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第10章 Freedom国、経済の中心へ!
8話 認める事の出来ない現実
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ケンジがダンジョンに着いた早々、王国と聖教国の騎士団長と揉めて、親善試合と言う名の決闘に発展してしまった。
「ケンジ様!本当によろしいのですか?」
「私たち二人と決闘など自殺行為ですよ?」
「ランスロット、どうだ?いけるのか?」
「主様もお人が悪いですよ。私なんかが出たら本当に勝負になりませんよ」
「「なっ⁉」」
「貴様は自分が前のように飛龍騎士団長と勘違いしているのではあるまいな?今のお前は奴隷となり、わたしとは立場が違うのだ!」
ホークは、ランスロットに苛立ちを覚え怒鳴っていた。
「確かに、わたしは奴隷となり身分は最低だ。だが、主様は奴隷でも誇りを持って生きろと申された!」
「奴隷に誇りなどいらぬわ!それにランスロット本当にこの勝負に勝てると思っているのか?」
「ホーク様、私が出るまでもないですよ。鳳凰騎士団からは、一番若輩のカイルが二人の勝負を受ける事にします」
「これは騎士同士の親善試合じゃないのか?」
「えっ⁉わたしを騎士と認めていただけるのですか?先ほど奴隷はとかなんとか……私達を騎士と認めてくれると言うのなら騎士道に乗っ取ってお相手しよう!」
「お主は奴隷だ!私達と試合するのが怖くなったから逃げようとしているだけだよ!もういい!その若輩者と試合をしてやろう!胸を借りるつもりで掛かって来い!」
「はっ!分かり申した!しかし、私が勝った場合、主様の言う事を絶対に聞いて頂き、先ほどからの無礼を謝罪してくれ!」
その言葉に、周りの騎士団達は大笑いしたのだ。カイルの姿は騎士団と言うのに、最下級騎士がつける装備でヴァンデインやホークが身に着けていた装備と雲泥の差があった。
「「「「「はははははははは!」」」」」
「俺達が負けるだと?馬鹿も休み休み言うがいい!」
「私はカイルと申す!よろしくお願いします」
カイルは下手に出て、ヴァンデインとホークに挨拶をした。しかしながら、ヴァンデインとホークは奴隷とみて騎士の戦いの挨拶をしなかったのだ。
カイルは、若輩者とはいえ鳳凰騎士団に入隊出来た強者である。他の騎士団の若輩者といえば、まだ20歳前後の若い人間だが、カイルはとう30歳を過ぎている。
「まずはわたしがいく!」
そう言って、ホークが前に出た。
「ホーク様、本当に私が勝ったら主様に謝罪をお願いします!」
「ああ!そんな事は絶対にありえないから心配するでない!もし仮に、お主が俺に勝てたら土下座してやるわ!」
「今の言葉忘れないでくださいね!」
「ったく、生意気な奴隷だ!ケンジ様本当に殺してしまってもしらないですよ!」
ケンジは、これが今の飛龍騎士団の団長の言動なのかと、首を傾げたくなる程に、ホークに騎士道精神がなかったのだ。
「ホークさん、この試合は冒険者の決闘じゃなく、騎士道精神にのっとりする事でよろしいのですね?」
「奴隷相手に騎士道精神なんかあるのか?」
「カイルは我が国の騎士なんだぞ?騎士道の礼を尽くさないと、後で恥をかくのは貴方と言う事になるが本当にいいのか?」
「恥?奴隷相手に騎士道を貫く方が恥になるわ!」
「俺はちゃんと忠告したからな?騎士道にのっとっての試合なら負けても、相手は騎士だがそれが無い状態の試合だと、軍団長が奴隷に負けたら恥をかくのはそちらだぞ?」
「まだ、そんな寝言を!わたしの太刀筋も見切れぬままに、死んでしまう事になるかもしれないんだぞ?」
「そうか……わかった!決闘を開始してくれ」
ホークとカイルは、騎士団達により試合のスペースを開けられたのだ。そして、飛龍騎士団の一人が審判をやる事となり、決闘開始の号令がかかった。
「始め!」
カイルはじっと構えて、ホークの出方をみていた。
「どうした?かかってこないのならこちらから行くぞ?」
「……」
ホークは、カイルを見て戸惑っていた。何故かわからないが、カイルの姿が霞んで見えなくなってくるのだ。ホークはこの現象が何故だか分からなかった。気合を入れていないと、どんどん視界からカイルの姿が消えていくのだ。
「団長!どうしたのですか?元切り込み隊長の異名はどうしたのですか?」
「団長!そんな何もできない奴隷なんかさっさとやっつけてください!」
(馬鹿な……部下達には気づいてないのか?)
