研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

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第1 章 自分だけの職業

32話 ヒロトシ怒りの形相

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 領主は、今回怪我をした人間を、財政で賄うつもりだった。そして、オークション会場を襲った人間を捜索したのだった。
 その捜索方法は、当然魔法を使ったものであり、カノンが呼ばれていた。カノンの網膜に刻み込まれた記憶を読み取る魔法で、あの時咄嗟に矢をかわし、みんなの盾となった瞬間を、覗く事が出来る【メモリー】という光属性魔法を使った捜索方法だった。

 魔法使いは、カノンの目を覗き込んだ。網膜に刻み込まれたの記録を読み取るような感じだった。
 すると、あの時の映像が魔法使いにはコマ送りのように再現された。その時、打ち込まれた矢には矢じりではなくポーションのようなガラス瓶がついていて、その矢が着弾した瞬間大爆発を引き起こしていた。
 その矢を拡大して見ると、闇ギルドの物だとわかったのである。

「領主様!新たな手掛かりがつかめました。あの矢は闇ギルドの物です!」

「闇ギルドだと!」

 領主はそれを聞き、愕然となった。闇ギルドをどうにかできる訳がなかった。

 そして、捜査に協力していたカノンは重い足取りで、ヒロトシと家に帰ってきた。

「旦那様!どうでしたか?」

「それが、やはり闇ギルドの仕業だったよ」

 それを聞いた、セバスたちは重く気落ちしたのだった。その時、ヒロトシはカノンに謝罪したのである。

「カノンすまなかった……俺が、もっと気を付けておけばお前の翼を……」

「ご主人様が謝る事はありません……この翼のおかげで、みんなを守れたと思っていますし……」

 カノンはそう言いながらも、ボロボロになってしまった翼を見て目に涙を溜めたのだった。今のヒロトシの魔道スキルでは、カノンの翼を再生させる事は出来なかった。
 確かに、初級攻撃魔法はINT(知力)のおかげで、威力がとんでもない事になっているが、回復魔法のヒールはそうはいかない。
 カノンの翼を綺麗にするには、ヒールではなく上位魔法に位置するパーフェクトヒールを使わないといけないからだ。カノンの涙を見たヒロトシは、闇ギルドに報復することを決めて、怒りの形相になった。

 ヒロトシは、その場で【サーチ】を唱えて、闇ギルドの所在をつきとめた。

「こんなところに……」

「旦那様、どうかしたのですか?」

「お前達はここでいてくれ。俺は、今から闇ギルドを潰してくる!」

「はぁあ⁉何を言っているのですか?」

「俺は、カノンの翼をこんなにした奴等を許せない!ただそれだけだ!」

「しかし、この事件は衛兵達に任せるものであって、旦那様が出るような事では……」

「いいや、多分領主様でもどうにかできるものじゃないよ。前にマミヤとルビーが攫われたことがあっただろ?」

「えぇ……」

「あの時の犯罪者は、風の群狼という冒険者崩れの盗賊集団だった。それにさえ手をやいていたんだ。今回は犯罪組織が相手になると、手を出せる訳がない」

「だからと言って、わざわざ旦那様が首を突っ込まなくともよろしいのでは……それに、闇ギルドを潰すのはいくらなんでも……」

「何を言ってんだよ。俺の身内に手を出されたんだ。それなりの落とし前をつけてもらわなきゃ示しがつかんだろうが!」

「うぐっ……」

 ヒロトシは、思わず大きな声を出してしまった。その怒りにセバスを始め、全員が萎縮してしまったのだった。

「いきなり大きな声を出して悪かった……」

「い、いえ……」

「ご、ご主人様!わたしも連れていってください」

 そう言ってきたのはカノンだった。

「お前は絶対に駄目だ。あの時の傷がのこっているじゃないか?」

「ですが、わたしは!」

「それに、今のお前は翼が無いだろ?」

「そんなのは!気合で何とかなります」

「駄目だな……今のお前は翼が無くなり、体のバランスが狂っているからな。ローブで背中を隠しているだろ?余計に行動は出来んだろ?」

「それなら、このローブを取ってでも!」

 カノンは身を隠していたローブを剥ぎ取った。すると、綺麗な髪は短くなって翼も手羽先のように羽根が無くなっており、背中が焼けただれていたのだ。
 ヒロトシのヒールで傷としては治っていたが、見た目までは治っていなかったのである。マイン達が、その姿を見てスッとローブを掛け直したのだ。

