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第1章 異世界に!

34話 そして・・・②

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 ケンジは、またもや傲慢な態度のギルドマスターに会い、この世界での上に立つ者は、みんなあんな感じなのかと嫌気がさしていたのだった。
 
 ケンジは、まだ気づいてはいないのだが、そんな事は全然ないのである。実はこの国、帝国領に問題があるのだ。
他の国にも、大なり小なりこういう上司はいるのだが、ここ帝国領はもっとも悪いと言える国といえるのである。

 ケンジは、この後どういう事になるのか大体想像が出来る為、この後の事を考えるとため息しか出なかった。

「主……大丈夫ですか?顔色が悪いですよ」

 後ろを振り向くと、3人はケンジの事を心配そうに見つめていたのだ。

「あぁ……みんな悪いな……この後、又苦労をかけるかもしれないから覚悟だけはしておいてくれ」

「「「だいじょうぶです」」」
「主の、好きなようにしてください。我々は、主の為に役立ってみせます」

 ケンジ達は、豪華な一室に案内され、すぐにここがギルドマスターの部屋だと分かるのだった。

「じゃあ、そこのソファーにかけてくれ」

 ケンジは、何も言わずソファーに腰を掛けた。それと、同時にアンナが部屋に入ってきて、お茶を出してくれたのだった。そして、アンナもケンジの対面に座り、アンナに尋ねたのだった。

「アンナさんも、部屋に残り話しをするのですか?」

「ハイ!そうですが、何か問題でも?」

「いや……別に構わないが、俺はてっきりギルドマスターと二人で、話し合うと思ってただけだよ」

「私はこのギルドの副ギルドマスターです。何の問題はありませんよ」

 ケンジは、ここでもテンプレがあったかと、ため息をつくのだった。

「それで、君はケンジという名前だったよな?」

 ケンジは、何も言わず、不信感をあらわにして、頷くだけにした。

「それで、何の用ですか?俺は、これから採掘に行かないといけないんで、手短に済ませてくれ!」

「じゃあ、それは今日はやめてFランクの仕事をしてくれ。君も見ただろ?あの量の依頼を!」

「あんな数の依頼、今日俺がやったところで無くならないよ」

「だから、数日間はFランクの仕事をやってもらいたいんだよ。無理はしなくてもいい!できる範囲でかまわない」

「ギルマス!あんたは俺に、採掘の仕事はやらせないと言うんだな!」

 ケンジは、ギルドマスターとアンナを睨みつけ、大きな声で怒鳴ったのだ。

「いや、そうは言わんよ。とりあえず、この状況が落ち着くまででいいんだ」

「その間、ギルドとしてはどんな対策をするんだ?それに、あんたの言ってる事はおかしい!落ち着くっていつまでなんだ?」

「いや……それは、ギルドとしてもこれから考えていくつもりだ」

「じゃあ、俺はその間ずっと、Fランクの依頼しかできないのか?そんなの話にならないだろ!」

 ケンジは、バカバカしいと言いながら席を立とうとすると、アンナが慌てて提案をしてくるのだった。

「ケンジ様、お待ちください!そんな、長期間とは言いません。とりあえず今日だけ……今日だけでも、Fランクの依頼をしてくれませんか?」

「なんで、そんな都合のいい事ばかり言えるんだ?」

「明日からは、他の手の空いているギルド構成員にも、声をかけて協力を集いますんで!だから、今日はFランクの依頼をやってください。お願いします!」

「で、明日他の人達が協力してくれなかったらどうするんだ?また、今と同じように、俺に無理を押し付けるつもりか」

「いえ……そんな事は……」

 アンナの声はだんだん小さく聞こえなくなり、下を向き目を合わせないのだった。

「それに、アンナさんは俺に言ったよね!今、ギルドは後継者不足に悩んでるって!俺に、Fランクの依頼を押し付けて、こんな先の見えない提案をしてくるギルドってどうなんだ?」

