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第9章 Freedom国の発展!
108話 ヴァンデインの想い
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Freedomに帰還した時ローゼリアが、ギルに抱きかかえられ腕には包帯が巻かれていて、ケンジは血の気が引いて慌ててローゼリアの側に駆けよってきた。
「ローゼリア!どうしたんだ?」
ケンジは、すぐに※①【グレーターヒール】を唱えて、ローゼリアの怪我はすぐに完治したのだ。
「ご主人様、ごめんなさい……潜入したけど失敗しちゃいました」
「そんな事はどうでもいい!ごめんな……やっぱり一人で潜入させるんじゃ無かった……」
「ひゃっ!ご、ご主人様!」
ケンジは、ローゼリアが無事だった事に思わず抱きつき、頭を撫でたのだ。
「ギルもありがとな!ローゼリアを助けてくれて本当に助かったよ」
「ケンちゃん!ローゼリアに何をさせてんのよ!」
「スマン……テンプルナイトの団長の動向が知りたくて、偵察を頼んだんだ……ローゼリアもレベルが上がり、聖教国の密偵ぐらいはもう安心だと思ったんだ」
「ローゼリアは、まだ10歳になったばかりなんだよ!」
「ローゼリア、本当にすまなかった……」
「ご主人様、頭を上げてください!あたしが、未熟だったから危険な目に遭っただけで、ご主人様は何も悪くありません!それに、ギルを向かわしてくれたおかげで、こうして元気で帰還できました」
「いや……やっぱり俺の采配ミスだ。本当にごめん……」
ケンジは、ローゼリアを危険な目にあわせた事を反省し、やるせない気持ちになった。
「主、ローゼリアはただ失敗しただけじゃありませんよ」
「どういうことだ?」
「ローゼリア、早く主に報告するんだ!」
ギルは、ローゼリアから聞いた情報をケンジに報告させた。ローゼリアは、聖教国に潜入しテンプルナイトの兵舎で聞いた事を、ケンジに詳しく報告させたのだ。
ギルは、ケンジには一切喋りはしなく、ローゼリアの口から説明させた事で、手柄は全てローゼリアの物となり、怪我をした失敗は帳消しになり、今回は斥侯部隊に見つかったのは不運だった事となり、ローゼリアは10歳という若さで、諜報部員としての株が上がる事となったのである。
「そっか……やっぱり、聖教国はそんな事になっていたか」
「はい!ただし、ヴァンデインの部下にも聖女様を慕っている人間はたくさんいるようです。ヴァンデイン自身も、聖女様が頼りになれば、謀反を起こすようなことは無いかと思います」
「わかった。って事は俺のやることはおのずと決まってくるな。ギル!明日一番で聖教国に行くから護衛をよろしく頼むな!」
「ちょっと、ケンちゃん一体何をするつもりなの?まさか、ローゼリアの仕返しをするんじゃないでしょうね?」
「ば、馬鹿!お前は何を言ってんだよ。そんな事をするわけないだろ。ローゼリアは必死で、この情報を持ってきたんだ。今回、俺は間違ったことばかりしたようだ……それに対して謝罪に行くだけだよ」
「はっ?謝罪ってどういう事?」
「まあ、マイも明日一緒に来てくれ!」
「うん……わかったわ」
そして、次の日ケンジ達は教会本部ではなく、テンプルナイトがいる兵舎に赴いたのだ。
「今日は、いきなり訪問してすいません。ケンジと言います」
名前を聞き、兵士達は驚いたのだ。ケンジなら、いつもは教会本部に直接向かうはずなのに、ここテンプルナイトの兵舎に現れたのだ。
「今日はどうかしたのですか?」
「団長のヴァンデインさんと話がしたいと思い、いきなりで申し訳ないですが面会をお願いしたい!」
