上 下
47 / 347
第2章 研磨という技術

8話 ミスリルの武器

しおりを挟む
 冒険者ギルドが、ヒロトシの素材を諦めて帰ってから数日が過ぎて、とうとうミトンの町には、ガーラの町からの塩の行商がこなくなってしまい塩が高騰していた。
 これには、領主のシルフォードは頭を抱える事になった。冒険者に依頼を出してはいるが、商人とは違い商売で動いているわけではないので、安く仕入れる手段が無かった。
 しかし、商人の護衛をすると商人が犠牲になる。こんな事は初めての経験で、山賊があまりに強すぎるのだ。ガーラの町の塩の行商は、ミトンの町以外には普通にこなせているのである。山賊は意図的にミトンの町に塩を送らない様にしていた。

「どうしたらよいのだ……」

「領主様……山賊は、意図的に妨害している節があるのです」

「一体どういう事だ?」

「冒険者達の報告によれば、山賊をどうにかしないと行商人が、ミトンの町には塩を行商するのは見合わせてほしいと……」

「山賊をどうにかか……」

「その山賊はどういう訳か、ミトンの町へ塩を送る行商の情報をばっちり掴んでいるそうなんです」

「という事は、ガーラの町には山賊と繋がっている者が?」

「そういう事です。しかし、ガーラの町からミトン以外の町に、塩を行商しても襲わない事という不思議な現象が起こっているのです」

「馬鹿な!」

 シルフォードは、テーブルを叩いて大きな音を出し、怒りをあらわにした。

「あの……領主様……」

「なんだ?」

「これはもう、山賊をどうにかしないといけないのでは?塩の輸送も大事だとは思いますが、冒険者ギルドに依頼を出す内容は、山賊の討伐に変えた方が……」

「しかし、あんな大規模な山賊をどうにかできるというのか?」

「出来るかどうかではありません!やらなければ、このミトンの町は塩が入ってこないのですぞ?」

「た、確かに……それではすぐに、冒険者ギルドに依頼の変更だ!」

「「「「「はっ!」」」」」」

 シルフォードは、塩の輸送を取りやめて、山賊の討伐依頼に差し替えたのだ。



 その頃、ヒロトシは㋪でミスリルの装備を売り始めたのだ。

「おいおいおい!マインちゃん、なんでミスリルのロングソードがこんなに安いんだよ?」

「マサ様……安いと言っても、120万ゴールドですよ」

「相場は200万ゴールド以上だよ。本当にミスリル100%かよ?」

「鑑定のある人間に、確認してもらえばわかると思いますが、ご主人様は絶対にそんな詐欺をするような方ではありません!」

「そんな怒るなよ。こんなに安いと、疑いたくもなるだろ?」

「わたし達は、ご主人様が作った商品に誇りを持って販売してます。疑う人に販売は致しません!」

「疑ってる訳じゃないんだ……それに、ロングソードだけじゃなくショートソードやダガー等多岐にわたっている。この量のミスリルを一体どこで?」

「入手経路は商人の財産です!そんな事、言えるわけないじゃないですか」

「そりゃそうだけどよ……」

「それに、多岐にわたると言っても、各種2本づつしかないじゃないですか?」

「いやいや……ミスリルの装備が、個人店で2本づつだぜ?ミスリルを購入するのに、どれだけ大変か知っているのか?」

「知ってますよ。だから、入手経路はこの店の財産なんじゃないですか。いいですか?ご主人様は独自の販売ルートを持っているという事です。それにより、日頃研磨をご利用してくれる冒険者の皆様に感謝をこめて、格安で販売しようとしているんじゃないですか」

「それは、こちらとしてもありがたいよ」

「だったら、そんな疑わなくともいいじゃないですか?それとも、この装備を奥にしまって一本づつ相場の値段で、売った方が納得できるというのですか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!それでは俺達が……」

「そうでしょ?ご主人様は、日頃の感謝を形にしただけです。本当にお優しい方なんですよ」

「わかったよ。ヒロトシをちゃんと信じるから、ミスリルソードを1本くれ」

「ご購入ありがとうございます」

 マインとアイの二人は、購入した人間のギルドカードの提示を求めて、それを商品を誰がいつ何を購入したのか記帳していた。

「何をメモっているんだ?」

「この値段で購入できるのは、最初の一本だけになりますから記帳しているのでございます」

「なんで、この1本だけなんだ?」

「先ほど言ったように、ご主人様は日頃の感謝を一人でも多くの冒険者の皆様に返したいからですよ。そのロングソードは一生ものという事ですよ」

 ミスリル装備は、殆どの冒険者にとって一生物の装備品になる。たしかに戦闘中でソードが折れる事もあるが、ミスリルが折れるような魔物と戦って武器が折れた地点で、その人間の人生は詰んでいるだろう。
 買え変えるとしたら、それ以上の物になるのは明白である。ミスリルをそんなに何回も買い替えるような事は絶対しないのである。
 もし、そんな事をする人間がいるのなら、少しでも安い物を買い他の町で転売するような、人間しかいないのである。

「なるほどな……」

「そういうことです。そういった行為は、ご主人様の理念から外れる事になるので、その防止になります」

 今日、偶然㋪に来た冒険者達は運が良かっただけだった。ミスリル装備がスムーズに格安で手に入ったからだ。この事は、すぐに冒険者ギルドで噂になった。そして次の日、うわさを聞き付けた冒険者で㋪のホールは大混雑したのだった。
 そして、この騒ぎはCランク冒険者達のやる気を、さらに加速させる事になった。自分達も早くBランクに上がって、安くミスリル装備を手に入れて、研磨をしてもらうのを目標にしたのだった。
 そして、Bランクの冒険者は領主の依頼を受けるのに、ミスリル装備が欲しかった。今回、山賊を討伐するのにミスリル装備は必須と考えたからだ。