「ケンジと言ったか?その辺でやめておけ!今はそんな事よりFランクの依頼を、どう処理する方が重要だ」

「その問題は、ギルドの問題であって俺の問題じゃない!ギルド構成員全員でやるというならまだわかるが、俺だけにシワ寄せがくる対策なら絶対協力はしない!」

「屁理屈を言うな!お前達は、ギルドの言う事に従っていればいいんだ!」

 頭に血が上って、そんな事を言うギルドマスターを、アンナは顔を青くして横目で見るのだった。

「ホント!話にならないギルドマスターだな……そんな事が通る訳ないだろ。どの依頼をやるかなんて、俺の……いや個人の自由だし、Fランクの俺に指名依頼なんて出せないはずだろ」

「これは指名依頼じゃない。お前が、依頼を受けないとこの状況はどうする?誰かが、依頼をこなしてくれないと治まらんじゃないか」

「そんなのは俺の知った事じゃないし、それにあんた達は何か勘違いしてるよ」

「どういう事だ?」

「俺は、Fランクの依頼をやらないとは言っていないし、マイペースで自由にやらせてもらうと言ってるんだ。Fランクの依頼は、来週火の日にやると先ほどもアンナさんに言ったはずだ」

「そんな長い間、この状況を放って置くつもりか?」

「放って置くか、どうかはギルドの判断だ!俺に責任を押し付けるな!」

「「・・・・・・・」」

「だが、Fランクの依頼をやってくれるなら、今日やってくれてもいいじゃないか!これも、ギルド内での協力だろ!違うか?」

「ああ、協力だな」

だったら、やってくれてもいいじゃないか?」

「協力なら、別の形で昨日やったよね?アンナさん!俺はそう何回もタダで、ギルドの言いなりになるつもりはないよ」

「アンナ、どういう事だ?」

「はい……昨日、ケンジ様には無理を聞いてもらい、ジャイアントフォレストボアの肉を売っていただきました。それも、今のこの時期ボアの肉が高沸している中、普通の価格で……」

 それを聞いた、ギルドマスターは唖然として固まってしまったのだ。確かに、ボアの肉が手に入ったと報告に上がっていて、ジャイアントボアの肉なんて生産ギルド始まって以来ではないかという快挙で、ギルドマスターとして嬉しく思っていたのだった。

 それを聞いた、ギルドマスターは今度は何を思ったのか、泣き落としてきたのだ。

「なあ、ケンジ君……君には、昨日も無理を言って悪いんだが、今日もギルドを助けてくれないか?聞くところによると、君はFランクの依頼を昨日だけで、3つも片づけてしまったらしいじゃないか」

「だったらどうしたんだよ。いきなり、猫なで声を出してんじゃねえよ。キモいんだよ!」

「こんな早く、Fランクの依頼を処理できるなんて、やっぱり君しか適任は居ないんだよ」

「だから、言ってるだろ!Fランクの依頼はやるって!でも、それは今日じゃない!」

「そこをなんとか頼むよ!我々も、無理を言っているのはわかるんだが、このまま何もせずに放って置くのは、ギルドとして体裁が悪いんだ……わかってくれ!」

「今まで、Fランクの依頼を放っておいて、何が体裁が悪いんだか……俺にはわかりかねませんね!だったら、日頃からちゃんと対策を立ててたら良かったんだよ!それを、この状況になってアタフタして、俺に丸投げするのは意味がわからない!」

 ケンジにそう言われ、ギルドマスターとアンナは、下を向き何も言えなくなってしまったのである。ギルドマスターは、なんとかしてケンジに依頼をやってもらおうと、頭の中で考えを整理するのだった。この無言の時間は勿体ないと思い、ケンジは席を立って部屋を出ようとした。