兵士は、ケンジの言葉に眉をしかめたのである。昨日賊が潜入し騒ぎがあった次の日に、ケンジが現れたからである。兵士はあの密偵が、ケンジの関係者だったのだとすぐにわかったのだ。
「まさか、昨日の……」
「その辺は想像に任せるよ!今後の聖教国の事もあるしね」
受付をした兵士は、あわててその場から奥に引っ込み、ヴァンデインを呼びに行ったのだ。そして、その場に残った兵士達は、ケンジを警戒し周りを固め始めたのだ。
「動くなよ!ちょっとでも動いたら分かっているな?」
「まあ待てよ!抵抗するつもりなんかないから緊張しないでほしい!」
「そんな言葉信じられるか!何を知っている。正直に話せ!場合によっては……」
兵士達は、ケンジとマイとギル達護衛メンバーの間合いを詰めて、拘束しようとしていた。するとそこにヴァンデインが、ケンジのいる部屋に入ってきたのである。
「ケンジ、貴様ぁ~!なにしに兵舎などに現れたのだ!」
「ヴァンデインさん!この間は申し訳なかった……今回、貴方の気持ちも考えず、聖女様達に勝手な事を言ったことを謝罪しに来たんだ」
ケンジは、ヴァンデイン入室したと同時に謝罪したのである。
「ちょっと、ケンちゃん!何を言っているのよ!」
「主!」
ケンジが頭を下げたことで、ヴァンデイン達テンプルナイトも目を見開き、マイやギル達も予想外の事にびっくりした。
「何を頭を下げているんだ!そんなことをして何を考えておる!」
「昨日、騒ぎがあったよな?」
「ケンジ……貴様どこまで知っておる!」
「ヴァンデインさん、あんたが聖女様と一緒にFreedomから帰還した時のあの目を見た時、俺を睨んでいたから気になってな。だけど、こうして訪問したところであなたは正直に気持ちは話さないだろ?」
「……」
「だから、貴方の想いを知りたくてな!昨日はお邪魔させてもらったわけなんだ。それで、あなたのプライドを俺は知らなかったんだよ。あんたが国民の為に、蹄鉄を欲しているんじゃなく軍備を強化しようと思っているんだとばかり思っていて、蹄鉄を後回しに拒否した様な形になったんだ」
「……」
「本当にすまなかった!」
ケンジは、ヴァンデインに深々と頭を下げたのだ。その姿を見て、テンプルナイト達はゆっくり包囲を解いていくのである。
「ケンジあんたは、それだけ言いに危険を冒してまでここに来たのか?」
「本筋はそれだな!そして、昨日言っていた聖女様をどうこうするとか、教皇猊下の事を忠告に来た!」
ヴァンデインは、ケンジの言葉を聞き顔から血の気が引くのだった。そして、兵士達にも緊張が走るのである。
「俺はこういう性格なんだ!聖教国より自分の国の事を最優先し、その次に平民の生活を豊かにするつもりで行動しているんだよ。だから、聖教国をいいように扱っているつもりじゃないんだ。その辺の誤解を解きにきた」
「そうはいっても、事実聖教国を後回しにして上から物事を言っていたではないか!」
「そりゃ当然だ!君達は先の戦争で俺達に攻め込んできて負けたじゃないか?本来なら蹄鉄を軍部にまわす義理なんて無いと思わないか?」
「そ、それは……」
「聖女様達は今、必死に手探りだが国を改善しようとしていると思わないか?君達、テンプルナイトに聖女様達は何か被害をもたらしたのか?」
「そんなことは無い……」
「だったら、貴方達は聖女様を支えるのが仕事じゃないのか?」
「そんな事お主に言われる事では……それにお主が最初から聖教国に蹄鉄を!」
「だから、何回も言っているが生産が間に合わないんだ!こればかりは聖教国が何度言っても変わらない事実だよ。俺は先ほども言ったが、平民の暮らしを優先するのはかわらないからな」
「その態度が聖教国を、馬鹿にしているというか下に見ているというのだ!」
「こう言ったら語弊はあるが本当に下に見たら、Freedomは聖教国を一つの国と見ず吸収してしまうと思わないか?」
