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第1 章 自分だけの職業
35話 ヒロトシの権力
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ヒロトシは、女性達を連れて家に帰宅した。すると、ルビーとサイファーがいきなりとびついてきたのだった。
「おいおい!どうしたんだよ?」
「「ご主人様、おかえりなさい!」」
二人は、ヒロトシの目を見た瞬間、無事に帰ってきたことを実感し、顔を歪めて泣き出してしまった。
「心配かけてごめんな」
ヒロトシは、ルビーとサイファーの頭を優しく撫でた。そして、屋敷の中からセバスたちも出てきて、ヒロトシが無事に帰還した事を笑顔で出迎えてくれたのだった。
「旦那様おかえりなさいませ。無事に帰ってきてくれて本当によかった」
「だから、大丈夫だって言ったろ?」
「それはそうですが……普通一人で、闇ギルドに殴り込みなんて行きませんよ」
「しかし、これでこの町には闇ギルドは無くなったよ?」
「それでも、すぐに復活するんじゃないんですか?」
「マイン、それは分かっているし、当たり前の事だよ」
「「まさか!また闇ギルドが復活したら⁉」」
「ああ!マインとアイにはやっぱりわかるか?」
「「そんなやめてください!」」
「又、壊滅させようとするなんて危険すぎます!」
マインとアイの言葉に、セバス達が慌てた。ルビーのような幼い子は、又泣き出してしまったのだ。
「そんな心配すんな。今回、俺は全然実力を出していないんだからな。本気出せば、犯罪組織全体でも相手にできるよ」
「まさか!闇ギルドを潰すおつもりですか?」
「まさか!そんな面倒臭い事なんかしないよ。ただ、俺の知らないとこで活動しててほしいだけさ」
「ですが、今回の事で、闇ギルドから恨みを買ったのは間違いないのですよ」
「ああ、わかっているよ。あいつが、どう報告するかわからないが、近いうちに何らかの接触があるはずだよ」
「はっ?まさか、旦那様はわざとひとり逃したのですか?」
「そうだよ。一人、闇ギルド本部に伝令代わりに逃がした」
「「「「「……」」」」」
このヒロトシの大胆不敵な行動に、みんなは呆れてしまった。そして、そんな事よりヒロトシは、新たに仲間となる女性達7人を紹介したのだった。
「セバス、そんな事よりこの女性達を見てやってくれ」
「そういえば、その人たちは?」
「闇ギルドに囚われていて、奴隷にされていた人達だよ」
「なるほど!」
ヒロトシ達は、屋敷に帰る途中奴隷商店に寄り、再契約を済ませて帰ってきていた。セバスは、女性達に部屋の案内やメイド服の支給。1日の流れを説明した。やはり、その待遇の良さに女性達が驚いたのは言うまでもなかった。
その後、工場ではブロッガンが、ヒロトシに近づいてきた。
「主殿……」
「ブロッガンか。どうした?」
「本当にありがとうございました」
ブロッガンは、涙を流しながら頭を下げたのだった。ブロー銅鏡工場は元はブロッガンの物だ。ノーザンは逮捕され、貴族達の殺人未遂としても逮捕され、ブロッガンはようやく心の中がすっきりしていた。
ヒロトシが帰ってきた時、すぐにお礼を言おうと思っていたが、泣きそうになっていてみんなに見られるのが恥ずかしく、ヒロトシが一人の時にこうして話しかけてきたのだった。
「少しはすっきりしたか?」
「はい!これでもう思い残す事はありません」
「おいおい……その言い方じゃもう死ぬみたいじゃないか?まだまだ、これからもガインと共に頑張ってもらうんだからな」
「それは分かっています!これで心おきなく、主殿に尽くせるという意味だよ!」
「そうか、ならよかったよ。お前達には研磨の技術を覚えてもらわないと、俺がいつまでたっても楽にならないから頑張ってくれよ」