「もう、何もないようだったら、失礼する!もう、俺達に依頼を押し付けんな!」

「待て!ケンジとやら、わかったよもう、Fランクの依頼をやらんでもいい!」

「ギルドマスター!このまま行かせてしまっていいのですか?」

 アンナは、慌ててギルドマスターをとめる。

「そうか!やっと分かったのか」

「ああ、分かったよ。君が、こんなに頑固者で青二才だって事がね。このまま部屋を出たら、Fランクの依頼はやらなくてもいいが、その他の依頼、採掘や採取その他の依頼も全てお前にはやらせない!それでもいいのか?」

「「「「「なっ!」」」」」

 それを聞き、今まで黙っていたギルスレイン達3人も、声が漏れてしまうのだった。

「ギルマス……それは本気で言っているのか?」

「ああ、本気だ!新人のお前にここまで好き勝手言われるわけにはいかん!ギルドが構成員にナメられたら、他の者に示しがつかず、これからやっていけなくなるんでね」

「ご主人様……これから、仕事をまわしてくれなくなったら……」

「そうだ!どうするかよく考えてくれたまえ。お前等構成員はギルドがあってなんぼだ!仕事が無くなってしまったら困るだろ?」

 今度は、ケンジが悔しそうに顔をゆがめるのだった……この時、ケンジは仕事を回してもらえなくなったら、ギルスレイン達を養っていけなくなるとか、色々考えてしまい動けなくなってしまったのだ。頭の中でケンジは、自分の父親もこんな感じに思って、無理をして過労死したのかなと思っていたのだった。

「どうした?ケンジ君!このまま部屋を出ていくのか?それとも俺の言う事を聞いて、Fランクの依頼をやってくれるのか?どっちにするんだ!」

 ケンジは、ギルドマスターの挑発には乗らず、頭の中で冷静に冷静にと何回も繰り返したのだった。

「ふぅ……ギルドマスター、俺の負けです……」

「そうか!わかってくれたか!」

 ケンジは、怒りがあふれ出しギルドマスターを睨み、威圧したのだった。

(わかったんじゃねえよ!脅したんだろうが!)

 ケンジにとって、このギルドを暴力で何とかしようと思ったら出来るが、ギルドマスターは、自分の命を奪おうとしていない為、こちらがそれをやってしまったら、自分が犯罪者になってしまうので、歯を食いしばり我慢するのだった。

「ただし……条件がある!今日、俺はFランクの仕事を昨日より多く、4件やってやる!これ以上はやらない。これ以上はキャパオーバーだからな!」

「ああ!お前一人で、4件もやってくれるなら助かるよ」

 ギルドマスターは、1日4件のペースで、片づけてくれるなら、早い段階で収束すると思い納得したのだ。

「そして、ギルドはその間に協力者を募って、少しでも多くのFランクの依頼を、明日から片づけれるような対策をして、むやみにFランクの受注を受けないようにしてくれ!いいな?」

 この条件も、ギルドマスターが考えていたもので、条件に出されなくともやるつもりだったので、ニヤリと笑い承諾するのだった。

「最後に、どの依頼をやるかはわからないが、無理を聞いてやるんだから、倍の価格の報酬を払ってくれ!条件は以上だ」

 ギルドマスターでなくとも、Fランクの依頼は格安なのを知っているので、報酬額が倍になったとしても、ギルドにとって痛くもかゆくもない金額であるので、ギルドマスターはケンジの条件を快く飲むのだった。

「わかりました……」

 アンナも条件を飲みうなずいたのだ。それを聞き、ギルドマスターは取り敢えず安心し、ケンジを部屋から解放するのだった。

「ケンジとやら、もう部屋から出ていいぞ。早速Fランクの依頼を片づけてくれ!これからは大人しくギルドの言う事には従う様に、わかったな!」

 ギルドマスターは、ケンジを従わす事が出来て、気分がよくなり言葉遣いもさらにぞんざいになり、部屋から追い出すのだった。


 当然だが、ケンジに対するこの対応が後に、この町の命運をわけ、ギルドマスターはもちろんの事、ギルド職員も後悔する事になるのだが、今は誰もわからないのであった。

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