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第8章 Freedom国の設立!

12話 テンペの町崩壊の序章①

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 ケンジの店では、3つの町の人々が、連日のように商品を求めて大賑わいであった。そんな中、Freedomにまた生産ギルドが面会にやってきたのだった。

「ケンジ様!」

「いきなりなんだよ?」

「申し訳ないのですが、インゴットの依頼を受けてくれないでしょうか?」

「いや、それは断ったはずだよ。インゴットが欲しければ、俺の店で買ってくれたらいいと言ったはずだよ」

 受付嬢と部下の3人が、土下座してお願いをしてきたのだった。

「それがその……もうギルドにはお金がないのです……」

「お金がないならしょうがないじゃないか。他から用立てるしかないだろ?俺にお願いするのは、間違ってると思うよ」

「ケンジ様の、店で売り出している商品で水道のせいでギルドの貯水タンクが、まったく売れないのです!」

「そんな事、俺に言われても困るよ。お客様は貯水タンクより、俺の商品を選んでくれているんだからさ」

「それだけではなく、保管庫も全く売れなくなってしまったのです。」

「だから、それはギルドが生産者を蔑ろにして、育ててこなかった結果じゃないか」
「俺は、ちゃんと忠告を入れてきただろ?生産者を大事にしろって!だからギルドが、ピンチになっても誰も協力してくれないんだろ?」

「はい……インゴットも、誰も納品してくれなくなってしまったんです……」

「そりゃ、情勢を見てギルドで売るより、自分達で使った方がいい武器が作れて、少しでも高値で売れるもんな。」
「でも、ギルドが今までやって来た行いにも問題があるんだぞ。日頃生産者が苦しい時に、ちゃんとサポートしておけば、少しながらもギルドにインゴットを納品してくれるはずだ。」

「ですが、こちらも色々と……」

「その色々はわかるよ。だが、君らがいう色々が、生産者達に伝わっていなければ、やっていないのと同じだと思わないのか?」

「そ、それは……」

「それに、保管庫と貯水タンクだったか?あれも、加盟店を理由に生産者から奪い取ったようなもんだろ?」

「それは、日頃ギルドの加盟店という事で色々ギルドの恩恵を受けて、その商品を開発できたわけで、ギルドからも売り出すのは、当然の権利があるかとおもいます」

「その考え方がいけないんだよ。開発した人の、苦労はどこに行ってしまったんだ?」

「せっかく苦労をして開発して、これから金儲けしようと思っていたのに、ギルドの力で先に色んな町で販売してしまったら、その人が報われないだろ?」

「ですが、その商品もギルドの資金力があればこそ作りだせた物で……」

「それで、今ギルドがピンチになってどういう事になっている?」

「そ、それは……」

「そう!美味しいとこ取りばかりこういう時ばかり人に頼んな!どうせ、ギルドを助けても自分達がピンチの時は、ギルドは動いてくれないと思われているんだよ」

「だったらどうしたら!」

「まあ、今からじゃ生産者との溝を修復するのは無理なんじゃないか?」

「だったら、ケンジ様にお願いするしかありません!どうかインゴットの依頼を受けてください!」

「だから、なんでそうなるんだ。俺だって、ギルドの為になんか働きたくないよ」

「そんな事、言わないでください!」

 受付嬢は、本当にもう後がないようで、必死にケンジにしがみつきお願いをしてくるのだ。

「ちょっと!離してくれよ!そんな事されても困るもんは困るんだ!」

「いやです!聞いてくれるまで離しません!」

 受付嬢の部下の女性達も又、ケンジにしがみついてきたのである。

「ちょっと待てぇ~~~!そんな事しても無理なものは無理!」

 そう怒鳴った時、マイが部屋に入ってきて、受付嬢を引きはがしたのだった。

「あんた達!いい加減にしなさい!なにやってんのよ!」

「あ、マイマール様!」

「マイマール様じゃない!そんな事やっても心証がよくなる訳じゃないでしょ」

「ですが、もう町の結界に必要なインゴットが無いのです!なりふり構っていられないんですよ!」

「だったら、結界がなくなるしかないんじゃないのか?」

「そんな事できるわけがないじゃないですか!」

「だが、町の生産者は協力してくれないんだろ?だったら、無理なもんは無理なんじゃないか」

「だけど!ギルドの役目が……」

「じゃあ、聞くが幹部やギルドマスターは、ギルドの役目をちゃんと考えているのか?」
「あんた達は、連日会議は開いているよな?その時、ギルマスは町の事を考えて、意見を出し合っているのか?」
「もし、そうなら何故ギルマスが頭を下げに来ない?どうせ、へんなプライドが邪魔をしているんじゃないのか?」

