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50話 神聖獣、玄武の力

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 モーレンの町のギルドマスターは、机をおもいっきり叩いて奥歯を噛みしめていた。その大きな音に驚いたギルド職員が、通信室に入ってきた。

「ギルドマスター。何かあったのですか?」

「それが……さっきギルド本部がある王都に連絡を取った」

「それで王都では何かあったのですか?ドラゴンが向かったことは連絡をしたんですよね」

「それがそのドラゴンはもう王都に……」

「そんな馬鹿な!王都まで、どれだけの距離があると思っているのですか?そんな数十分で、何日もかかる王都に着けるわけが……」

「あのドラゴンが、普通のドラゴンならこんな早くつけることはなかっただろう」

「普通のドラゴンだったら?」

「あのドラゴンの正体は、古の時代から存在する叡智龍だそうだ……」

「そんな……それで王都は?」

「滅亡するかもしれんと……」

 ギルドマスターの言葉に、職員達は言葉を失ってしまった。そして、ギルド職員は人類の選択は間違ってしまったと後悔したのだった。



 その頃王都では、城門前に降り立った飛翔竜王が城門にいる兵士達に睨みをきかせていた。城門を守る兵士は、ドラゴンをけん制して、城門前に隊列を組んでいた。

「なんだ?ドラゴンの背から誰かがおりたぞ?」
「馬鹿な!相手は人の言葉をしゃべる叡智龍だぞ?その背に乗っていたというのか?」

 そして、こちらに向かってくる人影が二人あった。

「と、とまれ!それ以上こちらに来る事は認めぬ!」

 しかし、二人の女性はその言葉を無視して近づいたのだった。その二人はカグヤとダイヤの二人である。

「それ以上近づくなら敵とみなすぞ!」

 城門には兵士達が、城壁には弓矢と魔法師団がカグヤとダイヤにいつでも発射できる構えを取っていた。城門を守る兵士は、カグヤとダイヤが射程距離に入ったとたん大声で叫んだ。

「弓矢隊、魔法師団!撃てぃ~~~~~!」

 その言葉を合図に一斉射撃をした。

「カグヤ、私の後ろに」

 カグヤは、ダイヤの言葉にすっと身を隠した。ダイヤの正体は、神聖獣の一人土属性を持つ玄武である。物理魔法攻撃を無効化するほどの防御力をもつのである。
 あり得ない程の弓矢は全て弾き飛ばされ、魔法も又ダイヤの周りだけ魔法が消失していたのだ。その様子を見た騎士団は信じられなかった。

 豪雨のように降りそそいだ弓矢は、女には一切刺さらずダメージは一切おっておらず、又魔法はその女を中心に半径3mほどだが魔法は消失した。

「ば、馬鹿な……ぅ、撃てぇ~~~~~!あ奴らを王都に近づけるな!」

 兵士達は城門の前で隊列を組み、城壁からはあり得ない程の弓矢と魔法が降り注いだのだった。その時、飛翔竜王がしゃべったというより、兵士達の頭の中に直接響いたのだ。

「静粛に!我らはまだ戦いに来たわけではない!」

「「「「「ぐっ!」」」」」

 兵士達は、頭を押さえてその場にうずくまった。

「何だこの声は!」
「頭の中に直接響く……」
「まだ戦いに来たわけじゃないだと……」
「いったいどういうことだ!」

 その言葉には強制力みたいなものがあった。そのため、兵士達は弓矢や魔法を討つのをやめてしまった。

「その二人に、攻撃するのはやめて手紙を受けとるのだ!要件はその二人に聞け!」

「要件だと!」

 すると、カグヤは胸の谷間から手紙をだし、この隊の責任者に手渡した。

「また会ったわね」

「き、貴様は……」

「わたしは貴方に、ちゃんと王族に主様の要件を伝えなさいと言ったはずよ。なのに、このありさまはどういう事ですか?」

 騎士団長はカグヤの顔を見て、何も言えなくなってしまった。

「そ、それは……」

「わたしは、貴方達にチャンスを与えてあげたのですよ?それなのに、主様のダンジョンには奴隷を囮にしないで、奴隷達の法改正をしないなんて、わたしの主様を馬鹿にしているのですか?」