「なんだと!この……」
ケンジは、ヴァンデインが顔を真っ赤にして殴りかかろうとしたのを制して話をつづけた。
「なあ、ヴァンデインさん!俺達Freedomはそんなに目障りなのか?」
「当たり前だ!今まで神の伝達者は聖教国が担っていたのだ!なのに、クロティア様の友人だと……ふざけるな!」
「本心はそこにあったのか……」
「当たり前だ!聖教国は、悪を滅し人々を導く存在なのだ!その為には、聖教国はイズモ大陸で強国でなければならんのだ!その為には、聖女様という立場の人間はもっと気高くなければならんのだ!そう!あの教皇猊下のような強く、何者にでも媚びへつらいのない人物が世の中の民を先導できるのである!」
ヴァンデインは、教皇猊下に洗脳でもされているかのようであった。ケンジは、ヴァンデインを鑑定して見たのだが、※②【チャーム】されている訳でもなく、本心から教皇猊下の強さを信じていたのだ。
ヴァンデインは、聖教国を本当に信じて気高くありその強さが、世の中の人々を平和に導けると思っているのだ。
「じゃあ、貴方は聖女様を信じる事は出来ないというんだな?クローティア様の啓示を聞く事のできる聖女様はどうでもよく、啓示を聞く事のできなかった教皇猊下の方が信じる事が出来ると?」
「そうはいってない!今の聖女はあまりに情けないのだ。そして、貴様は聖女の役割である女神様の言葉を聞くどころか、友人としての立場で聖教国のプライドを砕いたのだ!その立場を取り戻すためには、聖女の権力をもっと強くしなければいけないと考えるのは当然であろう!」
ヴァンデインは、ケンジより能力の高い聖女を生み出す為に、今の聖女を始末し来世の聖女に期待していたのである。
そして、国としての勢力を教皇猊下や大司教のような人物が担えばいいと考えていたのだ。そうする事で、聖教国の役割が完全復活すると本気で考えていた。
「そんな、都合の良い自分勝手な考え方上手く行くわけないよ……」
「なぜだ!今までそれで聖教国は、世の中で必要な存在として君臨していたではないか?」
「ヴァンデインさんは、それに依存したいだけなんだよ。要は虎の威を借る狐のようなものだ」
「な、なんだと!」
「そこには聖教国の巨大な力に、誰も逆らえないという感覚だけであって、ヴァンデインさんの想いはないじゃないか」
「そんなことは無い!私は聖教国の事を想っている!」
「想っているかもしれないが、それは自分が強い組織に所属していることがステータスになっているだけだよ!」
「なっ!」
ヴァンデインは、周りを見ると部下達は何とも言えない顔をしていた。団長の考え方が、あまりに他力本願だったことが悲しかったのだ。他の兵士達は、聖教国が強い立場だから自分達は優位だとは思っておらず、女神様の信仰の元、国を守る為に努力をしていたからだ。
「団長!我々は強い聖教国に守られているから、安心して警備についているのですか?違いますよね?」
「……」
「我々は聖教国を守るために、女神様を信仰しているこの国を誰からも侵されない為に強くあるべきです!もし団長がこの聖教国が弱いと思うなら、我々が強くなって支えるべきです!」
ヴァンデインは部下にそう言われて何も言えなくなってしまったのだ。そして、その沈黙を破ったのはケンジだったのだ。
「ああ……そういう話は、俺達が帰ってからやってもらってもいいか?」
兵士の一人が、出しゃばった事を謝罪し一歩引いたのだった。
「ヴァンデインさん!俺達Freedomは、聖教国の立場を取ろうとなんて思ってないから安心してくれ!クローティア様も、この間降臨した時に布教を聖国に任せていたじゃないか?」
ケンジの言葉に、兵士達は首を縦に何回も振り頷いていた。
