上 下
594 / 619
第10章 Freedom国、経済の中心へ!

141話 娼館で働いていた犠牲者達

しおりを挟む
 鳳凰騎士団は、ケンジに言われていたことでやるせない気持ちだった。今回の任務でバーシャス達を逮捕するのは構わなかった。女性達を食い物にするような人間だったからだ。

「今回、お前達には辛い想いをさせるかもしれないが、私情を挟まず任務を遂行して欲しい」

「主君、何を言っておられるのですか?」

「ランスロット、今回の逮捕者はバーシャスや各違法娼館の責任者だけじゃない」

「えっ?」

「今回の任務は、その娼館で働かされている女性達もだ」

「しゅ、主君!何を言っているのですか?彼女達は犠牲者ではありませんか?」

「それは分かっている。だが、何で彼女達は無理やり働かされている?」

 ケンジは、下を向き握り拳を作っていた。

「そ、それは……」

「お前達の持ってきた情報によれば、万引きしたとあったはずだ」

「……」

「いくら犠牲者と言っても、罪は罪だ。その罪はしっかり償って貰わないと国は崩壊する」

「し、しかし!それでは彼女達の子供はどうなるのですか?」

「それ以上言うな!子供達は孤児院に引き取られる事になる」

「ですが……」

「確かに、彼女達は旦那が死に生活に困っていた。だから万引きをしていいって事にはならない。そんなことを許したら、今度はお店が成り立たなくなるのはわかるはずだ」

「それは……」

「お店の人間も生活がある。まっとうに頑張っている人間が被害者であって彼女達は加害者だ。可哀想という理由で罪が消えるのなら、町の秩序は崩壊する」

「わ、分かりました……」

「ランスロット。いいな?必ず任務を遂行するんだぞ?もし、今回お前の勝手で犯人を逃がした場合、俺はお前を処分しなきゃいけない。その辺を重々肝に銘じて遂行する様に!」

「はっ!」

 ケンジは、ランスロットの性格に心配した。ランスロットはあまりに情に厚い男なのだ。これは王国騎士団の時からそうであり、グランパス王に師従の絆を返上する為、王国に戻り裏切られて奴隷に落とされても、自分が悪いと思い、主君の事を想っていたほどだった。

 ケンジもまた、今回の事件については取り締まりをしたくない程、女性達を不憫に思っていた。だからこそ、保護された女性達の部屋に入った時に、マイを連れてその女性達に頭を下げたのである。もっと早く、保証制度を整えれば、彼女達は犯罪に手を染めなくてもよかったと思ったからだ。

 しかし、ケンジでも今やっている事で精一杯だったのだ。フリーの町だけならば、もっと早く整える事は出来たのだが、統一国家となったFreedomは他の町の事も考えないといけなかった。それでも、フリーの町は他の町に比べて、学校や保育所など施設があり進んでいて、あらゆる面で充実している方ではある。

 そして、ランスロット達は時間になり、違法娼館に突入を開始した。今回も娼館に結界を張り脱出できない様にして、出入口から突入をした。

「違法娼館の経営で逮捕する!」

「きゃあああああ!」

「何だお前等!入ってくんじゃねえ」

 あちこちの部屋から女性達の悲鳴があがり、客で来ていた男達は慌てて窓から逃げようとしたり、兵士に襲い掛かってきたりしたが、無駄に終わったのは言うまでもなかった。

 兵士達は、ランスロットの言う事に抵抗はあったが、女性達に服を着せて客の男性達も一緒に逮捕したのだった。

「なんだよ!俺は関係ないだろうが!」

「女性達が奴隷ではない事はお前も知っていただろ?」

「そ、それは……」

「だったら、この店は違法だという事も分かるんじゃないのか?」

「だ、だけどよう……この店は奴隷じゃない女が抱けるんだぜ?興味あるじゃねえか」

「馬鹿者!お前達のような男がいるから、女達が食い物にされる世の中がなくならないんだ!」

 男達は、兵士の怒鳴り声に委縮してしまった。そして、大人しく兵士に連行されていったのだった。働かされていた女性達も又、言い訳をしていたが兵士達は耳を貸さず淡々と仕事をこなしていくのだった。

 娼館の中が騒がしくなり、責任者は何事かと部屋の外に出た。

「どうした?何が起こっている?」

 責任者が怒鳴っても、部屋からは女性達の悲鳴と、客の男達の怒号が聞こえてくるだけであった。責任者は何があったのかと思い、客室に向かおうとしたが、兵士が突入してきたのがみえたのだ。
 責任者はやばいと思い、部屋の中に入り窓から脱出を試みようとしたが、見えない壁に閉ざされ頭を打ち付けたのだった。

「痛てぇ~~~なんだこれは?」

「大人しくしろ!お前はも逃げれない」

「ば、馬鹿な……」

 責任者は、抵抗むなしくあっという間に捕縛されてしまった。

「は、放せえええ!俺は言われた通りしていただけだ!」

「やかましい!お前も甘い汁を味わってきていたであろう。逮捕されたら被害者面するんじゃない。こいつを連れて行け」

「「「はっ」」」

 責任者の書斎を調べると、帳簿や儲けた金が全てそこにあった。これらは全て、証拠物件として押収されたのだった。



 そして、バーシャスや責任者の罪が問われ、最大30年の刑に処された。次に、罪に問われたのは客として娼館に来ていた男達だった。

 男達は、違法娼館があると口コミで聞き利用していたのだ。兵士が突入した日に利用していた運の悪い男達だった為、厳重注意そして、町でのボランティア活動1週間を言い渡されたのだった。

 裁判官から判決を言い渡されて、男達はホッとため息をついたのだった。そして裁判所を後にした。

 最後は、娼館で働かされていた女達であった。自分達は働かされていたという事実とバーシャス達の犯罪の証言をしたことで、客の男達と同じでボランティア活動になると勝手に思っていた。

