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48話 クロスの要望

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 クロスは、王都の中に入り早速ギルドに向かおうとした。すると、一緒についてきていた兵士が声をかけてきた。

「クロス殿、どこに行くつもりですか?」

「えっ?どこってギルドに決まっているだろ?」

「ちょ、ちょっとお待ちください。まずは、お城の方に来ていただけないでしょうか?」

「はあ?なんで俺が城に?」

「そりゃそうですよ。国王が貴方ここに移住せよと言われたのですよ?まずは、挨拶をしていただかないと」

「遠慮するよ。俺はタダの冒険者だし、貴族様に対しての礼儀も知らないしな。それに俺は王族に世話になるつもりはないし、自由に冒険者家業をやるつもりだからな」

「そ、そんな……ちょっと待ってください!国王は時間を空けて、あなたの到着を待っていたんですよ?」

「俺を待っていた?国王様が?」

「そうですよ!国王様が時間を空けていたのですから来て頂かないと困ります」

「でも、俺は礼儀や敬語なんかもままならないが良いのか?」

「国王も冒険者とはどういうものか知っておいでです。構いませんよ」

「じゃあ、あくまでも俺と言う人間のままでいいんだな?」

「はい!かまいません」

「それじゃわかったよ。ギルドで家を購入するつもりだったが、それは後回しにするよ」

「あ、ありがとうございます。それではこちらで馬車を用意していますのでどうぞ」

 クロスは、王城で用意していた馬車で城に向かったのだった。お城は王都の中心部にあり、あまりに大きな建物だった為、遠くからでも確認ができていた。

 お城の前に着いて、クロスはさらに驚いた。クロスは完全に田舎から出てきたお上りさん状態になっていた。

「すげえ!むっちゃでかいなあ」

 馬車の中にはメイドが乗っていて、クロスの反応にクスクス笑っていた。

「初めて見た人は皆同じ反応ですよ」

「そりゃそうだよなあ。こんなの初めてだし、俺は城壁の高さだけでも驚いたからな」

「わかります。わたくしも初めて王都に来たときそんな感じでしたよ」

「やっぱそうか」

 クロスは、メイドと話しながら王城の中へと案内された。そして、謁見の間に通されて、ここで待つようにと言われたのだった。
 クロスは、この謁見の間には結界が張ってあると感じた。やはり王様と面会する部屋だけあって、厳重な大勢だと思ったのだった。
 少しすると、騎士団と魔法兵団が部屋の側面に並びだし、そのあと上級貴族、つまり宰相や公爵等が入って来た。
クロスは膝をつき頭を下げ、国王の登場まで待った。 そして、最後にこの国のトップ国王が入ってきて、正面にある豪華な椅子に鎮座したのだった。

「面を上げてくれ。長旅ご苦労であった。そなたがクロスだな?わしがこの国の王エラン=ロスロードだ」

「はい。このたび、俺を王都に招待してもらってありがとう。俺はクロスと言います」

「これから、この国の為に尽力してもらうのでよろしく頼むぞ」

「えっ?」

 クロスは、国王が何を言っているのはよく分からなかった。そして、クロスが発した声に、貴族達が反応したのだった。

「え、とは何だ無礼だぞ?」

「いやいや、俺は国のために働くつもりはないよ。ここに来いと言われたから来ただけだ。そうしないと、ムーンタリアの領主様が困ることになるからな」

「なっ!」

「何を驚いているか知らんが、俺はここで冒険家業をするだけだよ」

「馬鹿な事を言う出ない!国のために働けるのだぞ?」

「えーっと、貴方は宰相様ですか?」

「ああ、宰相のベイハン=ロスロードだ」

「そうですか。ベイハン様、俺は国で働く事には魅力を感じておりません。俺は冒険者です。本当ならムーンタリアで妻になる恋人とのんびり生活したかったんですよ。だけど、いきなり命令されてここに来ました。国で働くいう事は時間を取られて、帰省することも満足に出来なくなります」

「だったら、その恋人も王都に……」

「恋人も、ムーンタリアの方が大事なのですよ。だから、連れてくるつもりはありません」

「馬鹿な事を!国王の事を一番に考えるのが当たり前ではないか!」

「そりゃあなた達は国王の部下だからだよ。俺は部下でも何でもないし、冒険者だから立場が違うよ」

「クロスよ。それぐらいにした方がよい!わしが笑顔でいるうちにその態度を改めよ」

「国王様!あなたは、俺にいきなりここに移住せよと命令してきましたよね?」

「ああ!その通りだ」

「俺は、その命令に従った。何か問題が?」

「それは問題ない!もし従わなかった場合、ムーンタリアには謀反があったと思うからな」

「じゃあ、それでここに来たら来たらで、俺を飼い殺すつもりだったのか?」

「無礼者!わしがそんなことする訳!」

「だったら、いいじゃないか?俺が今まで通り冒険者でいる事に何が問題があるんですか?」

「冒険者より国で働いた方が、それなりの地位にもなれるし給料も多くなる。そっちの方が幸せではないか?」

「だから、俺はそれを幸せとは感じないから意味が無い。俺は最初から王都では家を買い、最低限の依頼しかするつもりはないよ。後は、ムーンタリアに帰省してのんびり生活をするつもりだ」

「むぐぐぐ!無礼者が!よくぞ、このエランに向かってそんな大口を叩けたな!この者をひっ捕らえよ!」

 国王の号令で、周りにいた騎士団、魔法兵団がクロスに対して剣と杖を構えたのだった。


 クロスは初めから、王国のいう事など聞くつもりはなかった。領主やギルドが自分を守ってくれない事が分かり、自分の実力を示す事で、クロスは自分の要望を言いに来ただけだったのだ。