「楽にならないというのはどういう事だ?主は、楽にしててくれても誰も文句はないぞ?」
「俺は、冒険者達の装備をエンチャントする仕事があるからな。お前達には鏡を磨く仕事を任せたいんだよ。あれなら、ノーマルアイテムだからお前達にもできるからな」
「ワシが、又銅鏡に携われるのんて夢のようだ」
「銅鏡のようなものじゃないだろ?主の作った鏡は今までにないもんだ。やりがいのある仕事だよ」
「ガイン……いつからここにいたんだ?」
「いつからって、お前が泣いてたところからだよ」
「なっ⁉」
「ガイン……お前って意地悪な奴だな。そういうのは黙っているもんだぞ?」
「だが、主。こんな珍しい事は、なかなかみれるもんじゃねえぞ」
ドワーフは頑固者が多い。人前で涙を流すのは本当に見れるものではない。その為、ブロッガンは泣いた事を思い出し、顔を真っ赤にしていた。
「ったく……」
ガインは笑いながら、ブロッガンの肩をバシバシ叩いていた。ヒロトシはその様子を見て、二人は仲良しだからこういうことが言い合えるのかと、2人を苦笑いしながら見ていた。
後日、ヒロトシはまた領主宅に呼び出されていた。
「ヒロトシ君!本当にありがとう」
「いえ、俺は自分の家族に手を出されて、報復しただけですので気になされないでください」
「いやいや……そうはいかんよ。町から闇ギルドが無くなったのだぞ?そんな町はどこにもない。これは本当に素晴らしい事なんだ」
そう言ってシルフォードは興奮して、ヒロトシの肩を持ち揺さぶったのだった。
「そのお礼とは何なんだが、感謝状をおくりたいんだ」
「感謝状?この間、領主様から優良店営業許可書みたいなものですか?」
「いや、あれとは別物だよ。この感謝状は町の英雄として君を認めるものだ」
「はぁぁぁあ?町の英雄って!俺はそんなのいらないよ。俺は英雄じゃなくただの町の研磨職人だ。それで満足しているから……」
「いやいや、これはどうしても受け取ってもらわないと困る!町を平和にした人物が受け取らないんじゃ、後々困るだろ?」
「困るって何がですか?そんなのもらった方が厄介事が来そうじゃないですか?」
「待て待て!厄介事とはなんだ?そんなわけあるわけないだろ?それより、君達を守るものだぞ?」
「えっ?俺達を守るものとはどういう事ですか?」
「この感謝状は、私がヒロトシ君や君達の店の後ろ盾になるという物だよ。この町では絶対的な効力を示し、そう簡単に手出しされる事は無くなるだろう」
「つまり、ブロー銅鏡工場で前の主人が嵌められたようなことがあれば、領主様が貴族様の間に立ってくれるという訳ですか?」
「そういうことだな!私も君の事が気に入っているし、そんな事は無いとは思うが、貴族達とのトラブルの時は私が間に入ろう!」
「な、なるほど……そういう事ならお受けします」
「ったく……君はつくづく物おじしない性格のようだね」
シルフォードは、ヒロトシが貴族とのもめ事になんかならないと思っていた。鏡という商品を生み出し、十数年ぶりに貴族達からオークションを開いてくれと言われ、その上あの事件で貴族達を瓦礫から救いだしたからだ。
トラブルどころか、自分達の領土に招き入れたいほどに、ヒロトシの印象は良かったのだ。シルフォードは、ヒロトシが他の町に出て行かない様に、得になるようにしていただけだった。
こうして、領主の真の後ろ盾を得たヒロトシは、このミトンの町で相当の発言力を得ることになり、この発言力は商人ギルドに衝撃を走らせたのである。
ヒロトシは、商人ギルドミトン支部のギルドマスターとの面会を申し出ると、なんとギルドマスター自らヒロトシの屋敷に出向くと言ってきたのである。それほどまでに、この感謝状の効力は強かったのだ。
