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17話 ダンジョン

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 マサルは、村の者達が確認しに来るまでに、ソフィアとルナの遺体を収納箱に収納した。インビジビリティーポーションをソフィアに飲まされた事で、マサルの姿は見えなくなっていて忽然と二人の遺体は消えたように見えたのだった。

「遺体はどうした?」

「それがいきなりなくなった!」

「マサルはどうした?」

「それが……よくわからん!奴隷の一人が最後に、マサルに押し付けたポーションを確認はしたんだが、それだけで後は何も……」

「馬鹿な事を!人間がゴーストのように姿を消したというのか?」

「それしか説明のしようもないんだよ」

「ば、馬鹿な……」

「獣人はいるか?」

「ああ!俺の奴隷を使ってくれ」

 連れてこられたのは、犬獣人だった。その奴隷は、その場にあった匂いを嗅いで、村の人間を案内するように引き連れた。
 インビジビリティーポーションは、姿を見えなくし透明人間になれるが、このように匂いや音に敏感な人間には通用しない。
 また、目が見えないような魔物には通用しないのである。例えば、ゾンビやスケルトンのようなアンデットモンスターにも効果はない。



 マサルは涙を流しながら、森の中を走って逃げていた。マサルは、その場にいた村の人間達を攻撃できなかったのだ。
 女神には殺されようとした時には容赦してはならないと言われていたが、どうしてもマサルは人殺しにはなれなかった。
 マサルが本気出せば、あの場にいた人間は魔法で一掃できる実力はもちろん持っていたが、マサルは普通の日本人である。そんなことが出来るはずもなかったのだ。

「くっそおぉ……僕たちが一体何をしたっていうんだよ!」

 マサルは、このような事が普通に起こる異世界の常識に頭がおかしくなりそうだった。とにかく今は、この場は逃げ切り、どこか山奥で二人と生活出来る様に走ることが精一杯だった。

 マサルはそれから、半日ほど逃げていた。陽が落ちそうになってきていて辺りは暗くなってきていた。このころには、マサルは悲しい気持ちではあるが、だいぶんと心が落ち着いていた。

 そして、目の前には洞窟が口を開けていた。マサルは、今日はこの洞窟をねぐらにしようと思い、洞窟に足を踏み入れた。

 マサルは見つからない様にと奥へと入っていった。すると、奥から足音のようなものが聞こえてきた。

『ギッ?ギュアギャギャ!』
『ギャギャギャ?』

(ゴ、ゴブリンだ……ひょっとしてここはダンジョンか?)

 マサルには、ダンジョンと普通の洞窟との判断がまだできなかった。ここはゴブリンの集落の近くにあった新しく発見されたダンジョンだった。
 ダンジョンとの見分け方は実に分かりやすく、入り口近くにはヒカリゴケが生えていて、ダンジョン全体が明るく松明や【ライト】の魔法が必要ないのが特徴だった。
 普通の洞窟なら、真っ暗で奥に進もうとすれば、ライトの魔法を使わないと歩くことは不可能である。

『ぎゃぎゃぎゃぎゃ!』
『ギャああああああ!』

 ゴブリンは、マサルの姿に気づいたのだった。そして、ゴブリンはマサルに突進してきたのである。

「何で僕の姿が?」

 ゴブリンには、インフラビジョンという能力がある。これはエルフやドワーフにもある能力の一つであり、サーモグラフィーのように熱感知で見る事が出来るのだ。つまり、ゴブリンたちにはマサルの体熱を見て襲い掛かってきたのだ。

「マジックアロー!」

 マサルは冷静に判断し、ゴブリン2匹をマジックアローで撃退した。その場には、ゴブリンの角と魔石が落ちていた。
 ダンジョンでは殺されたら死体は残らない。ドロップアイテムが残り、殺した人物の運の値によってドロップアイテムが残る。ダンジョンの外で殺された者は、ダンジョンの床に置けば1週間ほどで吸収される。
  アイテム等もその場においておけば、1ヶ月ほどでなくなってしまう。つまり、ダンジョンは死んだら復活させる手段はなくなる場所である。
 しかし、ダンジョンは謎が多く解明がされていない。なぜ魔物を倒したのに湧き出てくるのか?人間達を誘う様に宝箱が設置されているなど、よくわかっていない事が多いのである。