「国王様!俺の実力をはき違えてないか?」

「くはははははは!ここには結界が張ってある。お前は何もできはしない。いくら実力があっても赤子同然だ」

 謁見の間だけではなく、城には要所要所には、魔道部隊が数人がかりで張った強力な結界が張ってある。その為、よそ者はその実力の1%も出す事が出来ないので、国王や貴族達は余裕で笑っていた。

「今、謝罪をしたら許してやるぞ?」

「何で俺が謝らねばならん!自分勝手な事ばかり言いやがって」

 その瞬間、騎士達がクロスに跳びかかった。その瞬間クロスは【テレポート】を使い後方に飛んだ。この魔法は目視できる場所に瞬間移動できる時空魔法である。
 そして、全体が見えるようになったクロスは、片手を上げて上空に巨大な火の玉を作り上げたのだった。

「馬鹿な!何でこの部屋で魔法が使えるのだ……」

「国王逃げてください!」

 騎士団長が叫び、国王や貴族達は部屋の奥にある扉から逃げ出そうとした。しかし、当然扉が開くことはなかった。

「な、何故じゃ!扉が開かん!」

「魔法兵団!何をしておる。魔法を撃ちこめ!」

 魔法兵団は、クロスに向けて一斉に【ファイヤーボール】【エアカッター】【グランドバレット】【ウォータージャべリン】を一斉に打ち込もうとしたが、反対に魔法が発動せず撃てなかった。

「「「「「な、なぜだ!魔法が……」」」」」

 王国が張った結界は、クロスに対してなんの意味もなさなかった。これは王宮魔法師団が最大スキル5レベルだった事にあった。
 この結界は数人がかりで協力して張った結界だが、5レベルまでしか封印できなかった。つまり、6レベルであるクロスに対してなんの意味をなさなかったからである。
 その為、クロスのに結界の上書きされてしまい、国王達は闇ギルドと同じ立場となり、謁見の間から脱出不可能となってしまったのだ。

「さてと、国王様。どうしますか?」

「騎士団は何をしておる。早くかからぬか!」

「騎士団の人達はもう動けませんよ」

「「「「「うう……動け……」」」」」

 クロスの魔力は、尋常ではなくクロスを中心に半径5mの範囲には【マス・パラライス】の範囲魔法がかけられていた。
 クロスを斬りかかろうと飛びこんだら最後、クロスを中心に半径5mの中に入ると麻痺して、今や言葉も発することが出来なくなっていた。

「ば、馬鹿な……王国騎士団が、たった一人になすすべもなく……」

「国王様、このまま俺を自由にしておいてくれませんか?」

 クロスは、謁見の間の入り口である大扉の前で、片手を上げて訴えかけていた。

「王国がたった一人の人間に屈するなんて承諾は出来ん!」

「そうですか?じゃあ、命よりプライドが大事だと?」

「当たり前だ!平民の分際で王族にたてつく方が!」

「じゃあしょうがないですね。ファイヤーボー」

「ま、まて!」

 クロスは、振り上げていた右手の上空にある、巨大な炎の球を国王に向けて発射しようとした。これには国王を始め、上級貴族達が目を見開き顔を真っ青にした。

「「「「「ク、クロス殿!待ってくれ!」」」」」

「なんですか?プライドの方が大事なのですよね?」

「プライドも大事だが……命はもっと大事だ!」

 宰相がそう叫んだ!この時の貴族達の心境は、冬山で眼前に迫る雪崩と同じくらいの、恐怖を味わっていた事だろう。なすすべくもなくすべてを飲み込むかのような恐怖に、ただ歯をガチガチ鳴らし恐怖するしかなかったのだ。

「だが、あんた達は俺の命を奪おうとしたじゃないか!奪うと言う事は奪われる覚悟もあったのだろ?」

「ゥぐっ……」

「奪われそうになったら、助けを請うのが貴族のプライドなのか?」

 クロスの言葉に、貴族達は何も言えなかった。まさか、クロスが強いと言っても、ここまで完璧に封じ込められるとは思ってもいなかったのだ。

「いいか?俺は冒険者だ。ギルドは当てにならないから、自分の力をみせ自由を勝ち取ろうと思いここまで来た。国王様の命令で、ここに来たわけじゃない」

「ぬぐぐぐ……」

「王都には、家を買い住んでやるがただそれだけだ。俺を思い通りにできるとは思わないでくれ」

「……」

 クロスは、自分の要望を伝えた。それに対して国王達は何も言わなかった。

「えーっと言葉は?」

「そんなのは認められん!王族が平民の言いなりなどになったら示しがつかん!」

「「「「「こ、国王!」」」」」

 貴族達は、国王の言葉に冷や汗を流した。今の状況はどこにも逃げれない。かと言って、騎士達は直接攻撃をしようとしたら麻痺で動けなくなり、魔法師団は遠距離攻撃をしようにも魔法が使えないのだ。

 一方、クロスはあり得ない程の炎の球を頭上に抱え、いつでも発射できる状態で待機しているのである。あの炎球はタダのファイヤーボールではない。最上級の【インフェルノ】だと皆思っていた。

「国王様、貴方は自分の立場が分かっているのですか?この炎をこうやって少し動かせば……」

 クロスは、右手を少し動かした。

「ま、待つんだ!」

「この世から、骨も残さず消え去りますがいいのですか?」

「わ、分かった……お主には手を出さない事をロスロードの名に懸けて誓う……だから、その炎を収めてくれ……」

「そうですか。分かってくれて良かったです」

 クロスは、右手に作った巨大な炎の球を消したのだった。それを見た貴族達はその場にへたり込んでしまったのだった。


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