「ヒロトシさん。今日はどのようなご用件で?」
「ベネッサさん、いきなりどうしたのですか?いつも通り坊や呼びで結構ですよ?」
「そ、そうかい?あたしゃ、坊やがここまで成り上がるとは思ってもいなかったよ」
「まあ、運が良かっただけですよ」
「運が良かっただけって……今じゃ、坊やはあたしより上の立場なんだからね。その辺は自覚しなきゃいけないよ」
「まあ、面会を申し出たのに、ベネッサさんが家に来ると言ったからわかるよ」
「それで要件はなんだい?」
「えぇ……ちょっと言いにくいん事なんですが……」
「ちょっと待ちなよ。ミトンの町を出るとか言わないだろうね!」
ベネッサと商人ギルドの幹部達が慌てたのだった。
「いやいや……そうじゃないよ。前に家に来た時、忠告して帰ったことがあったじゃないですか?」
「ああ……そんな事もあったねえ」
「あの時、家の者が誘拐事件に発展したのは知っていますか?」
「ああ……知っていたよ」
「そうですか。何で商人ギルドはそういうのを事前に把握しているのに、放置しているのか説明して欲しかったんですよ」
「そ、それはだね……」
ベネッサと幹部達は、顔を青くして汗が噴き出していた。
「俺は、商人ギルドが悪いと言って責めている訳じゃないんですよ。ただ、犯罪が起きる前にギルドでくい止める事はしないのですか?」
「ちょっと待ちな?商人ギルドは犯罪を見て見ぬふりをしているみたいに聞こえるよ」
「違うのですか?」
「そんな犯罪に、手を染めている商人とまでは知らないよ……もし、犯罪を犯しているような商人なら、商人ギルドからは脱退処分になるに決まっておるじゃろ?」
「それは、商人ギルドが納税の時にしか、商人と積極的にかかわらないからでしょ?」
「それは、わたし達ギルドにもやる事は多くあるからじゃ!」
「しかし、あの時ベネッサさんは、ブルクの店の状態を把握していましたよね?嫉妬や妬みでどうなるかまで。それでわざわざ家に訪問しに来たのでしょ?」
「そこまでわかっているなら、わざわざ言う必要もないじゃろ?坊やなら何とかできると思って、あたしゃ何も言わずに帰っただけだよ」
「それですよ!誘拐は犯罪ですよね?それが分かっていたなら、ギルドが睨みを利かすぐらいしてもいいんじゃないんですか?犯罪を犯したら脱退させられるよとでも何でもいいようがあるでしょ?」
「そんな事は出来ん……」
「なんで?というか、売り上げが減る事の方が、ギルドには重要なんですか?」
「そこまでわかっておるなら、皆まで言う必要はないじゃろ?そんな事を言ったら商人は他の町に移住してしまうじゃろうが!」
「だから何があっても見て見ぬふりを?事件が起こってからじゃないと、何もできないというかしないのですか?」
「そうじゃよ……」
ヒロトシは、呆れて物も言えなくて、ため息を思いっきりついた。
「なんだい……そのため息は!」
「ベネッサさん……考え方が逆だよ。確かに、町から商人が店の拠点を移されるのは困ると思うが、犯罪で店が潰れる方が、その街のギルドには大打撃になるんじゃないか?」
「うぐっ……」
「今回で、2件目だろ?ポーション屋は今領主様の特産品になり、ギルドには何にも入ってこない。そして、今回銅鏡工場の主人は逮捕になり、ギルドは非難を浴びているんじゃないのか?そういう苦情処理が忙しすぎるんだろ?」
「「「「「……」」」」」
「だったら、犯罪抑止力として、ギルドは立ち回らないといけないんじゃないのか?確かにギルドが、商人の事を想って動かないと反感を持たれて、この町を出ていくかもしれない」
「それじゃ、そんな事になれば商人ギルドミトン支部は潰れるじゃろうが!」
「何言ってんだよ。そこはベネッサさんが、今まで通りの経営手腕を発揮して商人としての情報網で、暴走しようとする商人に口出しすればいいだろ?」