 それを聞き、受付嬢達は何も言えなかったのだ。ケンジが言った通り会議という名のつるし上げで、下の者ばかり責められる場になっていたのだ。

「いいか?これはあんた達のなりふり構わず俺に頼って来たから言ってやるが、そんなギルドに何の価値がある?」

「「「それは……」」」

「いいか?今ならまだ間に合う。あんた達、下の者達だけで動いた方がマシだぞ」

「だけど、動くって何をしたらいいのですか?」

「はっきり言わないと分からないのか?」

「「「えっ?」」」

「辞職だよ。今ならまだ逃げる事は可能だよ」

「「「そ、そんな!」」」

 受付嬢達は、そんな選択は頭になかったのだ。ギルドの受付嬢は、言ってみたら女性が憧れる職業、ナンバーワンである。この職業に就く為、幼いころから両親の協力もあり、並々ならぬ努力をして就職したのである。

 そんな職業を簡単に辞める事など、あり得ない事なのだ。

「もし、このままいったらギルドと心中……いや、あのギルマスの事だ。しっぽ切りにあってもおかしくないぞ!」

「どっちも嫌です!そうならない為にも、ケンジ様がインゴットの依頼を受けてくれたら解決するじゃないですか」

「俺は、そんなギルドの為に働くのは御免だと言っているだろ!」

「なんとかできるのは、ケンジ様しかいないのです!だから、お願いします。」

 受付嬢3人は、受付嬢を辞めたくない一心で、ケンジに土下座し縋ってきたのだった。それを見た、ケンジとマイは呆れ果てて目を見合わすしかなかった。

「ケンちゃん、今回だけ助けてあげたら?」

 マイの言葉を聞いた、受付嬢達は希望の光を見るような感じで、マイに笑顔を向けるのだった。

「なんで?今回助けたらまた数か月後、こんな風に我儘言ってくるだけだから絶対助けないよ」

「そんなぁ~~~」

「俺からは絶対助けない!ギルマスが俺を嵌めようとしたのに、その謝罪もしてこないのに、何で助ける義理があるんだよ!」

「じゃあ、ギルマスが謝罪したら……」

「もう遅いよ。謝罪というものは、何が悪かったのか自分で気づき自らするもんだ!こうやって言われたからする謝罪は反省じゃなく、保身の為のものになるのがわからないのか?それじゃあ、意味がないんだよ!」

