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46話 ダンジョンの恐怖

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 それから半年の月日が経ち、連合国がマサルのダンジョン前に集結していた。王国や帝国は騎士団。聖教国はクレリックやビショップが揃い、魔人国は魔法のエキスパートで、ドワーフ国からは機械仕掛けや武器や防具などを調達した隙の無い連合だった。
 エルフ国は結局この連合には不参加を表明。今回連合の穴があるとすれば、弓矢などの物理攻撃である。そして、エルフの諜報能力である。

 しかし、これらはエルフの専売特許ではなく、王国にも斥侯部隊はあるのでさほど心配はいらなかった。

「今回は、王国領の事で集まっていただき本当に感謝する!」

「「「「「おおおおお!」」」」」」

 その号令は、地鳴りが起きたように響き、20km先まで聞こえたという。それほどまでに連合国の士気は高かったのだ。
 そして、連合は各国の精鋭を選出し、ダンジョンへと突入したのだった。



「マスター!遂に来ましたよ。ダンジョンの入り口には見渡す限り、人間で埋め尽くされています」

「ついに来たな……」

 マサルは、この世界にやってきてからソフィアとDPで購入した書籍で色んなことを勉強をしていた。魔法の使い方もそうだが、この世界の常識を知った事は一番の財産だと思っていた。

「マスター。どうするのですか?この人数ではあっという間に、ダンジョンを攻略されてしまいますよ?」

 ダンジョンオーブのアルモニーは、ダンジョン前に集結した人間の数に慌てていた。それもそのはずで、精鋭部隊が突入し魔物を瞬殺していき、その後に人間が続々侵入してくるのだ。
 そして、ある程度の大きさの空間場所に中継地点として、キャンプを張っていくので、物資輸送が途切れることなく運び込まれるのだ。

 そして、精鋭部隊も1パーティーではなく数え切れないほどいて疲れれば交代し、24時間体制でダンジョン攻略を遂行する。
 まさに、災害級に対して数の暴力でダンジョンを攻めてくるのだ。

「アルモニー落ち着けって。君もダンジョンの防御については知っているだろ?5階層からが本番だよ。今はレクレーションみたいな物じゃないか?それに、王国のマップのおかげで、最短距離でここまで来たことを後悔すると思うよ」

「それはそうですが……この数は異常ですよ」

 あっという間に、連合部隊は5階層まで辿り着いた。連合国は、5階層の様子を見て驚愕したのだ。

「どういう事だ……ここは風属性のフィールドなのか?」

 ここまで到達した人間は、王国騎士団長のフォーガンたちだけだった。つまり、ここからの情報は地上には漏れていない事になる。
 そして、フォーガン達が来た時より、風属性の魔力は高くなっていた。こんなにも風属性が高いフィールドは、経験した事のないものであり、ここが風の精霊界と言われてもおかしくはなかったのだ。

