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58話 間に合わず

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 衛兵の隊長は、クロス達にも事情を聴かないといけない為、一緒に兵舎の方に来てもらっていた。

「あの、隊長さん。俺達は王城に戻らないといけないんだが……」

「どういうことだ?こちらとしても、事情を聴かない事には公爵様の取り調べが……」

「それは、国王様が直接やると思うから俺達には関係ないよ」

「しかし、君達の証言を報告しなきゃいけないからな……」

「とりあえずそれは後で協力するから、とりあえず王城の方に行かせてくれないか?」

 兵士達はマニュアルに従って動いている為、なかなかクロスの思った通りに動く事が出来なかった。

「隊長さん、そんな融通の利かない事ばかりしてたらあとで困るのは貴方の方よ。それでもいいの?」

「オウカさんにも何回も言っているが、これはちゃんとした手続きなんだ」

「ったく……お役所仕事ってホント融通がきかないんだから!とりあえず、国王様に連絡を取りなさいよ!」

「国王様に、中途半端な報告など出来るわけなかろう!」

 衛兵の隊長は、実に真面目な男であり自分の仕事を誠実に全うし、オウカはその生真面目すぎる対応にイライラしていた。するとそこに、一人の男性が部屋に入ってきたのだった。

「第5隊長アランに国王様から伝言である」

「えっ?国王様から?」

「あーあ……だから言ったのに……」

「今すぐに、クロス殿とオウカ殿を王城に連れてくるように指示が出ておる。2人は私が案内するので、お主はそのまま他の者の事情聴取をするように!」

「ちょ、ちょっとお待ちください!二人の聞き取りはよろしいのですか?」

「ああ!今回の事は国王様の知る所であり、二人には何の問題が無い事がわかっている!」

「あたしはしーらない」

 オウカは、アランをジト目で見つめていた。

「オウカ殿……この事は国王様には……」

「今まで、あたし達の言う事は規則だと言って何も聞いてくれなかったのに、自分の言う事は聞いてくれと言っているの?」

「うっ……」

「王国兵士の人って、随分と都合の良い事ばかり言うのね。クロスの気持ちがよくわかるわ!」

 クロスは、アランの肩にポンと叩いた。そして、憐みの目を送ったのだった。

「ク、クロス殿……」

「人生いろいろあるさ。まあ、頑張れ……」

「そ、そんな……私はただ……職務に忠実に……」

 アランを横目に、クロスとオウカは部屋に入ってきた男と一緒に兵舎から出て行くのだった。




「クロス様オウカ様遅くなって申し訳ございませんでした……」

 迎えに来たのは、王宮で働く執事とメイド達だった。

「ダニエルさんホント助かったよ」

「馭者、早速だが急いで王宮までよろしく頼みます」

「ジークフリード様はどうだ?」

「それが、一気に症状が進んだのです。呪い自体の持続はなくなったみたいなのですが、惰性ですすんでいるみたいです」

「馬車が進んで、急ブレーキがかかった感じで呪いが進んでいる感じ?」

「オウカ……その例えはよくわからないよ……まあ、言いたいことは分かるけど……」

「うるさいわね。分かるならいいじゃない!」

「それで、今どういう感じなんだ?」

「それが、王宮魔道師たちが必死で呪いの進行を止めている最中です。しかし、呪いは亡くなったはずなのに、少し前に蝋燭が消える時一瞬炎が大きくなるかのように、呪いの威力が大きくなったんです」

「ああ……マゼランを殺した時かもしれないわね……」

「どういう事ですか?」

「ジークフリード様に、呪術を施していたシャーマンを殺した時、魔法陣が一瞬輝き徐々に消えて行ったのよ。その輝いたとき、一瞬魔力が増大したのかもしれないわ……」

「な、なるほど……」

「じゃあ、そのままでもいずれ呪いは解けるんじゃないの?」

「オウカ……確かに呪いは解けるかもしれない」

「なら、そんなに慌てる事もないんじゃないの?」

「ジークフリード様の体力が普通ならな。だけど、ジークフリード様は長い間呪いに犯されていて、体力がもうないんだよ」

「あっ……」

「だから、俺が早く王城にいって、呪い自体を解除したかったんだよ」

「クロスは、王様に事件解決の報告をして、早く手を引きたいんだとばかり思っていたよ」

「まあ……それもあるけど。重要な事は早くやらないといけないだろ?」

「た、たしかに」

 馬車の中でそんな話しをしつつ、時間だけが過ぎ去っていったのだった。そして、クロス達がジークフリードが寝ている部屋に入った時、信じられない後景が目に入ってきたのだった。

「うううう……ジーク……」
「「ジークぅ~~~」」

 王様は王妃達は、ジークフリードのベットを囲みみんなで泣いていた。部屋に案内したダニエルは目を見開き、その場から動けなくなっていた。

「そ、そんな……」

「クロス様……間に合わなかったみたいです……」

「えっ?」

 すると、国王がクロスの前に立って、頭を下げてきたのだった。

「ク、クロス様……ジークは呪いに耐えられず結局……な、なぜだ?」

 国王は、クロスが事件を解決してくれたのは分かっていた。しかし、ジークの命も助けてほしかったのだった。国としての事件を解決してくれたことに感謝はしたが、ジークフリードの命は亡くなってしまった事でどうしてもやるせない気持ちだったのだ。

「あなた達が、もっと早く解決をしてくれれば!」

「エリス!やめるのだ。クロス様も尽力を」

「ですが!もっと早く来てくれれば……」

「エリス‼もうやめるのだ……亡くなったのは、クロス様のせいではあるまい」

 エルスを始め、王妃や王女はジークフリードを囲み泣き伏せたのだった。そして、国王は跡取りの事やこれからの事を考えていた。




「跡取りは、マルクに……」

「あ~国王様。それは止めた方がいいですよ」

「なぜじゃ!跡取りは第二王子であるマルクに……」

「それが、マルク様は公爵様と国王様の側室のお子様ですよ。あたし、公爵様を捕らえる時聞きましたもの!」

「な、なんだと……」

「でも、側室の方には罪はありませんよ。なんでも公爵様が無理やり……」

「ば、ばかな!オウカ殿それは本当なのか?じゃあ、王国には跡取りがいないというのか?」

「ジークフリード様が、お亡くなりになったんでそうなるかと……」

「むぐぐぐ!ハーミルのやつ、許さぬぞ!」

 国王や王妃たちの怒りは凄まじいモノだった。側室が浮気などと国王に対する裏切り行為は重罪だった。

 しかし、マルクの母親である気持ちも分からなくではなかった。公爵に襲われたとはいえ、身ごもってしまった事を正直に話せば自分はどうなってしまうのか分からなかったからだ。

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