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第1 章 自分だけの職業

4話 ヒロトシ酒場で絡まれる

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 ヒロトシは、身分証明を貰う為、商人ギルドへと向かおうとした。

「あの、ご主人様?」

「どうかしたのか?」

「本当に商人になるのですか?磨きより冒険者になった方が儲かると思うのですが?」
「うんうん。わたしもマインの言う通り、ご主人様は魔法使いで冒険者になった方がいいかと思いますよ」

「いや、俺はやっぱり商売がしたいんだよ。それに、冒険者はいつ命を落すか分からないし、町で商売した方が安全でいいだろ?」

「ですが……あの魔法の威力なら冒険者として活躍できるかと……それに商売と言っても、家や店舗を買う資金を稼がないといけないと思いますし、銅鏡を磨く仕事では何年かかるか分かりませんよ?」

「そっか、そのあたりも何も言ってなかったよな。とりあえず、これからの事を話し合おうか」

「「えっ?」」
「いえ……話し合うだなんて、わたし達は客観的に見ても、ご主人様は冒険者に向いていると思いますよ」

「二人にはまだ何の説明もしてなかっただろ?」

 そう言いながら、ヒロトシは二人を連れて酒場を探したのだった。この町の酒場は、冒険者ギルドと併設された冒険者の憩いという酒場が安いと教えられて、ヒロトシ達はこの酒場へとやってきたのだった。

「ギルドの酒場って広いんだなあ」

 ギルドの2階部分が広いホールになっていて、まだ陽が高いというのに冒険者達はエールやワイン、果実酒を飲んでいて騒いでいた。酒場と言っても食事もできるし、お茶をしている人間もたくさんいたのだった。



