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第10章 Freedom国、経済の中心へ!

27話 ギルド採用

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 ケンジが、奴隷だけでなく窓口業務に女性達を起用した事で、この町独自のギルドの受付嬢に、平民からの就職希望が殺到したのだ。
 Freedom国では、貴族がいないのだが内政はムシュダルクを中心にアルバン・ゴルゴン・アンジェの3人が中心となり、特別奴隷やイチカと同じアンドロイドが担っていた。
 
「ケンジ様、少しいいですか?」

「あっ‼もう少し待ってくれるか?区切りのいいところで会議室に行くから待っていてくれ」

「分かりました!」

 しばらくして、ケンジはムシュダルクのいる会議室に入って話を聞いた。

「ムシュダルクさんお待たせしてすいません。それでなにか?」

「それがですね……ギルドの受付嬢に、例の女性達を起用しましたよね?」

「ああ!ギルドの受付嬢と素材買取の窓口にギルド業務などに起用したな」

「それとギルドと、Freedom店のつなぐ業務ですね」

「それが、どうかしたのか?」

「それでですね……ギルド受付嬢に、Freedom国民の若い女性達から、自分達も雇ってくれと就職希望が殺到していまして……」

「はぁ?なんでそんな事になっているんだ?今までそんな事なかっただろ?」

「今までは、ケンジ様……いや国民からしたら国王の奴隷だけが運営していた事で、遠慮というモノがあったみたいです。ですが、今回魔物に囚われていた奴隷でない女性達が、人気の受付嬢に雇ってもらえるのなら、自分達も雇ってほしいとの事です」

「なんだそれ?あの女性達は、他の就職場所が無いからという救済処置であって、今雇ってほしいと言ってきている女性達は、他の場所でも就職は出来るんじゃないのか?」

「それはそうですが……ギルド受付嬢というのは、若い女性達には強い男性を見つけれる場所として、人気のある職業ですからね。こればかりはしょうがないかと……」

「だが、ギルドを束ねているのはウランだぞ?俺がこういっては何なんだが大丈夫なのか?」

「それはウランが奴隷だからですか?」

「ああ、そうだ!俺がいま国民達の意識改革をしているだろ?そう簡単に人気職だからと言って、納得できるものじゃないだろ?」

「確かにそれは言えるかと思います……ですが、日に日にその人数は多くなってきていて、ケンジ様自ら説明していただけるとありがたいのですが……」

「そうか!わかった」

「国民を雇うのですか?」

「ウランの事を承諾する人間なら、ギルド職員として雇っても問題はないだろ?」

「ケンジ様がそういうのであれば、ギルドの掲示板に条件を貼り出し、募集をかけましょう」

「合同面接日時は俺が立ち会う!どれぐらい来るかわからんが、ウランにも立ち会うように言ってくれ」

「承知しました!」

 


 そして、思わぬところからギルド職員の話が持ち上がった。今まで、ケンジの身内でなんとしてきていたが、Freedom国民の協力を得れる可能性が出てきたのだ。

 それから一週間後に応募総数500名という応募が集まった。これにはケンジもビックリしてしまった。中には、既存の元ギルド職員もいて、Freedom国民となりこの町で暮らしていた人間も少なくなかった。ケンジは、その500名を訓練場に集める事で、一斉に話をすることにした。

「皆さま!今回Freedom国、独自のギルドに応募してくださってありがとうございます!まさか、こんなにも人が集まるとは思いもしていませんでした」

 ケンジがそう挨拶すると、職員に応募した人間が一斉に頭を下げた。

「そして、皆様には言っておきたいことがあります!我が国のギルドは、ご存じのとおり、俺ではなく俺の仲間達が中心に運営しています。当然ですが、この体制は今のところ変えるつもりはございません!」

「「「「「「えっ⁉」」」」」
「それっていったいどういうことだ?」
「どういう事かしら……」
「ケンジ様が運営をしているんじゃないのか?」
「だったら誰が?」
「今ケンジ様は俺の仲間と言ったじゃないか?」
「って事は……奴隷が?」