「そのクローティア様が、任せた相手が今の聖女様だぞ?その聖女様を、頼りないからと言ってあなたが勝手に始末したら……どうなるか?俺が言わなくとも理解できると思うけどな」
ケンジがそういうと、ヴァンデインは当然だが、部下の兵士達も顔が真っ青になり喉を鳴らしたのだった。
「こういうやり方や言い方は好きじゃないが、貴方が聖女を始末するとまだ言うなら、俺は聖女様側に付くと思ってくれよ!」
「そ、それは!」
「そうだよ!クローティア様の啓示を聞ける聖女と、クローティア様の友人である俺が組むって事だよ。そうなった場合、貴方達テンプルナイトは本当に終わる事となるよ」
「ひ、卑怯だぞ!」
「卑怯じゃないよ。俺は聖教国の事を想って、女神様を信仰するこの国を守ろうとしているんだよ。他国の俺がな!そうなった場合、貴方が危惧している事になるかと思うよ?」
「危惧している事だと……」
「ああ!女神様が本当に聖教国を見限る事となり、聖教国がなくなるって事だよ」
「な、なんだと……」
その言葉を聞き、周りにいる兵士達は焦り出したのである。聖教国がなくなると聞き、その反応は当然であった。
「そんなの根拠のないでたらめだ!」
「本当にそう思うのか?もし、あなたがさっき言った計画を実行した場合、女神様が布教を託した聖女様が死ぬんだぞ?」
「それは、聖教国が強くなるためだって……」
「そんな身勝手な理由で、次世代の聖女様が生まれると本気で思っているのか?」
「なんだと?」
「もし、次の聖女様が降臨したとしても、その聖女様が貴方の思った聖女様出なかった場合、貴方はどうするつもりだ?」
「そ、それは……」
「そんな自分勝手な想いで、聖女様を女神様が降臨させると思うのか?」
「うぐうぅ……」
「そしたら、もうわかるよな?聖教国は聖女と言う後ろ盾が無くなるんだよ?聖教国はあっという間に滅び、女神様の友人であるこの俺がいる、Freedom国が次の聖教国になると思わないか?」
それを聞き、兵士達はケンジの言葉の説得力に慌て出したのだ。
「言っておくが、俺は聖教国なんかやりたくないから、聖女様を守るつもりで貴方の計画を潰すつもりで立ちはだかるからよろしくな!」
ヴァンデインは、下を向き握り拳を作り何も言えなかったのである。
「で、どうするんだ?」
「団長!」
「今の説明を聞いてたでしょ?」
「この計画はやめるべきです!」
部下達の言葉にやっと、ヴァンデインは口を開いたのだった。
「わ、分かった……聖女達上層部には手を出さないと、女神様に誓う……」
「そうか!分かってくれて良かったよ!あ、そうそう蹄鉄の件だが、本当に生産が間に合わないんだ。貴方達には我慢してもらうしかない。そのことも理解を頼む」
それだけ言って、ケンジ達は聖教国を後にしたのであった。
*-----*-----*-----*-----*
この話で出てきた魔法一覧
※①【グレーターヒール】
聖属性魔法 6階位
消費MP 65
詠唱速度 60秒(詠唱スキルが無い場合)
効果時間 一瞬
効果対象 一人
効果範囲 なし
必要秘薬 紫水晶・高麗人参・黒大蒜各10個
備考欄
聖属性魔法でかなり上の位である回復魔法。ガイアースでこの魔法が使用
可能なのは教会の位の高い司教の位についている人間だけである。
HPはMAXで回復し体力も回復する魔法。欠損は治らない。
魔道士職業レベル50魔法スキル100.00で使用可能。
※②【チャーム】
邪属性魔法 5階位
消費MP 35
詠唱速度 5.75秒(詠唱スキルが無い場合)
効果時間 永久
効果対象 一人
効果範囲 なし
必要秘薬 マンドラゴラの根、アビスの葉 各5個
備考欄
この魔法は他人を魅了し、言いなりにさせる禁断の魔法である。昔、王族に
唱える事で国を乗っ取った魔導士がいて、問題となった魔法であり
作製を禁じられている魔法である。この魔法の凶悪なのは耐性スキルが
