研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第2章 研磨という技術

10話 策略の全貌

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 ヒロトシは領主の屋敷に到着し、屋敷の中に案内してもらい、シルフォードに塩の輸送について聞こうとしたのだった。しかし、門の前で兵士に今領主は不在だと聞いたのだった。

「こ、これはヒロトシ殿。今日はどうかしたのですか?」

「いえ、最近工場で缶詰状態で町が大変な事になっていたのを、知ったばかりでして……なんでも塩の行商が無くなってしまったらしいと聞いて、領主様に事情を聞きに来たんですよ」

「申し訳ありません……確かに塩の行商が無くなってしまい、今町は山賊の事で混乱しております。領主様もそのことで今、冒険者ギルドの方で会議を開いております」

「そうか!教えてくれてありがとう。冒険者ギルドに向かってみるよ」

「ヒロトシ殿!領主様をよろしくお願いします」

 門番をしていた兵士は、討伐隊が全滅してしまった今、ヒロトシに頼るしかないと思い、頭を深々と下げたのだった。

「まあ、何が出来るかわからんけど、あまり期待はしないでくれよ」

「よろしくお願いします」

 兵士は、余程町の情勢が切羽詰まっていることが分かっているらしく、改めて頭を深く下げて、ヒロトシを見送ったのだった。

「主君……どうやら町は、だいぶん不味い状態みたいですね」

「まあ、塩の行商が無くなれば、やはり不味いだろうな……」

「やはり、主君がガーラの町に買い付けに行くつもりですか?」

「買い付け?俺が?何で?」

「違うのですか?私はてっきり、主君がインベントリに大量に収納して運ぶのかと思いましたよ」

「まあ、それは合ってるが俺が言ったのは買い付けなんかしないって事だよ」

「どういう事でしょうか?」

「俺が塩を作るんだよ」

「主君がですか?」

「ミルデンスは、塩がどうやってできるか知っているか?」

「詳しくは知りませんが、海水を鍋で煮詰めるぐらいしか……」

「それであってるよ。しかし、時間がかかるし重労働なんだよ」

「そんなにですか?」

「ああ……職人は汗だくで塩を作るんだよ。しかも、煮詰めて水分を飛ばしても、少量しか取れないんだ。だから、塩は高額で取引されるんだ」

「なるほど……水分を蒸発させるのにもエネルギーがいりますものね」

「だから、俺が短時間で作ろうと思うんだ」

「そんな短時間で作れるものなんですか?」

「まあ、任せな。お前達は俺の留守は、町の事を頼むぞ?」

「主君一人で、ガーラの町まで行くつもりですか?」

「ああ!そっちの方が断然早いからな。それに、お前達には町を守ってもらわないいけないんだよ」

「どういう事でしょうか?」

「ミルデンスは今回、山賊をどう思う?」

「どうとは?」

「ただの山賊なら、討伐隊がやられるわけがないと言ってんだよ」

「主君は、目星がついているのですか?」

「ああ……多分山賊は闇ギルドだよ」

「それは本当ですか?」

「まあ、十中八九そうだろうな」

 そう言って、ヒロトシとミルデンスの二人は冒険者ギルドの扉を開いたのだった。すると、冒険者ギルドでは、仲間が山賊に殺され、冒険者達は沈み切っていた。そして、ヒロトシの姿を見て、受付嬢達が不安そうな顔で駆け寄ってきたのだった。

「ヒロトシ様、どうしたのですか?こんなところに来るなんて」

「さっき、領主様の屋敷に行ったら、領主様はこちらに来ていると聞いたんでここに寄ったんだ」

「で、では、ヒロトシ様が山賊をどうにかしてくれるのですか?」

「いや、俺は商人だよ?塩の事で、領主様に話がしたかったんだよ。会わせて貰えるかな?」

「わ、分かりました……どうぞこちらに」

 受付嬢は、ヒロトシを会議室に案内したのだった。

「失礼します」

「なんだ?今は会議中だぞ。何かあったのか?」

 話が進まない事で、幹部達もストレスが溜まっているようで、口調がきつくなっていた。

「いえ、先ほどギルドにヒロトシ様が訪ねてきて、領主様に用事があるとのことです」

「ヒロトシ君が、わたしに用事だと?すぐに通してくれ」

 ヒロトシが来たという事で、会議室は騒めいたのだった。領主はヒロトシに助けを求めないと言ったが、いい案が全くでない事もあり、やはり頼らないといけないのかと、ギルド幹部の人間は思っていた。

