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第2章 研磨という技術

11話 アンデット集団

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 ヒロトシは、その日のうちにガーラの町の近くに到着した。街道をヒロトシのステータスで、マウンテンバイクを全速力でとばしたのだ。
 街道と言っても、地球のように舗装されている訳ではなく砂利道の為、マウンテンバイクが良かった。21変速がついている物で、とても早く移動できたのだった。途中、馬車を追い抜くときは馬が驚かない様に注意したが、自転車に馬が驚くのは無理もなかった。

「何だ?今のは!」
「何があったのだ?」
「旦那様すいません……得体のしれない物が物凄いスピードで駆け抜けていきました」
「なんだそれは?」
「分かりません……すでに見えなくなりました」
「あんなスピードで移動できるものがあるのか……」
「私にはさっぱりです」

 長年、貴族の馭者を務めていた人間も、初めて見たものだった。そして、その日のうちにヒロトシは、海の見える海岸に到着した。

「こいつが海か!」

 ヒロトシは、海岸からふく潮の香にフーっと息をついた。そして、砂浜に鏡台のオークションの時に購入した【ハウス】で家を建てた。

 このハウスは、魔力を込める事で手軽にテントを張る事が出来るのだが、魔力を凄く使うので普通の冒険者だとテントを張るのが精一杯である。しかし、MPを1000以上込めると、一軒家を建てる事が出来るのだ。

「やっぱり、こいつを購入しておいて正解だったな。この1ヶ月ベットやトイレも問題ないしな。それも調理も楽だよな!」

 このハウスで、海岸の砂浜に敷地の柵まで作り、庭まで結界の張った奇妙な家が出来上がったのだった。

「さて、時間が無い……急いで 塩を作っていかなくっちゃな!」

 ヒロトシは、とんでもない方法で塩の製作に取り掛かった。インベントリから取り出したのは魔晄炉だった。
 魔晄炉の中を【クリーン】で綺麗にすると。ドームの中は殺菌され、その中に海水を入れた。魔晄炉を起動させると、中にある火属性の魔石が真っ赤に燃え上がり、風属性の魔石が空気を送りドーム内は灼熱となり、すぐに海水は蒸発し、そこには塩の結晶が残ったのだった。

 そして、ヒロトシはインベントリに大量の海水を収納し、魔晄炉の中に海水を入れる事を繰り返した。

 海水は、魔晄炉の中で一瞬で蒸発し魔晄炉の底に塩だけを残した。そして、魔晄炉の底に残った塩は取り出し口から袋に詰めて行く作業を、ヒロトシは1ヶ月ひたすらそれ繰り返すだけだった。



「なんだ。お前達又懲りずに来たのか?」

『『『『『ギャギャギャギャ!』』』』』』

 海岸でいるとサハギンがよく襲ってくるのだ。サハギンとは半魚人で、集団で襲ってくる魔物で槍を得意とする。
 しかし、ヒロトシはハウスの結界の中に基本いて、結界の外に出ることはまずない。海岸線ギリギリに家を建てているので結界内から海水を汲む事が出来るのである。
 そうなると、結界に阻まれた大量のサハギンが家を囲む異様な後景が出来上がる。

「ギャッギャ、ギャッギャ、うるさいんだよ!ライトニング」

 ヒロトシは、結界内からサハギンの弱点である風属性魔法のライトニングを撃ちこんだ。2レベルになった事でライトニングが使える様になって雷はサハギン全員に、光の速さで貫き感電死させてしまった。そして、ヒロトシは討伐したサハギンを。全部収納してしまうのである。


 

 その頃、冒険者達はミトンの町に集結し始めていた。これは、塩を購入し自分達が運べる分だけを持って帰ってきていたからだ。
 本来なら、帰還したらまたすぐに折り返す事になるが、ギルドでそれを止めていたのだ。今は、山賊を討伐することに力を入れようとしていたからだ。ギルドではギルドマスターが、今回の事を冒険者達に伝えていた。

「いいか?今回の山賊たちの正体は闇ギルドかもしれない!その線が非常に濃い事が分かった。くれぐれも注意してくれ」

「それは本当なのか?」

「ああ……信じられない事だが本当だ。その為、塩の輸送は一旦取りやめてほしい」

「わかった、山賊を先に潰そうって言うんだな?」

「そういう事だ!」

「じゃあ、塩の方はどうするんだ?もう備蓄が無いんだろ?」

「ああ……しかし、お前達も分かっていると思うが、買い付けに行った感想はどうだ?」

「あれは駄目だ……塩の値があまりに高すぎて、俺らではどうしようもない」

「そうだ。領主様も塩より先に山賊をなんとかしないと、ミトンの町はどうしようもなくなるそうだ。その為、Sランク冒険者を各地から呼び寄せているので、それまで待機していてほしい」

「いつまで待機しておくんだ?そんなに長く持たないだろ?」

「今は、戦力確保が先だ。それに塩の方は今㋪が動いてくれている。1ヶ月もすれば、大量の塩がこの町に運ばれてくる手筈だ」

「なんだと?」
「㋪が動いているのか?」
「㋪は産物に対しても何とかできるのか?」
「信じられねえ……ヒロトシは何でもありなのか?」

「塩さえ町に運び込まれれば、物価の上昇は抑えられるはずだ。ここはヒロトシを信じるしかない。俺達は俺達のやれる得意分野をやればいいんだ!」

「「「「「おおおおお!」」」」」

 冒険者ギルドは、塩の輸送の依頼じゃなく山賊の討伐依頼の為に、各地に集結させ協力を求めた。それなら冒険者の本文という事で続々と冒険者が集まってきた。

 そして、前回とは違う大編成の討伐隊が組まれる事になった。Bランク以上の冒険者で組まれる討伐隊は無敵の軍隊になった。そこに、領主の私設兵団も1部隊加わる事になる。
 そして、Cランクまでの冒険者は何かあった時の為、町に待機を指示される事になった。今回、他の町から協力したのはAランク以上の冒険者であり、それ以下の者はミトンを拠点に活動している冒険者だ。

