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第10章 Freedom国、経済の中心へ!

96話 誤算

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 この国の報告に慌てたのは、元貴族とお抱えの商人達だった。金を出し合い、学校経営をしようとしていたからである。入学金と授業料を多少多くても子供の親は出すと思ったからである。
 実際の所、入学予定者は定員割れはせず盛況だったからだ。しかし、校舎の建築が、Freedom国の様にすぐに建てられる訳もなく準備期間だったのだ。その時に、国からの報告が国中に拡がったのだから、商人達にはとんでもないことになったわけだ。

「グンダス様!一体どういうことですか?」

「わしも、まさかこんなことになるとは思いもしなかったのだ!」

「元貴族の貴方様だから、計画に乗ったのです。しかし、国から公認を出されないのでは、生徒の定員割れが起こった場合とんでもない損失が!」

 この商人は以前から、この貴族グンダスから付き合いがあり、学校経営をやってみないかとそそのかされたのだ。
 その時に、企画料として生徒一人に対してバックマージンを取ろうとした。商人は商人で少し授業料が高くとも支払うと思い、この計画に乗ったのだった。
 入学料なんか、少しぐらい高くとも子供が育てば内政の仕事も出来て、就職に困らないと人を集めていた。

「分かったから、そう文句を申すな!」

「しかし、キャンセルが相次いで出てきているのですよ?」

「だったら、こう言えばいいではないか?」

「どういう事で?」

「この町に、国営の学校はまだ建たないのは分かるな?」

「はい……」

「ってことは、その子供達が学校に通えるのはまだ当分先であろう?」

「た、確かに……」

「だったら、他の子供より先に教育を受けれると謳うのだよ!他の子供達より差をつけさすなら、今がチャンスといえばいいんだよ」

「な、なるほど!」

「親は何を言っても、自分の子供がかわいいと思うものよ!子供を入学させてしまえばこちらの勝ちという訳さ!」

「くっくっく!グンダス様も悪いお人ですなあ!」

「子供が入学したらわかっておるな?」

「はいはい!分かっておりますよ」

 グンダスお抱えの商人はすぐさま行動に移し、国営の学校はまだ先になるので、いち早く自分の子供に教育を!と町の人間に訴えかけたのである。すると、その意見は子供の親に刺さり、入学希望の子供達が殺到したのだった。

 Freedom国としても、子供に教育を受けさしたい親の気持ちは物凄くわかる事であり、かといって今の段階で他の町に一斉に学校建設をすることが出来なかった。
 国が、商人達に学校経営を止めろとも言えず、国民には自己責任と言った事もあり、放置するしかなかったのである。

 今までなら、ケンジにしか扱えない魔道具だったりしたのだが、学校経営は資金さえあれば誰でも可能な商売になりうるものなので、ケンジも何も言えなかったのである。

 これが元貴族の間で広まる事になってしまい、商人と手を組むことで各町に、私立の学校が出来始める事になったのだ。

「ケ、ケンジ様!各町に学校が建設されています!」

「ああ!知っているよ……」

「なぜ、そんなに落ち着いているのですか?」

「ムシュダルクさんこそ何を慌てている?別に構わないだろ?」

「えっ?」

「俺は、国民達に教育を受けさしたいために、学校を建てただけだよ。元貴族達と手を組み商人がそれをしてくれるならば、こっちとしてもありがたい」

「そ、それはそうですが……」

「当然、学校経営となれば、その商人から税金は上がって来るだろ?」

「それは当然です!」

「だったら、何も慌てる必要はないよ。Freedom国としては、フリーとホーチュンの町にはもう学校は建っているんだからな。学校事業は順調に進んでいるはずだ」

「しかし、こういうのは先にやった方が有利に働くのは世の常であり、この学校事業はFreedom国をあげての事業ではありませんか?」

「大丈夫だって!そんなに焦らなくとも、後からやった方が上手くいく事もあるよ」

「何故、そう言い切れるのですか?」

「当たり前だろ?こういうのは実績がモノを言うんだよ!ただ、可哀想に思うのが口車に乗って、学校に通わせた子供の家族の事だな」

「どういう事でしょうか?」

「何事も焦ったばかりに詐欺に引っかかるという事だよ」

「いいか?昔からよく言うだろ?」

「何がですか?」

「急がば回れってな!」

「えっ?」

 この世界に、こういう言葉は無かったのだ。先にやったもの勝ちと言うのが普通であり、後からやっても2番煎じとなり売り上げはそこそこになる。
 だから、過去にギルドも構成員の発明した魔道具も真似をして売りに出さず、魔道具自体の販売権を安く買い取る事で、ギルドの商品として売り出していたのである。

 その為、ムシュダルクはもう出来上がった町に、後から国営の学校を開設しても入学する生徒はほどほどになり、事業自体上手く行かなくなる事を危惧していたのだ。

「大丈夫だよ。国営の学校はサポートの面で有利に立てるから心配するなって」

「どういう事ですか?」

「普通、私立で学校を経営するとなると、生徒の人数の確保が問題になってくるだろ?」

「そうですね……」

「俺が、今フリーとホーチュンの町にしか学校を建設していないのは、子供の数が問題なんだよ」

「確かに、子供の数が増加傾向にあるとはいえ、国がつぶれた事でフリーとホーチュンの町に移住してきた人間ばかりですよね?」

「ああ!だから、他の町にも多少は人数を割り振ったが、他の町の人口はこれから増加になるわけだ。その為子供もまだ大人の数より圧倒的に少ない事がネックなんだよ」

「なるほど……今、学校を建設しても、私立で経営しても苦しくなるというのですね?」

「そういう事だ!しかし、俺達は時期を見て建設を計画するので、それまでは私立の税金が上がってくるのを待ち、その予算で学校建設すれば、給食はタダに出来るし授業料もタダ、しかも子供援助金も出すことが出来る訳だ」