カイルは何もしていなかった。自分の魔力を抑える事で自然に風景に溶け込んでいたのだ。その為、ホークの目にはカイルの姿が認識しずらくなっていた。
「ホーク殿!向かってこないのならこっちから行くぞ?」
そういった後、カイルの姿があり得ないスピードで動き、ホークはカイルの姿を見失ってしまった。
「ど、どこに行った⁉」
鳳凰騎士団の入隊できる条件は、レベルが100に達してないと入隊できない。その為、常人では理解できないステータスを持っている。
そして、鳳凰騎士団は強くなるため、マイにその指導を受けていて精神面を徹底的に鍛えられていた。マイは、武士道をランスロット達に教え、魔力を完全にコントロールできるようにしていた。カイルがまだ若輩者というのはここにあったのだ。
もしこれが、カイルではなくランスロットなら、完全に魔力のコントロールが出来るため、完全に姿が見えなくなり、アッという間に勝負がついてしまうことのなる。
「団長!下です!」
「な、なにぃ~~~!」
カイルはあの瞬間に、ありえないスピードでホークの懐に飛び込んだ。ホークはそのカイル踏み込みに驚愕し、自分が切り込み隊長として異名を持っていたが、カイルのその踏み込みはその比ではなかった。
「終わりだ!ディザーム!」
カイルは、ホークの甲冑の手首の継ぎ目を、正確に狙い腕にダメージを与えることに成功した。
「ぐわっ!」
その衝撃に、ホークは武器を手放してしまった。騎士の命であるソードを弾かれてしまった瞬間、試合の決着がついたのだ。
「まさか、私がこんな簡単に……」
「団長が……」
「まさか団長が奴隷に負けるだなんて……」
こんな話声が飛龍騎士団達から聞こえてきたのだ。そして、団員の声にホークは驚愕したのだ。
「団長!なぜ手を抜いたのですか?あんな奴隷のスピードなら団長なら避けるれるはずです!」
「お前はあの奴隷の動きが見えていたのか⁉」
「当たり前です!わたしだけじゃなくみんな見えていましたよ」
団長のホークは、部下の言葉を疑ったのだ。それもそのはずで気づいた時にはあの奴隷はホークの懐に潜り込み、あの踏み込みは電光石火の如く見切れるものではなかった。
「ば、バカな‼あの踏み込みは、私が切り込み隊長として活躍してた全盛期より速かったぞ!」
「確かに早かったかもしれませんが見切れない事は……あれなら、団長の方がまだ早いと思います!」
「どういう事だ……私は確かにあの奴隷の姿を見失う程に……」
「ホーク様!この勝負はわたしの勝ちと言う事でよろしいですか?」
「ちょっと待て!今のは……もう一回!」
「ホーク殿、見苦しいですぞ!次は、わたしの番に決まっている!貴方の無念は私が晴らして見せますよ」
「ゥぐっ……」
ホークは手首を押さえながら、ヴァンデインの言葉に何も言えなかった。自分は騎士なのに奴隷に負けてしまったのだ。
「次はわたしが相手になろう!掛かってくるが良い!」
カイルは試合始めの礼をちゃんとしたが、ヴァンデインも又カイルを奴隷と侮り礼をしなかった。
「ヴァンデインさん!あなたは少し変わったと思っていたのにがっかりだよ」
「ケンジ様!何を言っているのですか?確かにあなたは、この5年で聖女様を頼りがいのある人物にしてくれて、私は貴方を尊敬はしていますが、奴隷を尊敬などできませんよ」
「これをきっかけに、貴方も変わってほしいと願うよ」
「なかなか面白い事を言う!万が一にも、その奴隷が私に勝つことなどできんよ!」
カイルの動きを、先ほどの試合で見切っていたヴァンデインは勝利できると確信していた。あの程度の動きなら、十分魔物の方が早いと思って油断していたのだ。
その思いはすぐに覆されてしまうのだが、今はこの後一瞬で勝負がつく事になるとは、ヴァンデインは思いもしていなかった。
ガッキ~ン!
