研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

文字の大きさ
上 下
44 / 347
第2章 研磨という技術

5話 ダンジョンの中へ

しおりを挟む
 魔晄炉が完成して、ヒロトシは金属を抽出し始めた。鉱石は炉の中に入れられ、金属はドロドロに溶けだし、魔晄炉の底にある抽出口から流れ窯に入っていく。
 それを型に流し込み、インゴットの形にしていくのである。ミスリルインゴットは523本精製できた。あの岩の山からたった523本と思うかもしれないが、そんな事はない。本来あの山からは50本も取れていないからだ。
 そして、オリハルコンはさらに少なかった。元々の鉱石の量も少なく鉱石の含有量も30%もないので、インゴットにできたのは20本だった。

 ミスリルインゴットは、金の延べ棒のようにして、ひとまずヒロトシがインベントリで保管することにした。これを保管しておく棚を、ガイン達に作ってもらった。そして、在庫票に記入しその棚に並べたのだった。
 この家の敷地内は、結界石で守られていて泥棒が入る事は出来ないから、安心して置いても不都合はないのだ。そして、次の日ヒロトシは抽出し終わった屑石を、ダンジョンに捨てに行く事にした。

「ミランダ、アイリーン。ダンジョンに行くからついてきてくれ」

「「は、はい!」」
「また鉱石を持ち帰るのですか?」

「いや、当分はいらないから、抽出し終わった屑石を捨てに行くだけだよ」

 そして、ヒロトシは3人でダンジョンまでやってきた。

「このダンジョン、もっと町から近いといいのにな……」

「ご主人様……ダンジョンとは、ある程度距離を取らないといけないものなんですよ?」

「なんでだ?」

「そりゃ危険だからですよ」

「危険って言っても、魔物はこうして兵士が見張ってくれているじゃないか?」

「それは、冒険者達が中に入って魔物を間引いてくれているからですよ」

「だったら、問題はないだろ?」

「こうして魔物の数が安定しているときは良いですが、ダンジョンを侮ってはいけません」

「そうですよ!スタンピードが起きることだってあるんですからね。そうなった時、目と鼻の先にダンジョンがあったら、あっという間に町が滅びかねません」

「なるほどなあ……だから、こうして半日も掛けて、ダンジョンに来ないといけないのか……」

「そうです……わたしは一回、スタンピードの恐ろしさを目の当たりにした事がありますが……本当に悲惨な後景ですよ」

「ミランダは、スタンピードを経験したことがあるのか?」

「直接はありませんが、スタンピードに巻き込まれた町に派遣したことがあるのです」

「そ、そうか……」

 ミランダは、その時の事を詳しく話してくれた。町の城壁は崩され、町の人間は全滅し、魔物に食われてしまっただろうという痕跡が、あちこちに残っていて、子供や赤子もすべて食べられてしまっていたとを説明された。
 ミランダはエルフである。そのスタンピードは200年以上も前の事だが、その後景は今も目に焼き付いていると言ったのだった。

「ご主人様?スタンピードは、なんて呼ばれているか知っていますか?」

「スタンピードの別の呼ばれ方?」

「えぇ……あれは陸の津波と呼ばれているんです……」

「陸の津波……」

 ヒロトシは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

「この大陸で、海岸付近の町で津波が起こったことがありますが、本当にその様子は津波のように、魔物が後から後から押し寄せてくるんですよ。あれは、もう津波のようで、いえ……普通の津波なら引くことがありますが、スタンピードは引く事が無いんです……」

「そんなに凄いものなんだ……」

「えぇ……わたしは、その町を全滅した後に救助隊として見たので、もしあの場にいたら絶望という感情しか生まれないでしょうね……」

「そうか……」

 ヒロトシ達は、そういう話をしながら、ダンジョンへと到着したのだった。




 ダンジョンに来たヒロトシは、早速ダンジョンの中に入ろうとした。すると、ダンジョンの入り口にいた兵士に呼びとめられた。

「ちょ、ちょっと!ヒロトシ殿じゃありませんか?そこからダンジョンになるので入らない様に!」

「えっ⁉勝手に入ったら駄目なのか?」

「ダンジョンに入るつもりだったのですか?」

「ああ……この鉱石を捨てに行こうと思っていたんだが、なんか手続きがあるのか?」

 ヒロトシは、インベントリから鉱石の屑石一つを取り出し、兵士に説明した。

「いえ、手続きはありませんが、その鉱石を捨てる場所は知っていますか?」

「捨てる場所があるのか?」

「えぇ……入り口に捨てられると出入りが困難になるので、左に進むと崖になっているところがあるのです。そこに捨てるのですが、大丈夫ですか?」

「まあ、それぐらいなら大丈夫だよ」

「あの、申し訳ないのですが……鉱石を持って入るのにどこに?」

 兵士は、何か勘違いしているようだった。ヒロトシが、ここに置いてある鉱石を運び入れる依頼を、ギルドで受けていると思っていたのだ。

「えっ⁉」

「いえ、だから……鉱石を運び入れる依頼を、ギルドで受けてくれたのでは?」

「あーーー……違うよ。俺が個人的に使った鉱石を捨てに行くんだよ。俺は、冒険者ギルドには所属していないからね」

「そういう事でしたか!なんかおかしいと思ったのです。ヒロトシ殿が、商人ギルド以外に所属したという事は聞いていなかったし、何でダンジョンに来たのかわかりませんでした」

