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49話 飛翔竜王のスピード

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 ダンジョンから、連合国が去ってから半年の月日が経った。ダンジョンでは、冒険者がまた戻りつつ、騎士団も4階層まで巡回するようになっていた。

 冒険者は、このダンジョンであまりに油断しなければ死亡することはなく、3階層までは普通のダンジョンとして活用していた。

 マサルも、それらの様子を見て、地上がこのダンジョンをどのように扱おうとしているのか、慎重に見極めようとしていた。

「ご主人様、最近冒険者達は奴隷を囮にしていませんね」

「そうだね。モーレンの村の様子はどうだった?」

「それが、この半年であの村は人口増加で町へと変わり、村長はもういません」

「えっ⁉あの村長はいなくなったのか?」

「えぇ……なんでもこのダンジョンを発見する事が遅れたことの責任をとらされたようです」

 ルナの説明では、モーレンの町ではマサルのダンジョンは見つかったばかりだと最初はそうなっていたが、あんな高ランクなダンジョンは、出来上がったばかりではないと結論に至ったそうで、その責任を村長がとらされたらしいのだ。

「なんか、凄い言いがかりだね……」

「王国も騎士団が、再三敗退した事への言い訳が欲しかったんだと思われます」

「なるほど……確かに出来たばかりのダンジョンで騎士団が、それも連合としてやってきた騎士団が尻尾を巻いて撤退というのは恰好がつかないのかもね」

「そういう事ですね。それでこちらが今回の売り上げです」

「こんなに売れたのか?」

「はい!やっぱりポーションや薬の需要は大きいんですよ」

「そっか、いつもありがとね」

 このころになると、マサルはルナに保護した奴隷達と一緒に、町へポーションを売りに行かせていた。

「それで何ですが、もうファントムミラージュのスクロールは必要ないかと思います」

「どういうこと?」

「村長が責任を取らされた事で、モーレン村で生活していた人間の大半は移住してしまったらしいのです。その為、スクロールで姿形を変える必要はもうないかと思われます」

「えっ⁉なんで?」

「町になってしまい、生活しにくくなった人間や、又自分達も責任を取らされるんじゃないかと不安になったようですね。今や、あたしやソフィアの顔をしる人間は殆どいないかと思われます」

「そうなんだ……本当に平民達は生活しにくい世の中なんだな」

「まあ、ご主人様が気に病む必要はありませんよ。これでまた、DPが増えそうですね」

 マサルが、ルナにポーションを行商に行かせたわけは、お金が欲しかったからだ。ダンジョンオーブにお金を奉納することで、10ゼニーで1DPになるからだ。
 余談ではあるが、マサルがモーレンの村にポーションを行商させたことで、村から町へと急成長したのは言うまでもない。そして、この行動がモーレンの町に新たな錬金術師が現れたと噂になったのだ。

 マサルのポーションの印は㋮の字だったが、今度は平仮名でまと、印をつけたのだった。ポーションの空瓶はDPで作り出したものだ。
 空瓶なので、100個1DPはお買い得であるが、最初なんの印もつけず行商してもらおうと思ったが、何の印もついてないポーションは、ダンジョン産と決まっていた為、行商するには数が多すぎたのだった。

 マサルはこの成果にご満悦だった。この調子なら冒険者の犠牲を極力少なくして、ダンジョンをSランクに成長できるとおもった。

「それで、もう一つ報告があります」

「そうか。それでどうだった?」

「やはり王国は、奴隷の人権を認めずこのダンジョンでの奴隷の囮を禁じました。それだけを公式で発表し、それ以外では通常通りの扱いをしているようです」

「やっぱりそうなったか……」

「はい……」

「それじゃ申し訳ないが、ルナとソフィア。飛翔竜王に乗って王都まで……」

「あの……ご主人様!」

「ソフィア、どうかしたか?」

「私は行きたくありません……他の者に言ってもらえませんか?」

「ちょ、ちょっと、ソフィア何を言っているのよ!」

「ルナは黙って頂戴!あの、ご主人様……それは、どうしてもわたしが王都に行かないといけませんか?」

 マサルは驚いていた。今まで、ソフィアがこんな風に拒絶をしてきた事がなかったからだ。

「訳を聞いてもいいかい?」

「わたしはご主人様の身の回りのお世話をする為の奴隷でした。今は眷族となって、レベルがあり得ないほど高くなってこうした指示も可能です。しかし、わたしの本職は、ご主人様にご飯を作ったり洗濯などをする事です」

