73 / 73
狐
しおりを挟む
「悪かったな、最後の最後まで到着が遅れて」
荒木寺さんは言う。
「いや、最後あの壁がなければ僕は死んでたんですよ。感謝してますし、怒ってなんてないです」
横たわった状態の僕の脇で胡座で座る荒木寺さんに言う。
「ところで、荒木寺さん以外はどこに?」
聞くと、荒木寺さんは一つため息を零して言う。
「己龍家のやつなら雑魚蹴散らしてとっくに帰ったらしい。沙耶は走るのが遅いから後から来る」
「そうですか、何事もなくて良かった。九尾苑さんと猫宮さんも後から合流ですか?」
尋ねた瞬間、荒木寺さんは気まずそうな顔をする。
「荒木寺さん、九尾苑さんと猫宮さんに何があったんですか、教えてください、今どこにいるんですか!」
尋ねると、荒木寺さんは眉間に皺を寄せて言う。
「猫宮は、無事だ。九尾苑は………………九尾苑は、死んだ」
瞬間、僕は駆け出していた。
全身に穴が空いた痛みなど忘れ、怪現で妖力を使い切った疲弊など忘れ、駆け出していた。
荒木寺さんの来た方向へと、全力で駆けていた。
こんな状態で走れていると言う事実は信じられないが、それ以上に信じられない。
九尾苑さんほどの人が死ぬなど、思いもしなかった。
頭では理解出来ていても、心では理解出来ていなかった。
実は悪質なドッキリで、今にも木の影から飛び出してくるのではないかと、そう思っていた。
僕は駆ける。木が生えていない僕が戦っていた範囲を超えて、完全な森の中に。
駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、そして反対方向から同じように走る人物にぶつかる。
沙耶だ。
「あ、一ノ瀬…………」
声が漏れるように言った沙耶の目元は赤く腫れており、涙を拭っていたであろう手の甲は水の中に手を突っ込んだのではないかと思うほどに濡れていた。
それだけで、悟る。
本当に、九尾苑さんは死んだのだと。
あの何が起きても死なないだろうと思っていた人物に、彼も対処出来ないような脅威が降りかかったのだと。
「一ノ瀬……九尾苑さんが、死んじゃったよ」
沙耶は僕のボロボロの服にしがみつき、嗚咽をこぼしている。
「沙耶、九尾苑さんはどこに」
服にしがみつく沙耶の背中を摩りながら、自分も涙を堪え尋ねると、沙耶は震える指で元来た方向を指差す。
僕は当然九尾苑さんの元に向かおうとするが、流石にこの傷で沙耶を支えながらは無理だった。
というより、ここまで走るので、限界だった。
僕の意識は、ぷつりと途切れた。
荒木寺さんは言う。
「いや、最後あの壁がなければ僕は死んでたんですよ。感謝してますし、怒ってなんてないです」
横たわった状態の僕の脇で胡座で座る荒木寺さんに言う。
「ところで、荒木寺さん以外はどこに?」
聞くと、荒木寺さんは一つため息を零して言う。
「己龍家のやつなら雑魚蹴散らしてとっくに帰ったらしい。沙耶は走るのが遅いから後から来る」
「そうですか、何事もなくて良かった。九尾苑さんと猫宮さんも後から合流ですか?」
尋ねた瞬間、荒木寺さんは気まずそうな顔をする。
「荒木寺さん、九尾苑さんと猫宮さんに何があったんですか、教えてください、今どこにいるんですか!」
尋ねると、荒木寺さんは眉間に皺を寄せて言う。
「猫宮は、無事だ。九尾苑は………………九尾苑は、死んだ」
瞬間、僕は駆け出していた。
全身に穴が空いた痛みなど忘れ、怪現で妖力を使い切った疲弊など忘れ、駆け出していた。
荒木寺さんの来た方向へと、全力で駆けていた。
こんな状態で走れていると言う事実は信じられないが、それ以上に信じられない。
九尾苑さんほどの人が死ぬなど、思いもしなかった。
頭では理解出来ていても、心では理解出来ていなかった。
実は悪質なドッキリで、今にも木の影から飛び出してくるのではないかと、そう思っていた。
僕は駆ける。木が生えていない僕が戦っていた範囲を超えて、完全な森の中に。
駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、駆けて、そして反対方向から同じように走る人物にぶつかる。
沙耶だ。
「あ、一ノ瀬…………」
声が漏れるように言った沙耶の目元は赤く腫れており、涙を拭っていたであろう手の甲は水の中に手を突っ込んだのではないかと思うほどに濡れていた。
それだけで、悟る。
本当に、九尾苑さんは死んだのだと。
あの何が起きても死なないだろうと思っていた人物に、彼も対処出来ないような脅威が降りかかったのだと。
「一ノ瀬……九尾苑さんが、死んじゃったよ」
沙耶は僕のボロボロの服にしがみつき、嗚咽をこぼしている。
「沙耶、九尾苑さんはどこに」
服にしがみつく沙耶の背中を摩りながら、自分も涙を堪え尋ねると、沙耶は震える指で元来た方向を指差す。
僕は当然九尾苑さんの元に向かおうとするが、流石にこの傷で沙耶を支えながらは無理だった。
というより、ここまで走るので、限界だった。
僕の意識は、ぷつりと途切れた。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
【厳選】意味怖・呟怖
ねこぽて
ホラー
● 意味が分かると怖い話、ゾッとする話、Twitterに投稿した呟怖のまとめです。
※考察大歓迎です✨
※こちらの作品は全て、ねこぽてが創作したものになります。
182年の人生
山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。
