役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依

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第1章 役に立たないスキル

11話 冒険者の心得

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 マルクが普通の生活に戻り安らかに眠りについた頃、ギルドの地下牢ではとんでもない事件が発生していた。

「どういう事だ!ギルドの地下牢からディクト達が脱走しただと?」

「申し訳ありません!見張りが眠らされて……」

「言い訳はいい!奴らを取り逃したら大変な事になるぞ?」

「はっ!今捜索隊が懸命に足取りを追っています」

 ディクト達はどうやったのか、ギルドの地下牢から脱走をしたのだった。この情報は瞬く間にリーランの町に拡がり、雷神のメンバー4人は指名手配されたのだった。

 そんな事とは知らず、マルク達は冒険者ギルドの門をくぐった。すると、受付嬢のマヤが、マルクとシオンに慌てて近づいてきた。

「マルクさんシオンさん大変です!」

「どうかしたのですか?」

「申し訳ありません!ディクト達4人がギルドを脱走しました」

「「はぁあ?」」

「それでですね。ディクト達はマルクさんを恨んでいたみたいなので、町の外に行く時は充分に注意してください」

「そ、そんな!ディクト達はSランクスキルの持ち主ですよ?それをなんで脱走させるんですか?」

 シオンは、ギルドの責任を追及しようとした。

「ギルドも必至で捜索しているのですが……見つからないのです……」

「あまりにそれは無責任です!」

 シオンはマヤにきつい言い方をしていた。しかし、言い訳もできずマヤは頭を下げるしか出来なかった。

「シオン……それぐらいにしてあげなよ」

「でも、マルクもディクト達の強さを知っているでしょ?あたし達と同じDランクでも、実力はBランク以上よ」

「それは分かるけど、逃げてしまったのをマヤさんに文句を言うのは間違っているだろ?」

「それはそうだけど……」

「それでマヤさん。ギルドマスターはどうしたの?」

「ギルドマスターも今捜索部隊として動いています。絶対に逃げられない様に今足取りを……」

「それで正直な話その足取りは追えそうなのですか?」

「そ、それは……」

 マヤは、マルクの質問に言葉を詰まらせた。それを見たマルクはシオンの方を向きため息をついた。

「マルクどうしよう……」

「まあ、なるようにしかならないな……」

「そんな!ずっとディクト達から怯えて生活しないといけないわけ?」

「まあ、今の所何とも言えないね……」

「本当に申し訳ありません!」

 マヤは、マルクとシオンに頭を下げ続けた。そして、結局どうすることもできず、当初の目的である依頼を受けることにした。
 マルクは初めて掲示板の前に立ち依頼を選んでいた。今まではポーターとして雷神に在籍していた為、依頼は選べなかったのでこの行為はワクワクするものだった。

「ちょっとマルク。何で薬草採取を受けてんのよ」

「えっ?駄目なのか?」

「駄目とか言わないけど、1日探し回っても良くて30束ほどしか見つけられないんだよ?それじゃ、宿賃にしかならないじゃない」

 薬草依頼の報酬は10束で500ミストである。普通に1日探し回っても30束が限界で1500ミストしか報酬は出ないのだ。そうなると、宿代と晩御飯で報酬は無くなり朝ご飯が赤字になってしまう。

「大丈夫だよ」

「大丈夫って……今のマルクなら、ゴブリン討伐を受けた方が割がいいと思うだけど……」

「まずは、薬草採取から始めるのは冒険者の基本だろ?それか町の雑用だ。僕はやっとスタートを切れたんだから、薬草採取から頑張るよ。その途中で毒消し草や一角ウサギの肉を取ればなんとかなるしな」

 マルクは薬草採取だけでなく、毒消し草や一角ウサギの依頼も受けていた。シオンは、ゴブリン5匹の討伐の依頼を受けていて、ゴブリンの角を取って来る依頼を受けていた。ゴブリンの角は1個500ミストで買い取ってくれて2500ミストの報酬となるのだ。