「ぐっ……」

「それとも、貴方達はわたし達がここに来れないと思って、気軽に考えていたのですか?」

「そんな簡単に法改正など……」

「何を言っているのですか?貴方達はわたしの主様のダンジョンに攻め込んで敗退したのですよ?それとも国を、滅ぼさなければ立場を自覚出来ないほど愚かなのですか?」

「そ、それは……」

「いいのですか?あそこにいる飛翔竜王はまだ優しい部類の龍ですよ。これ以上わたしの主様の事を蔑ろにすると、今度は気性の荒い極炎竜王がここに来る事になりますわよ」

「なっ⁉我々を脅すつもりか!」

「何を言うかと思えば、このやり方は貴方達の主が最も得意とする方法ではありませんか?」

「うぐっ……」

「それとも1000年続いた王国が滅ぶ道を進みますか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!主君に意見を求める」

「まだ、自分の立場が分かっていないようですね。わたし達は、お願いしているわけではありません」

「なんだと!我々が下手に出ていれば調子に……」

「調子に乗っているのはどちらですか?まあ、いいでしょう!そこまで自分達の立場が分からないのでは分からせてあげましょう!ダイヤお願いします」

「分かりましたわ」

 すると、兵士達は驚いた。いきなりゴゴゴゴゴゴっと地響きがなり、王都に地震が襲ったのだ。

「貴様ぁいったい何をやった!」

「だ、団長!大変であります!王都の第一城壁が!」

 城壁にいた弓兵が大きな声を出した。王都の中心部は王城と貴族街になっていて、一番内側には城壁が作られていた。その城壁がもちあがりあり得ない程高い壁となって、王城と貴族街は完全に隔離されてしまった。
 そして、王族と貴族達は中心部から逃げる事が出来なくなってしまったのだ。

「な、なんてことを……貴様ぁ~~~~~!」

 団長はカグヤに対して剣を振りぬいた。しかし、カグヤは団長の剣を親指と人差し指でつまんで、白羽取りをしてしまった。

「団長さんだっけ?あれはまだ序の口よ」

「ぐううううう!離しやがれ……」

 その様子を見ていた部下達は、目の前で何が起こっているのか理解できなかった。

「団長さん?王族や貴族達は本当にこの世にいると思います?」

「何を馬鹿な事を!いるに決まっている」

「今、王族達は隔離されて安全だと思っているのでしょうが、それは間違いですよ?今その証拠をお見せしましょうか?」

 そういって、カグヤは団長の剣をパッと離した。団長はいきなり剣を離されたため、その場で尻もちをついてしまった。

「や、やめろぉ!」

「まあ、大人しくあの山を見ていて頂戴」

 カグヤは、団長達に王都の東に位置する山を指さした。そして、ダイヤが【メテオ】と小さくつぶやいた。

 すると、城壁の上にいた兵士が大声で空を指さしたのだった。

「あ、あれはなんだぁ!」
 
 指さした方を見ると、上空から隕石が降ってきていたのだった。メテオとは、ダイヤが使う最大級の範囲攻撃である。上空に岩の塊を出現させ、隕石として落下させる辺り一面を焼け野原にするスキルである。

 その大岩は、山に命中し大爆発を起こした。そして、それが収まると信じられない事に、今までそこにあった山は消え去り、クレーターが出来上がっていたのだ。

「なっ……な、な、な、な、何をやったんだ⁉」

 すると、今まで黙っていたダイヤがクスクス笑い、団長に話し出した。

「団長さん?どうしますか?私の旦那様の言う事を聞きますか?」

「な、何を言っている……」

「まだ何もわからないのですか?今のメテオを王城に落としたらどうなると思いますか?王族達は一瞬であの世行きですよ?しかし、あの爆発は高い壁に遮られて平民は助かりますが!」

「ま、待ってくれ!」

「待ってくれ?カグヤの言う様に、まだ自分の立場が分かっていないようですね」

「い、いや……待ってください……」

 団長は、その場に土下座して、ダイヤに頭を下げたのだった。


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