 ソフィアは、自分の仕事に誇りを持っていたからこそ、マサルの側を離れたくなかったのだ。つまり、ルナとはマサルの役に立つというのは同じだが、内容が全然違うのだった。

「なるほどね。ソフィアの言う事はよくわかったよ。でも、それで本当にいいの?」

「どういう事でしょうか?」

「ぼくは、ソフィアが強くなったから王都にいって活躍をしたいと思っていたんだ。だから、ソフィアを指名したんだよ」

「それなら大丈夫です。戦闘で役に立つ人間はここにはいっぱいいますからね。その方たちに任せます。わたしは只レベルが高いだけですので……」

「わかったよ。変に気を遣わせてごめんね」

「いえ……わたしよりほかの者の方が役に立つでしょう」

「それじゃ、ルナはダイヤとカグヤの3人で王都に行き、王国にこの手紙を届けてくれるかい?」

「「「わかりました!」」」

「それじゃ、セイミ、ビャクヤ、グレン、後はダンジョンの守りを頼みましたよ」

「ああ!分かっているよ。地上の攻撃なんかへでもないからね!」

「グレン。貴方は調子に乗る所があるから油断しないようにね」

「ったく……カグヤは心配性なんだよ。いいから早く行って来なさいよ!」

 グレンは、カグヤの小言に面倒くさそうにしているのをみて微笑んでいた。

「それじゃ、行ってきます」

 そういって、ルナはダイヤとカグヤを飛翔竜王を連れて、ダンジョンの入り口に出たのだった。ルナたちは、万が一の時の脱出口からダンジョン外に出た。ダンジョンの入り口とは違い、裏山の場所に作られた出口には、普通の岩に見える様に出入口を隠していた。

 そして、飛翔竜王は人化を解いて、その巨体をあらわにしてルナたちをその背に乗せて、王都に向かって飛び立ったのだ。
 飛翔竜王が飛び去った事は、モーレンの町で確認され町中騒然となったのだ。

「ギ、ギルドマスター!た、た、た、た、大変だぁ!」

 冒険者パーティーが、モーレンの町の冒険者ギルドに息を切らして飛び込んできた。

「カインさん、どうかしたのですか?」

「あのダンジョンから、あり得ない巨体のドラゴンが飛び去った!」

 冒険者の言葉で、ギルド内は騒然となったのだ。

「そのドラゴンは、こちらに向かっているのですか?」

「いや……あり得ねえ速さでどこかに飛び去った。あの方向は王都だと思うのだが、あっという間に見えなくなったから正直どこに行ったかよくわからねえ」

 冒険者の報告に、受付嬢は対応に困ってしまった。スタンピードが起こり、この町に来ているというのならともかく、どこかに行ってしまったというのでは対処のしようがないのだ。

「と、とにかくギルドマスターに報告はします。貴方達は町に待機をしていて下さい」

 受付嬢は、すぐにギルドマスターに報告。手の空いている冒険者達にはダンジョンの様子を偵察させたのだった。

「それは本当なのか?」

「はい!カインさんがそのように報告してきました。しかし、そのことだけであって、ダンジョン内から返ってきた冒険者は他に異常はなかったと……」

「わかった!とりあえず緊急事態なのは確かだ」

 ギルドマスターは、通信魔道具を使って、王都の冒険者ギルドに連絡を取ったのだ。

「応答せよ!こちらモーレン支部のギルドマスターハンスだ。誰か応答せよ」

「どうした!こちらはそれどころではない!手短に頼む」

「たった今、冒険者から報告があり。モーレンのダンジョンから、王都に向かって巨大なドラゴンが30分ほど前に飛び去ったと……」

「なんだと?あのドラゴンはモーレンからだったのか?」

「ま、まさか!もう王都に着いているのか?」

「ああ!王都は今パニック状態だ!王都の正面城門にドラゴンが陣取り対処のしようがないのだ!」

「そ、そんな……」

「た、たぶんこのままでは王都は滅亡するだろう……」

「ば、馬鹿な……たかがドラゴンだろ?王都には騎士団の本隊があるではないか?それに冒険者もSランクが」

「いや……あれは只のドラゴンではない。龍だよ。人の言葉を話し、王国に自分達の言う事を聞かなければ、宣戦布告をすると言ったのだ……」

「龍だと……」

「とにかく通信を切る。情報提供感謝する!」

 それだけ言われて、通信を切られてしまった。モーレン支部のギルドマスターは通信機の前で、何もできない自分に苛立ちを覚えていた。まさか、こんな短時間で龍が、王都に行けるだなんて思ってもいなかったのだ。

「な、なんてことだ!」

 通信機より早い移動手段が、この世にあるとは思いもしなかったギルドマスターはテーブルを激しく叩いた。

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