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26話 地上の危機

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 カグヤが生まれたころ、地上では騒然となっており、冒険者ギルドに帰った冒険者達によって、今回の事がギルドマスターに報告されていた。

「そんなバカなことがあるのか?あのダンジョンは見つかってから3ヶ月しか経っていないんだぞ?」

「俺もそんな事は聞いている。しかし、事実なんだ。Aランク以上の冒険者は何とか帰ってこれたが、Bランク冒険者の殆どが帰ってこなかったんだ。帰ってこれた者は本当に運が良かっただけなんだ」

「ボーケン。そんな事いきなり言われて信じられると思うのか?」

「信じられなければ信じなくて結構だ。何の対策もせず、同じようにあのダンジョンに突っ込めと言うのなら、ギルドとの信頼は崩れ去るだけだからな」

「ま、待て!なにもそんな事言っている訳じゃないだろ?ただ、そんなダンジョンは今までなかったではないか?」

「今までは無かったかもしれない。だが、今回のダンジョンは訳が違う事は確かなんだ!」

「お前がそこまで言うのなら、他のギルドに連絡を入れてSランク冒険者を呼び寄せよう!1週間以上かかるから待つんだ」

「ギルドマスター!馬鹿な事を言ってんじゃねえ。どんなに待てても3日だ。悠長に早馬で連絡を入れんな!魔道通信機を使え!」
 
 ボーケンの言った、魔道通信機は出来たばかりの魔道具だった。これを使う事で、遠くに離れたギルドと連絡が取れる魔道具である。
 しかし、この魔道具は通信費である魔道石が大量にいり、経費が物凄くかかるのだ。それゆえに、余程の事が無ければギルドでは使用が禁止され、今だ早く連絡を取る手段は早馬を飛ばすのが通例となっていた。

「馬鹿な事を!出来たばかりのダンジョンの事で、通信機なんか使えると思っているのか?」

「何言ってやがる!それほどの急事に決まっているだろうが!3ヶ月であれほどのダンジョンに育っているんだ。1週間も待てるわけがないだろうが!」

「それは……」

「わかった!ギルドマスターの思った通りにすればいいさ。その間に、もっと急成長し手が出せなくなった場合、ギルドマスターが一人で責任をとれるのならな?」

「そ、それは……だが、ギルドにも予算があってだな……」

「俺達現場の声を聞かず、スタンピードが起こったら、ギルドの予算とか言っていられるのか?それこそ、どれだけの損害が出るとおもっている?」

「わ、分かった!分かったからそう怒鳴るな」

「いいか?ギルドマスター、あんたは冒険者上がりの人間じゃない事はこっちも把握しているが、今回はいつものような対応をするんじゃねえぞ?」

「き、貴様、誰に向かってそんな口を!」

「ギルドマスターのアンタにだよ!いいか?もう一回言うからしっかり聞け!これはもう俺達冒険者だけでどうこうできるような案件じゃないんだ!」

「き、貴様!まさか国に、王国に訴えろと言っているんじゃないだろうな?」

「そういってんだよ!」

「それこそ無用な事だ!3か月前に発見されたダンジョンの事で、騎士団が動いてくれるわけなかろう!馬鹿も休み休み言え!」

「いいのか?ギルドの長がそんな考え方で?俺はしっかり現場の状況を伝えたんだぞ?ここにいる人間が訴えているんだ。それを今まではこうだったから、大事になった時対応を間違えて想定外だと言っても通用しないんだからな!」

「ぐぬぬぬぬ!言わしておけば調子に乗りおって!」

「何回でも言ってやる!俺達の仲間だったBランクの人間は、その出来たばかりのダンジョンから帰ってこなかったんだぞ?Bランクと言えば、ベテラン冒険者だ!そいつらが出来たばかりのダンジョンで、それも1階層で全滅したんだぞ?」

「むぐぐぐぐ……」

「あんたは頭で、その地位に昇り詰めたのかもしれないが、現場の事は俺達の方が先輩だ!あのダンジョンが普通ではない事は俺達の方がわかる!」

「本当だろうな?国に連絡をして、普通の出来立てのダンジョンでしたとなったら、責任はギルドが取らないといけなくなるんだぞ?」

「それなら、国に連絡をせず長い時間をかけて対応すればいいさ。今もこの時間だって、あのダンジョンは急成長しているんだぞ」

 指揮官だったボーケンは、ギルドにそのように訴えていた。現場の言う事をなかなか信じないギルドマスターは対応に迫られていた。
 冒険者達の言う事を信じないわけではないが、いきなり国に訴えてそれが間違いだった時の事を思うと、どうしても踏ん切りがつかなかったのだ。
 ギルドマスターとして、大事なのは安定したギルド経営だったのだ。魔道通信はあるが、出来る事ならそれも使いたくなかったほどなのだった。

