全くなく、その場に崩れ落ちたのだった。
 その場でセラダスは逮捕され、店の中の物は差し押さえになり、従業員もまた一緒に連れていかれてしまったのだった。

「おい!大丈夫だったか?」
「俺は大丈夫だよ」
「ったく、お前はホントいろんなとこに足を突っ込むんだからな」
「こうして情報を入手するんだよ。情報は商人の命だぜ」
「ったく、まあ……お前を見ていると飽きる事はないがな……」

 行商人は、話しかけてきた仲間と笑顔で笑いあっていたのだ。

 そして、ガーラの町ではこの事がその日のうちに広まり、色んな所で噂される事になるのは言うまでもなかった。




 一週間前に遡り、ミトンの町ではとにかく山賊をどうにかしないと、ヒロトシが塩を大量に持ってきてくれても、行商人が犠牲になるのでは、いずれこれらの塩も底をつく事になり行商を復活させなくてはいけなかった。

「討伐隊には悪いが、また討伐に向かってほしい」

「「「「「はっ!」」」」」

 シルフォードは、無茶な事を言っているのは分かっていた。しかし、山賊をこのままにしてはおけなかったので、やむをえない選択をしたのだった。
 この指示に、領主の部下である兵士達はすぐさま出発の準備をしたのだが、冒険者は別である。いくら何でも、その指示には従う事は出来なかった。スタンピードの後、すぐに出発など考えられなかったのだ。

「領主様。それはいくらなんでも、冒険者に対して酷という物です。魔法使いは、特に精神力を使い果たしていて、とてもじゃありませんが山賊の討伐など向かわせるわけには……」

「それは分かっておる!しかし、山賊を討伐しないと、元の黙阿弥になってしまうではないか」

「それは分かっていますが……」

 ギルドマスターが、冒険者達を守るために必死で抵抗したのだ。ここは、ギルドマスターの判断が正しく、このまま冒険者達を出立させたら、無駄に命の散らせる危険性があるからだ。

 山賊という事にはなっているが、相手は闇ギルドでありエルダーリッチさえ引っ張り出す事が出来るような組織だったからだ。


 すると、ヒロトシが何気なく口を出してきた。

「領主様」

「ヒロトシ君はゆっくりしていてくれ。君は商人なんだから、討伐は我々に任せておいてくれ」

「それなんですが、その討伐はもう大丈夫ですよ。俺がここに帰って来る途中で全滅させておきましたから」

「「「「「「「はっ⁉」」」」」」」

 ヒロトシの説明に、一同がポカンとなり動かなくなってしまった。 

「どういう事ですか?」

 いち早く口を開いたのは、冒険者ギルドの副ギルドマスターのカチュアだった。

「どういう事も何も……あいつ等、俺が急いでミトンの町に帰りたかったのに、道をふさいでたんだぜ」

「確かに山賊は、ミトンとガーラの街道に陣取って、行商人を犠牲にしていましたが……」

「だからだよ。帰って来るのに、ちょっと時間がかかってしまったんだよ……」

 そう言って、ヒロトシは山賊の死体をインベントリから出したのだった。

「こ、これは……あの時、俺達にヤジを飛ばした奴じゃないか!」

 討伐隊が帰還しようとした時、ヤジを飛ばしていた山賊だったのだ。

「あの砦みたいなとこは潰したからもう大丈夫だよ」

「ヒロトシ君……きみって人間は……」

 その証拠を見たシルフォードは、ヒロトシの手を強く握り、目に涙をためてお礼を言ったのだった。

「領主様」

「なんだい?」

「今回の黒幕は闇ギルドですが、ガーラの町の商人が糸を引いているようです」

「どういう事だね?」

「これが証拠です」

 ヒロトシは、山賊の頭が持っていた契約書を、シルフォードに提出した。するとそこには、セラダスの店から行商人が塩を仕入れてガーラの町を出発し、山賊に扮した闇ギルドが行商人の情報を得て、それを襲い塩を強奪。
 そして、その塩をセラダスが買い戻し、新たな行商人に高値で売り値を釣り上げる計画がしるされていた。その値が上がりきった塩を、冒険者が輸送するという事がしっかり載っていたのである。

 高ランクアサシンが襲ってくるので、行商人の護衛はなすすべもなくやられてしまっていた。やはり、行商人を守りながらアサシンの相手をすることができなかったのである。

「ぐぬぬぬ……わたし達はこの悪徳商人にまんまと踊らされていたというのか……」

「そのようですね。しかし、証拠がある以上そのセラダスを逮捕することはできますよ」

「ふむ!団長、すぐにこのセラダスを逮捕する準備をしてくれ」

「はっ!」

 こうして、すぐに領主の命でガーラの町へと出発したのだった。そして、山賊がいなくなったこの街道は、以前のようにミトンへの塩の輸送が又行られるようになった。


 この事件の後、いつしかこの街道はソルトロード(塩の道)と呼ばれるようになっていた。



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