研磨職人!異世界に渡り、色んなものを磨き魔法スキルと合わせて、幸せに暮らす。

本条蒼依

文字の大きさ
上 下
26 / 347
第1 章 自分だけの職業

25話 手鏡

しおりを挟む
 生産ギルドが、ヒロトシの加入を求めて何回も訪問があり、ヒロトシはうんざりしていた。

「今日もまた来たのか?」

「そりゃ、ヒロトシ様が加入してくれるのなら何度でも来ますよ」

「エリス……俺はこれでも忙しいんだぞ」

 エリスと呼ばれた女性は、16歳という若さで生産ギルドで一番人気の受付嬢だ。ギルドマスターは、一番人気の受付嬢を毎日のように、㋪に訪問させていたのだった。

「だったら、加入してくださいよ」

「俺を加入させても意味が無いだろ?売る商品が無いんだぞ?」

「だったら、商品を作りましょうよ」

「だったらなにか?俺が磨いた剣を売ってほしいというのか?そんな事をしても、1ヶ月後にはノーマルソードになるんだぞ?」

「そこを何とか、永久的にマジカルにならないものですか?」

「馬鹿な事を!+1マジックソードですら、ダンジョンからしか出ないんだぞ?仮に、俺の研磨技術で永久的にすることが出来たとしても、そんなのは販売するつもりはないよ」

「えっ⁉永久的にマジカルアイテムにすることが出来るのですか?」

「馬鹿!仮の話だ。出来たとしてもそんなのは販売しない!」

「どうしてですか?もし、マジカルが作れるのなら凄い事じゃないですか!」

「そんなの販売したら、他の鍛冶屋はどうなると思う?」

「あっ……」

「分かったか?他の鍛冶屋は武器が売れなくなって、みんな奴隷になるか首をくくらなきゃならなくなるだろ?」

「でも……」

「でもも、かかしもない!」

「私は絶対にあきらめませんよ。絶対に、ヒロトシ様を生産ギルドに……」

「なあ、一つ聞きたいんだが?俺を生産ギルドに入れてどうしたいんだ?実際、売る商品が無いんだぞ?俺なんかが加入したところで、ギルドもメリットはないだろ?」

「いいえ、ギルドマスターもそんな事はないと言っていますし、私もそう思います。ヒロトシ様は、いずれとんでもない商品を売り出します。その時に、他の町からのギルドに出し抜かれたら後悔します」

「ったく……仮にそうなったとして、一番早くコンタクトが取れるのは、このミトン支部のギルドじゃないか?」

「それはそうですが、同じ町の生産ギルドに所属してなければ、もし他の町に行くと繋がりはもうなくなっちゃうじゃないですか」

「ったく……何でそんなに俺を移住させたがるんだよ。俺は、ここでそれなりの生活が出来たらいいと言っているだろ?」

「商人であるヒロトシ様の言葉には、絶対に裏があります。そんな事で、私を騙せるとは思わないでください!」

 ヒロトシは、エリスの先見の目に恐れ入った。自分の信じたことを、エリスは絶対に曲げないのが分かったヒロトシは、ため息をつくのだった。

「わかったわかった。今日はもう帰ってくれないか?俺は、今日も仕事があるんだ。それと今週はもう会わんぞ。これ以上は本当に営業妨害だ」

「えええ!」

「ええ!じゃない。今週に又邪魔をするようなら、生産ギルドを訴えるぞ?」

「そんな……だったら、加入してくれたら万事うまくいくじゃ……」

「あーはいはい!お帰りはあちらです」

「アーン……」

 これ以上は、ヒロトシも埒が明かないと思い、エリスの背中を押し、店から追い出したのだった。

「私は絶対にあきらめないんだから!」

 そう言って、エリスは生産ギルドへと帰っていった。

「ったく……」

「「「「「ヒロトシ!いつも大変だな」」」」」

 ㋪美研に、客として来ていた冒険者達が笑いながら声をかけてきた。

「ホント厄介ですよ」

「生産ギルドのエリスだろ?所属してやりゃいいじゃないか?」

「いやいや、俺が所属しても依頼の受けようがないでしょ?」

「確かに、お前じゃ受ける依頼がないか……」

「そうですよ。Fランクの依頼を受ける時間があるなら、自分の仕事をした方が儲かるし、生産ギルドに所属する意味が全くない」

「まあ、そうかもしれねえが気をつけろよ。俺達、冒険者ギルドもお前の加入を望んでいるんだからな」

「はぁあ?何言ってんですか?商人の俺が冒険者だなんて……」

「とはいっても、お前は風の群狼を壊滅に追いやった実力の持ち主だ。これは、この町の冒険者全員が知っている事だぜ?」

「そ、それは……」

「とにかく、お前は目立ちすぎるんだよ。他が放っておくわけないだろ?」

「俺は磨きだけで、マッタリ生活していければいいんだよ」

「まあ、お前がどう思うかは勝手だが、時期に冒険者ギルドからもお声がかかると思うぞ?」

「ええええ……」

 ヒロトシは、お得意様である冒険者から言われて、思いっきりため息をつき工場へと引き篭もった。それを見た、冒険者達は大笑いしていたのだった。

 ヒロトシは、今日の分の研磨をしながら、何とかしないといけないなあと思っていた。



 そして、休みの聖の日に、ヒロトシはまた奴隷商店へと来ていた。

「ヒロトシ様?今日はどこに?」

「アイリーン、付き合って貰って悪いな。今日も奴隷商店で、生産者を二人購入しようと思ってな」

「生産が出来る奴隷を?何をするおつもりですか?」

「ここ最近、ずっと生産ギルドがうるさいだろ?」

「だから言ったじゃないですか?わたし達の誰かに言って追い出せばいいって……」

「いや、生産ギルドも言いたいことは分かるしな。せっかくの人脈だ……無下に追い返したら協力してほしいとき困るだろ?」

「確かにそうかもしれませんが……実際の所、仕事に影響が出ていたではありませんか?あのエリスという人が来た日は、ヒロトシ様は1時間ほど残業していて、迷惑をかけられていましたよね?」