「どうもお久しぶりです。会議中失礼します」

「ヒロトシ君、私に用事とは何かあったのか?」

「何かあったじゃないですよ。町に塩の行商が来なくなったと聞いて、こうして事情を聴きに来たのですよ」

「ヒロトシ君には、これ以上迷惑をかける訳にはいかないからだよ」

「何言ってんですか?水臭いですね」

「君は、まだ成人すらしてない子供だ。ここは大人の私たちがなんとか……」

 領主の言葉にたまらず、副ギルドマスターが言葉を掛けた。

「領主様……ここは、ヒロトシ様の意見を聞いてみてもいいのではないでしょうか?」

 カチュアの言葉に、ギルドマスターが言葉を遮った。

「カチュア、お前は何を言っておる?先ほど注意されたのを覚えておらんのか?」

「ギルドマスターそれは分かっています……しかし、あれから何もいい案どころか、誰も発言が無いではありませんか?このまま、ズルズルいく方が問題ではありませんか」

 カチュアの意見に、ギルド幹部達は黙りこくってしまった。それは領主も同じだった。そして、ヒロトシが口を開いたのだった。

「領主様、よろしいですか?」

「あっ、ああ……」

「今、ミトンの町には塩が全くないのですよね?」

「全くではないが、もう備蓄は底を尽きかけておる。このまま山賊をなんとかしないと、塩だけではなく麦や魚等の食料の行商も止まると山賊から言ってきたのだ……」

「そうですか……とりあえずですが、塩はどうなっていますか?冒険者に、輸送の依頼を出していると思ったのですが?」

「そ、それが……このままでは、塩の価格を釣り上げられていて、冒険者が輸送したところで、価格は高沸するだけだ……」

「やっぱりそうですか……多分、塩の問屋と闇ギルドはつながっている節がありますね」

「闇ギルドだと!どういう事だそれは?」

 ヒロトシの意見に、会議室にいたメンバー全員が騒然となった。

「みんな気がついていなかったのですか?これは闇ギルドが糸を引いている策略ですよ」

 ミトンの町は、人口が増えている事と塩問屋が闇ギルドと結託し、塩の行商を襲わせることで、塩の値段をわざと釣り上げていると説明した。

「では、どうしたら?」

「俺が海に行き、塩を作って輸送してきますよ」

「馬鹿な!塩を作るのにどれだけ時間がかかると思っているんだ?それに、ミトンの町を賄う様な量だぞ?分かっているのか?」

 ギルドマスターは、ヒロトシの言う事に声を荒げるのだった。

「そんなことわかっているよ。この場で冗談なんか言うわけないだろ?」

「それにしても、山賊が闇ギルドとは……」

「それに関しては俺が悪かったです。申し訳ありません……」

「何故ヒロトシ君が謝る必要がある。悪いのは闇ギルドではないか!」

「いえ、まさかミトンの町全体を狙ってくるとは思いもしませんでした……」

「ミトンの町を狙ってきたとはどういう意味だい?」

「俺は、また闇ギルドがこの町に設立すると思っていたんだ。設立したらまた潰し、それを2・3回繰り返せば闇ギルドはこの町には作らないと考えていたんだよ。しかし、こういう手段を取って来るとは思いもしなかった」

「な、なるほど……だから、ヒロトシ君はもう安心したらいいと言っていたのか……」

「とりあえず、俺は海に行き、塩を手に入れて来ます」

「本当に良いのか?」

「ええ。ミトンの町に塩が大量に入れば、塩問屋の野望は潰え、闇ギルドの計画は潰れます。その間に、冒険者達がこの町に帰還すれば、何とかなるんじゃないですか?」

「しかし、塩はどれくらいで持って帰れるんだ?」

「1ヶ月待ってもらえますか?」

「そんな短い期間で……」

「まあ、頑張ってみますよ」

 それを伝えて、ヒロトシは会議室を退室したのだった。ヒロトシが産物を持って帰ると言ってくれたおかげで、問題は山賊だけとなり、冒険者を集結させればなんとかなると会議室は明るくなったのだ。




 屋敷に帰ったヒロトシは、万が一の時は新しく作った魔道具を使えと、ミルデンス達に説明したのだった。その魔道具の説明を聞き、セバス達は驚愕したのだった。その魔道具は大容量のマジックバックの中に収納し、持ち運びが簡単にしていた。
 万が一の時は、この魔道具を使って町を守る事が出来ると、セバス達は確信していた。




 そして、次の日早朝からヒロトシは、屋敷の前で出発する為セバス達に見送られていた。ヒロトシは家の前で自転車にまたがりセバスに指示を出していた。ヒロトシは、地球では自転車で通勤していた。そのおかげで、研磨道具召還でマウンテンバイクを出す事が出来たのだ。

「本当に便利だよなあ」

「旦那様……それはいったいなんですか?」

「馬車の代わりだよ。こいつでガーラの町の近くまで行ってくるよ。それと、俺がいない間は店は休業だ。これは鏡の販売もだ」

「分かりました……お客が来ても、そのようにお断りの説明をさせていただきます」

「ああ、よろしく頼むぞ」

「旦那様もお気をつけて」

「「「「「ご主人様!絶対に無茶をしないでください」」」」」

「ああ!分かっているよ。お前達を残して死ぬわけにはいかないからな」

「縁起でもない事をいわないでください!」

「悪かったよ。そんなに怒る事ないだろ……」

「絶対に生きて帰ってきてください!約束ですよ」

「ああ!分かっているよ」

 ヒロトシは、マウンテンバイクにまたがると、とんでもない速さで城門を通り過ぎて行ったのだった。それを見たセバス達は、目を見開きしばらくその場から動けなかった。

 そして、それはセバス達だけではなかった。大通りを朝はやくから出勤し働く人や城門の兵士達も、驚愕することになる。

「な、何だ今のは!」
「わ、分からん……が、ヒロトシ殿が変な乗り物に乗っていたような……」
「変な乗り物とはいったいなんだ?」
「それが速過ぎてよくわからんかった……」

 早朝早く起こった事は、目撃者は兵士ぐらいしか見ていなかったが、それでもその姿を見た人達は、ヒロトシの噂で持ち切りになったのだった。

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