 ケンジの言葉に、500人が騒めき会場が騒然となった。

「静かに!」

 ムシュダルクが大声で叫んだのである。すると500人はスッと静かになった。

「我が国は、他の国と違って貴族位の職の人間はいません!いるのは平民と呼ばれる人間だけです!」

「ケンジ様!少しよろしいでしょうか?」

「いったん俺の言葉を聞いてほしい!それから君達の意見や質問を受けたいと思う!」

「申し訳ございません……」

「当然、君達は俺の存在は王族だと思っていて、仲間と言った人間は俺の奴隷達だ!だが、俺はそういった区別をしているつもりはない。同じ人間として接しているつもりだ」

 ケンジの演説を、先ほど質問をしようとした男性も静かに聞いていた。その男性も又、ケンジの言う事には納得していたようだ。ケンジは時たまだが、フリーやホーチュンの町に出歩く事があった。
 普通なら、王族が町を出歩く事などせず、もし出歩いたとしたら町の人間は側道に避け、土下座する様に仰々しくなるものである。
 しかし、町を出歩いていたケンジに気づいた平民が側道に土下座しようとしても、それを止めて普通に世間話をして、何か不便な事は無いか、何かやってほしい事は無いかと聞き、平民達の性格向上のためにアンケートを取ったりして、フレンドリーな関係にするほどだった。

「俺は、この国を差別や虐めをなくし、また貴族ギルドでやっているような仕事も、いずれ国民の中からやってもらえるような国にしたいと思っている。それを踏まえて、君達には聞きたいことがある」

 ケンジの質問に、500人が息をのんだ。

「先ほど、俺は区別をなくしたいと言ったが、君達の常識をいきなり変える事が、出来ないのも分かっているつもりだ‼だが、この国のギルドに就職する事は、君達の上司にあたる人間が、俺の奴隷となるのは必然になる!以上ですが何か質問等ありますか?」

 ケンジの言葉を聞いた瞬間、500人は驚きその場所はざわめきで、ケンジの声が聞こえない程うるさくなった。
 これには、ケンジもムシュダルクも収拾がつかなかった。まあ、当たり前の結果である。しかし、ケンジはあえてこの状況を創り出したようにムシュダルクは思えたのだ。

「俺はこの国は好きだが、奴隷の下で働くのは嫌だな……」
「あたしも嫌だわ!」
「でも、ケンジ様はそういった区別を考える事はしていないじゃないか」
「しかし、奴隷は奴隷じゃない!」

 やはり、国民の意識はそう簡単にぬぐえるものではなかった。ケンジは、応募者が勝手に話している事を黙って聞いていた。

「ケンジ様……このまま放って置いてもいいのですか?」

「ああ!構わんよ。今日はずっと、この応募者たちに付き合うから」

 そうしている中、意見がぶつかり合いこのギルドではやっぱり働けないと言う人間と、ケンジが言う同じ人間として、認め合い働けるのではと思う人間が出てきた。

「しかし、考えてみろよ!Freedom店にいる人間は全員奴隷だろ?今まで俺達が見てきたような奴隷じゃないじゃないか?」

「それはこちらが客という立場で買い物をしているが、ギルドで働くとなると奴隷に指示を出されるって事だぞ?」

「だからこそ同じ人間として認め合えって事だろ?ケンジ様は王族だが、俺達に他の国のように無茶な事は言わず、そればかりか俺達の生活を第一に考えているじゃないか?」

「それが、何の関係があるんだよ?」

「だから、俺達も奴隷とか平民っていう立場を考えず、同じ人間として一緒に働けという事なんだろ?」

「お前はそれで本当に納得が出来るのか?」

「そりゃ、まったく気にならないと言ったら嘘になる!だが、この国が、いやケンジ様がそれを無くそうと謳っている事だろ?そのルールが覆る事があるわけないじゃないか?」

 あちこちで、そういった話が続けられていた。この間、2時間ほど続き意見は平行線で話はまとまることは無かった。
 ケンジはずっとその話を聞き、話がまとまることは無いと思い、やっと重い腰を上げる様に大きな声を出して話し始めた。

