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第2章 研磨という技術

9話 山賊の正体

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 生産ギルドが帰った後、㋪では冒険者達がマインとアイに話しかけていた。

「マインちゃん大丈夫かい?」
「アイちゃんも、生産ギルドへの対応大変だったね」

「「大丈夫ですよ」」
「これらも、ご主人様からの言いつけで対応しただけですからね」

「って事は、ヒロトシはこの状況を想定してたのか?」

「「その通りです」」
「ご主人様は今、とても忙しく生産ギルドの対応はできないから、わたし達の所で対応を言いつけられてました」

「ほう!町の英雄様はさすがだな」

「あたりまえです!ご主人様はすごいのです」

「しかし、ヒロトシは工場に籠って何を作ってんだい?」

「「内緒です!」」

「なんだよ、少しぐらい教えてくれてもいいじゃないか?」

「そんなの無理に決まっているではないですか?」

「やっぱりか……」

「お前、さらっと会話をして聞き出そうとしても、マインちゃんが引っかかるわけないだろ?」

「やっぱ無理か?」

「「当たり前です!」」

 ㋪の店頭では冒険者達の笑い声が響いていた。そんな中、山賊の討伐隊が組まれて、ミトンの町を出発したのだった。
 町の人間は、この討伐隊を歓声を上げて見送ったのだった。討伐隊は必ず討伐する気迫で出発した。この討伐が成功しないと、本当に塩の輸入がなくなるからである。
 町の人間はパレードを見る感じで、討伐隊が城門を出て行くまで歓声は鳴りやまなかったという程、町の人間は討伐隊に期待をこめていた。
 領主のシルフォードは、祈る気持ちで討伐隊を城壁の上に立ち見送っていた。

「頼むぞ……必ず山賊どもを討伐してきてくれ……」

 そして、領主の願いもむなしくも裏切られる結果となった。数日後、討伐隊の死体が数名城門前に放置され、その死体にナイフが刺され、手紙が張り付けられていた。

「領主様、大変でございます」

「なにがあった?」

「今朝、城門前に討伐隊の人間が殺され、遺体が遺棄されていました」

「な、なんだと?」

「それで遺体に、手紙がナイフに刺され……これを……」



『我々を討伐しようとしても無駄である。
お前達ミトンの町は目障りなのだ!
今は塩だけだが、これからありとあらゆる
産物がストップするであろう!』


 それを読んだシルフォードは奥歯を噛みしめ、テーブルを叩き壊してしまった。

「一体どういうことだ?山賊がなぜミトンの町を敵視しているんだ?」

 手紙を持ってきた兵士も言葉が出なかったのだ。討伐隊は兵士と冒険者で組まれていて、人数も50人編隊と確実に成功するはずだった。
 しかし、山賊の方が一枚も二枚も上だったのだ。シルフォード達は山賊と思い込んでいた。しかし、この山賊の正体は闇ギルドだったのだ。

「くっくっくっ!ミトンの奴ら焦りまくっているだろうよ!」

「そうだな!意気揚々と討伐隊など組んでいたみたいだが、あの人数は少なすぎるぜ」

 闇ギルドは、他の町の支部には最低限の人数を置き、ミトンの町の周辺に集まってきていた。つまり、高レベルアサシンがミトンの町に集結しつつあり、冒険者と兵士50人程度では全く相手になる訳がなかったのである。

「いいか?ミトンの町を兵糧攻めにするんだ。最終的には、闇ギルドの最凶最悪の人間の一人が、ミトンの町を攻め落とす手筈になっておる」

「ああ!わかっているさ。それまで俺達が行商人どもを、ミトンの町に入れない様にすればいいだけだ」

「くっくっくっ!ヒロトシよ。闇ギルドを、敵に回したことを後悔するがいい……」

 この計画は闇ギルドだった。最後にはヒロトシを殺す為に、物流を止めておびき出す算段だった。そして、闇ギルドの最凶最悪の人物は、その準備をしていた。



『地の底に眠る不浄の者共!我が魔力に呼応し目覚めよ!アニメイトデッド!』



 漆黒のローブを纏った人間が、呪文を唱えるととんでもない数のスケルトンやゾンビが地中から這い出してきた。



『我が魔力よ。空間に穴をあけよ!シャドーゾーン!』



 漆黒のローブを着た人間は、目の前に【シャドーゾーン】の入り口を開けると、今生み出した数百体のアンデット達を真っ暗な空間に入れた。
 シャドーゾーンは、アンデットをこの空間に収納するとんでもない魔法だった。この漆黒のローブを着た人間は、闇ギルドに所属するネクロマンサーである。