100.00あっても50%の確率で成功してしまう事にあるのだ。
魔道士職業レベル50と魔法スキル80以上で使用可能
「ローゼリア!どうしたんだ?」
ケンジは、すぐに※①【グレーターヒール】を唱えて、ローゼリアの怪我はすぐに完治したのだ。
「ご主人様、ごめんなさい……潜入したけど失敗しちゃいました」
「そんな事はどうでもいい!ごめんな……やっぱり一人で潜入させるんじゃ無かった……」
「ひゃっ!ご、ご主人様!」
ケンジは、ローゼリアが無事だった事に思わず抱きつき、頭を撫でたのだ。
「ギルもありがとな!ローゼリアを助けてくれて本当に助かったよ」
「ケンちゃん!ローゼリアに何をさせてんのよ!」
「スマン……テンプルナイトの団長の動向が知りたくて、偵察を頼んだんだ……ローゼリアもレベルが上がり、聖教国の密偵ぐらいはもう安心だと思ったんだ」
「ローゼリアは、まだ10歳になったばかりなんだよ!」
「ローゼリア、本当にすまなかった……」
「ご主人様、頭を上げてください!あたしが、未熟だったから危険な目に遭っただけで、ご主人様は何も悪くありません!それに、ギルを向かわしてくれたおかげで、こうして元気で帰還できました」
「いや……やっぱり俺の采配ミスだ。本当にごめん……」
ケンジは、ローゼリアを危険な目にあわせた事を反省し、やるせない気持ちになった。
「主、ローゼリアはただ失敗しただけじゃありませんよ」
「どういうことだ?」
「ローゼリア、早く主に報告するんだ!」
ギルは、ローゼリアから聞いた情報をケンジに報告させた。ローゼリアは、聖教国に潜入しテンプルナイトの兵舎で聞いた事を、ケンジに詳しく報告させたのだ。
ギルは、ケンジには一切喋りはしなく、ローゼリアの口から説明させた事で、手柄は全てローゼリアの物となり、怪我をした失敗は帳消しになり、今回は斥侯部隊に見つかったのは不運だった事となり、ローゼリアは10歳という若さで、諜報部員としての株が上がる事となったのである。
「そっか……やっぱり、聖教国はそんな事になっていたか」
「はい!ただし、ヴァンデインの部下にも聖女様を慕っている人間はたくさんいるようです。ヴァンデイン自身も、聖女様が頼りになれば、謀反を起こすようなことは無いかと思います」
「わかった。って事は俺のやることはおのずと決まってくるな。ギル!明日一番で聖教国に行くから護衛をよろしく頼むな!」
「ちょっと、ケンちゃん一体何をするつもりなの?まさか、ローゼリアの仕返しをするんじゃないでしょうね?」
「ば、馬鹿!お前は何を言ってんだよ。そんな事をするわけないだろ。ローゼリアは必死で、この情報を持ってきたんだ。今回、俺は間違ったことばかりしたようだ……それに対して謝罪に行くだけだよ」
「はっ?謝罪ってどういう事?」
「まあ、マイも明日一緒に来てくれ!」
「うん……わかったわ」
そして、次の日ケンジ達は教会本部ではなく、テンプルナイトがいる兵舎に赴いたのだ。
「今日は、いきなり訪問してすいません。ケンジと言います」
名前を聞き、兵士達は驚いたのだ。ケンジなら、いつもは教会本部に直接向かうはずなのに、ここテンプルナイトの兵舎に現れたのだ。
「今日はどうかしたのですか?」
「団長のヴァンデインさんと話がしたいと思い、いきなりで申し訳ないですが面会をお願いしたい!」
兵士は、ケンジの言葉に眉をしかめたのである。昨日賊が潜入し騒ぎがあった次の日に、ケンジが現れたからである。兵士はあの密偵が、ケンジの関係者だったのだとすぐにわかったのだ。
「まさか、昨日の……」
「その辺は想像に任せるよ!今後の聖教国の事もあるしね」
受付をした兵士は、あわててその場から奥に引っ込み、ヴァンデインを呼びに行ったのだ。そして、その場に残った兵士達は、ケンジを警戒し周りを固め始めたのだ。
