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第1 章 自分だけの職業

9話 バフづくり

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 ヒロトシ達は、広場にいた屋台の店主達に感謝されたのだった。今まで怖くて何もできずにいたらしい。お代はつけにさせて払ってくれなかったり、逆らったら屋台を壊されたりもした人間もいたのだった。
 しかし、通報したらどんなことをやられるかわからなかったので、ギルドにも訴えられなかったそうだ。

「兄ちゃんのおかげで、あいつ等はもう奴隷落ちだしな」
「ホント、ざまあみろだぜ」
「坊主!又来たときはサービスするからまた来てくれよな」

「ああ、ありがとう。たのしみにしておくよ」

 ヒロトシは、屋台の店主や客たちに感謝をされ広場を後にした。そして、商人ギルドにやってきた。

 商人ギルドには、冒険者ギルドのように、冒険者達が掲示板を見るような感じではなく。商人がいっぱいギルドにいる訳ではない。そのため、ギルド内は静かであって、用事のある商人がちらほら見えた。

「ランファーさん。こんにちは」

「今日はどうかしたのですか?家の受け渡しは六日後ですよ」

「それは分かっているんだが、敷地内の工場で作業準備をしたいんだが入ってもいいかな?」

「それは無理だと思いますよ」

「何で?」

「この受け渡しの期間は、家の中の修繕修理や掃除をしているので、作業準備とはいえ邪魔になると思いますよ」

「そんな事もしてもらえるのか」

「それは当然ですよ。修繕もせずに家を渡したら、ギルドの信用に傷がつきますからね」

「そっか、ありがとう」

「ふふっ。貴方からお礼を言われるとは思わなかったわ」

「何だよそれ……俺だって礼儀はわきまえているさ」

「まあ、その年でお店を開くんだから当り前よね、私が悪かったわ」

「まあ、分かってくれたらいいんだけどさ」

「そんなふてぐされないの。その代わりいい事を教えてあげるわ」

「いいこと?」

「仕事準備なら生産ギルドに行って、作業部屋を借りたらどうかしら?」

「作業部屋?」

 ランファーは、ギルドカードがあれば誰も入らない個室を貸してくれると教えてくれたのだった。用途によって部屋は色々あって、ポーションをつくる部屋やインゴットを作る部屋などあるらしいのだ。

「なるほど!そこで作業準備が出来るのか」

「だから、そちらで部屋を借りたらいいです」

「わかった。ありがとな。すぐに行ってくるよ」

「はい、いってらっしゃい」

 ヒロトシは急いで生産ギルドに出向いたのだった。そこには生産者がたくさんいた。朝ほどではないが、掲示板の前にはインゴットを100個納品や、ポーション10本納品して欲しいと依頼が張り出されていた。

 ヒロトシは、真っ直ぐ受付に行き、受付嬢に作業部屋を貸してほしいと言ったのだった。

「今日はどのような御用ですか?」

「商人ギルドで、ここの作業部屋の事聞いて借りに来たんだ」

「どのような部屋を希望ですか?ポーションを作ったりインゴット等用途によって違ってきますが?」

「どう言ったらいいのかな?」

「えっ?」

「ただ作業をしたいから、ある程度の場所さえあればいいんだけど……」

「よくわかりませんが……小型炉のあるお部屋でも構いませんか?」

「構わないよ」

「では、こちらの部屋の鍵を持って103号室をお使いください」

「ありがとう」

 ヒロトシ達は、3人で103号室に入った。

「二人はそこに座っていいよ。後は俺の仕事だからな」

「何をするのですか?何かお手伝いをすることがあれば何でもやります」

「今のとこ何もないかな。まあ見ていてよ。研磨道具をこれから作るからさ」

 ヒロトシは、スキルの研磨道具召還を使い、綿素材の円形の新しいバフを30枚出した。バフと呼ばれるものは真ん中に穴の開いた円形の固い布で厚みが5cmあるものだ。

 そして、金剛砂の80#180#250#きめの細かさが違う砂鉄のようなものを出し、続いてにかわを出した。これは水に溶かし、湯銭する事で糊の役目をする。

「ご主人様?それっていったい?」

「これを使って磨いていくんだよ。バフと呼ばれるものを作らないと話にならないんだ」

 そういって、ヒロトシは電熱器を出して、鉄の瓶に生活魔法で水を瓶に入れて沸かした。そして、湯煎をする為もう一つの瓶には、粒状になったニカワを入れて、水の量を調節して濃度を確かめていた。

 このバフ作りだけでも職人技がある。気温によってニカワ濃度を変えないと上手く金属が削れないのだ。夏ならニカワの量を少なくし冬なら多くしないといけなくて、バフを作れるようになってようやく、研磨職人としてスタートできるのだ。

「ご主人様?それはいったい?」

「これはバフに、この金剛砂をつける糊の代わりになる物なんだ」

「この砂鉄、キメが細かいですね。初めて見ます」

「それは、250番手の砂だからね、綺麗に磨く時に必要になるんだよ」

「「へええ!」」

 マインとアイは、興味深そうに見ていた。30分もしたら、ニカワは溶けて粘りを持った水のようになった。

 ヒロトシは、刷毛にニカワをつけて、上に持ち上げるとつーっと糸を引く様に垂れたのだった。

「うん、こんなものでいいな」

 ヒロトシは円形のバフを手に取り、厚みの部分にニカワを刷毛で塗り、その部分に叩く様に金剛砂をつけていくのだった。
 この様子を、マインとアイはずっと見ていたのだった。この作業は結構つらいものがあり、ヒロトシは腰をトントン叩きながら作業を進めていた。

「ご主人様、手伝います」
「わたしも、この硬い布にこの砂をつければいいのですよね?」

「そうだけど、これは難しいぞ?」

 このバフづくりは、初心者が簡単に出来る物ではないのだ。ニカワを均等に塗らないと金剛砂が玉になって、商品に深い傷がつく事になるのだ。
 
 ヒロトシは、このバフづくりが親方に認められるまで、3年の月日がかかったくらいなのだ。その頃はよく、違う番手の砂が混じってやり直しと言われて、バフを投げつけられたのは、今では良い思い出である。簡単そうに見えるが、このバフづくりは基本中の基本でとても難しいことだった。

「じゃあ、一枚やってみるか?」

「「はい!」」

 マインとアイの二人は、ヒロトシの作業を見て真似してやってみた。すると、やっぱり2人が塗ったバフは、ニカワは均等に塗れていなくて、金剛砂がついていない所や、ニカワを厚く塗ったところはにじみ出ていた。

「……」

「ご主人様どうですか?」

「マイン、ここを見て見な。ニカワを厚く塗りすぎなんだ。だから、金剛砂が滲んできているだろ?」

「はい……」

「これが固まると上手く削れないんだよ」

「……」

「アイ、君はニカワが塗れていないとこがある。だから、この通り」

 ヒロトシは、バフを少し叩くと、金剛砂が衝撃でパラパラと落ちて、塗れていないところが現れて、斑点が出来上がったのだ。

「難しいですね……」

「俺も親方には何回も殴られたよ。いつになったら満足に塗れるようになるんだって。ははははは!」

 そして、ヒロトシは二人が作ったバフをやり直して、3種類のバフを作ったのだった。

 マインとアイの二人は、ヒロトシのバフづくりを今日は見ているだけだった。いずれ、自分達も作れるようになると、意気込んでいた拳を握り合っていたのだった。 

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