「ここがダンジョンなら、陽光の花と月光草があるかもしれない」

 マサルは、手に入るかわからない陽光草と月光草を求めて、ダンジョンの奥へと突き進んだ。


 
 その後から、マサル達を襲った村の狩人たちがダンジョンの入り口に到着した。

「おい!奴隷。まさか、この中にマサルが入ったのか?」

「はい……匂いはこの奥へと続いています」

「ここって、最近見つかったダンジョンじゃないか?俺達では中に入れないぞ。いったん村に帰り、ルーデンス達に変わろう!」

 そう言って、ソフィアとルナを殺した狩人たちは、見張りを残し村へ引き返して行った。

 そして、狩人達が村に帰ると、ルーデンスや冒険者達が村の広場に集まっていたのだ。

「ルーデンス!ちょっとお前達の力を貸してくれ!」

「どうした?マサル達は見つかったのか?」

「ああ、潜伏しているところは見つかったんだが……この人たちは一体?」

 狩人達は、村に集まっていた冒険者に目を丸くした。ルーデンスは狩人のクレンに説明した。

「クレン、マサルはどこにいるんだ?早くマサルをここに連れてこないと不味い事になるぞ?」

「マサルは、見つかったばかりのダンジョンに逃げたんだよ!俺にはダンジョンの中は無理だ!だから、ルーデンスに助けを求めに一旦帰って来たんだよ」

「お前だけで帰って来たのか?他の者は?」

「ああ、仲間の狩人はダンジョンの入り口で見張ってもらっている。それでこの冒険者達は?」

「この人たちは、領主様から依頼を受けたAランクの冒険者達だよ」

「領主様がもう村についているのか?」

「ああ……今、村長が領主様に説明しているところだ……」

「だったらルーデンス……早く、ダンジョンの中にマサルを追いかけてくれないか?」

「馬鹿な事を言うな!俺一人で、それも見つかったばかりのダンジョンに入れるわけなかろう!少なくとも準備に一週間はいるし、何よりも仲間が必要だ」

「だったら、俺達が出来たばかりのダンジョンに入ってやろうか?」

 ルーデンスとクレンの間に割って入ってきたのは、領主の護衛を務めてきたAランクの冒険者パーティー【夕闇】だった。

「お前達が?」

「まあ、領主様に了解を取ってからになるが、その錬金術師を捕らえる事も俺達の役目の一つでもあるからな」

「それはありがたい!すぐに領主様に了承を得てくれないか?」

 ルーデンスは、すぐに村長の家に向かった。そして、クレンの報告も一緒にしたのだった。村長は、村は何も悪くないと領主に訴えていて、マサルの奴隷がマサルに助言をして、この村から逃げたことにしていた。
 それ故に、村人総出でマサルを捜索し、ダンジョンに追い詰めたことにしてしまったのだった。

 領主は、護衛をしてきた夕闇のパーティーリーダーのガラに指示を出し、マサルを追うように言った。マサルの顔を知っている人間がいなかった為、ルーデンスが付き添う事になったのだ。

「ルーデンスよろしく頼むぞ!なんとしてでも、マサルを連れて帰ってくるのじゃ」

「ああ!わかっている」

 こうして、すぐにマサルの追跡が開始されたのだった。

「くかかかかか!俺達に任せておけば、錬金術師だろうが所詮生産者だ。余裕で生け捕れるさ」

「ちょっと待ってくれ!それは油断し過ぎだ!相手は得体のしれないポーションを持っているという噂だ」

「くかかかか!姿が見えなくポーションか?もしそんなものがあるなら、領主様が喜ぶだけじゃないか!要は使う者の力量に左右されるだけだろ?」

「しかし……」

「もし仮に、その錬金術師が姿を消して攻撃してきたとするだろ?」

「ああ……」

「ルーデンスは、その錬金術師に倒されると思うのか?」

「そんなわけあるか!俺は引退したが、現役冒険者と変わらぬ実力を持っているつもりだ‼」

「だろ?俺達だってそうだ。生産者に倒されるようではAランクでいられないさ。これは、油断しろと言われても生産者が、俺達に敵うわけがないってことだよ」

「だが、ダンジョンに入るんだ!マサルには勝てるかもしれんが、今から行く場所はまだ未知の領域なんだ。気を引き締めても損はないはずだ!」

「何言ってやがる。ダンジョンだって、最近見つかったばかりの出来立てのダンジョンなんだろ?だったら、俺達になら十分攻略可能じゃないか!」

「それはそうかもしれんが……」

「ルーデンス、あんたは現役時代Sランクまで行った男だ。そして、俺達は現役のAランクだぞ?何をそんな心配しているんだ?」

「心配じゃない!俺はこの慎重な行動でSランクに上っただけだ。マサルは確かに錬金術師だが、何か違う気がするんだよ」

「何が違うっていうんだ?確かに錬金術師は数が少ないが、ポーションを作るだけで戦闘能力がある訳ではないよ」

「しかしな……」

「もし仮に、ルーデンスの言う様に只ならぬものがあったとして、どうしてあいつは、狩人達を目の前にして姿を消して逃げたんだ?俺なら姿を消すことができたなら、その状況を利用して一人づつ殺していくぜ」

 ガラは、もし自分が姿が消せて戦闘力があるなら、自分を守るために反撃すると言いはなった。この意見にはパーティーの全員が頷き、またルーデンスも納得するしかなかったのだ。

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