「動くなよ!ちょっとでも動いたら分かっているな?」
「まあ待てよ!抵抗するつもりなんかないから緊張しないでほしい!」
「そんな言葉信じられるか!何を知っている。正直に話せ!場合によっては……」
兵士達は、ケンジとマイとギル達護衛メンバーの間合いを詰めて、拘束しようとしていた。するとそこにヴァンデインが、ケンジのいる部屋に入ってきたのである。
「ケンジ、貴様ぁ~!なにしに兵舎などに現れたのだ!」
「ヴァンデインさん!この間は申し訳なかった……今回、貴方の気持ちも考えず、聖女様達に勝手な事を言ったことを謝罪しに来たんだ」
ケンジは、ヴァンデイン入室したと同時に謝罪したのである。
「ちょっと、ケンちゃん!何を言っているのよ!」
「主!」
ケンジが頭を下げたことで、ヴァンデイン達テンプルナイトも目を見開き、マイやギル達も予想外の事にびっくりした。
「何を頭を下げているんだ!そんなことをして何を考えておる!」
「昨日、騒ぎがあったよな?」
「ケンジ……貴様どこまで知っておる!」
「ヴァンデインさん、あんたが聖女様と一緒にFreedomから帰還した時のあの目を見た時、俺を睨んでいたから気になってな。だけど、こうして訪問したところであなたは正直に気持ちは話さないだろ?」
「……」
「だから、貴方の想いを知りたくてな!昨日はお邪魔させてもらったわけなんだ。それで、あなたのプライドを俺は知らなかったんだよ。あんたが国民の為に、蹄鉄を欲しているんじゃなく軍備を強化しようと思っているんだとばかり思っていて、蹄鉄を後回しに拒否した様な形になったんだ」
「……」
「本当にすまなかった!」
ケンジは、ヴァンデインに深々と頭を下げたのだ。その姿を見て、テンプルナイト達はゆっくり包囲を解いていくのである。
「ケンジあんたは、それだけ言いに危険を冒してまでここに来たのか?」
「本筋はそれだな!そして、昨日言っていた聖女様をどうこうするとか、教皇猊下の事を忠告に来た!」
ヴァンデインは、ケンジの言葉を聞き顔から血の気が引くのだった。そして、兵士達にも緊張が走るのである。
「俺はこういう性格なんだ!聖教国より自分の国の事を最優先し、その次に平民の生活を豊かにするつもりで行動しているんだよ。だから、聖教国をいいように扱っているつもりじゃないんだ。その辺の誤解を解きにきた」
「そうはいっても、事実聖教国を後回しにして上から物事を言っていたではないか!」
「そりゃ当然だ!君達は先の戦争で俺達に攻め込んできて負けたじゃないか?本来なら蹄鉄を軍部にまわす義理なんて無いと思わないか?」
「そ、それは……」
「聖女様達は今、必死に手探りだが国を改善しようとしていると思わないか?君達、テンプルナイトに聖女様達は何か被害をもたらしたのか?」
「そんなことは無い……」
「だったら、貴方達は聖女様を支えるのが仕事じゃないのか?」
「そんな事お主に言われる事では……それにお主が最初から聖教国に蹄鉄を!」
「だから、何回も言っているが生産が間に合わないんだ!こればかりは聖教国が何度言っても変わらない事実だよ。俺は先ほども言ったが、平民の暮らしを優先するのはかわらないからな」
「その態度が聖教国を、馬鹿にしているというか下に見ているというのだ!」
「こう言ったら語弊はあるが本当に下に見たら、Freedomは聖教国を一つの国と見ず吸収してしまうと思わないか?」
「なんだと!この……」
ケンジは、ヴァンデインが顔を真っ赤にして殴りかかろうとしたのを制して話をつづけた。
「なあ、ヴァンデインさん!俺達Freedomはそんなに目障りなのか?」
「当たり前だ!今まで神の伝達者は聖教国が担っていたのだ!なのに、クロティア様の友人だと……ふざけるな!」