ヴァンデインとの、勝負も一瞬でついてしまった。カイルの姿が、気合を入れないとどんどん薄ぼんやりとしていき、認識できなくなっていった。
そして、瞬きをした瞬間隙を突かれて、ヴァンデインもホークと同じく武器を弾かれてしまったのだ。
ヴァンデインは、膝をつき手首を抑えていたところに、カイルは剣を向け仁王立ちしていた。
「これで勝負はついた!2人共、主様に先ほどの無礼を謝罪してください」
この後景に、テンプルナイト達も現実を受け取れなかったようで騒ぎ始めた。
「なんで、奴隷がそんなに強いんだ?」
「おかしいじゃないか!」
「奴隷より俺達が弱いと言う事か?」
「なんかイカサマしたんだろう!卑怯だぞ!」
「黙れ!何で奴隷だと弱いと決めつける?たった今、貴方達の将が負けたばかりだろ?」
ケンジは、テンプルナイト達の言い分に我慢できなくなって怒鳴ってしまったのだ。
しかし、テンプルナイト達にもプライドというものがあった。これまで、極級ダンジョンを守ってきたという事実があり、1階層までしか潜れないとはいえ、魔物を間引いてスタンピードを起こしてこず、大陸で一番強いという自負があったからだ。
なのに、こんなにもあっさりと軍団長が負けてしまったことに納得できなかった。
「貴方達のプライドはわかる!だが今起こったのが現実だ」
「そんなの認められるかぁ!」
「そうだ!こんな試合は無効だ!」
「「「「「そうだ!」」」」」
「ああ!こんな試合は無効だ」
「主様!な、何を言っているのですか?私は確かに試合に勝利したではありませんか?」
「カイル、落ち着けって!お前が勝利したのは誰の目で見ても確信しているよ。だが、今のは騎士の親善試合だったのか?俺にはそうは見えなかったよ。今のは、冒険者がやる決闘だったはずだ。あの二人は騎士道精神を用いず、只お前をいたぶろうとしていただろ?」
「「うぐっ!」」
「「「「「……」」」」」」
「今の試合は無効だと騒いだところで、現実は決闘をして、ただ負けた情けない騎士達だよ」
「「ケ、ケンジ様!申し訳ございません」」
「我々が間違ってました」
「団長!何を言っているのですか?」
「だ、黙れ!これ以上恥の上塗りをするでない!」
「団長は、我々テンプルナイトがあの奴隷達より弱いと、自ら認めるのですか?」
「認めない!だがこれが現実だ……あの奴隷達が、私の剣を弾いたのは私の油断だ!だが、奴隷の立場で私の剣を弾くほどの実力があるのも事実だ」
「「「「だ、団長……」」」」」
「ヴァンデインさん、本当にそんな認識でいいのか?ホークさんも同じ意見なのか?」
「「そ、それは……」」
「そうか……わかったよ!じゃあ貴方達にはダンジョンの一階層を殲滅してもらう事にする。1階層なら、間引く事も出来るだろ?」
「それでは、ケンジ様はどうなさるのですか?」
「俺達は、地上の警備だ!鳳凰騎士団と共にな。これなら貴方達のプライドも立ち、スタンピードも抑えられる事となるだろ?」
「ちょっと待ってください‼それでは今までと同じではないですか?」
「なんでだ?地上の警備を気にせず、貴方達の戦力をつぎ込めるんだ!全然違うじゃないか?」
「しかし、我々だけでは!」
「いやいや……君達は先ほど鳳凰騎士団の実力は認めないと言ったばかりだろ?君達の将は、鳳凰騎士団の若輩者に負けたと言うのに、その実力を受け入れないじゃ、一緒に潜っても役には立たないだろ?だから、鳳凰騎士団は地上の守りで問題はないじゃないか?」
「それは……」
ケンジは、飛龍騎士団とテンプルナイト達を追い詰めるのだった。
「ケンジ様!本当によろしいのですか?」
「私たち二人と決闘など自殺行為ですよ?」
「ランスロット、どうだ?いけるのか?」
「主様もお人が悪いですよ。私なんかが出たら本当に勝負になりませんよ」
「「なっ⁉」」