「お前の言う事はよくわかった。後はギルドが検討するから少しはゆっくりしろ!」

「いいか?すぐに対応しろよ?どうなっても知らんからな?」

「わかった。わかった。普通のダンジョンとは違うのは!」

 ギルドマスターは、その後緊急会議を開き、次の日ギルド本部に事の詳細を魔道通信機で報告したのだった。




 その頃、天界でも女神たちが焦っていたのだった。

「ねえ!マリン、シルビア、まだ神気は回復しないのですか?」

「そんなの無理だよ!」
「お姉さま。それはいくらなんでも無茶というものですよ」
「それに、お姉ちゃんだってまだ回復してないでしょ?」

「それはそうだけど……」

「それでお姉さま?夢枕にもう一度立って何をしようと言うのですか?マサルさんのスキルを剥奪するんじゃないんですよね?」

「そんなことできるわけないじゃない。そうじゃなく、マサルさんの本心を聞くだけです。もし、魔王のように人間界を征服するのならば止めないといけません」

「それなら、大丈夫なのでは?」

「何でそう言い切れるのですか?貴方達も見たでしょ?バンパイアの真祖を生み出したのですよ?あの存在は数千年前王国と同様に大きな大国だったゾーラン国を亡ぼしたのですよ?」

「それは真祖が、自分の食事を確保するために人間をバンパイアにしてしまったことでしょ?ですが、今回はあのマサルさんですよ?自分が殺されようとなったのに、それも抵抗する力があるのに逃げたのですよ?」

「そうだよ!おねえちゃん。そんなマサルさんが、ダンジョンの勢力を伸ばそうとは考えないんじゃないかな?」

「お姉さまが、マサルさんを転移させる時、性格を変えなかったのは良かったと思えますよ」
「そうだよ!おねえちゃんグッジョブだよ」

 マリンとシルビアの言葉で、エステは少し平常心を取り戻した。たしかに、殺される前に殺せるように性格を変えていれば、今の状況は大変だったかもしれないが、あの優しいマサルが地上征服をもくろむなど思えなかったのだ。
 もし、マサルが調子に乗り、地上に進出することになれば、勇者を地上に降臨させないといけなくなるところだったからだ。それほどまでに、マサルのダンジョンは攻略などできない物だった。

「しかし、夢枕には立とうと思います。マサルさんが、必要以上に人間達に恨みを晴らそうと思っているかもしれません」

「まあ、大丈夫だとおもいますよ」
「まあ、大丈夫だとおもうけどね」

 マリンとシルビアは、エステの心配を呆れるように言ったのだった。

 

 マサル達は、女神が心配しているとは思いもしておらず、平穏の日々を過ごせるように、ダンジョンの強化を急いでいた。

「みんなにも言っておくけど、ダンジョンに潜入してきた者だけ、排除してほしい」

「どうしてですか?私が外に出て、この辺りに住む者を排除してしまった方が手っ取り早いのではありませんか?」

「カグヤ……その考えは無しにしてほしいかな……」

「ですが、人間達は主様を捕らえに来るのですよね?だったら、そうならない様に圧倒的に叩き潰すべきではありませんか?」

「だけど、この辺りに住む人間全員を排除するという考え方はあり得ないよ」

「なぜですか?主様の安全を第一に考えたら、それが一番早いと思われますが?」

「僕を捕らえようとしているのは、貴族や権力者達だよ。平民の子供達には関係のない事だよ」

「だけど、あの村の人間達は、ご主人様を裏切ったじゃないですか?」
「そうです!わたしもその意見には納得できません」

「村の人達も犠牲者だよ」

「「犠牲者?」」

「もし、領主様の言う事に表だって逆らったらどうなるんだ?」

「そ、それは……」

「この世界の事をよく知らない僕だって、おおよその検討はつくよ。モーレン村の人達のやったことは許してあげるつもりはないけど、心情は分かるつもりなんだ……」

「ですが!」

「だから、ダンジョンを強化して、君達が僕を守ってくれるんだろ?降りかかる火の粉を払えたらそれで十分だよ。それでダンジョンシステムの理由が出てくるんだしさ」

「本当にそれでよろしいのですか?」

「いいよそれで。それに……」

「「「なんですか?」」」

 マサルは、地球で調子に乗った人物をたくさん見てきた。実力以上の事をしたことで失敗してリタイヤしないようにしたかったのだ。
 せっかく女神が、次の人生では楽しく生活できるようにこの世界に送ってもらえたのに、この一帯を全滅させてしまったら、今度は国が本腰をいれるに決まっていると思っていたのだった。
 国家勢力を相手にするには、まだまだだとマサルは慎重になっていたのだった。今のダンジョンでも、十分対抗は出来ているぐらい強化出来ているのだが、マサルだけが分っていなかったのだ。
 それに、マサルは地上の制覇など興味もなかった。ただ、地球の頃のような生活ではなく、自由にのんびり生活が出来ればよかっただけだったのだ。


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