31 / 73
三十冊目
しおりを挟む
「沙耶ちゃんね、通いのバイトになったから」
九尾苑さんがそう言ったのは、沙耶が現れた次の日直ぐだった。
「沙耶ちゃん毎日来るらしいから、ちゃんと仕事とか教えてあげてね」
沙耶が店に来ると、僕が教える事なんて無いのではと思う程慣れた手つきで清掃を始める。
数日前から猫宮さんと荒木寺さんが仕事で店にいない為、本の整理などを手伝ってくれる人が居ると助かる。
「三列目終わったわよ~」
そう言いながら沙耶が此方に駆け寄る。
「梯子の埃は払いました?」
「あ~忘れてたわ! パパッとやってくるわね!」
仕事で動き易いように纏めたポニーテールが、犬の尻尾の様に見える。
それに、僕の記憶は正しくないので分からないが、沙耶が僕を探していて封じられていたスキンシップが、現在全て解放されている気がする。
終わったら箒で床を掃く様に頼み、自分も残りの本棚を掃除する。
掃除を続けていると、九尾苑さんが向かい手招きをしている。
「宗介くんさ、沙耶ちゃんと妖退治して来てくれないかい?」
「妖退治ですか、それって危険ですか?」
「いや、微塵も危険は無い。
「端蔵もしばらく出てこないはずだし、万が一があったとしても、僕の結界を無視して店に入って来た沙耶ちゃんが居れば平気だろう。
「強いよ、あの子。
「荒木寺と同じくらいにはね」
言うと、九尾苑さんさんは五種類のお札を取り出す。
「敵が多ければ白のお札。
「道に迷ったら緑のお札。
「少し梃子摺るなら黄色いお札。
「沙耶ちゃんが対処不可能な状況と判断したら、この青いお札。
「そして、二人の命が危険になったらこの黒いお札だ。
「状況に合わせて使ってね」
言うと、僕にお札と行く場所を記したメモを渡してから、九尾苑さんは店の奥に消えていった。
僕がその事を沙耶に言うと、着替えなどはせずに、モップを片付けて準備は終わりだと言った。
念のため、小刀を二本押し付けたが不服そうだ。
準備を整えて店を出る。
未だ凍える程では無いが、少し肌寒い。
風に吹かれ転がる落ち葉を、横目に流しながら歩く。
川の間を繋ぐ大きな橋を渡っていると、沙耶が僕に聞く。
「ねえ、今って何処まで記憶が戻ってるの?」
「今は、自分の下の名前と両親の声ぐらいしか」
「そっか、いつか私の事も思い出してね」
僅かに気まずい空気が流れるが、それは次の瞬間の目的地到着で断ち切られる。
「メモの場所的にも、妖力の量的にもここで間違いなさそうね」
「ええ、しかし、これは」
「ええ、流石にこれは」
臭いですね、そう二人でハモった。
九尾苑さんがそう言ったのは、沙耶が現れた次の日直ぐだった。
「沙耶ちゃん毎日来るらしいから、ちゃんと仕事とか教えてあげてね」
沙耶が店に来ると、僕が教える事なんて無いのではと思う程慣れた手つきで清掃を始める。
数日前から猫宮さんと荒木寺さんが仕事で店にいない為、本の整理などを手伝ってくれる人が居ると助かる。
「三列目終わったわよ~」
そう言いながら沙耶が此方に駆け寄る。
「梯子の埃は払いました?」
「あ~忘れてたわ! パパッとやってくるわね!」
仕事で動き易いように纏めたポニーテールが、犬の尻尾の様に見える。
それに、僕の記憶は正しくないので分からないが、沙耶が僕を探していて封じられていたスキンシップが、現在全て解放されている気がする。
終わったら箒で床を掃く様に頼み、自分も残りの本棚を掃除する。
掃除を続けていると、九尾苑さんが向かい手招きをしている。
「宗介くんさ、沙耶ちゃんと妖退治して来てくれないかい?」
「妖退治ですか、それって危険ですか?」
「いや、微塵も危険は無い。
「端蔵もしばらく出てこないはずだし、万が一があったとしても、僕の結界を無視して店に入って来た沙耶ちゃんが居れば平気だろう。
「強いよ、あの子。
「荒木寺と同じくらいにはね」
言うと、九尾苑さんさんは五種類のお札を取り出す。
「敵が多ければ白のお札。
「道に迷ったら緑のお札。
「少し梃子摺るなら黄色いお札。
「沙耶ちゃんが対処不可能な状況と判断したら、この青いお札。
「そして、二人の命が危険になったらこの黒いお札だ。
「状況に合わせて使ってね」
言うと、僕にお札と行く場所を記したメモを渡してから、九尾苑さんは店の奥に消えていった。
僕がその事を沙耶に言うと、着替えなどはせずに、モップを片付けて準備は終わりだと言った。
念のため、小刀を二本押し付けたが不服そうだ。
準備を整えて店を出る。
未だ凍える程では無いが、少し肌寒い。
風に吹かれ転がる落ち葉を、横目に流しながら歩く。
川の間を繋ぐ大きな橋を渡っていると、沙耶が僕に聞く。
「ねえ、今って何処まで記憶が戻ってるの?」
「今は、自分の下の名前と両親の声ぐらいしか」
「そっか、いつか私の事も思い出してね」
僅かに気まずい空気が流れるが、それは次の瞬間の目的地到着で断ち切られる。
「メモの場所的にも、妖力の量的にもここで間違いなさそうね」
「ええ、しかし、これは」
「ええ、流石にこれは」
臭いですね、そう二人でハモった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
佐野千秋 エクセリオン社のジャンヌダルクと呼ばれた女
藤井ことなり
キャラ文芸
OLのサクセスストーリーです。
半年前、アメリカ本社で秘書をしていた主人公、佐野千秋(さの ちあき)
突然、日本支社の企画部企画3課の主任に異動してきたが、まわりには理由は知らされてなかった。
そして急にコンペの責任者となり、やったことの無い仕事に振り回される。
上司からの叱責、ライバル会社の妨害、そして次第に分かってきた自分の立場。
それが分かった時、千秋は反撃に出る!
社内、社外に仲間と協力者を増やしながら、立ち向かう千秋を楽しんでください。
キャラ文芸か大衆娯楽で迷い、大衆娯楽にしてましたが、大衆娯楽部門で1位になりましたので、そのままキャラ文芸コンテストにエントリーすることにしました。
同時エントリーの[あげは紅は はかないらしい]もよろしくお願いいたします。
表紙絵は絵師の森彗子さんの作品です
pixivで公開中