「だったら、ここにある屑石も一緒に運んでやろうか?結構山になっていたよな?」

「いえいえ、依頼を受けていないんですよね?それは駄目ですよ」

 兵士は、ヒロトシが個人的に来たと聞き、山となっていた鉱石を少しでも減らしてほしかったが、道理が通らないので断ったのだ。
 この兵士は、前にヒロトシが大量に持って帰った事を知らなかったのだ。その為、ヒロトシが負担になる事は悪いと思っていた。

「だが、あの鉄鉱石の山は少しでも減らした方がいいんじゃないか?」

 タンジョンの横にある屑石場には、金銀銅、鉄鉱石の屑石がいっぱいになっていた。冒険者達も入るときは、極力持って入っていたが、減らす事が出来ないでいた。

「しかし、依頼を受けていない人に運ばせるなんて……」

「だったら、運ぶのは金銀銅鉄鉱石の4種類でどうだ?」

 兵士は何を言っているのか分からなかった。もし運ぶのなら、鉄鉱石を適当に持っていけばいいのに、なぜ4種類とヒロトシが言うのか理解できなかった。

「いえ……持っていくのなら、適当に持って行ってくだされば問題はありません。4種類を均等にしなくてもいいですよ。でも、依頼を受けていないのであれば報酬が無いので悪いですよ」

「だから帰りに、あそこにあるミスリルとアダマンタイトとオリハルコン鉱石を貰えないか?それが報酬でいいよ」

「はぁあ?あの屑石が報酬ですか?」

「ああ!あの屑石を使ってやりたいことがあるんだ」

「ヒロトシ殿がいいのならよろしいのですが本当にいいのですか?」

「交渉成立だな」

 そう言って、ヒロトシは山となっていた金銀銅鉄鉱石。そして、ダマスカス鉱石、玉鋼、青鉱石はサービスとして全てインベントリに収納してしまった。それを見た兵士は、目が飛び出るほど驚き、その場に固まってしまった。

「……」

「じゃあ、帰りにここにある3種類の鉱石は持ち帰るからよろしくね」

「……はい……」

 残っていたのは、もう残り少ない山となっていた3種類の鉱石だけだった。数か月前にヒロトシが持ち帰った為、3種類の鉱石はまだそんなにたまっていなかった。



 そして、ヒロトシはミランダとアイリーンを引き連れてダンジョンの中に入っていったのだった。

 兵士は、しばらくの間その場にたたずみ、放心していた。すると、町から鉱石を運ばれてきた馬車の業者が、この状況に驚いたのだった。その場所は確かに山のようになっていたはずなのに、更地のようになっていたからだ。

「オイオイオイ……どうなってんだこれは?鉱石の屑石が全部なくなっているじゃないか⁉」

 業者は、その場に呆けていた兵士を揺さぶったのだった。

「おい!いったいどうなっているんだ?」

「俺は、疲れているのかもしれない……ちょっと休暇を貰いに隊長に相談してくる……」

 兵士はフラフラしながら、兵舎の中へ入ってしまったのだった。それを見た業者はただ、兵士を見送るしかなかった。




 ダンジョンの中に入ったヒロトシは、後方から進みミランダとアイリーンが先頭を歩いていた。

「ダンジョンの中は薄暗いな……」

 ダンジョンの中は、ヒカリゴケが生えていてダンジョン内を照らしていた。しかし、ダンジョンの中に入ったのが初めてだったヒロトシにとって、ダンジョンの中は活動しにくいものだった。
 そして、ヒロトシは【ライト】を唱えた。するとヒロトシの頭上に光の玉が浮かび上がり、周りを明るく照らし、問題なく活動しやすくなった。

「これで大丈夫だ!」

「「眩しっ!」」
「ご主人様。何ですか?このライトは……明るすぎるのですが……」

「ひゃああ!目があああああ!」

「お、おい……大丈夫か?」

 いきなり、ヒロトシがライトを唱えた為、エルフであるミランダが自分の目を抑えてのた打ち回っていた。ミランダはエルフ特有の能力インフラビジョンを使っていたのだ。インフラビジョンとは、サーモグラフィーのように、熱を感じてみる魔眼の一種である。
 つまり、これを暗い所で使っている時にいきなり明るくされると、目の前が真っ白となり目が物凄くいたいのだ。

「ご主人様何するんですか!」

「明るい分には文句はないだろ……」

「いきなり明るくしないでくださいよ!」

「悪かったよ……まさかインフラビジョンを使っていると、こうなるって知らなかったんだ……」

「ったく、もう……」

 ミランダは、ブツブツ文句を言いながら先行したのだった。

 これも、ヒロトシの魔道スキルが2レベルになったおかげだった。魔力強化とINT(知力)高いおかげで、とんでもなく明るくなっていた。

「ホント、ご主人様は何でもありですね」

 アイリーンは、ヒロトシの事を呆れながらダンジョンを突き進んだのだった。

しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...