「本心はそこにあったのか……」
「当たり前だ!聖教国は、悪を滅し人々を導く存在なのだ!その為には、聖教国はイズモ大陸で強国でなければならんのだ!その為には、聖女様という立場の人間はもっと気高くなければならんのだ!そう!あの教皇猊下のような強く、何者にでも媚びへつらいのない人物が世の中の民を先導できるのである!」
ヴァンデインは、教皇猊下に洗脳でもされているかのようであった。ケンジは、ヴァンデインを鑑定して見たのだが、※②【チャーム】されている訳でもなく、本心から教皇猊下の強さを信じていたのだ。
ヴァンデインは、聖教国を本当に信じて気高くありその強さが、世の中の人々を平和に導けると思っているのだ。
「じゃあ、貴方は聖女様を信じる事は出来ないというんだな?クローティア様の啓示を聞く事のできる聖女様はどうでもよく、啓示を聞く事のできなかった教皇猊下の方が信じる事が出来ると?」
「そうはいってない!今の聖女はあまりに情けないのだ。そして、貴様は聖女の役割である女神様の言葉を聞くどころか、友人としての立場で聖教国のプライドを砕いたのだ!その立場を取り戻すためには、聖女の権力をもっと強くしなければいけないと考えるのは当然であろう!」
ヴァンデインは、ケンジより能力の高い聖女を生み出す為に、今の聖女を始末し来世の聖女に期待していたのである。
そして、国としての勢力を教皇猊下や大司教のような人物が担えばいいと考えていたのだ。そうする事で、聖教国の役割が完全復活すると本気で考えていた。
「そんな、都合の良い自分勝手な考え方上手く行くわけないよ……」
「なぜだ!今までそれで聖教国は、世の中で必要な存在として君臨していたではないか?」
「ヴァンデインさんは、それに依存したいだけなんだよ。要は虎の威を借る狐のようなものだ」
「な、なんだと!」
「そこには聖教国の巨大な力に、誰も逆らえないという感覚だけであって、ヴァンデインさんの想いはないじゃないか」
「そんなことは無い!私は聖教国の事を想っている!」
「想っているかもしれないが、それは自分が強い組織に所属していることがステータスになっているだけだよ!」
「なっ!」
ヴァンデインは、周りを見ると部下達は何とも言えない顔をしていた。団長の考え方が、あまりに他力本願だったことが悲しかったのだ。他の兵士達は、聖教国が強い立場だから自分達は優位だとは思っておらず、女神様の信仰の元、国を守る為に努力をしていたからだ。
「団長!我々は強い聖教国に守られているから、安心して警備についているのですか?違いますよね?」
「……」
「我々は聖教国を守るために、女神様を信仰しているこの国を誰からも侵されない為に強くあるべきです!もし団長がこの聖教国が弱いと思うなら、我々が強くなって支えるべきです!」
ヴァンデインは部下にそう言われて何も言えなくなってしまったのだ。そして、その沈黙を破ったのはケンジだったのだ。
「ああ……そういう話は、俺達が帰ってからやってもらってもいいか?」
兵士の一人が、出しゃばった事を謝罪し一歩引いたのだった。
「ヴァンデインさん!俺達Freedomは、聖教国の立場を取ろうとなんて思ってないから安心してくれ!クローティア様も、この間降臨した時に布教を聖国に任せていたじゃないか?」
ケンジの言葉に、兵士達は首を縦に何回も振り頷いていた。
「そのクローティア様が、任せた相手が今の聖女様だぞ?その聖女様を、頼りないからと言ってあなたが勝手に始末したら……どうなるか?俺が言わなくとも理解できると思うけどな」
ケンジがそういうと、ヴァンデインは当然だが、部下の兵士達も顔が真っ青になり喉を鳴らしたのだった。
「こういうやり方や言い方は好きじゃないが、貴方が聖女を始末するとまだ言うなら、俺は聖女様側に付くと思ってくれよ!」