「こんな姿にしたあいつ等をわたしの手で……」

 カノンは、白い翼を持って天使のような姿をしていた。金髪に映えた髪も自慢できるものだった。それが今では見る影もなかったのだ。

「駄目だ……相手は闇ギルドだ。高ランクアサシンがいれば、お前達では相手にならんだろう。もし仮にお前達に何かあった場合、今の俺では蘇生することはできんからな」

 ヒロトシの言葉に、ここにいる全員が意味が理解できずポカンと呆けてしまったのだ。

「旦那様?蘇生ってどういう意味ですか?」
「それって、死者の蘇生を言っているのですか?」
「そんな、いくら何でも死者を蘇生なんかできる魔法がある訳ないですよ」

「ああ、今は俺の魔法スキルのレベルが足りないからな……」

「いえいえ……旦那様何を言っているのですか?死んだら終わりです……四肢欠損を治療するのも、すごい魔法ですのに、それにそんな魔法を使える人も、王宮魔法師団に一人しかいない位なんですよ?」

「前に行っていたよな?世界最高峰にいる魔法師団長の魔法スキルレベルが4レベルだって。だったら5レベルになれば、そういう魔法があるかもしれないだろ?」

「スキルレベルが5レベルですか?そんな人間がどこにいるのですか?」

「いないから、可能性があるんだろ?」

「そんな事が可能なんですか?もっと現実を……」

「現実を見ているから、カノンを連れて行かないと言っているんじゃないか!もし死亡したら取り返しがつかないだろ?分かっているのかカノン!」

「は、はい!」

 いきなり、ヒロトシに名前を呼ばれたカノンはビクッと体を震わせた。

「お前の悔しい気持ちは分かるが、ここは俺に任せろ!」

「で、ですが……万が一の事が起こったら、わたしの命で済むのなら、ご主人様の援護したいです。絶対ご主人様の命の方が大事です」

「命にどっちが大事なんてない。命の重さはみんな一緒だ!だったら、より安全な俺が動くのが成功だろ?大丈夫!ちゃんと生きて帰って来るよ」

 護衛をしていた人間が全て考え込んだ。そして、カノンが口を開いたのだった。

「死んだら、絶対に許しませんよ?」

「ああ!お前達には、これから大事な任務があるんだからな」


「「「「「「えっ⁉」」」」」」」
「大事な任務って何ですか?」

「それは、この騒動が終わってからだ。楽しみにしてろ!」

 ヒロトシの言葉に、みんな訳が分からなくてただ頷く事しか出来なかった。

 そして、ヒロトシはアクセサリーを二つ購入してきた。指輪は中指に装備することで効果を発揮する。つまり、指輪は両手に一つづつで2個まで装備が出来るのだ。
 指輪は、ダンジョンから結構な確率で出るため、手軽購入する事が出来るのだが、+3プロテクションや+3ヘイストなど高価なものは売っていない。購入できるのは+1プロテクションや+1ストレングスのようなものである。

 しかし、+1効果でも馬鹿には出来ない。常に防御力が50%アップして、魔法と併用すれば100%アップとなるからだ。
 ヒロトシは、プロテクションとアボインスの+1のリングを購入した。プロテクションは防御力を50%アボインスは回避を50%上げるものだ。

 そして、ヒロトシはそのリングを研磨し始めたのだ。600#研磨をして+2リングにしたのだった。その結果、効果は2倍となった。ヒロトシの強化はそれだけにおさまらず、自らの魔法でストレングス・プロテクション・アボインスを唱えると、攻撃力は50%増しだが、防御と回避は2.5倍となったのだ。

「クックックッ……闇ギルドの奴等、今に見ていろよ。俺の家族に手を出しやがって地獄を見せてやる」

「ご、ご主人様……」

 カノンたちは、ヒロトシの別の顔を見て戸惑っていた。

「ああ!お前達は留守番をよろしくな。この町の闇ギルドは、今日この日を持って壊滅させる」

 そう言って、ヒロトシは屋敷を出て行った。そして、あり得ないスピードで駆け抜けて姿が小さくなった。

「まさか……旦那様の魔法と研磨の技術が合わさる事で、こんな効果が跳ね上がる事になるとは思いもしませんでした……」

「えぇ……闇ギルドは本当に壊滅ですね……」

「ご主人様は、眠れるドラゴンなのかもしれませんね」

「マイン……その表現物凄く的を得ているね」

「アイ、もしそうなら闇ギルドと闇ギルドに依頼を出した奴はとても愚かなやつだわ……」

「「「「「「そうね……」」」」」」

 ヒロトシが出て行った屋敷では、セバス達の話し合いが続き、どんどん闇ギルドが不憫に思えてきたのだった。



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