 この噂は、生産ギルドも聞きつけて㋪にやってきたのだった。

「ヒロトシ殿と面会させていただきたい!」

「これはこれは、生産ギルドの皆様よくおいでになられました」

「そのような挨拶はどうでもよい!早くヒロトシ殿と……」

「申し訳ありませんが、我がご主人様にどのような用事で?」

「ミスリルの件だ。あのミスリルをどこから?」

「そういう要件ならお引き取りして頂けますか?」

「なぜだ!お主達では話にならん。ヒロトシ殿と面会させてくれ」

「申し訳ありません。時間の無駄でございます……仕入れルートなど話せる訳がありません。そんな事で、ご主人様の時間を無駄にするわけにはまいりません」

「そんな事を言わないでくれ!」

「生産ギルドのギルドマスターなら、今のご主人様の立場は分かっているとおもうのですが違いますか?」

「何を言っておる?」

「ロドン様、商人ギルドのギルドマスターはちゃんと把握しておりました。もし、ご主人様と面会したいのであればアポイントを取ってもらうのが礼儀ではないですか?ご主人様は鏡の生産、冒険者達の研磨作業、ミスリルの仕入れと忙しい身なのです」

「しかし、ヒロトシ殿は生産ギルドと対等の立場だと……」

「それは鏡を取引をした時の事ですよ。今やもう、領主様から感謝状を送られて、町の英雄の地位を得ています。ご主人様は商人ギルドに所属しているのに、その商人ギルドのギルドマスターであられるベネッサ様は、礼儀を尽くしてくれているのですが、生産ギルドではその礼儀はいらないと言うのですね?」

「そ、それは……」

「まあ、いいです……今回ミスリルの事に関しては一切ノーコメントと言う事ですので、アポを取る事は無理だと思ってください」

 今までとは違う、完全な拒絶に生産ギルドの面々はその場にたたずむしかなかった。実際に、ヒロトシは生産ギルドには所属などしておらず、ただの取引先の商人なのである。
 つまり、領主に感謝状を送られ、町の英雄と領主自ら認め、今やこの町のギルドマスターより立場は上である。

「ですが!あのミスリルも余裕があれば、生産ギルドと取引をしていただきたいのです!」

「それは、今の所考えてはおりません。あのミスリルは冒険者へと還元する事の方が大事と、ご主人様から言いつけられております」

 ヒロトシの目的は、目先の金ではない。冒険者が強くなり、今後その武器を㋪で磨きの依頼をさせることにある。冒険者がミスリルの装備を買う事で、死なない様にするのが目的である。

「そんな!ヒロトシ殿は、ミスリルをあんな値で売ってどのような得があるのです?それなら生産ギルドに、ミスリルを売った方が得になるではありませんか?」

「ご主人様の経営方針に異論などございません。それに、鏡台は生産ギルドに莫大な利益を生んでいるではないですか?あれもこれもというのは、少々厚かましいというものではありませんか?」

「厚かましいだと⁉奴隷風情が、調子に乗るんじゃない!」

 マインは、ギルドマスターのロドンに怒鳴られたのだった。そして、頭に血が上ったロドンは、マインの胸ぐらをつかみかかろうとしたのだった。

「ギルドマスター、おやめください!」
 
 副ギルドマスターのアリベスと幹部の人間が、慌てて止めに入ったのだ。

「離せ!なぜ止める!奴隷になぜここまで言われなきゃならん」

「ギルドマスター、もし暴力沙汰になれば、ヒロトシ様は生産ギルドとの繋がりを平気で切りますよ。ヒロトシ様は奴隷を奴隷とは思っていません。忘れてしまったのですか?」

「ぬぐぐぐぐ!」

 アリベスは、ギルドマスターをギリギリのところで止める事が出来て安堵していた。もし、マインを傷つけたら本当に鏡の取引が無くなるからだ。
 ヒロトシは、その奴隷を傷つけられただけで、この町の闇ギルドを壊滅させてしまった人間なのだ。今やもう、生産ギルドとの関係は対等ではなく、生産ギルドは明らかに㋪の機嫌を取り、生産ギルドが取引をさせてもらっている立場になっていた。

「ギルドマスター……今は引くことがベストです……」

「何を言っておる!引いてどうするというのだ?」

「今のこの状況が分かっているのですか?ちゃんと手続きを取ってからじゃないと、本当にヒロトシ様は生産ギルドと繋がりを切りますよ」

「……わ、わかった」

 ギルドマスターは不服そうにして、㋪を出て行くのだった。そして、アリベスと幹部達はマインとアイに深々と頭を下げ、ギルドマスターの失礼を謝罪したのだった。

「わたし達に頭を下げるのはやめてください」
「そうです。わたし達は、ご主人様の言いつけに従っただけでございます」

「そ、それでも、ヒロトシ様にお伝えください」

「「わかりました」」
「次、面会をする時には、アリベス様と幹部の皆様だけでよろしくお願いします。その方が話は進むかと思いますので」

 アリベスは、目を見開いて驚いた。奴隷達が、こんな事を自分達の意思で言うはずがないからだ。つまり、ヒロトシはこうなる事を読んでいて、この奴隷の二人に言いつけていたと思ったのだ。

「わかりました。後日又改めて、わたし達でお伺いにあがります」

「「お持ちしております」」

 マインとアイは、笑顔で生産ギルドの人間を見送ったのだった。


しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...