「そ、それは!」
「そうだよ!クローティア様の啓示を聞ける聖女と、クローティア様の友人である俺が組むって事だよ。そうなった場合、貴方達テンプルナイトは本当に終わる事となるよ」
「ひ、卑怯だぞ!」
「卑怯じゃないよ。俺は聖教国の事を想って、女神様を信仰するこの国を守ろうとしているんだよ。他国の俺がな!そうなった場合、貴方が危惧している事になるかと思うよ?」
「危惧している事だと……」
「ああ!女神様が本当に聖教国を見限る事となり、聖教国がなくなるって事だよ」
「な、なんだと……」
その言葉を聞き、周りにいる兵士達は焦り出したのである。聖教国がなくなると聞き、その反応は当然であった。
「そんなの根拠のないでたらめだ!」
「本当にそう思うのか?もし、あなたがさっき言った計画を実行した場合、女神様が布教を託した聖女様が死ぬんだぞ?」
「それは、聖教国が強くなるためだって……」
「そんな身勝手な理由で、次世代の聖女様が生まれると本気で思っているのか?」
「なんだと?」
「もし、次の聖女様が降臨したとしても、その聖女様が貴方の思った聖女様出なかった場合、貴方はどうするつもりだ?」
「そ、それは……」
「そんな自分勝手な想いで、聖女様を女神様が降臨させると思うのか?」
「うぐうぅ……」
「そしたら、もうわかるよな?聖教国は聖女と言う後ろ盾が無くなるんだよ?聖教国はあっという間に滅び、女神様の友人であるこの俺がいる、Freedom国が次の聖教国になると思わないか?」
それを聞き、兵士達はケンジの言葉の説得力に慌て出したのだ。
「言っておくが、俺は聖教国なんかやりたくないから、聖女様を守るつもりで貴方の計画を潰すつもりで立ちはだかるからよろしくな!」
ヴァンデインは、下を向き握り拳を作り何も言えなかったのである。
「で、どうするんだ?」
「団長!」
「今の説明を聞いてたでしょ?」
「この計画はやめるべきです!」
部下達の言葉にやっと、ヴァンデインは口を開いたのだった。
「わ、分かった……聖女達上層部には手を出さないと、女神様に誓う……」
「そうか!分かってくれて良かったよ!あ、そうそう蹄鉄の件だが、本当に生産が間に合わないんだ。貴方達には我慢してもらうしかない。そのことも理解を頼む」
それだけ言って、ケンジ達は聖教国を後にしたのであった。
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この話で出てきた魔法一覧
※①【グレーターヒール】
聖属性魔法 6階位
消費MP 65
詠唱速度 60秒(詠唱スキルが無い場合)
効果時間 一瞬
効果対象 一人
効果範囲 なし
必要秘薬 紫水晶・高麗人参・黒大蒜各10個
備考欄
聖属性魔法でかなり上の位である回復魔法。ガイアースでこの魔法が使用
可能なのは教会の位の高い司教の位についている人間だけである。
HPはMAXで回復し体力も回復する魔法。欠損は治らない。
魔道士職業レベル50魔法スキル100.00で使用可能。
※②【チャーム】
邪属性魔法 5階位
消費MP 35
詠唱速度 5.75秒(詠唱スキルが無い場合)
効果時間 永久
効果対象 一人
効果範囲 なし
必要秘薬 マンドラゴラの根、アビスの葉 各5個
備考欄
この魔法は他人を魅了し、言いなりにさせる禁断の魔法である。昔、王族に
唱える事で国を乗っ取った魔導士がいて、問題となった魔法であり
作製を禁じられている魔法である。この魔法の凶悪なのは耐性スキルが
100.00あっても50%の確率で成功してしまう事にあるのだ。
魔道士職業レベル50と魔法スキル80以上で使用可能
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