「そんなことで、犯罪が無くなるのかえ?」
「だから、犯罪抑止力になればいいんだよ。ギルドマスターが、口出ししても暴走する奴は絶対にいるからな」
「なるほどのう……」
「今まで商人ギルドは、何も言わないから犯罪が起きた時に、批判がギルドに集まるんだよ。これらは商人が一番よく知っている事だからな」
「フム……」
ベネッサは、ヒロトシの言葉に妙に納得していた。確かにあの時、ポーション屋が経営不振になっていた時、ギルドがアドバイスしていれば普通の商人なら、価格を抑えてCランクまでの冒険者にターゲットを移行して生き残れたはずだった。そうすれば、ギルドも潤っていたと思うのだった。
「それと、もう一つ言っておきたいんだがいいか?」
「まだあるのかい?」
「いやいや、そうじゃないんだ。ベネッサさんは、商人が他の町に移住することに、異様に恐れているみたいなんだが……」
「そりゃ当り前さ!本店が移ってしまえば、この町の納税額が減っちまうんだからね」
「多分ですが、その心配は無くなってくると思いますよ?」
「それはどういう事だい?」
「商人ギルドでも、情報は掴んでいるでしょ?このミトンの町に、冒険者が集まってきていることを?」
「ああ……そりゃそうさね。坊やが、Bランク以上の冒険者の装備を強化しているんだ。この町に拠点を移してきているみたいだね」
「それと同時に、この町の安全は高まっているんですよ?平民は出来るだけ安全な町に移り住みます。これからこの町は人口爆発が起きますよ」
「何でそんな事が言えるんだい」
「そりゃ当然ですよ。このまま何もなければ、俺がこの町に居続けるからですよ」
「えらい自信満々に宣言するんだね」
「いいですか?ベネッサさんが、心配している人口の移住は滅多な事が起きない限り、増え続ける根拠を教えましょう」
「なんだいそれは?」
「それは、この町に闇ギルドが存在できなくなるからですよ」
「「「「「はぁあ⁉」」」」」
ベネッサと商人ギルドの幹部達は目を見開き驚いた。
「おいおい!どうしたんだよ?」
「「ご主人様、おかえりなさい!」」
二人は、ヒロトシの目を見た瞬間、無事に帰ってきたことを実感し、顔を歪めて泣き出してしまった。
「心配かけてごめんな」
ヒロトシは、ルビーとサイファーの頭を優しく撫でた。そして、屋敷の中からセバスたちも出てきて、ヒロトシが無事に帰還した事を笑顔で出迎えてくれたのだった。
「旦那様おかえりなさいませ。無事に帰ってきてくれて本当によかった」
「だから、大丈夫だって言ったろ?」
「それはそうですが……普通一人で、闇ギルドに殴り込みなんて行きませんよ」
「しかし、これでこの町には闇ギルドは無くなったよ?」
「それでも、すぐに復活するんじゃないんですか?」
「マイン、それは分かっているし、当たり前の事だよ」
「「まさか!また闇ギルドが復活したら⁉」」
「ああ!マインとアイにはやっぱりわかるか?」
「「そんなやめてください!」」
「又、壊滅させようとするなんて危険すぎます!」
マインとアイの言葉に、セバス達が慌てた。ルビーのような幼い子は、又泣き出してしまったのだ。
「そんな心配すんな。今回、俺は全然実力を出していないんだからな。本気出せば、犯罪組織全体でも相手にできるよ」
「まさか!闇ギルドを潰すおつもりですか?」
「まさか!そんな面倒臭い事なんかしないよ。ただ、俺の知らないとこで活動しててほしいだけさ」
「ですが、今回の事で、闇ギルドから恨みを買ったのは間違いないのですよ」
「ああ、わかっているよ。あいつが、どう報告するかわからないが、近いうちに何らかの接触があるはずだよ」
「はっ?まさか、旦那様はわざとひとり逃したのですか?」
「そうだよ。一人、闇ギルド本部に伝令代わりに逃がした」