「判決を言い渡す!下の者達に3年の禁固刑に処す!」

 女性達は、罪状にその場で固まってしまった。自分達が犯罪奴隷?この先子供達は?犯罪奴隷になって子供達にもう会えない?等、頭の中がグルグルまわって考えが纏まらなかった。



 その中でやっと一人口を開いたのだった。

「何で私達が!犯罪奴隷に堕ちたら息子にはもう会えないのですか?」

 その意見に母親達は正気を取り戻した。

「そうよ!あたし達は弱みを握られて無理やり働かされていたのよ!」
「どうかご慈悲を!」
「娘に合わせて‼」

 裁判所は、母親たちの悲鳴で騒然となっていた。

「静粛に!これはもう決まった事である。反省し残りの人生を後悔しながら生きていくのだ」

「待ってください!私達は無理やり働かされていて違法娼館から逃げれなかったのです」

「貴方達の罪状は、違法娼館で働いていた事もありますが、別の罪状もありその罪が大きいのです」

 女性達は小さく、アッとつぶやいた。

「気づきましたか?貴方達は娼館で働いていたという事もありますが、万引きという罪で捕らえられています」

「私達がいなくなったら、子供達はどうなるというのですか?」

「安心してください。子供達は孤児院に引き取られます。貴方達は罪を償って反省してください」

 裁判官の言葉に、女性達は目の前が真っ暗になった。そして、涙が止めどなく流れてきたのだった。




 この事件で、女性達の数は1店舗30人ほどで、100店舗で3000人も犠牲者が出てしまったのだ。そして、その子供達は更に多く、孤児院の収容人数がパンクしてしまう程だった。

「ケ、ケンジ様!孤児院の予算がパンクしてしまいそうです」

「まだ、辛抱して欲しい。ムシュダルクさんの方でなんとか説明してもらえないか?」

「それが、孤児院の方でもだいぶん我慢をしていてくれていたようで、これ以上は孤児院の許容量を超えてしまうようです。早急に、職員と食事の援助をしてほしいと言ってきております」

「そ、そうか……」

「しかし、孤児院の予算はもう国にはありません。どうしたらよろしいでしょうか?」

「後1ヶ月待ってもらえるように、孤児院と交渉してもらえないか?」

「ケンジ様、分かっているのですか?1ヶ月と言いますが、それまでに予算の都合がつくのですか?もし都合がつかなかった場合、孤児院は潰れて子供達は、スラムへと流れる事になるのですよ?」

「そんな事はわかっている」

「では、どうするというのですか?」

「ムシュダルクさん、何か忘れているんじゃないか?」

 ケンジは、ニヤリと微笑むのだった。ケンジの、その笑顔を見たムシュダルクは、いつも安心させてくれる笑顔であり、何か秘策があるのだと思った。

「ケンジ様、何があると言うのですか?」

「ムシュダルクさん、ここではもう普通になっているが、忘れている物があるだろ?」

「あっ!」

「気づいたか?検証も終わり、ようやくFreedom店で売り出す事ができるから、こいつを孤児院の予算に回す事にする」

 ケンジはニヤリ笑い、窓ガラスをコンコンと叩いて見せた。

「た、確かにそれが売れたら、一気に予算をカバーできます」

「分かったなら安心して説明できるだろ?しかし、その売り上げが入るまでは、孤児院の方でも我慢をしてもらわないといけない」

「大丈夫です。出口が見えたなら孤児院の方でも協力はしてもらえるかと。ですが、食料の方は多少多めに支給して頂けると助かると思います」

「わかった。鳳凰騎士団には悪いが魔物を多めに間引いてもらい、その肉を孤児院に回す事にしよう」

「さっそく、NFGに孤児院の職員を募集をかける事にしましょう」

「ああ、そのあたりの方もよろしく頼むぞ」

「わかりました!」

 Freedom店では、窓ガラスという今までにない物が売り出された。この窓ガラスは少々高価なものとなっていて、国民達にはそう簡単に手が出せなかったのだが、将来的には手の出せる物となる。
 今は、レストランの外観の見栄えが良くなるように、大きな窓ガラスがはめられたり、お店のショーウィンドで飛ぶように売れたのである。

 それに、この窓ガラスは他国でも好評だった為、輸出で外貨がFreedom国に入ってきたのだった。特に、この窓ガラスは魔人国で人気になったのである。魔人国は関東の上東北地方にある。
 その為、今まで窓は木材で開きドビラだったので、冬の期間隙間風が苦痛だったのが解消される事になったのが大きな要因だった。
 魔人国では、平民は当然買う事は出来なかったが、貴族の間でステータスの一つになったのだ。



 そして、もう一つヒット商品になったのが鏡の存在である。今までは銅を磨き上げた銅鏡が支流であったが、この窓ガラスの出現により、錬金術士と協力し、銀をを吹き付けその上から銅を吹き付けに成功、塗装を施し乾燥させることで、今までにない鏡ができたのだ。

 今までにない反射で、自分の顔が映る事で女性達に大人気となり、Freedom店でヒット商品となった。




 この技術に、嫉妬したのはドワーフ国の人間達だったのは言うまでもなかった。 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

そういうことじゃない!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:24

異世界転生したら、なんか詰んでた 精霊に愛されて幸せをつかみます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:10,621pt お気に入り:5,089

転生したら弱小領主の嫡男でした!!元アラフィフの戦国サバイバル

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:555pt お気に入り:152

遅刻しそうな時にぶつかるのは運命の人かと思っていました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,123pt お気に入り:112

お化け屋敷と女の子

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

平凡くんの憂鬱

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:967

君の願う世界のために

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:19

処理中です...