「皆さん!注目してください‼」

 ケンジの声に応募してきた人間がドキッとした。

「皆さん!色々な意見はありますが俺の話を聞いて下さい!」

 ようやく、応募者たちはケンジの声で静かになった。

「皆さんの意見は取り敢えず、俺の仲間の下で働けるか働けないかの意見にとりあえず別れるかと思います!」

 ケンジはそのように言うと、応募者は首を縦に振り同意したようだった。

「申し訳ありませんが、働けないと思う方はこのまま帰っていただいて結構です。それでも、この国独自のギルドで働きたいと思う方は残ってください!」

 ケンジがそのように提案すると、残った人数は5分の1程度で400人程帰ってしまった。この世界の人達は気に入らなければ、こんなにあっさりと帰ってしまうものだと思い、ケンジはこの結果に驚いたと同時に計画通りに、人数をふるいに掛けれたのだ。

「皆さんは、俺の仲間のもとでも働けるというのですね?」

 ケンジが聞くと、微妙な反応が帰って来た。そして、その中でも物おじしない数人の人間から質問が上がった。

「ケンジ様!少しよろしいですか?」

「どうぞ!」

「私は、奴隷なんかに命令されたり指示を出されるのは本当は耐えられません!」

 その言葉に、ウランが意見を被せようとした。

「なっ!そ、それは!」

「ウラン!ちょっと待て!あの人の意見を最後まで聴くんだ」

「はい!申し訳ありません……」

「続きをどうぞ!」 

「ありがとうございます!しかし、私は昔からあこがれだった受付嬢になりたいが為に、これまで必死に努力してきました。もし、就職が出来たとしてもその努力は続けていきたいとは思っていますが、その成果はちゃんとこのギルドでは出せますか?」

 この女性は、ケンジに対して自分の仲間を贔屓して、奴隷達だけ成果を認める事を危惧していた。

「そんな贔屓は絶対にありえない!君がちゃんと成果を出したなら、当然このギルドで出世はしていくだろうし、発言権も大きなものになるよ」

「そうですか。それを聞いて安心しました」

「他に質問のある方はいますか?」

 すると、質問の多くはウランや、今働いている奴隷達の事を気にしている事ばかりだった。

「皆さんの気になっている事は、今働いている環境が分からないから不安になっているのがよく分かりました!それならば、直接俺の仲間達に聞いてくれた方いいのかもしれません」

 ケンジは、ここでようやくこの国のギルドを束ねている、ウランの事を紹介した。

「私が、このギルドのギルドマスターしているウランと申します。以後よろしくお願いします」

「あなたは、奴隷ですが今まで平民達にも理不尽な事をされてきたと思いますが、それを私達にぶつけてほしくないのです!」

 応募してきた人間が不安に思っていた事は、上司という権力を使って、理不尽な事を言ってくるかもしれないと言うところにあった。

「そんな事は絶対しません!そんな事をしたら、ご主人様の教えに逆らう事になりますし、確かに私は奴隷に落とされた時は理不尽だと思いましたが、ご主人様は今まで私達に理不尽な命令などしたことがありません!」

「少しいいか?君達は何か勘違いしていると思うぞ?」

「えっ⁉」

「いいか?もし仮にギルド勤務になった場合、確かに上司はウランになるが、ウランはギルドをよくしていく仲間の一人であり、君もその一員だ!だから、平民とか奴隷とは考えずに、同じ人間として行動していってくれたらいいんだよ?」

「……」

「君がギルド職員になれば、君も俺の仲間の一人だ!そこにウランだけ贔屓にすることはあり得ないだろ?しかし、君がウランが奴隷だからと言って好き勝手に行動をしたり、陰口を叩くようであれば処分されるだけだ」