紙魚の棚(しみのたな)
つづり
BL
大学三年の秋、主人公・佐藤 陽介(さとう ようすけ)は就活の重圧から逃れるように裏路地で店を構える古本屋『灯籠の書庫』にてアルバイトを始める。
ある日、一人の男が使い古された文庫本を売りに現れた。
彼から買い取った本からひとつのメモを見つけた陽介は、険のある男の顔つきから想像できない文章に心惹かれ、気まぐれに返事を書いたメモを古本に挟むのだった――すると、また別の日、男が売りに来た本の間には陽介宛てたメモが残されていた。
こうしてメモを通した二人の奇妙な交流が続くうちに、“男のことをもっと知りたい”という欲に駆られた陽介は彼との距離を縮めようと試みるが……?
鬼面の忍者 遠江国掛川城死闘篇
九情承太郎
歴史・時代
織田信長の天下統一寸前。
信長から接待を受ける旅の途上にある徳川軍団の重鎮たちは、歴史オタクの接待係に請われて「最も苦労した戦は何か?」について語り始める。
三方ヶ原や一向一揆が挙げられる中、服部半蔵は、遠江国掛川城での攻城戦を語り始める。
「あの戦は、徳川・武田・今川・北条が、四つ巴で戦う死地だった。最も危ない立場にあったのは、実は徳川だ」
今川家最後の攻防に関わる遠江国戦記は、一人のマイナー武将の意外な活躍を露出させる。
米津常春。
徳川家の主戦場全てに参加した此の武将の真価が、明かされるなう。
※カクヨムでの重複投稿をしています。
表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

流れ者のソウタ
緋野 真人
ファンタジー
神々が99番目に創ったとされる世界――ツクモ。
"和"な文化と思想、感性が浸透したその異世界には、脈々と語り継がれている、一つの伝承があった。
『――世、乱れる時、光の刀持ちて、現れる者、有り。
その者、人々は刀聖と呼び、刀聖、振るう刀は、乱れを鎮め、邪を滅し、この地を照らす、道しるべを示さん――』
――その、伝承の一節にある、光の刀を持つ旅の青年、ソウタ。
彼が、ひょんなコトから関わったある出来事は、世界を乱す、大戦乱への発端となる事件だった。
※『小説家になろう』さんにて、2016年に発表した作品を再構成したモノであり、カクヨムさんでも転載連載中。
――尚、作者構想上ですら、未だ完結には至っていない大長編となっておりますので、もしも感想を頂けるのでしたら、完結を待ってではなく、章単位や話単位で下さります様、お願い申し上げます。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】

九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~
束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。
八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。
けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。
ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。
神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。
薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。
何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。
鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。
とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる