日暮れ古本屋

眠気

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到着

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「今度は、間に合いましたよ」

「感動の再開はよい、おんしはあの女を相手してきなさい。この男は儂が治しておく」

「はい、荒木寺さんをよろしくお願いします」

 そう言って、宗介はシルフィーに向かい足を進める。

「ああ、あなたが端蔵様の言ってた」

 女は呟き、札三枚に妖力を込めはじめる。

「荒木寺さんの腹に穴を開けたのは、お前か」

「そうと、言ったら?」

「殺す」

 その言葉には、虚勢も見栄も混じっておらず、純粋な怒りによるものだった。

 瞬間、双方が同時に別の術を発動させる。

「爆札!」

「火吹きの左腕。一の指、火遊び!」

 言うと同時にシルフィーの飛ばした札を、宗介の飛ばした炎の玉が消し炭とする。

 それだけでは止まらず、炎の玉はシルフィーに向かい進み続ける。

「一折目、爆」

 すると、炎の玉はシルフィーの目前で爆発する。
 しかし、荒木寺の爆発同様、シルフィーはなにかしらの手段で爆発を回避していた。

「下か」

 言って、宗介は地面に指を三本突き刺す。

「火走り三連」

 次の瞬間、地面の中から叫び声。シルフィーのものだ。

 数秒後には、波紋をたてながらシルフィーが地面から飛び出す。
 海から飛び出すイルカのようにだ。

「何故分かった」

 消耗した様子で言う。
 すると、宗介はシルフィーのズボンの裾を指さす。

「火、それの場所だよ」

 シルフィーは裾につく火を確認し、手刀の風圧のみで火を消す。

 深く息を吸ったあと、自身の長い髪をこれまた手刀で切り、腰の長さまであった髪は、肩までになる。

「やっぱりダメね、前の侵入のために伸ばしたけど、動きにくいわ」

 瞬間、瞬き一つ挟む間も無く、シルフィーの指が宗介の喉に触れる。

 しかし、揶揄うように喉を撫でるだけで、次の瞬間には再度シルフィーは宗介との距離をとっていた。

「なんですかそれ、隠してたんです?」

「違うわよ、長い髪がまどろっこしくて動きにくかっただけよ」

「本来誤差でしょ、その変化」

 苦笑いしながら言う。
 しかし、宗介は速度の急上昇に驚愕こそしていたが、絶望はしていなかった。

「武器無しじゃあここまでか。先生、もう使いますよ!」

 宗介が言った瞬間、シルフィーは思い出す。
 小豆が書いていた小説で宗介が使っていた武器、羽団扇の存在を。

 羽団扇を使われれば、戦力差が髪を切る前と同じように戻ってしまう可能性がある。
 そう思いシルフィーが羽団扇の抜刀を阻止しようとした瞬間だった。

 体が自分が向かおうとする方向とは別の向きに引っ張られる。

「お返しよ」

 そう言ったのは、先程シルフィーが蹴り飛ばした沙耶だった。

 宗介と屋比久はこの森の空間に入った瞬間、荒木寺の負傷と謎の檻、そして息を殺して相手の隙を伺う沙耶の存在に気づき、敢えて沙耶には駆け寄らずにいたのだ。

 シルフィーは、足元の落ち葉を一枚足で掬い上げ、自分と沙耶の間に挟むことで吸い寄せる術の的を自分からすり替える。

 しかし、その頃にはもう遅い。
 羽団扇の抜刀はすでに終了し、刀身には身を焦がすような高温の炎を纏っている。

炎槍えんそう!」

 瞬間、炎はシルフィーに向かい超スピードで伸びる。

 普段のシルフィーなら回避可能な速度だが、想定外の沙耶の術により体制が整っていない。

 炎槍は間違いなく直撃する。
 完璧なタイミングで、完璧な位置で。

 そう思った瞬間、炎がシルフィーに触れる僅か手前に一つ、新たな妖力が現れる。

「僕の方も、間に合ったみたいだ」

 そう言ってシルフィーを炎槍の当たる位置から引っ張って逸らした男、端蔵晴海だ。
 嘗て無貌木を殺した男、宗介と因縁深い相手だ。

 端蔵は宗介を一瞥したあとに、猫宮と九尾苑の閉じ込められている檻、鎖鬼に目を向ける。

「あは、あの檻って核でも壊れないと思ってたのに、そろそろ九尾苑さん出て来そう」

 そう言って、端蔵はシルフィーを連れて帰ろうとする。

「——————端蔵、僕がお前を黙って返すわけないよな」

 立ちはだかったのは宗介ただ一人だった。
 屋比久は荒木寺の治療で戦闘には手が回らず、沙耶も蹴飛ばされたときの傷で動けない。

「少年、いや、この呼び方は止そう。宗介、君はまさか、一人で僕ら二人を相手できると?」

「無理だろうけど、九尾苑さんが出てくるまでの時間稼ぎ程度、勤められないとは思わない」

 今すぐにでも無貌木の仇だと切り掛かりたいが、前より強くなった結果分かる、圧倒的な戦力差を前にして、頭を冷静に保つ。

「無理だよ、だって君ってまだ弱いし」

「言ってられるのも、今だけだッ! 三の指、獄壁!」

「おお、監視の報告より妖力の濃度が増してるね」

 そう言って一拍置いた後、慌てた様子もなく、余裕の満ち溢れた様子で続けるのだ。

「でも、まだ届かない」

 そう言って、端蔵が軽く獄壁に触れる。
 瞬間、獄壁は触れられた箇所から消え去る。

「濃度は増したけど、ムラが多い。だから今みたいに少しでも薄い場所を叩けば、破壊は容易だ」

 声に今までのうち最高の妖力を込めた獄壁、それを容易く破壊された宗介がわけもわからないまま次の術を放とうとしていると、それを見かねた端蔵は言うのだ。

「僕はいつか、君に負けるのかもしれない。
「でもそれは、今の君にじゃない」

 そう言った端蔵は、シルフィーの肩に触れて続ける。

「さっき言った通り、僕たちは今日は帰る。
「でも、一つ九尾苑さんに伝えておいてくれよ。
「丁度一週間後、僕らは古本屋に全勢力をもって攻め入る!
「出来るだけ一般人を巻き込みたくない、扉をどこか安全な所に移動しておいてくれよ。
「お互いのためだ」

 言い終えた瞬間、端蔵とシルフィーの妖力は完全に消え去る。
 悔しさはあるが、今は荒木寺や沙耶の怪我の具合が心配だ。
 そして、今の端蔵の言葉を九尾苑に伝えなければと宗介は思う。
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