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第2章 研磨という技術

3話 新しい魔道具の開発

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 ヒロトシの研磨屋は、何の不備もなく通常運転をしていた。1年前、ヒロトシはある計画を立てていたが、その計画は凍結していたのだ。
 しかし、魔道具製作が出来るようになり、その計画を実行させようと思っていたのだ。

「すまない!シェリーとハンナは、こっちに来てくれるか?」

「「なんでしょうか?」」

「こういった物は作れるか?」

 ヒロトシは簡単な絵を描き、ドーム状のタンクの製作を二人に頼んだ。すると、二人は焦った様子でヒロトシに話しかけたのだった。

「あの!わたし達では研磨は無理という事でしょうか?」
「わたし達頑張りますから、研磨作業から外さないでください!」

 ハンナとシェリーも、ヘアラインの修業をしていた。しかし、ヒロトシから違う作業を指示された事に困惑したのだ。

「そういう訳じゃないよ。ハンナ達も研磨が出来る様になってほしいが、今はこっちをやってほしいんだ」

「「そうですか」」

 研磨作業から外されたわけではないと知った二人はホッとしたようだ。

「それでこれは何ですか?」

「これは炉だよ。今、世の中にある炉は火力が足りないんだ」

「火力が足りない?」

「ああ!今あるのは大型炉にふいこで風を送って、火力を上げる位だろ?」

「そうですね」
「後は、この大型炉に設置できる火属性の魔石を使えば、火力があがる物もありますね」

「だけど、火力が1だったものが0.2ほど上がっても、そんなにたいした効果は出ないじゃないか?だから、ミスリルを溶かす事が出来ず、鉱石の中から取り出せずにいるんだ」

「「確かに……」」

「だから、新しい炉の開発をしようと思うんだ」

「ご主人様、魔道具開発は本当に出来るようになったんですね」

「ああ!朝食の時言っただろ?魔道スキルが2レベルになったって。だから、魔道具開発も2レベルあるぞ」

「って事は、ご主人様?」

「なんだ?」

「魔道スキルが3レベルになれば、また新しい何かが出来る様になったりするんですか?」

「そりゃなってみないと分からないなあ……だけど、なんか出来る様になる感じはするよな」

「「凄い!」」

「まあ、あくまでも感じだけどな。それに3レベルに上がるには、相当時間がかかるんじゃないかな?2レベルに上がるのに、1年以上かかったんだしな」

「「た、確かに……」」
「そのスキルの上がり具合は、他の人と同じ感じですね」

 スキルが3レベルになるという事は、上級レベルという事になる。スキルを3レベルに上げるのは至難の業とされている。4レベルにできた人間は達人レベルとされていて、皆から尊敬の念を与えられるほどだった。
 つまり、ヒロトシの魔道レベルは2レベルに上がったばかりであり、これからが本番で3レベルにするのに十数年かかると言った方がいいのだ。

「でも、ご主人様なら3レベルにも、すぐ上がりそうな感じですね」
「わたしもそう思った!」
「だよねえ」

「お前らなあ……俺が、化け物みたいに言うんじゃない!」

「「えっ⁉自覚なかったのですか?」」

「うぐっ……」

 シェリーとハンナは、さもや当然という様な顔をして、ヒロトシに言い放ったのだ。それに対して、ヒロトシは自覚があった為、何も言い返す事が出来なかった。

「ったく……あいつ等は、主が優しいから言いたい放題だな……」
「まったくだ……まあ、主殿らしいと言ったら主殿らしいな」
「そりゃ、言えてるな」

 それを、傍から見ていたガインとブロッガンは、苦笑いを浮かべていた。



 シェリーとハンナは、鍛冶スキルを使って、卵型のドーム状のタンクを作っていた。

「溶接個所は絶対に密閉にしてくれよ」

「任せといてください!ドワーフの技術を見せてあげますよ!」

 シェリーとハンナは、意気込んで製作に没頭していた。そして、完成したドーム状の内側を、ヒロトシは鏡面研磨し始めたのだった。

「ご主人様?タンクの内側を磨くのですか?」

「そうだよ。これは一番この魔道具の重要なもので、言ってみたら心臓部だな」

「それはどういう物なんですか?」

「これは反射炉という物なんだ!この卵型のドームの中は、中心に火属性の魔石を設置して、熱と火力が下方向に収束して、その収束した場所に鉱石を入れる事によって、今まで以上の含有量の鋼鉄が取り出す事が出来るんだ。このドーム内は、全てのエネルギーが鉱石に収束する構造になっているんだよ」

「だから、タンクの内部構造の角度に、厳しい指示を出していたのですか?」

「そういう事だ!そして、内部を磨く事で更に熱が収束することになるんだよ」

 ヒロトシは、ドームの内面を丁寧に磨き続けた。納期のない商品だったので、冒険者達の装備のない時に仕上げていた。
 磨きが終われば、タンクの中は何に引っかかりもない1枚の鏡張りの部屋のようになっていた。