「貴様は自分が前のように飛龍騎士団長と勘違いしているのではあるまいな?今のお前は奴隷となり、わたしとは立場が違うのだ!」
ホークは、ランスロットに苛立ちを覚え怒鳴っていた。
「確かに、わたしは奴隷となり身分は最低だ。だが、主様は奴隷でも誇りを持って生きろと申された!」
「奴隷に誇りなどいらぬわ!それにランスロット本当にこの勝負に勝てると思っているのか?」
「ホーク様、私が出るまでもないですよ。鳳凰騎士団からは、一番若輩のカイルが二人の勝負を受ける事にします」
「これは騎士同士の親善試合じゃないのか?」
「えっ⁉わたしを騎士と認めていただけるのですか?先ほど奴隷はとかなんとか……私達を騎士と認めてくれると言うのなら騎士道に乗っ取ってお相手しよう!」
「お主は奴隷だ!私達と試合するのが怖くなったから逃げようとしているだけだよ!もういい!その若輩者と試合をしてやろう!胸を借りるつもりで掛かって来い!」
「はっ!分かり申した!しかし、私が勝った場合、主様の言う事を絶対に聞いて頂き、先ほどからの無礼を謝罪してくれ!」
その言葉に、周りの騎士団達は大笑いしたのだ。カイルの姿は騎士団と言うのに、最下級騎士がつける装備でヴァンデインやホークが身に着けていた装備と雲泥の差があった。
「「「「「はははははははは!」」」」」
「俺達が負けるだと?馬鹿も休み休み言うがいい!」
「私はカイルと申す!よろしくお願いします」
カイルは下手に出て、ヴァンデインとホークに挨拶をした。しかしながら、ヴァンデインとホークは奴隷とみて騎士の戦いの挨拶をしなかったのだ。
カイルは、若輩者とはいえ鳳凰騎士団に入隊出来た強者である。他の騎士団の若輩者といえば、まだ20歳前後の若い人間だが、カイルはとう30歳を過ぎている。
「まずはわたしがいく!」
そう言って、ホークが前に出た。
「ホーク様、本当に私が勝ったら主様に謝罪をお願いします!」
「ああ!そんな事は絶対にありえないから心配するでない!もし仮に、お主が俺に勝てたら土下座してやるわ!」
「今の言葉忘れないでくださいね!」
「ったく、生意気な奴隷だ!ケンジ様本当に殺してしまってもしらないですよ!」
ケンジは、これが今の飛龍騎士団の団長の言動なのかと、首を傾げたくなる程に、ホークに騎士道精神がなかったのだ。
「ホークさん、この試合は冒険者の決闘じゃなく、騎士道精神にのっとりする事でよろしいのですね?」
「奴隷相手に騎士道精神なんかあるのか?」
「カイルは我が国の騎士なんだぞ?騎士道の礼を尽くさないと、後で恥をかくのは貴方と言う事になるが本当にいいのか?」
「恥?奴隷相手に騎士道を貫く方が恥になるわ!」
「俺はちゃんと忠告したからな?騎士道にのっとっての試合なら負けても、相手は騎士だがそれが無い状態の試合だと、軍団長が奴隷に負けたら恥をかくのはそちらだぞ?」
「まだ、そんな寝言を!わたしの太刀筋も見切れぬままに、死んでしまう事になるかもしれないんだぞ?」
「そうか……わかった!決闘を開始してくれ」
ホークとカイルは、騎士団達により試合のスペースを開けられたのだ。そして、飛龍騎士団の一人が審判をやる事となり、決闘開始の号令がかかった。
「始め!」
カイルはじっと構えて、ホークの出方をみていた。
「どうした?かかってこないのならこちらから行くぞ?」
「……」
ホークは、カイルを見て戸惑っていた。何故かわからないが、カイルの姿が霞んで見えなくなってくるのだ。ホークはこの現象が何故だか分からなかった。気合を入れていないと、どんどん視界からカイルの姿が消えていくのだ。
「団長!どうしたのですか?元切り込み隊長の異名はどうしたのですか?」
「団長!そんな何もできない奴隷なんかさっさとやっつけてください!」
(馬鹿な……部下達には気づいてないのか?)