 ネクロマンサーは、アンデットを生み出しては、シャドーゾーンに収納していくのである。ミトンの町から北に行けば森が拡がる。その森は昔戦場でいまだ無縁仏が眠っているのである。
 ネクロマンサーは不気味な笑みを浮かべ、アニメイトデットでアンデットを生み出していく。高レベルネクロマンサーは、一回の魔法で数百体のアンデットを生み出していて、すでにシャドーゾーンには万単位のアンデットが収納されていたのだった。

 そんな事になっているとは知らないシルフォードは、今朝の事を冒険者ギルドに掛け合っていた。

「領主様……それはあまりに無茶というものです」

「私だって無茶は百も承知だ。しかし、このままではミトンの町はどうなると思う?この手紙が本当なら、塩だけではないのだぞ?」

「ですが今、冒険者を呼び戻すとなれば、それなりの時間要します」

「むぐぐぐ……塩の輸送依頼を出したのがここにきて、町の守りを薄くすることになるとは……」

 シルフォードと冒険者ギルドの上層部のメンバーは、この状況に押し黙ってしまうのだった。

 その沈黙を打ち破ったのは、ミルファーだった。彼女は、受付嬢のリーダーとしてこの会議に参加していた。今回の討伐隊が全滅した事は、大事件であり受付嬢としての意見も聞きたいほど、切羽詰まっていたのは言うまでもなく参加させられていた。

「あの……ちょっとよろしいですか?」

「なんだ、ミルファー?」

「こうして黙っていても、状況は変わらないかと思うのですが……」

「そんな事は分かっておる!だから、もっと大規模な討伐隊を組まないといけないのだが、それには各地に散らばった冒険者を呼び戻さねばならん。それをすぐに呼び戻せないから、こうしてみんな頭を抱えているのではないか?」

「君は、ミルファーと言ったか?」

「はい!領主様」

「君は、何かいい案はないのかね?」

「その冒険者を呼び戻すには無理があると思います。だから違う方法を……」

「そんな方法が、簡単に見つかるわけがなかろう!」

 冒険者ギルドマスターのバルガンが机を思いっきり叩いた。受付嬢のミルファーは、バルガンに怒鳴られ萎縮してしまった。

「ギルドマスターちょっとお待ちください!そんな怒鳴っても、ミルファーが萎縮するだけじゃないですか?」

「だが、カチュア別の案など、すぐに思いつくはずがなかろうが!それはここにいる人間が頭ではわかっている事ではないのか?」

「バルガンよ。そうカッカするもんじゃない。こういう時こそ冷静になるものだ」

「領主様……」

「それでミルファー。君の考えはそれだけなのか?そんなに委縮しないで、どんな些細なことでも良い。何か良い考えはないか?」

 シルフォードは、下の者が委縮しない様に優しく話しかけた。すると、ミルファーはシルフォードの言葉に安心したのか、自分の意見を話しだしたのだった。

「皆さんは忘れているかもしれませんが、この町には頼りになる人がいるではありませんか?」

「頼りになる人とは誰だ?」

「「「「「「あっ!」」」」」」

「気づきましたか?ヒロトシ様に、相談してみてはいかがでしょうか?」

「なるほど!ヒロトシなら、あの山賊をなんとかしてくれるのではないか!」

 会議に参加していた人間は、こういう事態の場合冒険者ギルドを中心に考えがちで、商人や生産者は当たり前のように頭数から外してしまうのだ。そのため、商人であるヒロトシの存在を忘れていた。