 そして、魔道具製作のスキルで、制御盤の設置や火属性の魔石の場所を組み立てていき、遂に魔道反射晄炉、略して魔晄炉を完成させたのだ。



 魔晄炉を完成させたヒロトシは、半日かけてダンジョン前にあるミスリル鉱石の山の前にやってきていた。

「あの……すいません!ちょっとよろしいですか?」

「何か用か?って、貴方はヒロトシ殿ではありませんか。こんなとこに来てどうかしたのですか?」

 今やヒロトシは、ミトンの町でしらない人はいないくらい有名であり、ダンジョンの警備をしている兵士達にまで名前を呼んでもらえていた。

「この鉱石って貰えたりしますか?」

「ああ、好きなだけ持って行ってもいいよ。どうせ、ダンジョンに捨てに行く屑石だからね」

 これらは、本来は屑石ではない。しかし、これ以上は今の技術では取り出す事が出来ない鉱石だった。冒険者達がダンジョンに入る際に、持って入り適当な場所に捨てるだけでいいので、一緒に運ぶのにここに放置されていたのだった。
 ダンジョンの中に捨てれば、何日かすれば綺麗さっぱり吸収されてしまうのである。だから、兵士達にすれば好きなだけ持って行ってもらった方が、反対に都合がいいのである。

「だが、そんなものどうするんですか?それ以上、ミスリルは取り出せないと思うのですが……」

「ええ、分かってます。ちょっと何かに、利用できないものかと思って……」

「何か新しいものですか?」

「ええ。今の所、どうなるかわからないんですけどね」

「何かわかりませんが、成功するといいですね」

 兵士は笑顔で、ヒロトシのやることが成功するように称えたのだった。

「ありがとう!」

 ヒロトシは、そういって、オリハルコン鉱石とミスリル鉱石と青鉱石の山を、インベントリに全て収納してしまったのだった。

「えっ⁉えええええええ!」

 あれほどの山になっていた鉱石を、ヒロトシが全部収納してしまった事に、兵士は目を見開いて信じられない物を見たと驚き、大声を上げたのだった。

「ご主人様……あれほど自重してくださいと言っていたのに……」

 護衛として来ていたミルデンスは頭を抱えたのだった。

「まあ、今更だよ……もう、俺にちょっかいかける人間もいないだろうしな」

 全部、鉱石を収納してしまったヒロトシに呆然と見送った兵士は、後から来た仲間の兵士に詰め寄られていた。あれほど山のようになっていた鉱石が、金・銀・銅・鉄鉱石の4種類の屑石しかなかったからだ。
 この4種類の屑石は、大型炉で採取できるので、ヒロトシは持って帰らなかったのだ。そして、ミスリル鉱石が無くなっていた説明を仲間にしたのだが、容易に信じてもらえなかった。あの山になった鉱石を持ち帰るとなれば、どれほどの人数がいるのか全員が知っていたからだ。
 その為、ダンジョンに入る冒険者達に手数料を払って、ダンジョンの中に少しづつ捨てに行ってもらっていたからだ。

「本当なんだって!今日、㋪のヒロトシ殿がやってきて、全部持って行ってしまったんだよ」

「ヒロトシ殿が一人でか?」

「ああ!そうだ。なんでも、ヒロトシ殿のマジックボックスは特別なんだと言っていたんだ」

「しかし、いくら特別と言っても、あの山になっていたのは何トンあったと思っているんだ?」

「俺だって、目の前で起きたことが信じれないさ。しかし、本当に持って行ってしまったんだ」

 仲間の兵士は信じれなかったが、実際の所鉱石の山は無くなっていたし、無くなって不都合はなかったのだ。それより、冒険者に支払う手数料が削減された事で町にとっていい事だったのだ。

 その事を、後日領主に報告をして、この事は触れられる事は無くなったのだ。



 町に帰ったヒロトシは、ニコニコしていた。ミトンの町についたヒロトシは、門番の兵士に話しかけられていた。

「ヒロトシ殿、無事に帰ってこれて安心しました」

「そんな心配しなくていいって言ったのに……」

「しかし、ヒロトシ殿はここミトンの町にとって重要なお人です。なにかあったら町の大損失になりますからね」

「そんな大げさな……」

 ヒロトシは、町の兵士に自分が必要と言ってくれて悪い気はしていなかった。

「それに知っておいでですか?」

「何かあったのか?」

「ここから、東に行った海の近くにあるガーラの町です。あそこからの行商が又襲われたのです」

「行商が襲われた?護衛はどうしたんだ?」

「それが、護衛もろ共全滅で……情報がまだ、しっかり入ってきていないのです。盗賊の仕業だとは思うのですが、どれほどの規模なのか全くでして……」

「そうか……犠牲になった行商の人間は気の毒だな」

「ですが、まずい事もあるのです」

 兵士が言うには、ミトンの町に商品が届かない事が増えてきていて、ガーラの町からの重要な産物が届かなくなってきているというのだ。

「まさか塩か?」

「そうです……今、ミトンの町では塩が不足してきているのです。今はまだ何とかなっていますが、このまま塩の行商が襲われ続ければ……」

 ヒロトシは、兵士達からそんな事を聞いたのだった。冒険者ギルドでは、領主からの緊急以来として、塩を町に輸送して欲しいという依頼まで出ていたのだった。
 
「何か、本当に大変そうだな……」

「何か愚痴っぽくなってしまいましたが、ヒロトシ殿も町の外に出る場合は本当に気を付けてください」

「ああ!わかったよ。情報ありがとな」

「いえいえ……それでは、町の中にどうぞ!」

 ヒロトシは、町の中に入り、町の様子を見て回って、屋敷に帰ったのだった。


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