 町にはギルドマスターや、数人のAランク冒険者が指示の役目で残っていた。

「それでは、みんな頼んだぞ?」

 ギルドマスターの号令で、討伐隊は山賊が拠点としている森に出発した。



「がはははは!ミトンの町から討伐隊が出発したみたいだな。これでこちらの思うつぼだ。あの人数だと町に残っているのは雑魚ばかりだ」

 闇ギルドでは、ミトンの町が塩の事を諦め、自分達にターゲットを絞った事を把握していた。しかし、ヒロトシが1ヶ月ほど前に、ミトンの町を出て行った事は把握していなかった。その為、ミトンでは塩より自分達をなんとかする事に尽力を尽くす事にしたと思っていたのである。

 討伐に向かった冒険者達は、人数が多い為行進が遅くなり、2日かけて山賊が出没する地域に到着した。

「ぐははははは!これで、あいつ等はそう簡単にミトンの町に帰還できねえな。これが罠とも知らずにめでてえ奴らだぜ!」

 山賊たちは、この地に砦を作り拠点としていた。今やこの街道は行商人達からは、地獄への道と称されて誰も近づかない様になっていた。そして、討伐隊は、この砦を潰す事がミッションとされていた。
 ここさえ潰れてしまえば行商の道は確保され、何もかもうまくいくことになるからだ。しかし、要塞と化していた砦の攻略は難航していた。

 その頃、ミトンの町では周囲を警戒していた冒険者や兵士達は、とんでもない物に遭遇していた。ミトンの町の、目と鼻の先にアンデットの集団が姿を現したとの情報を掴んだ。

 そうである。闇ギルド最悪最凶のネクロマンサーが遂に動き出したのだ。これが闇ギルドの策略だった。高ランク冒険者を町から引き離し、その隙に町を征服する計画だった。



「た、大変だぁ~~~~~!北の森に、アンデットの集団を確認!」

 周囲を警戒していた冒険者の一人がギルドに駆け込んできた。それは町中にすぐに広まり、町の鐘がけたたましく鳴りだしたのだ。この鐘の音は災害級の事が起こったとの知らせの音である。その瞬間、全ての城門が閉じられることになる。

「どういうことだ?こんな時に限って……」

「北の森にアンデットの集団が……その先は全てゾンビやスケルトンで埋め尽くされてます」

「推定でどのくらいだ?」

「万はゆうに超えており、十数万体になるかと……」

「ば……バカな‼」

「ギルドマスター、これはまさか!」

「ああ……多分闇ギルドの仕業だろう……まさか、こんな事をしてくるとは……すぐにギルドカードの集結アラームを鳴らすのだ」

「すでに鳴らしています。しかし、集まる事は不可能でしょう……」

 ギルドカードの集結アラームとは、ギルドからの緊急危険信号であり、周囲5kmの冒険者に報せて、このアラームが鳴った場合、ギルドカードの裏に発信地が表記され、その場所に向かって集まらないといけないのだ。

 しかし、討伐隊の行進は大人数の為アラームが鳴ったが、戻る事は不可能だった。当然こちらも砦の攻略を受けて動いていたからだ。

「どういう事だ?ミトン支部が戻って来いだなんて……まさか?ミトンの町の方が闇ギルドの本体なのか?」

 砦を攻めようとして、情報を集めていたが、砦の中には本当の山賊みたいな風貌の人間しかいなかった。アサシンのような人間が全く見かけないのである。
 しかし、撤退しようにもこの人数で町に帰還するとなると、2日はかかりとてもじゃないがすぐには無理だった。
その時砦の中からは、下品で大きな笑い声が聞こえてきたのだった。

「がはははは!そろそろミトンの町は、闇ギルドに征服されるぜ?俺達に構っていて大丈夫なのか?がははははは!俺達はここから高みの見物といこうぜ」

 討伐隊は、もう少しで進行するところだった。到着して2日かけて守りの薄い所を調査していたのだ。そして、ようやく突入できるところだったのだ。

 討伐隊の隊長は、目の前で笑っている山賊を討伐するか、ミトンの町へ帰還する選択に迫られていた。アラームだけでミトンの町がどんなピンチになっているのかが全然わからなかったのだ。
 しかし、討伐依頼を出した冒険者を呼び戻すほど大変なことになっているのか、その判断が全然つかなかった。

「隊長!どうするのですか?冒険者達は浮き出しだってます」

「わかっておる!このまま突入しても気になって攻略などは無理だろう。しかし、ここを放って帰ったら、次は更に攻略は困難になってしまう……」

 ここを束ねている町の兵士達は頭を悩ませた。結果、高ランク冒険者と会議を開き、戻る選択をしたのだった。

「がははははは!討伐隊の奴等、何もせずに引き返していくぜ!腰抜けやろうどもが!がははははは!」

 砦では、山賊の笑い声が響き渡り、討伐隊は奥歯を噛みしめて帰還していくのだった。

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