カイルは何もしていなかった。自分の魔力を抑える事で自然に風景に溶け込んでいたのだ。その為、ホークの目にはカイルの姿が認識しずらくなっていた。
「ホーク殿!向かってこないのならこっちから行くぞ?」
そういった後、カイルの姿があり得ないスピードで動き、ホークはカイルの姿を見失ってしまった。
「ど、どこに行った⁉」
鳳凰騎士団の入隊できる条件は、レベルが100に達してないと入隊できない。その為、常人では理解できないステータスを持っている。
そして、鳳凰騎士団は強くなるため、マイにその指導を受けていて精神面を徹底的に鍛えられていた。マイは、武士道をランスロット達に教え、魔力を完全にコントロールできるようにしていた。カイルがまだ若輩者というのはここにあったのだ。
もしこれが、カイルではなくランスロットなら、完全に魔力のコントロールが出来るため、完全に姿が見えなくなり、アッという間に勝負がついてしまうことのなる。
「団長!下です!」
「な、なにぃ~~~!」
カイルはあの瞬間に、ありえないスピードでホークの懐に飛び込んだ。ホークはそのカイル踏み込みに驚愕し、自分が切り込み隊長として異名を持っていたが、カイルのその踏み込みはその比ではなかった。
「終わりだ!ディザーム!」
カイルは、ホークの甲冑の手首の継ぎ目を、正確に狙い腕にダメージを与えることに成功した。
「ぐわっ!」
その衝撃に、ホークは武器を手放してしまった。騎士の命であるソードを弾かれてしまった瞬間、試合の決着がついたのだ。
「まさか、私がこんな簡単に……」
「団長が……」
「まさか団長が奴隷に負けるだなんて……」
こんな話声が飛龍騎士団達から聞こえてきたのだ。そして、団員の声にホークは驚愕したのだ。
「団長!なぜ手を抜いたのですか?あんな奴隷のスピードなら団長なら避けるれるはずです!」
「お前はあの奴隷の動きが見えていたのか⁉」
「当たり前です!わたしだけじゃなくみんな見えていましたよ」
団長のホークは、部下の言葉を疑ったのだ。それもそのはずで気づいた時にはあの奴隷はホークの懐に潜り込み、あの踏み込みは電光石火の如く見切れるものではなかった。
「ば、バカな‼あの踏み込みは、私が切り込み隊長として活躍してた全盛期より速かったぞ!」
「確かに早かったかもしれませんが見切れない事は……あれなら、団長の方がまだ早いと思います!」
「どういう事だ……私は確かにあの奴隷の姿を見失う程に……」
「ホーク様!この勝負はわたしの勝ちと言う事でよろしいですか?」
「ちょっと待て!今のは……もう一回!」
「ホーク殿、見苦しいですぞ!次は、わたしの番に決まっている!貴方の無念は私が晴らして見せますよ」
「ゥぐっ……」
ホークは手首を押さえながら、ヴァンデインの言葉に何も言えなかった。自分は騎士なのに奴隷に負けてしまったのだ。
「次はわたしが相手になろう!掛かってくるが良い!」
カイルは試合始めの礼をちゃんとしたが、ヴァンデインも又カイルを奴隷と侮り礼をしなかった。
「ヴァンデインさん!あなたは少し変わったと思っていたのにがっかりだよ」
「ケンジ様!何を言っているのですか?確かにあなたは、この5年で聖女様を頼りがいのある人物にしてくれて、私は貴方を尊敬はしていますが、奴隷を尊敬などできませんよ」
「これをきっかけに、貴方も変わってほしいと願うよ」
「なかなか面白い事を言う!万が一にも、その奴隷が私に勝つことなどできんよ!」
カイルの動きを、先ほどの試合で見切っていたヴァンデインは勝利できると確信していた。あの程度の動きなら、十分魔物の方が早いと思って油断していたのだ。
その思いはすぐに覆されてしまうのだが、今はこの後一瞬で勝負がつく事になるとは、ヴァンデインは思いもしていなかった。
ガッキ~ン!
