日暮れ古本屋

眠気

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四十二冊目

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 穴の深さは百メートル程だった。
 大体落ちている時の体感で分かった。

 一応持ってきていた羽団扇の風で着地して、その十秒後には沙耶も到着した。

「ようこそ、ここが私の家よ」

 そう言って沙耶が指さしたのは、広い空間にポツンと建つ、寝殿作りの大豪邸だった。

「なにぽけーっとしてんのよ、荷物は玄関に纏めてあるから運ぶのを手伝ってちょうだい」

 あまりの豪邸っぷりに驚き、頭が別世界に飛んでいたようだ。

「ああ、玄関までは何十キロほどで?」

「そんな遠くないわよ! 目と鼻の先よ!」

 沙耶が言う。

 家が広過ぎて玄関まで時間がかかる、なんて事態にはならなそうなことに安堵しながら沙耶と共に玄関を目指す。

 玄関に着くと、運ぶ荷物はあと二つだけだった。
 それを持ち、先行する沙耶についてゆく。

 帰りは、一般民家に付いているような扉を開き、そこの中の光に飛び込んだ。

 落下はしなかったが、光に入った瞬間別の場所にいるのは中々不思議な感覚だった。

「あとはない?」

「ええ、今ので最後よ。
「ありがとうね」

 店に着くと、沙耶はそう言って部屋に戻っていった。

「九尾苑さん、ただいま戻りましたよ」

 少し大きめの声で言う。

 すると、台所兼食卓である部屋から音がする。

 九尾苑さんがいるのかと向かうと、猫宮さんと九尾苑さんが地下に降りる階段にバーベキューコンロを持ち込もうとしていた。

「………何やってるんですか?」

「バーベキューの準備だけど」

「なんで地下に?」

「広いからさ」

「でも入らなそうですね」

「そうなんだよ、困っているんだ」

 九尾苑さんと僕が話している間にも、猫宮さんはなんとか階段にバーベキューコンロを入れようとする。

 しかし、階段に繋がる扉は台所の少し大きめの物入れだ。
 バーベキューコンロは今の状態では入らないだろう。

「それ、足取り外せるやつなんだから解体すればいいじゃないですか」

 次の瞬間九尾苑さんは、あっそっかと言って足を外す。

 その後、一度解体したバーベキューコンロを地下で組み立て直すと、荒木寺さんが大きなビニール袋をいくつも抱えてやってきた。

「おい九尾苑、買ってきたぞ」

 そう言って荒木寺さんが置いた袋には、大量の肉と少しの野菜が入っていた。

「ところで、今日ってなんかあるんですか?
「急に焼肉だなんて」

 聞くと、九尾苑さんは思い出したように言った。

「宗介と沙耶ちゃんの引っ越し祝いと、バイトさんが二人も増えたね祭りだよ」

 バイトさんが二人も増えたね祭りだなんて、なんとも珍妙な名前の祭りを作ったものだ。
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