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第10章 Freedom国、経済の中心へ!

76話 奴隷解放

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 ケンジとムシュダルクは、到底一般市民にはお目に掛れないような、金額の事で言いあっていた。しかし、ケンジは一本10億はくだらない金額を50万ドゴンといい、自分の奴隷達に使おうとしていた。

「ご主人……申し訳ない……」

「ん?どうした?」

「奴隷からの解放は、マリだけにしていただけませんか?」

「ど、どういう事だ?」

「はい……一家全員を解放して頂くと、300万ドゴンとなります。そんな借金を抱えて生活はとてもじゃないが無理です。マリだけ解放をよろしくお願いいたします」

「あっ……そういう事か。だったら、10万ドゴンならどうだ?」

「それなら……ですが、貴重なポーションをそんな安値で?」

「ケンジ様!何を言っているのですか?」

「なんだよ?ムシュダルクさんは!」

「10億ドゴンの商品を、10万ってどう考えてもおかしいでしょう?」

「いいかい?この商品っていうが、俺はリターンポーションを売り物にするつもりはないよ?あくまでも、不幸で奴隷に堕ちた人間の為の救済処置だ」

「ですが!」

「俺も、この生活が長くて金銭感覚が鈍っていたようだ。確かに、一般家庭で300万ドゴンといったら大金だったよな……」

「あ、ありがとうございます!」

「ケンジ様、本当にそんな安値で売るつもりですか?それに期限までに借金を返せねば、奴隷に舞い戻る事になるのですよ?それこそ、リターンポーションが無駄になります」

「この世界の利子は高すぎる!返せるものもあんなに高けりゃ返せるものも返せないよ!」

「ですが、金を貸す方も慈善事業でやっているつもりはないのです。金貸しも生活があるのですよ?」

「だったら、俺は金貸しじゃないから関係ないな。期限は1年!利子はいらない!これなら、再び奴隷に堕ちることは無いだろ?」

 その言葉に、訓練場に集まっていた奴隷達は歓声を上げて、ムシュダルクはこの決定に開いた口が塞がらなかったのだ。

「本当にそれでいいのですか?」

「当たり前だろ?ムシュダルクさんは、何をそんなに心配しているんだ?」

「心配って当たり前ですよ!本来ならこのリターンポーションを売れば、財政の問題は一気になくなるのですよ」

「ムシュダルクさん、その考えは違うよ……絶対に間違っているよ」

「どういう事ですか?」

「今、喜んでいる人達は、奴隷からの解放を望んでいる」

「だからこそ、リターンポーションは大量にいるんじゃないですか?使えば使うだけ赤字が出るのですよ?」

「いやいやいや……使えば使う程、奴隷という立場の人間がいなくなると考えるのが正しいんだよ」

「はっ⁉」

「まだわからないか?俺はいつも言っているだろ?100年先を見通してなんぼだと!」

「あっ!」

「やっとわかったか?ジョン一家が自立するという事は、この国で生活をするという事だよ。毎年税金が上がってくるということだ」

「で、ですが……こういっては何ですが……ジョン一家と奴隷達が国民となっても、リターンポーションを売った方が……」

「そういうのは一時的なもんだ。そうじゃなく、この国に奴隷達の救済処置があれば、奴隷を買い取り奴隷からの解放をすれば、この国に住む人間が増えると考えてくれ!」

「なっ!」

「国民が増えれば、税金は増えるだろ?それも、その国民の子孫がドンドン増えるんだ。奴隷になれば結婚もできないから子供も増えていかないが、奴隷から一般市民になるだけでどれだけの税金が上がってくるか考えてみなよ」

「た、確かに!辛いのは最初だけで、その国民達が他の国に移住するとは考えづらい」

「だろ?リターンポーションは先行投資と考えたらいいんだよ」

「分かりました」

「ジョン達みたいに、家族がまた元に戻る。俺達は、その家族達がまた幸せに戻る事で国民が増えるんだ」

 それを聞いた、ジョン達夫妻はケンジに頭を下げた。マリは、ケンジに抱きつき父と母がまた元に戻り家族で暮らせることを喜んだのだった。

「じゃあ、まずはジョンから解放するぞ!」

「はい!」

「ジョン、お前を奴隷から解放する!『レリーズ』」

 ケンジが、ジョンの奴隷紋に手を当てると奴隷紋は隷属の首輪に戻り、ジョンの首から首輪がはらりと外れたのだった。
 それと同時に、ジョンはリターンポーションを飲んだ。すると、ジョンの身体はマーブルの人影になり、数秒の時間で元の姿に戻った。すると、ジョンの首には青色の奴隷紋がまだ残っており、周りにいた人間は不快感が感じ取れた。