「「「「「……」」」」」
このヒロトシの大胆不敵な行動に、みんなは呆れてしまった。そして、そんな事よりヒロトシは、新たに仲間となる女性達7人を紹介したのだった。
「セバス、そんな事よりこの女性達を見てやってくれ」
「そういえば、その人たちは?」
「闇ギルドに囚われていて、奴隷にされていた人達だよ」
「なるほど!」
ヒロトシ達は、屋敷に帰る途中奴隷商店に寄り、再契約を済ませて帰ってきていた。セバスは、女性達に部屋の案内やメイド服の支給。1日の流れを説明した。やはり、その待遇の良さに女性達が驚いたのは言うまでもなかった。
その後、工場ではブロッガンが、ヒロトシに近づいてきた。
「主殿……」
「ブロッガンか。どうした?」
「本当にありがとうございました」
ブロッガンは、涙を流しながら頭を下げたのだった。ブロー銅鏡工場は元はブロッガンの物だ。ノーザンは逮捕され、貴族達の殺人未遂としても逮捕され、ブロッガンはようやく心の中がすっきりしていた。
ヒロトシが帰ってきた時、すぐにお礼を言おうと思っていたが、泣きそうになっていてみんなに見られるのが恥ずかしく、ヒロトシが一人の時にこうして話しかけてきたのだった。
「少しはすっきりしたか?」
「はい!これでもう思い残す事はありません」
「おいおい……その言い方じゃもう死ぬみたいじゃないか?まだまだ、これからもガインと共に頑張ってもらうんだからな」
「それは分かっています!これで心おきなく、主殿に尽くせるという意味だよ!」
「そうか、ならよかったよ。お前達には研磨の技術を覚えてもらわないと、俺がいつまでたっても楽にならないから頑張ってくれよ」
「楽にならないというのはどういう事だ?主は、楽にしててくれても誰も文句はないぞ?」
「俺は、冒険者達の装備をエンチャントする仕事があるからな。お前達には鏡を磨く仕事を任せたいんだよ。あれなら、ノーマルアイテムだからお前達にもできるからな」
「ワシが、又銅鏡に携われるのんて夢のようだ」
「銅鏡のようなものじゃないだろ?主の作った鏡は今までにないもんだ。やりがいのある仕事だよ」
「ガイン……いつからここにいたんだ?」
「いつからって、お前が泣いてたところからだよ」
「なっ⁉」
「ガイン……お前って意地悪な奴だな。そういうのは黙っているもんだぞ?」
「だが、主。こんな珍しい事は、なかなかみれるもんじゃねえぞ」
ドワーフは頑固者が多い。人前で涙を流すのは本当に見れるものではない。その為、ブロッガンは泣いた事を思い出し、顔を真っ赤にしていた。
「ったく……」
ガインは笑いながら、ブロッガンの肩をバシバシ叩いていた。ヒロトシはその様子を見て、二人は仲良しだからこういうことが言い合えるのかと、2人を苦笑いしながら見ていた。
後日、ヒロトシはまた領主宅に呼び出されていた。
「ヒロトシ君!本当にありがとう」
「いえ、俺は自分の家族に手を出されて、報復しただけですので気になされないでください」
「いやいや……そうはいかんよ。町から闇ギルドが無くなったのだぞ?そんな町はどこにもない。これは本当に素晴らしい事なんだ」
そう言ってシルフォードは興奮して、ヒロトシの肩を持ち揺さぶったのだった。
「そのお礼とは何なんだが、感謝状をおくりたいんだ」
「感謝状?この間、領主様から優良店営業許可書みたいなものですか?」
「いや、あれとは別物だよ。この感謝状は町の英雄として君を認めるものだ」
「はぁぁぁあ?町の英雄って!俺はそんなのいらないよ。俺は英雄じゃなくただの町の研磨職人だ。それで満足しているから……」
「いやいや、これはどうしても受け取ってもらわないと困る!町を平和にした人物が受け取らないんじゃ、後々困るだろ?」
「困るって何がですか?そんなのもらった方が厄介事が来そうじゃないですか?」