「だったら、どうしたら!」

「うん!だからもう何もかも遅いと言っているだろ」

「そんなこと言わずなんとか!」

「ケンちゃん、これって堂々巡りなだけだよ」

「ったく、しょうがないなあ……」

「「「じゃあ!」」」「依頼を受けてくれるのですか?」

 ケンジは受付嬢を厳しい目で見るのだった。受付嬢はケンジの瞳に恐怖を覚えるのだった。

「仮に依頼を受けたとして、指名依頼になるんだ。そんな金ギルドに支払う事はできないんだろ?そんな金があったら俺の店で買う事が出来るもんな」

「は、はい……」

「じゃあ、どう考えても依頼の件は無理だ!」

「それをどうか!」

「無理なもんは無理!だけどアドバイスはしてやるよ。それを、実行に移すか移さないかはギルドに任せるよ」

「それは、どういうものですか?」

「あんた達、生産ギルドの中にも専属の採掘士はいるんだろ?」

「はい!ギルドが購入した奴隷達が頑張って、地上で採掘を頑張っていますが、とてもじゃないですが採掘量が追い付かないんです」

「なら、そいつらは犯罪奴隷なんだよな?」

「はい……まさか……」

「そのまさかだよ!そいつらに、初級ダンジョンで採掘させるんだ!」

「そんなの無理に決まっているじゃないですか!採掘士なんですよ!すぐに死んでしまいます!」

「だから護衛を雇うんだよ」

「誰が、奴隷を護衛してくれるんですか?そんなのいませんよ!」

「なんで、あんた達はすぐそうやって無理とか、駄目と否定ばかりするんだよ。いいか?あんた達4つのギルドは共有し一緒になっているんだろ?」

「はい……」

「冒険者ギルドに頼れよ!護衛料を生産ギルドで出して、奴隷じゃない人の護衛という名目で採掘をするんだ」

「どういう事でしょうか?」

「奴隷の採掘士達が居るだろ?そいつらを監視するために初級ダンジョン位ならいける者を選抜し、冒険者達を護衛として雇うんだよ」
「そして、採掘をさせ採掘量を増やすんだ。地上より含有量が多い鉱石が採掘できるだろ?」

 ケンジの提案に、受付嬢達は希望を見出すのである。監督係の、人物の護衛という名目なら護衛の依頼を受けてくれる冒険者がいるかもしれないのだ。

「それなら、確かに!」

「一応言っておくが、上手くいくと思って奴隷を酷使したら、奴隷は体力がなくなり死亡率が増えるから欲を出すんじゃないぞ」

「「「はい!」」」

「いいか?次につなげるように、行動をする事を心がけるんだぞ!」

「ありがとうございます!これでひょっとしたら結界の事もうまくいくかもしれません!」

「いいか?失敗したらもう俺は本当に知らないからな?絶対に、次・に・つ・な・が・る行動をするんだぞ」

「はい!ありがとうございました!」

 そういって、受付嬢達はFreedomを後にしたのだった。

「ケンちゃん、あんな含み言葉で言っても気づかないんじゃないの?」

「そこまで、俺の責任じゃないよ」

「だけど、失敗したらまた来るんじゃないの?」

「多分、そうなった時はテンペの町がなくなる時だよ。まあ、そうなってくれる方に、俺は賭けてあんな事を言ったんだからな」

 マイは、ケンジのセリフに驚愕し驚くのだった。ケンジが、テンペの町の人達の命をどうでもいいと言っているのである。

「ケンちゃん!テンペの町の人の命をどうでもいいというの?スタンピードが起こったらどうなると!」

「まあ、落ち着けって」

「落ち着ける訳ないでしょ!見損なったわ!」

 セバスが、マイの怒鳴り声に慌てて、部屋に入ってきたのだ。

「どうかなさったのですか?」

「ちょっとセバス聞いてよ!ケンちゃんったら、テンペの町が滅びる事を願っているっていうのよ!」

「どういうことですか?」

「だから、話はちゃんと聞けって!」

「ちゃんと聞いても、さっき滅亡を願ってるっていったじゃない!」

「俺は、テンペの町は、遅かれ早かれ滅亡すると思っているんだよ。」

「ご、ご主人様!」

「いいから聞けって!他の町やガーライの町とかは、何とか苦しいながらも結界を維持できているだろ?なのに、ガーライよりでかい町が何で結界の維持ができないんだ?」

「それは……」

「ああ、初めから結界の重要性を考えていなくて、俺がいると思い甘えているからだ」
「そんな奴らが、自分達の仕事を軽く見て結界の事を深く考えず、そんな重要な事を、王国から請け負っているんだぞ。そんな町は滅んで当たり前じゃないか」

「だからって、町の人達がどうなってもいいの?」

「そう、いつも迷惑をこうむるのは平民や立場の弱い人達だ!俺もそれについては気の毒に思うよ。そんな人達が犠牲にならないように考えているつもりだし、さっき受付嬢に言ったアドバイスができるなら成功する方がいいと思っている」

「だったら!」

「俺だって万能じゃない!全ての人達を助けたいと思うが、俺はお前達で手いっぱいだよ。全部の人を助けるなんて軽々しく言えない」

「それはそうだけど……」

「マイも、今は3次職になったからと言って、スタンピードが起こった時、全ての人を死亡させずに助ける事ができるって言えるか?」

「そんな事……」

「それと同じ事だよ。まあ、いい過ぎたけど、俺は俺なりにテンペの町の事は考えているつもりだから安心しろ」

 ケンジは、そう言って客室から出ていくのだった。部屋に残ったマイとセバスは、ケンジが考えていると言った事が気になったが、ケンジの考えはまったくわからず、只沈黙するだけだった。


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