日暮れ古本屋

眠気

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二十八冊目

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 楓が赤く染まる季節、店の扉が音を上げて開く。

 無貌木さんの件以来の来客だが、今回は前とは少し違う様子だ。

「ここかしら、一ノ瀬のいる店は!」

 威風堂々という言葉がよく似合う、僕と同い年くらいの彼女は声高々に言った。
 すると、店の奥から飄々とした男が現れる。

「はいはい、この店に一ノ瀬さんはいませんよ」

「貴方は一ノ瀬じゃないわね、どなた?」

「僕は九尾苑だけど、君こそどなたなんだい」

「私? そんなの今関係ないのよ。
「それより、早く一ノ瀬を出しなさい」

 傲慢とも取れる彼女の態度だが、何処か必死で鬼気迫る。

「とりあえず一旦上がってお茶でも飲むかい?」

「ええ、それが一ノ瀬を探すのに役立つなら上がらせて頂くわ」

 言うと、二人は店の奥に消えていった。

 僕は使っていた掃除道具を仕舞い、お茶を入れに行く。
 二杯のお茶をお盆に乗せ、二人のいる部屋に運ぶ。

 部屋の前まで行くと、中の話し声が聞こえてくる。

「一ノ瀬は私の彼氏よ。
「去年の夏に大量に行方不明者が出た事件があったでしょ、あの時に居なくなったの。
「ずっと探してた、そして今、彼の反応が此処にあるのよ」

 盗み聞きしてしまった気分だ。
 いや、確かに今僕は盗み聞きしているのだろう。

 気の強そうな彼女に少し苦手意識があった。
 しかし、一年以上一人を愛し続け探し続けるなんて、そんな健気な彼女に対して苦手だと思った事を申し訳なく思いながら戸を叩く。

 すると九尾苑さんが直ぐに、どうぞと言うので戸を開ける。

「あら一ノ瀬、いるんじゃない」
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