「待て待て!厄介事とはなんだ?そんなわけあるわけないだろ?それより、君達を守るものだぞ?」
「えっ?俺達を守るものとはどういう事ですか?」
「この感謝状は、私がヒロトシ君や君達の店の後ろ盾になるという物だよ。この町では絶対的な効力を示し、そう簡単に手出しされる事は無くなるだろう」
「つまり、ブロー銅鏡工場で前の主人が嵌められたようなことがあれば、領主様が貴族様の間に立ってくれるという訳ですか?」
「そういうことだな!私も君の事が気に入っているし、そんな事は無いとは思うが、貴族達とのトラブルの時は私が間に入ろう!」
「な、なるほど……そういう事ならお受けします」
「ったく……君はつくづく物おじしない性格のようだね」
シルフォードは、ヒロトシが貴族とのもめ事になんかならないと思っていた。鏡という商品を生み出し、十数年ぶりに貴族達からオークションを開いてくれと言われ、その上あの事件で貴族達を瓦礫から救いだしたからだ。
トラブルどころか、自分達の領土に招き入れたいほどに、ヒロトシの印象は良かったのだ。シルフォードは、ヒロトシが他の町に出て行かない様に、得になるようにしていただけだった。
こうして、領主の真の後ろ盾を得たヒロトシは、このミトンの町で相当の発言力を得ることになり、この発言力は商人ギルドに衝撃を走らせたのである。
ヒロトシは、商人ギルドミトン支部のギルドマスターとの面会を申し出ると、なんとギルドマスター自らヒロトシの屋敷に出向くと言ってきたのである。それほどまでに、この感謝状の効力は強かったのだ。
「ヒロトシさん。今日はどのようなご用件で?」
「ベネッサさん、いきなりどうしたのですか?いつも通り坊や呼びで結構ですよ?」
「そ、そうかい?あたしゃ、坊やがここまで成り上がるとは思ってもいなかったよ」
「まあ、運が良かっただけですよ」
「運が良かっただけって……今じゃ、坊やはあたしより上の立場なんだからね。その辺は自覚しなきゃいけないよ」
「まあ、面会を申し出たのに、ベネッサさんが家に来ると言ったからわかるよ」
「それで要件はなんだい?」
「えぇ……ちょっと言いにくいん事なんですが……」
「ちょっと待ちなよ。ミトンの町を出るとか言わないだろうね!」
ベネッサと商人ギルドの幹部達が慌てたのだった。
「いやいや……そうじゃないよ。前に家に来た時、忠告して帰ったことがあったじゃないですか?」
「ああ……そんな事もあったねえ」
「あの時、家の者が誘拐事件に発展したのは知っていますか?」
「ああ……知っていたよ」
「そうですか。何で商人ギルドはそういうのを事前に把握しているのに、放置しているのか説明して欲しかったんですよ」
「そ、それはだね……」
ベネッサと幹部達は、顔を青くして汗が噴き出していた。
「俺は、商人ギルドが悪いと言って責めている訳じゃないんですよ。ただ、犯罪が起きる前にギルドでくい止める事はしないのですか?」
「ちょっと待ちな?商人ギルドは犯罪を見て見ぬふりをしているみたいに聞こえるよ」
「違うのですか?」
「そんな犯罪に、手を染めている商人とまでは知らないよ……もし、犯罪を犯しているような商人なら、商人ギルドからは脱退処分になるに決まっておるじゃろ?」
「それは、商人ギルドが納税の時にしか、商人と積極的にかかわらないからでしょ?」
「それは、わたし達ギルドにもやる事は多くあるからじゃ!」
「しかし、あの時ベネッサさんは、ブルクの店の状態を把握していましたよね?嫉妬や妬みでどうなるかまで。それでわざわざ家に訪問しに来たのでしょ?」
「そこまでわかっているなら、わざわざ言う必要もないじゃろ?坊やなら何とかできると思って、あたしゃ何も言わずに帰っただけだよ」