「そ、それは……」

「君とウランの違いを考えるならば一つだけあるぞ」

「それって何ですか?」

「君には働いた分だけ給料が出るって事だよ!ウランは俺の奴隷という立場だから、給料は出ない為衣食住が保証されているだけだよ」

「そ、そうですか……わかりました!」

「不安はまだ取れないか?」

「やっぱり言葉だけでは……」

「いいかい?もし仮にだ。ウランがもし権力をかさに着て、理不尽な事をするとするだろ?」

「ご主人様!私はそんな事!」

「分かっているって!もし仮にと言っているだろ?お前はそんな事絶対にしないよ!信じているから大丈夫だよ!」

「……」

 ウランは、ケンジが仮にと言ったとはいえ、やっぱり不満が残ったようだ。

「話を続ける……仮にそんな事をしたら、ウランが俺に処罰を受ける事になる」

「それって、どんな処分になるのですか?奴隷商人に売られたりするのですか?」

 奴隷商人に売られると聞き、ウランの顔は真っ青となった。

「いいや、俺は仲間達を手放す事はしないよ!ただ、ウランを見てくれたら分かると思うが、君の知っている奴隷とは見た目が全然違うだろ?」

「た、確かに……」

「ウラン達は、俺の仲間であり信頼しあっているからこそ、この健康が維持されているんだよ」

「何が言いたいのですか?」

「もし、そんな権力をかさに着せ理不尽な事が発覚したり不正が発覚した場合、ウランのこの生活はなくなるだけだよ」

「それが罰ですか?鉱山や娼館に売られるんじゃなくて?」

「ああ!そうだ!」

「ちょっとご主人様!何を言っているのですか!私はそんな……」

 ウランは例え話を聞いているうちに、その想像が頭の中で拡がり不安で泣いてしまったのだ。

「ば、馬鹿!ウラン泣く事ないだろ?これは例えばの話だ。お前がそんな事する訳ないじゃないか」

 その後景を見て、応募してきた100人はウランにとって、奴隷商人に売られる事よりも本当に重い罰になるんだと理解が出来た。

「ウラン……お前はそんなことはしないよ。だから泣き止めよ……」

「だって、ご主人様があんなことを……」

「皆さんもこれで分かったと思うが、ギルドはこの町の為にみんなで協力して頑張ってもらいたい組織なんだよ。既存のギルドとは違う組織であり、権力や派閥など気にせずみんなで頑張ってもらいたい!」

「それがいまいちよくわからないのです……」

「分からなければ、ウラン達と相談して決めるって事だよ!当然ウラン達も君達に相談するという事だ!既存のギルドの流れは、上司がだめだと言ったらそこで計画は終わるだろ?」

「はい……」

「そこはそうじゃなく、決定権はみんなで話し合いの中で納得できるようにしてほしいんだよ」

「それでも決まらない場合は?」

「その時は、Freedom国を頼ればいい!この国のギルドは国と繋がっているんだからな」

 既存のギルドは、国とは別の組織であり王国や帝国などが命令などできない。だが、Freedom国のギルドは当然ケンジと繋がっていて、ギルドの意見はすべてFreedomに上がってくる。
 そこで上がった、意見や企画でギルドの資金だけでは不可能となった場合、Freedom国がその企画を判断して、利益が見込めるのなら援助という形となる。援助が無理という事になれば、国からの意見でこうすればどうかという提案が出たり違ったアプローチをしたりして、透明化を重視しているのである。

「今まで、Freedom店で新しい商品が開発されて、国民の暮らしが良くなっているとは思うが、ギルドでもそういう企画があれば発案してくれたらいいんだよ」

「なるほど……つまり、奴隷とか平民に拘るより、国民の為にギルド組織を盛り立てろという事ですね?」

「そういう事だ!」

 ケンジの言う事に、100名程の応募者は感銘を受けて、ギルド職員になる事を決めた!その100名全員を雇う事は当然できない為、後日ケンジは3次面接まで行い、1次は今受付嬢をしてる奴隷達の中でもリーダークラスの人間が5人同時に面接を行った。
 そして、2次面接はウランが個人面接を行い、それを突破した最終面接でケンジがおこなったのだ。

 結果、最終面接に見事受かったのは50名であり、ギルドに就職できたのは10人に1人という狭き門になったのは言う間でもなかった。



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