ヴァンデインとの、勝負も一瞬でついてしまった。カイルの姿が、気合を入れないとどんどん薄ぼんやりとしていき、認識できなくなっていった。
そして、瞬きをした瞬間隙を突かれて、ヴァンデインもホークと同じく武器を弾かれてしまったのだ。
ヴァンデインは、膝をつき手首を抑えていたところに、カイルは剣を向け仁王立ちしていた。
「これで勝負はついた!2人共、主様に先ほどの無礼を謝罪してください」
この後景に、テンプルナイト達も現実を受け取れなかったようで騒ぎ始めた。
「なんで、奴隷がそんなに強いんだ?」
「おかしいじゃないか!」
「奴隷より俺達が弱いと言う事か?」
「なんかイカサマしたんだろう!卑怯だぞ!」
「黙れ!何で奴隷だと弱いと決めつける?たった今、貴方達の将が負けたばかりだろ?」
ケンジは、テンプルナイト達の言い分に我慢できなくなって怒鳴ってしまったのだ。
しかし、テンプルナイト達にもプライドというものがあった。これまで、極級ダンジョンを守ってきたという事実があり、1階層までしか潜れないとはいえ、魔物を間引いてスタンピードを起こしてこず、大陸で一番強いという自負があったからだ。
なのに、こんなにもあっさりと軍団長が負けてしまったことに納得できなかった。
「貴方達のプライドはわかる!だが今起こったのが現実だ」
「そんなの認められるかぁ!」
「そうだ!こんな試合は無効だ!」
「「「「「そうだ!」」」」」
「ああ!こんな試合は無効だ」
「主様!な、何を言っているのですか?私は確かに試合に勝利したではありませんか?」
「カイル、落ち着けって!お前が勝利したのは誰の目で見ても確信しているよ。だが、今のは騎士の親善試合だったのか?俺にはそうは見えなかったよ。今のは、冒険者がやる決闘だったはずだ。あの二人は騎士道精神を用いず、只お前をいたぶろうとしていただろ?」
「「うぐっ!」」
「「「「「……」」」」」」
「今の試合は無効だと騒いだところで、現実は決闘をして、ただ負けた情けない騎士達だよ」
「「ケ、ケンジ様!申し訳ございません」」
「我々が間違ってました」
「団長!何を言っているのですか?」
「だ、黙れ!これ以上恥の上塗りをするでない!」
「団長は、我々テンプルナイトがあの奴隷達より弱いと、自ら認めるのですか?」
「認めない!だがこれが現実だ……あの奴隷達が、私の剣を弾いたのは私の油断だ!だが、奴隷の立場で私の剣を弾くほどの実力があるのも事実だ」
「「「「だ、団長……」」」」」
「ヴァンデインさん、本当にそんな認識でいいのか?ホークさんも同じ意見なのか?」
「「そ、それは……」」
「そうか……わかったよ!じゃあ貴方達にはダンジョンの一階層を殲滅してもらう事にする。1階層なら、間引く事も出来るだろ?」
「それでは、ケンジ様はどうなさるのですか?」
「俺達は、地上の警備だ!鳳凰騎士団と共にな。これなら貴方達のプライドも立ち、スタンピードも抑えられる事となるだろ?」
「ちょっと待ってください‼それでは今までと同じではないですか?」
「なんでだ?地上の警備を気にせず、貴方達の戦力をつぎ込めるんだ!全然違うじゃないか?」
「しかし、我々だけでは!」
「いやいや……君達は先ほど鳳凰騎士団の実力は認めないと言ったばかりだろ?君達の将は、鳳凰騎士団の若輩者に負けたと言うのに、その実力を受け入れないじゃ、一緒に潜っても役には立たないだろ?だから、鳳凰騎士団は地上の守りで問題はないじゃないか?」
「それは……」
ケンジは、飛龍騎士団とテンプルナイト達を追い詰めるのだった。
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