「ジョン!もう1本飲むんだ。奴隷紋はまだ残っている」

 ケンジがそう叫んで、ジョンはもう一本飲み干した。すると、ジョンの身体はリターンポーションの効果で、2歳若返りその首筋には先ほどまで、くっきり残っていた青色の奴隷紋がすっかり消えていたのだった。

 それを見た周りにいた奴隷達は、歓声と歓喜に溢れていた。

「す、すげえええ!」
「本当に奴隷紋が消えているわ!」
「ああ!先ほどまで感じてた嫌悪感が消えているし成功だ!」
「ケンジ様すげえ!」

 訓練場は、奴隷達の歓声で凄いうるさかった。この成功を見て、ムシュダルク達は目を丸くして驚いていた。なんだかんだで奴隷からの解放はできないと思っていたみたいで、まさか成功するとは思っていなかったみたいだった。

「ま、まさか、成功するとは……」

「なんだよ?失敗すると思っていたのか?」

「いえ……そういう訳では……ですが、これは本当に凄い事ですよ!」

「ごまかしたな……」

 ケンジは、ムシュダルクの顔を見てニヤリと笑ったのだった。その後、妻のジェシカ、娘のマリと続き、3人の奴隷を解放へと導いたのだった。
 3人の首には本来はあるはずの奴隷紋の後はまったくなくて、奴隷にされた時の年齢に戻ったのである。
 しかし、ケンジの思った通り、この一年で伸ばしたスキルの値は一年前の数値に戻っていたが、デメリットはそれだけであった。ケンジは、何もかも戻ってしまうかと思っていたが、スキルだけ戻っていた事はラッキーだった。
 記憶や見たものも忘れてしまうのかと思っていたが、3人はそのあたりの事はちゃんと覚えていたからだ。

 3人は、ケンジに何回も何回もお礼を言って、ケンジに借用証書にサインをして、2年でリターンポーションの金額を返すと約束をした。本来の返済期限は1年だが、ケンジの計らいで1年多く返済期限を取ったのである。

 ジョン一家は、ケンジの優しさに感謝して、今まで以上に頑張る事を誓った。自分達が頑張る事でいずれ、微力ながらもこの国の石づえになり繁栄をもたらす事が、ケンジへの恩返しになると考えたからだ。

 ジョン一家は、もう一つ驚いたことがあった。ケンジは、この研究を絶対に完成させるつもりでいたらしく、ジョン一家の住んでいた家をそのままにしていた事だ。

 ジョン一家は、本当にリターンポーションだけの金額を返すだけでいいとケンジに言われたのだ。ジョン一家は、今までの家の維持費やもろもろも返すと言ったが、一番最初に奴隷解放の手伝いだと言って、ケンジは絶対に受け取ろうとしなかったのだ。

 そして、今回の成功で奴隷からの解放を望む人間の数が一気に増えることになった。当初、ギルやシスティナ達がアンケートを取った時は、200人以下だったが、今回の事を見せられ350人ほどに増えたのだった。これは、奴隷解放された後でも、この国でなら次の就職先が決めやすい事にあった。

 Freedom店の売り子を続けてもいいし、奴隷に堕ちる前の職業に戻ってもいいと言われたからだ。



 そんな中、戻りたくとも戻れない奴隷もいた。それは、奴隷になった年数が多い者達だ。10年以上も前に、奴隷に堕ちた者はリターンポーションを、10本以上買わないといけない事にある。

 自分一人ならいいが、自分の家族の分ともなると1本10万ドゴンと破格な値段だが、軽く一人100万ドゴンを超えてしまい、家族全員ともなるととてもじゃないが返済計画がたてれなかったのだ。