「ミルファーでかした!確かに、この町には英雄のヒロトシがいるではないか!」

 ギルドマスターを始め幹部達はワッと歓声を上げた。しかし、シルフォードだけは渋い顔をしたのだった。

「ちょっと待ってくれ!ヒロトシ君は商人ではないか?そんな人間に、今回の任務を君達は与えるつもりなのか?」

「しかし、この状況を考えれば、この町の英雄のヒロトシに託した方が……」

「馬鹿な事を!適材適所という言葉があるであろう。彼は確かに強い。この町の闇ギルドを壊滅させるほどにな……しかし、彼はまだ成人前の子供だぞ?」

 この場は静まり返ってしまった。湧き上がっていた人間は、シルフォードの言葉に正気にかえった。確かに領主の言う事が当たり前である。
 ヒロトシはこの町に来て、色んな常識を覆してきて、この町の英雄として地位を確立したが、シルフォードはピンチの時にヒロトシを利用する為に、感謝状を贈った訳ではないと怒鳴ったのだった。

「怒鳴ってすまなかった……私はその案には反対だ!彼には彼の役割がある。その役割は断じて、山賊や魔物の討伐じゃないはずだ。その役割は平民達を守る我々の役目だろ。違うかバルガン?」

「そ、その通りです……」

「ミルファー」

「は、はい……領主様申し訳ございません」

「いや、そんな萎縮するでない。別に怒っている訳ではないんだ。君の意見は参考になったよ。ありがとう……しかし、申し訳ないがその案は却下だ」

 シルフォードは、案を出してくれたミルファーに感謝し、却下した事を謝罪した。ミルファーはシルフォードの対応にホッと安堵した。
 しかし、この案を却下した事で、次の案が出るはずもなく、各部署の責任者達は頭を抱える事になったのは言うまでもなかった。



 そのころ、㋪にも町の噂が入ってきていた。

「ご主人様……どうしましょう?」

「何かあったのか?」

「塩が、とうとう無くなってしまいました」

「買い貯めてあったものはどうしたんだ?」

「それも、もうなくなってしまいました……購入するにも、行商が全く来ないらしく、今それが町で大騒動になっているんですよ」

「大騒動って、どういう事なんだ?」

「数日前に、今回塩の行商を狙う山賊の討伐隊が出たのは知っていますか?」

「い、いや……知らないな。最近ずっと、オリハルコンを使った魔道具製作で、世間の噂は全然入ってきていないからな」

「そうですよね。それで今朝の事ですが、その討伐隊が全滅した噂が、町中に拡がっているらしいのです」

「それは本当か?」

「えぇ……今朝、城門前に犠牲になった討伐隊の人間の死体が遺棄されていたそうです」

「討伐隊が、たかが山賊にやられたというのか?」

「はい……それで、その遺体にはメモのようなものがあり、今は塩だけですが、いずれ色んな行商が犠牲になるとあったそうです」
「ご主人様、町の中は結構その話で持ちきりですよ」
「いま、町にある塩や食べ物はいずれそこがつくという噂が蔓延していて、買い溜めする人間も出てきているそうです」
「領主様が必ず何とかすると言って、町の人間を抑えているそうですが、それもいつまでもつかわからない状況らしいです」

「そうか……じゃあ、こいつを当分使っておいてくれ」

 ヒロトシは、このミストラルの世界に来たときに、女神ミレーヌがインベントリに入れておいてくれていた、塩や食料をアヤに渡した。

「この塩はどうしたのですか?」

「これは、この世界に来たとき女神様が、俺に持たせてくれたものだよ。これだけあれば当分持つだろ?」

「これだけあれば十分です。ありがとうございます」

「俺は、ちょっと出かけてくるよ」

「こんな時間にですか?」

「ああ……」

「主君、ちょっとお待ちください!私も付き合います」

「わかった。ミルデンス一緒についてきてくれ。みんなは、家で留守番をしていてくれよ」

「「「「「わかりました」」」」」
「旦那様お気をつけて」

 ヒロトシは、ミルデンスを護衛につけて、領主の屋敷に向かったのだった。



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