日暮れ古本屋

眠気

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四十一冊目

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 沙耶は一度家に荷物を取りに帰り、僕は仕事納めにかかる。

 途中沙耶が何度か大きなキャリーバッグを運んでいたのを見て、部屋は今頃荷物だらけだと想像する。

 僕は軽い気持ちで沙耶に声を掛ける。

「ねえ、まだ荷物があるようなら掃除もそろそろ終わるし手伝おうか?」

「え、いいの? それじゃあ九尾苑さんに一ノ瀬借りる許可貰ってくるわね」

 そう言って、沙耶は店の奥に消えていき、五分もすれば戻ってきた。

「それじゃあ行くわよ、一ノ瀬」

 そう言われ、先に店を出る沙耶のあとをついて行く。

「それにしても一ノ瀬が自分から家に来ようとしてくれるなんて、昔じゃ考えられないわね」

 途中、沙耶が言う。

「昔の僕は彼女の家に行きたがらなかったの?
「親御さんに粗相をしたことがあるとか?」

「いいえ、逆も逆、逆様も超えて真っ逆様よ。
「私のパパもママも、宗介を気に入り過ぎていたのよ」

「僕が? なんでさ」

「戦闘能力がね、ずば抜け過ぎていたのよ。
「それでパパもママも、宗介なら私を絶対に守れるからって、宗介をなんとしても捕まえておきたかったみたいなのよ」

 昔の僕が人を守れる程に、絶対と言われるほどの信頼を寄せられる実力者だったとは、到底思えない。
 しかし、昨日戻った記憶を思い出すと少しわかる気がする。

 あの夢での僕は強過ぎた。
 これは自分に自信があったり、中二病的な話ではないのだ。

 あの記憶に出てきた襲撃者と思われる男は、端蔵と戦う際に見た猫宮さんよりも早く、銃撃の狙いも正確、判断も早く、相当な実力者だったのだろう。

 それを、ああも容易くあしらい、逃走も防いだ。

 これを強過ぎると言わずしてなんと言うのだろうか。

 九尾苑さんレベルの人から見れば普通かも知れないが、少なくとも僕から見れば、あれは怪物の域だった。

「でも、二人も今の一ノ瀬の事情は知ってるし、今更掴んで離さないなんて事態にはならないわよ」

 沙耶の声で、自分の思考に潜り込んだ意識が復活する。

 思考時間的は一秒足らずだろう。

「そっか、なら安心だ」

 そんな話ををしていると、沙耶が足を止めて言う。

「ここからは一族の者もその関係者しか知らない道だから、無いとは思うけど気軽に誰かに話したりはしないでね」

 沙耶が足を止めたのは、先に鳥居が幾つか見える木の生い茂る細道だった。

 普段は絶対通らないような道だが、ここは黙ってついてゆく。

 十分と少し歩くと、たどり着いたのは森の木にある小さなお社だった。

「まさか、ここが家?」

 思わず聞くと、沙耶は口元を手で隠しながらくすりと笑う。

「そんなわけないじゃないの、家に繋がる門があるのよ」

 沙耶はそう言って、お社の側にある大きな木に触れる。

 瞬間、木が開いた。
 扉のようにパッカンと。

 開いた木の中は、強い光がありよく見えない。

「さあ、お先にどうぞ」

 沙耶は開いた木の中の光に入るよう手で促す。

 僕は腕で光を防ぎ、足元を見ながら木に向かい歩く。

 中に入ろうと足を上げ、突入前一秒未満、沙耶は言った。

「落ちるから、気をつけてね」

 瞬間、僕の足はあると思っていた地面を貫通し、体ごと落下する。

 さて、この穴の深さは如何程だろうか。
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