 賑やかな酒場でワクワクしながら、ヒロトシは席に着いた。

「ご飯はまだ早いし飲み物だけでいいかな?マインとアイは何にする?」

 ヒロトシは、メニューを見て二人に話しかけたのだが、マインとアイは席には着いていなくて、ヒロトシの後ろに立っていたのだった。

「あ、あれ?二人ともそんなとこで何をやってんの?早く席に着きなよ」

「私達は奴隷です。ご主人様と同じ席に着けません」
「わたしたちはここで立っていますので、そのまま話してくれていいです」

「何を訳の分からんことを言ってんだよ。そんな冗談はいいから早く座る!」

「「で、ですが……」」

「主人である俺がいいって言っているんだぞ?そんなバカな事言ってないで早く座れ。もし座らないというのなら、これは命令だよ?」

 ヒロトシは、二人の肩を持って、強引に向かいの席に座らせた。

「二人も飲み物でいいよね?」

「えっ?わたし達も注文をしてもいいのですか?」

「そりゃそうだろ。4人席を使っているのに、注文が一人だけっておかしいじゃないか?」

「すいませーん!注文よろしいですか?」

「は~い!」

 ホールで、働く女性をヒロトシは呼んで、果実酒を3杯頼んだのだ。

「お客様!当店では、未成年の飲酒は禁じられています。ミックスジュース等はいかがですか?」

「えっ⁉」

「それと、そちらの二人は奴隷みたいですが、奴隷に果実酒を注文されるのですか?」

 ヒロトシは、自分が未成年であることを忘れていた。ついつい自分は51歳だと勘違いしてしまっていたのだ。

「ご主人様、お酒は15歳からです。それと、わたし達はやっぱりお水でお願いします」

「ああ。構わないよ。果実酒を2杯持ってきてよ。俺はミックスジュースでお願いします」

「分かりました。では、お代は先払いになりますので、商品が来たときにお支払いをお願いします」

 果実酒は2ゴールド、ミックスジュースは1コールドで、商品が来た時、ヒロトシは鉄貨を5枚支払った。

「この飲み物、全然冷えてないな……」

「ご主人様って、どんな生活をしていたのですか?氷なんて、贅沢なものそう簡単に手に入らないですよ」

「だけど、飲み物は冷えていた方が美味しいじゃないか」

「わたし達は、そんな贅沢な暮らしをした事ないから分かりません」

「まあ、いいか……それで、これからの事なんだけど、よく聞いてくれ」

 ヒロトシが、話し出そうとした時、席の後ろから肩を掴まれ、誰かに話しかけられた。

「坊主!奴隷に酒を飲ませるなんて、えらく景気がいいじゃねえか!」

「えっ?」

 すると、マインとアイがヒロトシに声をかけてきた男に不快感を示した。振り向くとそこには、スキンヘッドのがたいがいい、身長が190cmを超える男がいた。

「えーっと、何か御用でしょうか?」

「いやな。奴隷に酒を飲ますなんて、自分は金を持っていますと言っているようなものだ。ちょっとご忠告をしてやろうとおもってな」

「それはご丁寧にどうも。自分だけ注文して美味しく飲む趣味はないものでね」

「おいおい!つっぱんじゃねえよ。坊主はまだ子供だ。大人の忠告は聴いた方が得だぜ?」

「これが俺の生活スタイルだ。他人のアンタに、どうこう言われる義理はないよ。忠告はありがたく受け取っておくよ」

「ったく……生意気なガキだな!」

 ヒロトシのテーブルは不穏な雰囲気に包まれた。すると、先ほど注文を取ってくれた女性店員が、ヒロトシに絡んできた大男の頭をお盆で叩いたのだった。

「貴方は、何をやっているのですか?そんな子供に絡まないでください!」

 女性店員は、男の頭を金のお盆で思いっきり殴ったのだ。バア~ンと物凄い音が鳴り、酒場に来ていたお客が全員こちらを見たのだ。

「痛ぁ~~~~~!ジューン!お前は上司になんて事をするんだ!」

「ギルドマスターが、子供にちょっかいかけるのがいけないんでしょ!可哀想に!こんなに委縮しているじゃないですか」

「「「ギ、ギルドマスター?」」」

「ボク……ごめんね……うちのギルドマスターが怖がらせちゃって……ほら!ギルドマスターも謝って!」

「おいおい!なんだよ俺は、この坊主が奴隷に酒など与えているから、忠告をしただけだろ?このまま外に出たら、誰かに絡まれると思ってだな……」

「絡んでいるのは貴方でしょ!」

「俺は絡んでなんかいない!このままではこの坊主が、心配だったから常識というやつをおしえてやろうと……」

「もういいから、ギルドマスターは部屋で仕事をしていてください!この奴隷を見てください。尻尾が震えているじゃないですか。あなたは教えているのかもしれませんが、傍から見たら絡んでいるようにしかみえません!」

「そ、そんな……」

「ボク達ごめんね。ごゆっくりしていってね」

「いたたたたた……ちょっとジューン耳を引っ張るな。痛いだろ」

「やかましい!」

 そういって、ジューンと呼ばれた女性店員は、ギルドマスターの耳を引っ張って奥へと消えて行った。

「いったいなんなんだ?」

「今のが冒険者ギルドの、ギルドマスターだったんですね……」

「だけど、ギルドマスターの威厳は無かったですね……」

 ヒロトシ達は、ギルドマスターが連れられて行った奥の方をみて、額から汗が流れていた。

「話は脱線したけど、続きを話していこうか?」

「「はい……」」

「それで二人は、俺が商人になるのは反対するわけは、儲けが出ない事を不安に思っているんだよな?」

「そうは言いませんが、普通に考えて、わたし達をオークから助けてくれたあの実力があるなら、絶対に冒険者として活動した方がいいと思います」

「じゃあ、俺の話をしようか。これは絶対内緒で頼むぞ?」

「「わかりました」」

「俺は何で、世の中の事が分からないかというと、この世界の人間じゃなかったからだ」

「「はぁあ?」」

「俺は、地球という星で日本から来たんだよ。ちょっと、分かりにくいかもしれないが、その日本というところで51歳で死んじゃって、この世界の神様ミレーヌさんに転移してもらったんだよ」

「「創造神ミレーヌ様に?」」
「う、嘘ですよね?」

「いや、本当の事だ!それで俺は記憶を持ったまま、こっちの世界で暮らせるように、ミレーヌさんが色々サービスをしてくれたんだ。磨きの技術を持っているから商売の方が向いているんだよ」

「ですが、ご主人様は魔法の実力も持っていらっしゃいますよね」

「それは、元の世界には魔法というものがなかったから、使いたいとミレーヌさんにお願いしたんだよ。だけど戦いのなかった世界にいたから、魔物と戦うのは自信がないというのが理由だ」

「わ、分かりました……しかし、これからお金を稼ぐとなると……」

「それも大丈夫だよ。ミレーヌさんに、店舗購入できるぐらいの資金はもらっているからね」

「ど、どこにそんなお金が?」

「だから、ミレーヌさんからサービスしてもらったって言っただろ?マジックボックスに入れてあるから大丈夫だ」

「スキルまでサービスしてもらったのですか?」

「そういうわけだから、心配しなくても大丈夫だ。店舗さえ入手できればすぐに軌道に乗るはずだからな」

「「わ、わかりました」」
「ご主人様に着いていきます」

「君達には、お店が出来たら受付をやってもらう事にしているからよろしく頼むぞ」

「「はい!」」

 ヒロトシたちは、酒場でゆっくりして飲み物を飲んだら、商人ギルドに向かう事にしたのだった。

 そして、今日会ったギルドマスターとは、この先良い関係になる事になるとは、この時はまだヒロトシ達も思いもしなかったのだった。

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