「それですよ!誘拐は犯罪ですよね?それが分かっていたなら、ギルドが睨みを利かすぐらいしてもいいんじゃないんですか?犯罪を犯したら脱退させられるよとでも何でもいいようがあるでしょ?」
「そんな事は出来ん……」
「なんで?というか、売り上げが減る事の方が、ギルドには重要なんですか?」
「そこまでわかっておるなら、皆まで言う必要はないじゃろ?そんな事を言ったら商人は他の町に移住してしまうじゃろうが!」
「だから何があっても見て見ぬふりを?事件が起こってからじゃないと、何もできないというかしないのですか?」
「そうじゃよ……」
ヒロトシは、呆れて物も言えなくて、ため息を思いっきりついた。
「なんだい……そのため息は!」
「ベネッサさん……考え方が逆だよ。確かに、町から商人が店の拠点を移されるのは困ると思うが、犯罪で店が潰れる方が、その街のギルドには大打撃になるんじゃないか?」
「うぐっ……」
「今回で、2件目だろ?ポーション屋は今領主様の特産品になり、ギルドには何にも入ってこない。そして、今回銅鏡工場の主人は逮捕になり、ギルドは非難を浴びているんじゃないのか?そういう苦情処理が忙しすぎるんだろ?」
「「「「「……」」」」」
「だったら、犯罪抑止力として、ギルドは立ち回らないといけないんじゃないのか?確かにギルドが、商人の事を想って動かないと反感を持たれて、この町を出ていくかもしれない」
「それじゃ、そんな事になれば商人ギルドミトン支部は潰れるじゃろうが!」
「何言ってんだよ。そこはベネッサさんが、今まで通りの経営手腕を発揮して商人としての情報網で、暴走しようとする商人に口出しすればいいだろ?」
「そんなことで、犯罪が無くなるのかえ?」
「だから、犯罪抑止力になればいいんだよ。ギルドマスターが、口出ししても暴走する奴は絶対にいるからな」
「なるほどのう……」
「今まで商人ギルドは、何も言わないから犯罪が起きた時に、批判がギルドに集まるんだよ。これらは商人が一番よく知っている事だからな」
「フム……」
ベネッサは、ヒロトシの言葉に妙に納得していた。確かにあの時、ポーション屋が経営不振になっていた時、ギルドがアドバイスしていれば普通の商人なら、価格を抑えてCランクまでの冒険者にターゲットを移行して生き残れたはずだった。そうすれば、ギルドも潤っていたと思うのだった。
「それと、もう一つ言っておきたいんだがいいか?」
「まだあるのかい?」
「いやいや、そうじゃないんだ。ベネッサさんは、商人が他の町に移住することに、異様に恐れているみたいなんだが……」
「そりゃ当り前さ!本店が移ってしまえば、この町の納税額が減っちまうんだからね」
「多分ですが、その心配は無くなってくると思いますよ?」
「それはどういう事だい?」
「商人ギルドでも、情報は掴んでいるでしょ?このミトンの町に、冒険者が集まってきていることを?」
「ああ……そりゃそうさね。坊やが、Bランク以上の冒険者の装備を強化しているんだ。この町に拠点を移してきているみたいだね」
「それと同時に、この町の安全は高まっているんですよ?平民は出来るだけ安全な町に移り住みます。これからこの町は人口爆発が起きますよ」
「何でそんな事が言えるんだい」
「そりゃ当然ですよ。このまま何もなければ、俺がこの町に居続けるからですよ」
「えらい自信満々に宣言するんだね」
「いいですか?ベネッサさんが、心配している人口の移住は滅多な事が起きない限り、増え続ける根拠を教えましょう」
「なんだいそれは?」
「それは、この町に闇ギルドが存在できなくなるからですよ」
「「「「「はぁあ⁉」」」」」
ベネッサと商人ギルドの幹部達は目を見開き驚いた。
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