人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。
二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。
(表紙絵/山碕田鶴)
※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。本日「60」まで済。
軍艦少女は死に至る夢を見る【船魄紹介まとめ】
takahiro
キャラ文芸
同名の小説「軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/176458335/571869563)のキャラ紹介だけを纏めたものです。
小説全体に散らばっていて見返しづらくなっていたので、別に独立させることにしました。内容は全く同じです。本編の内容自体に触れることは少ないので大してネタバレにはなりませんが、誰が登場するかを楽しみにしておきたい方はブラウザバックしてください。
なお挿絵は全てAI加筆なので雰囲気程度です。
千切れた心臓は扉を開く
綾坂キョウ
キャラ文芸
「貴様を迎えに来た」――幼い頃「神隠し」にあった女子高生・美邑の前に突然現れたのは、鬼面の男だった。「君は鬼になる。もう、決まっていることなんだよ」切なくも愛しい、あやかし現代ファンタジー。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと78隻!(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。また、船魄紹介だけを別にまとめてありますので、見返したい時はご利用ください(https://www.alphapolis.co.jp/novel/176458335/696934273)。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。
●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。
美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜
星名柚花(恋愛小説大賞参加中)
キャラ文芸
夏祭りの夜、あやかしの里に迷い込んだ美緒を助けてくれたのは、小さな子狐だった。
「いつかきっとまた会おうね」
約束は果たされることなく月日は過ぎ、高校生になった美緒のもとに現れたのは子狐の兄・朝陽。
実は子狐は一年前に亡くなっていた。
朝陽は弟が果たせなかった望みを叶えるために、人の世界で暮らすあやかしの手助けをしたいのだという。
美緒は朝陽に協力を申し出、あやかしたちと関わり合っていくことになり…?
毎日記念日小説
百々 五十六
キャラ文芸
うちのクラスには『雑談部屋』がある。
窓側後方6つの机くらいのスペースにある。
クラスメイトならだれでも入っていい部屋、ただ一つだけルールがある。
それは、中にいる人で必ず雑談をしなければならない。
話題は天の声から伝えられる。
外から見られることはない。
そしてなぜか、毎回自分が入るタイミングで他の誰かも入ってきて話が始まる。だから誰と話すかを選ぶことはできない。
それがはまってクラスでは暇なときに雑談部屋に入ることが流行っている。
そこでは、日々様々な雑談が繰り広げられている。
その内容を面白おかしく伝える小説である。
基本立ち話ならぬすわり話で動きはないが、面白い会話の応酬となっている。
何気ない日常の今日が、実は何かにとっては特別な日。
記念日を小説という形でお祝いする。記念日だから再注目しよう!をコンセプトに小説を書いています。
毎日が記念日!!
毎日何かしらの記念日がある。それを題材に毎日短編を書いていきます。
題材に沿っているとは限りません。
ただ、祝いの気持ちはあります。
記念日って面白いんですよ。
貴方も、もっと記念日に詳しくなりません?
一人でも多くの人に記念日に興味を持ってもらうための小説です。
※この作品はフィクションです。作品内に登場する人物や団体は実際の人物や団体とは一切関係はございません。作品内で語られている事実は、現実と異なる可能性がございます…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても面白いです!まだ始まったばかりな様なので、これから面白くなりそうですね。
あと、申し訳ないんですが、
#本気__まじ__#
って、いうのがルビをやろうとして出てくると思うんです。
このルビをきちんとやる方法(?)は。
本気ってところを消して、その消したところに、くおんっていう漢字をおいて。(漢字がかけん)
まじってところを消して、その消したところにその読み方を書くんですよ。
くおんさんって人の字がきちんとルビで出てなかったので……(*ノ・ω・)ノ♫
無駄なおせっかいだったらすみません!!
ルビのやり方は難しいですよね。私も苦戦しました。
できたかどうかは、ふつうにプレビューするってところから見れますよ。あ、でも普通に見てもいけます。
それで、感想に戻りますが。
めっちゃ面白いです。楽しい本を見つけて良かったです。
投稿頑張ってください!
感想とルビ指摘ありがとうございます!
今まで別のサイトに投稿していたので未だ不慣れですがちょっとずつ覚えていこうと思います!