 マサルは、DPで風属性フィールドをMaxまで上げていた。そして、連合国の前に姿を見せたのだった。

「連合国の皆さん。わざわざここまでお越しいただきご苦労様です」

「貴様がダンジョンマスターか!」

「お初にお目にかかります。以後お見知りおきを!」

「何がお見知りおきをだ!貴様のその勘違いした考え方を正してくれるわ!」

「勘違いしたとはどういう意味でしょうか?」

「ダンジョンマスターが、王国に意見をするなど勘違いも甚だしい。貴様は今回で連合国が討伐し、王国に口を出したことを後悔しながら死んでいけ」

「ということは、奴隷の人権は守られないというのですか?」

「奴隷に人権など片腹痛いわ!奴隷はあくまでも使い捨ての労働力だ!言ってみたら所有物。所有物に人権など必要ない!人権があるのは王族と貴族が有するものだ!」

「そうですか……本当に残念な人間ばかりだ……」

「いいか?その首洗って待っておれ!俺達連合がこのダンジョンを攻略してみせる!」

「僕としては、このまま引き返して、国王に奴隷の人権を認める提案をした方がいいですよ」

「馬鹿な事を言うな!」

「本当によろしいのですか?このままだと無駄に命を散らす事になりますよ?」

「貴様と話しているだけでむかっ腹が立つわ!消え失せろ!」

 騎士団長は、マサルに剣を振るった。しかし、マサルの姿は映像として映しているだけなので意味はない。

「そうですか?僕はちゃんと忠告をしましたからね?これよりこのダンジョンは戦闘隊形に入ります」

 宣告したマサルの姿はスッと消え去った。

「連合団長!本当に大丈夫なのでしょうか?」

「何を言っておる!ここまで楽勝で攻略出来たではないか!」

「それはそうですが……5階層で初めてフィールドエリアになったのですよ?それにこの風属性は……あまりに効果が高すぎるかと」

「貴様!臆病風に吹かれたか?」

「そんなことは!」

「だったら気をしっかり持て!」

 連合団長がそう言った時、遠くの方で咆哮が聞こえたのだった。

『ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

「何だ今の咆哮は⁉」

「団長あれを!」

「なんだ?あのドラゴンは⁉誰かあのドラゴンを鑑定せよ!」

 連合団長は鑑定の指示を出した。鑑定士はすぐに鑑定をすると血の気が引いた。

「どうした?あのドラゴンはなんだ?」

「だ、団長……あれはドラゴンじゃ……無い……龍種です……」

 団長は鑑定士の言ったことが分からなかった。

「はっ?」

「今すぐ撤退の号令を!あれは相手にしてはいけません!」

「何を言っておる!俺達は!」

「あれは叡智龍です!鑑定しても名前しか分かりません!それも飛翔竜王で、風属性の中の竜王です!」

 鑑定士は、震えながら大声で叫んだのだ。それを聞き連合国の精鋭部隊はその場から動けなかった。

 連合国の相手は、ビャクヤではなく魔物ガチャで引き当てて、合成した叡智龍だった。龍種はドラゴンとは違い、知能が高く歴史を見てきた生物である。
 人間の一生は、龍種にとって瞬きするより短く、龍種の一生は、人間にとって星の一生といわれるほど長いのだ。
 まさに連合国の目の前に現れたのはそういう生物であり、人類が手を出してはいけない存在だった。

「皆のもの!ここからいったん退避だ!」

 団長の掛け声でやっと連合部隊は正気を取り戻した。そして、騎士達は我先にと撤退を開始したのだ。しかし、精鋭部隊の後方には、半透明の女性が立っていた。それは信じられない事に、風の最上級精霊シルフィードだった。

「か、風の最上級精霊だと……」

 風の精霊でも最上級に位置する精霊であり、地上では絶対にその姿を見る事は出来ない。この風属性がMaxに高まっているフィールドエリアだからこそ存在できる精霊である。

「お前達は、我が主に逆らう者ですね。後悔しながら死んでください」

 シルフィードは、後方部隊にテンペストを唱えた。この魔法はビャクヤと同じで竜巻を発生させる魔法だ。ビャクヤはスキルで発生させるが、シルフィードは能力である。当然詠唱などしなくとも、いつでも発生させる事が出来るのだ。

 テンペストに、巻き込まれた後方部隊は天高く巻き上げられ、どこかに吹き飛ばされてしまった。

 連合は、前方からは飛翔龍王、後方からはシルフィードに挟まれる形となった。

「我が主に逆らうとこうなるとよくわかったな?」

 飛翔竜王は、騎士団長の目の前に降り立って、話しかけたのだった。

「このダンジョンは一体……」

「そのような事はどうでもよい!ここがどういう場所かよくわかったとおもう!」

 連合部隊は、生きた心地がしなかった。飛翔竜王に睨まれていたからだ。

「よいか?お前達人間ではこのダンジョンは攻略出来ぬ。いや、神でももう簡単には手が出せぬと言っておこう!」

「神だと!」

 これには、連合国の聖教国部隊が信じられないとばかりに大声を出した。

「いいか?お主達は、我が主の言う事を素直に聞いておればよいのだ!」

「ば、馬鹿な事を!王国がダンジョンマスターなどに屈服など!」

「本当に良いのか?我々は最後のチャンスを与えておるのだぞ?」

「ぐぬぬぬぬ!」

「教えておいてやろう!お主達には絶望という名の情報を!」

「何の情報だ!」

「このダンジョンには、あと3体の叡智龍がいるのだぞ?仮に我を倒せたとして、地底竜王・深海竜王・極炎竜王とどう戦うつもりだ?」

「そ、そんな……」

「それに、その場所には最上級精霊もいるのだぞ?」

 飛翔竜王が言うには、ノーム・イフリート・ウィンディーネも現存しているというのだ。

「我々の力さえ、結集すれば……」

「もう一つ良い事を教えておいてやろう!」

 飛翔竜王の説明に、団長は足元から崩れ落ちた様にその場にうつ伏せた。後方部隊はすでに全滅したというのだ。
 後方支援である物資を運ぶために、キャンプを設置してある場所は、3・4階層はビャクヤ、ダイヤ、1・2階層はグレン、セイミがペアで襲撃したと聞いたのだ。
 連合部隊はここまで最短距離で突入してきたことで、身を潜めて隠れていたビャクヤ達を素通りしていたのだ。後方部隊の人間はこのペアに勝てるわけもなく、ゴーレム部隊もビャクヤ達にとったら玩具のようなものだった。

 この時には、物資を運び入れた人間は入り口付近で惨殺されていて、ダンジョン内にいるのは、ここにいる生き残った精鋭部隊だけだったのだ。

「そんな事が信じられる訳が!」

 連合の団長は信じないとばかりに、不安を欠き消すように大声をだしたのだった。



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