「マルクは本当にその辺は融通が利かないんだから……」

「まあまあ、そう責めなくてもいいじゃないか」

「だって……」

「それにゴブリンだって、森に入ったら必ず出くわすわけじゃないんだし労力は同じだよ」

「そうかもしれないけど……見つかればゴブリンの方が報酬が高いんだよ?」

「まあまあ。その辺も含めて俺に任せてよ」

「なんか秘策でもあるの?」

「まあ、まずは北の森に行こう。あそこなら薬草もゴブリンもいるしね」

「まあ、当然よね。暁の明星初の依頼だし頑張ろうね」

「ああ!」

 そういって、マルクとシオンは北の森に向かうのだった。

「あっ!シオンどこ行くの?」

「どこ行くのって、薬草は川の近くで水辺の方が見つかりやすいじゃない」

「いやそっちは、他の人間が取ってしまっているからもうないよ」

「なんでわかるのよ!」

「ダンジョンから出るときマップを見せただろ?」

「あっ!なにそれ、あの世界地図って薬草の位置までわかると言うの?」

「そうだよ。向こうに群生地があるみたいなんだ。そっちにいこう!」

 マルクの言った場所には沼地が存在しており、そこにはあり得ないほどたくさんの薬草が生えていた。

「なにこれ!」

「なっ?言った通りだったろ?」

 薬草採取の場合、根っこを少し残して採取すれば、そこからすぐに次の薬草が育つので、根っこさえ残しておけば全部採取してしまっても構わない。
 
「まさか、こんなに早く薬草採取できるとは思わなかったわ……」

 薬草は一気に採取出来て50本採取できた。それと同時に毒消し草も生えていたので一緒に採取してしまい、毒消し草も30本採取できた。

「あとは一角ウサギの肉だけだな」

「なによもう!こんなに簡単なら先に言ってくれてもいいじゃない!森に入って30分で、ゴブリンの討伐依頼より稼げちゃったじゃない」

「まあまあ、そんなに怒らなくてもいいだろ?ゴブリンの所在ももう見つけてるんだし構わないでしょ?」

「本当に?」

「ああ、僕達は同じパーティーなんだ。自分だけの依頼で終わるわけないよ」

「なら許す!」

「許すって何だよ……」

「冗談だよ。えへへ」

 シオンは照れ隠しのように笑っていた。

「それにしても、最初から言ってくれればゴブリン討伐じゃなく、あたしも薬草採取にすればもっと儲けれたじゃない」

「いやいや……それはやめておいた方がいいよ」

「何でよ……」

「シオン、僕達はペアとして始めたばかりだ。それも雷神では役立たずと言われていて、その事は他のパーティーも知っている事だろ?」

「うん……」

「そんな二人が、いきなり薬草100本とかみつけて帰ったらどうなる?」

「あっ……」

「そう悪目立ちすることになるんだよ」

「じゃあ、こんな50本も取ったら悪目立ちするじゃない……」

「だから、今回は1日かけて30本だけ提出するつもりだよ」

「あと20本は?」

「僕が収納ボックスで預かっておくよ」

「でも、薬草が悪くなっちゃうよ?」

「僕の収納ボックスはインベントリと言って、中に入れた物品は時間が停止しているから悪くならないよ」

「嘘でしょ?」

「本当だよ。だから、今回みたいに群生地は中々見つからないから、明日以降の薬草採取と一緒に買い取ってもらおうと思っているんだ」

「……」

「これなら悪目立ちもしないし、他の冒険者達から絡まれる心配もないはずだよ」

「確かにCランクを越えるまでは大人しくしておいた方がいいかもね」

「そう言うこと。まあ、絡まれても何とかなるとは思うけど進んで目立つ必要はないだろ?」

「た、確かにそうね……マルクの言う通りだわ」

「Cランクになれるのはまだ先として、Cランクになればオーク討伐の依頼も受けることが出来ると思うし、ダンジョンに2人で入っても、そんなに目立つ事も無くなるからそれまでがんばろう」

「わかったわ。やっぱりこの辺りの行動はおじさん達に聞いたの?」

「うん。その方がいいだろうって聞いてた」

 マルクは、両親から冒険者達の心情をよく聞いていた。Cランクに上がるまでは目立たない様にするのがベストだと。Cランクに上がれば、ベテランと他のパーティーから認められるので、それまでは基本に忠実にして着実に依頼をこなし、目立たない様にする方がいいと言われていた。
 Dランクまでで急に目立つと、先輩冒険者から絡まれる事があるからである。普段は気が優しくても、運悪く依頼を失敗するときもあるからだ。
 そうなると、自分は依頼を失敗しているのに、Dランクのくせにと嫉妬される恐れがあると教えられていた。

「向こうにゴブリンがいるみたいだから向かおう」

「そうね」

 シオンは、マルクの考えに賛同して、笑顔でゴブリン退治に向かった。シオンは、マルクに感謝したのだった。目立ちすぎると確かに先輩冒険者に絡まれる恐れがあった。マルクの実力ならば対処できるはずだが、自分にはその対処の自信が無かった。つまり、マルクは自分の事を想ってそのように対処してくれたのが嬉しかった。

「マルク、ありがとね……」

「ん?何か言った?」

「うんん!何でもないよ」

 そう言ってシオンは、北に向かってダッシュした。

「お、おい!待ってよ!」

 その後をマルクは慌てて追いかけるのだった。

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