「それはそうなんだけどな。でも、いずれ生産ギルドには役に立ってもらおう思っていたから……」

「だったら、すぐに所属しても良かったのでは?」

「まあ、そこもかけ引きというもんだよ。これで俺が、加入する為の準備は整ったと言ってもいいよ」

「どういう事でしょうか?」

「生産ギルドは、俺に迷惑をかけてまで押しの一手で加入を求めただろ?」

「はい」

「という事は、俺が加入したらどうなる?」

「そりゃ、喜ぶと思いますよ」

「だから、その時に俺が条件を出したら、飲まざるを得ないと思わないか?」

「あっ……な、なるほど!」

「商人は、自分が有利になるように運ぶのが得意なんだぜ」

「なるほど……勉強になります」

 そして、奴隷商店でヒロトシは、二人のドワーフを購入したのだった。ガインとブロッガンという名前のドワーフで、ガインはロングソードを専門に作れる鍛冶屋で、ブロッガンは木彫りの装飾を専門にした工芸職人だ。

 家に帰る途中、二人の服や日用雑貨、ベットなどを買って帰った。それには、ガインとブロッガンは驚いていて、こんな立派なものは要らんと断っていたが、アイリーンも貰ったというと渋々承諾をした感じだった。

 家に帰り、ヒロトシはみんなに二人を新しい家族として紹介して、みんなから歓迎されたのだった。



 そして、次の日ヒロトシは2人にある物を作らせたのだった。

「主!本当に儂の為にこんなものを揃えたというのか?」

「ああ、そうだよ。これが無いと仕事にならんだろ?」

「だが、これを全部揃えるとなるといくらに……」

「大丈夫だよ。すぐに元は取れるからな」

「主殿!ワシにもこんな立派な蚤や彫刻刀を……現役だったころより立派な道具ですぜ……」

「気に入ってもらったなら良かったよ。それで二人には作ってもらいたい物があるんだ」

「「いったい何を?」」

 ヒロトシは、紙に簡単な絵をかき二人にみせた。この紙と鉛筆は、研磨道具召還で出したものだ。

「こいつは書きやすい。主殿、凄いものを持っているんだな」

「まあな。それよりコイツを見てくれ」

「ブロッガンは、こんな感じの手で持つような装飾を作ってくれ、そして裏面にはこういったはめこむ溝のようなものをよろしく」

「表の装飾は、花や鳥でいいのかい?」

「貴族様が、好むようなデザインにしてほしい」

「わかりました」

「ガインは青鉱石のプレートを作り、ブロッガンの装飾品の裏の溝に、ピッタリ嵌める事が出来る物を頼む」

 ガインには、青鉱石で瓶の王冠のような楕円形のプレートの製作を頼んだ。この王冠のようなギザギザが、がっちりはまり取れない様にして欲しいと頼んだのだった。

「どれくらいで出来る?」

「調整が難しいから三日だな」
「ワシは五日ほしいな。貴族様が好むようなデザインなら細かい仕事が必要だ」

「わかった。それで頼む。丁寧にしてくれたらいいよ」

 ガインは、小型炉で青鉱石のインゴットを熱して、スミスハンマーで叩き薄くのばしていく。均等な厚みで、伸ばすのは匠の技である。
 青鉱石というのは、鉄鉱石より錆びにくく加工しやすい鋼鉄なのだ。薄くのばしたプレートを、楕円形に金きりばさみで切っていく。地球なら機械のパンチングで抜いていくのだが、そういものはなく手作業でいちいち切っていくのである。
 そして、型に合わせて小槌で叩いて、楕円のふちを直角に曲げていく。曲げた淵の部分は、木彫りの装飾品から外れない様にギザギザにしておくのだった。

 そして、その王冠のような部品は、ヒロトシの手で鏡面仕上げしていく。

「ガイン。表面のぼこぼこは、これ以上は滑らかにはならないか?」

 縦20cm横15cmの楕円形のプレートは叩きで伸ばしていた為に、微妙にぼこぼこしていたのだった。

「主……無茶を言うな。それ以上は無理というものだ……それ以上滑らかにしてどうするの言うんだ?」

「まあ、これを見てみろよ」

 ヒロトシは、その楕円形のプレートを磨いて見せた。すると、そのプレートにはガインの顔が映っていたのだが、微妙にぼこぼこしているので、映った顔がところどころ変形して映っていた。

「こ、これは……主は銅鏡を作ろうとしているのか?」

「ああ。手鏡を作ろうと思っていたんだ。しかし、こんなに歪んでいたんじゃどうしようもないよ」

「しかし、銅鏡はこんなに綺麗に映らないぞ?」

「いやいや、映り込んだ顔が歪んでいるほうが問題だよ。本当にこれ以上は無理か?」

「これ以上は儂の技術では……」

 ガインは、手を抜いたわけではなく、本当に最高の物を仕上げたつもりだった。しかし、日本人だったヒロトシのこだわりはさらに上をいっていた。



しおりを挟む
感想 91

あなたにおすすめの小説

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...