「な、なるほど……」

「そんな比較対象の、国営の学校が同じ町にできたら、子供の親はどっちに通わせると思う?」

「そりゃ、後からできた学校に通わせますよ!」

「だから心配はいらない!」

「わかりました」

 ケンジの説明に、ムシュダルクは納得したようだ。そして、学校が建設された町では親がこぞって、自分の子供達を入学させたのである。
 中には、用心をして入学させなかった親もいたようだが、入学の決まった親からマウントを取られたりしていた。

「やっぱり、国営じゃなくとも学校に通わせれると子供の将来が安心だな」
「ホント、自分の息子は将来どんな職に就けるのかしら?」
「やっぱり、計算や文字が書けるようになって、内政に携われるようになるのかしら?」

 こんな感じで、学校に入れた親は子供の将来を話し合っていたのだった。反対に、今回入学を見合わせた親は、教育はいつでも受けれると言ったケンジの言葉を信じて、国営の学校の建設を待ったのだった。

「なあ、父ちゃん!なんで俺は学校に通っちゃいけないんだ?」

「通っちゃいけないってことは無いぞ?」

「だったらなぜ、友達は通えるのに俺は無理なんだ?」

「今は、我慢だ!」

「何でだよう!」

「それはな?あの学校のトップは、元貴族の人間が関わっているという噂があるからだ」

「元貴族って……あの、貴族か?」

「ああ!そうだ。俺達の大事な母ちゃんを奪ったあの貴族だ!」

「俺、あんな学校には行かない!我慢する!」

「ああ!それでこそ我が息子だ!それに、いつになるかわからんが、この国の王様であるケンジ様が、この町にも学校を作ってくれるそうだ!」

「だけど、父ちゃん。学校出来るときには俺は通えるのか?」

「ケンジ様が言うには、教育はいつでも好きな時に学べるものだと言っておられた。だから、お前はケンジ様が作られた学校に通ったらいいんだ」

 主に、学校に通わせなかった親達は何かしら貴族の情報を得て、貴族達を信用していなかった人間達だった。それならば、時間はかかっても、ケンジが経営する学校を待った方がいいと判断したのである。




 そして、商人達が経営する学校は定員割れすることはなかったが、ギリギリの状態で運営することが決まったのだった。
 内容は、聞いていた事と違い給食は出なくて、子供達の弁当持参になった。翌月には月謝が値上がりし出したのである。学校側は、教師の給料校舎のメンテナンス、教材の確保に大変だったのだ。これには、親の抗議が出たのだった。

「「「「「どういうことなんだ?」」」」」

「入学して次の月からいきなり、学費が上がるなんて聞いてない!」
「「「「「そうだそうだ!」」」」」

「申し訳ありません!まさか学校が、こんなに金がかかるとは思いもしませんで、経営が厳しいのです!」

「しかし、何も言わず月謝を上げるなんて聞いてない!」

「払えないというのですか?」

「当然だ!本来なら学校でお昼は出ると言っていたのに、それも違って弁当持参になったんだぞ?」

「だから、それは謝ったではありませんか?」

「謝ったからってそんな無責任すぎる!」

「どうしても、値上げには反対だと申されるのですか?」

「「「「当たり前だ!」」」」」
「責任もって経営してもらわないと困る!」

「だったらしょうがないですね……」

「しょうがないってなんだ?」

「まあ、こっちの話ですよ。気になさらずに」

 学校関係者である男は、不気味な笑みを浮かべたのである。

「まさか、子供の教育を手を抜くとか言わないでしょうね?」

「まさか!ですが、学校側としても誠心誠意、子供達に教育をするつもりですが、それを自分のモノにできるかはそのお子さんに掛ってますので、そこまで学校は保証はできませんよ?」

 学校関係者の含み言葉に、子供達の両親は顔が真っ青になった。これはもう金が無いから教育の手を抜くと言っているようなものであり、教育の手を抜いてほしくなければ、月謝を払えと言っているようなものであった。

「そんな脅しに乗る訳にはいかない!子供達の将来がかかっているんだからな!」

「ですが、金が無いのはしょうがない事で親御さんに協力してもらわなければ、開校したばかりなのに潰れてしまう事になってもよろしいのですか?それこそ本末転倒じゃありませんか?」

「「「「「ぐっ……」」」」」

「私達学校側は、親御さんに払えと命令している訳じゃないんです。お子さんの為に協力してくださいとお願いしているのです」

 子供の両親は、学校がつぶれてしまっては入学金や月謝が帰ってこないという事は想像できた。そして、国に訴えてもどうしようもない事も分かっていたのだった。国は、ちゃんと国民に報告をしたのである。子供の事を想い自己責任で教育を受けさせたらいいと!

 学校関係者の男はいやらしい笑みを浮かべて、文句を言いに来た親達に頭を下げたのだった。

「ここは、学校も苦しいのです。どうか協力のほどよろしくお願いします」

 男は、それだけ言って事務所の奥へと戻っていったのだった。


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