日暮れ古本屋

眠気

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あのときの

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 目を瞑り、目の前の暗闇に潜り込むイメージ。
 暗闇は僕に入ろうとするが、僕は身の回りに炎を纏わせて暗闇の侵入を拒む。

 あの後沙耶から聞いたイメージ。
 嘗て僕が使っていたらしいが、そのおかげかイメージしやすく、いつもより妖力の操作が用意にも感じる。

 他の術を使うときのように濃い妖力を作り出し、頭の頂点から全身に広げる。

 すると、全身がぬるま湯に浸っているような感覚が現れる。

「まさか、これって」

 呟くと、背後から少し掠れた声。先生が現れた。
 そう、この感覚は初めて先生に会ったあのときの感覚だ。
 あのときの僕は、そういうものなのだろうと何も考えずに終えていたが、あれは先生の妖力で、それに包まれて若干の妖装状態にあったというならばこの感覚も、あのときの感覚も納得できる。

「少し遅いが、まあ及第点かの」

 続く荒木寺さんの治療のせいか、先生は少し口調が老人らしくなっている。
 似合わないと言うわけではなく、寧ろ似合いすぎていた。

「これって、初めて先生に会ったときのですよね?」

 聞くと、先生は空を手で切り、その場に椅子があるかのように座り込む。
 空中で妖力を固めて椅子にしているのか、何かしらの術なのか。
 この人は何故会うたびに見たことのない技を使うのか。

「然り。あのときはおんしの周りだけではなく、店全体に対する妖装故、質が違うがの」

「先生はイメージの時点でヒントは出していたのですね。気づいたのは今ですが、失望されていないようでよかった」

「まだ若い目を軽率に失望して切り捨てるほど耄碌してはおらぬよ」

 言って、先生は微笑する。

「まず、ちと出来ない程度で見捨てとったら今おんしは生きとらんよ」

 その後、僕は先生に妖力操作の練習と、空中に妖力を固定してどこでも椅子を作り出したり、宙に立ったりする技を教えてもらい、一日を終えた。

 そして一ヵ月の時は過ぎ、突入五日前、先生は突如僕に言ったのだ。

「準備は整った、奥義を教えよう」

 そう、言ったのだ。
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