「なんだよ!みんな……あれだけ、主のもとから離れたくないって言ってたのに、いざ蓋を開けてみたら半分以上が奴隷から解放を望むのかよ!」

 マードックは、この状況にイライラしていた。残り組は、内心イラついて物に当たって蹴り飛ばしたりしていた。

「マードック、気持ちは分かるがそんなに物にあたるなよ」

「ギル!お前だってイライラしているだろ?」

「しているが、しょうがないだろ?主が奴隷解放を望んでやっているんだ!俺達がどうこう言えるわけないじゃないか」

「俺はそんなことを言ってんじゃねえよ……最初から奴隷解放を望んでいた者は分かるよ。だが、その後に意見を変えたやつらにイラついてんだよ!」

「どういう事だよ?」

「分かんないのかよ!あいつ等は主をいいように利用してたにすぎないんだよ。奴隷解放が成功して、何の問題が無けりゃ、すぐさま手のひらを返しやがって!裏切り行為じゃねえか!」





「そう言うなって。あいつ等も独り立ちするのは、勇気がいる事なんだからさ」

 マードック達は声のあった方に振り向いた。そこにはケンジとマイ、ムシュダルク達国の重鎮が立っていた。

「「主!」」
「「「「「ご主人様!」」」」」

「どうせ、お前達の事だ。こういう不満が出ると思っていたよ」

「だって、主……あまりに酷いじゃねえか。あんな考え方主に恩義なんて考えてねえ。自分さえ良かったらいいって考えだろ?」

「お前達にはそう思えるかもしれないが、それに対して責めるんじゃないぞ。奴隷解放には時間がかかるし、これから1か月以上かかるんだからな」

「だってよう……」

「マードック、人それぞれ考え方はあるんだよ。それを押し付けてはいけないんだ!それに、奴隷解放されたとしても、順風満帆に生活が出来るとは限らないんだぞ?」

「どういうことだよ?」

「お前達は、俺の奴隷としてこの後の人生を過ごす事になるよな?」

「当たり前だぜ!」

「だが、解放を望んだ者達は、この後どうなるかわからないんだぞ?人間というのは、本当に弱い生き物なんだからな……最初から解放を望んでいた者達、つまりジョン達一家は、それだけの覚悟を持って奴隷からの解放を望んでいたということだ」

「?」

「分からないか?お前達はお前達で、覚悟を持って奴隷に留まっているって事だよ」

「はあ?主、どういう事だよ。全然わからねえよ」

「マードックよ。ケンジ様は、環境が変わると人間は楽な方へと転がっていくと言っているのですよ」

「ムシュダルクさん、増々分からねえよ……」

「マードック、もしお前が奴隷からの解放を望んだとして、解放されたらこの後どうする?」

「そんなことはねえが、まず生活を確保しなきゃならねえから、ギルドに登録するだろうなあ……そして、宿屋の確保とかかな?」

「そうだろ?それを想像してみるんだ」

「あっ……」

「ようやくわかったか?」

「ああ……俺には無理かもしれねえ……」

「何が無理なんだ?」

「主がいねえし、姉貴もギルもいねえ……俺一人で生活していくには覚悟がいる……」

「後から言ってきた奴らも、その覚悟が無いとこの先やってはいけない。だけど、お前達にその覚悟が無いと言っている訳じゃないんだぞ?」

「……」

「このFreedomに、奴隷の立場で残るというのも覚悟がいるからな」

「俺はそれが当たり前だが、覚悟がいる物なのか?」

「当たり前だろ?お前達は今まで以上に、俺の期待に答えねばならんのだからな!」

「そんなの当り前じゃねえか!」

「それを当たり前と言えるところが覚悟なんだよ!」

 ケンジにそう言われて、マードック達は褒められたようで顔がニヤついてしまった。

「だからな、そういった人それぞれの考え方があるんだから、お前達はイラつくことは無いんだよ」

「わ、わかったよ……」

「ギル達も、自分の意見を押し付けない様にするのだぞ?」

「ムシュダルクさん分かりました」

 こうして、Freedom国の奴隷解放計画は開始される事になり、数十年後Freedom国は、ケンジの思ってた通り人口爆発を起こす事になる。


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