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【序章】
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風によって雲の形が変わり、木の葉が揺れる音だけが、時間の経過を感じさせる。
師と離ればなれになったことは気の毒ではあるが、記憶のない状況にも、同情の余地くらいはあるだろう。
そっと近づき、彼女のそばに座った。
「傷心のところ申し訳ないんだけど――。もし良かったら、オレのこと、あと少し教えてもらえないか。さっきも言った通り、何も覚えていないんだ」
彼女は目線を寄こしたあと、小さくため息をついた。
「そう、ですか……。あなたは、レーヴ・ド・ナヴァル。ナヴァル王国の第三王子だったんです」
「王子――だった?」
「王国は、昨年の夏の終わりから続いていたあの戦争で――消滅したからです」
「戦争……。それがオレが瀕死になった原因でもある、と?」
彼女は何が気に入らないのか、その質問には答えず、またにらみ返した。
「何か変なこと、言った?」
「その喋り方、演技じゃないんですよね?」
どうやら、以前のレーヴとは口調が違っているらしい。
蘇生という言葉は、人事不省になった人間に使う言葉だ。頭の中が霞んでいてはっきりしないが、意識と身体の不調和を感じるのはそれが理由だろうか。
「まあいいです。とりあえず、荷物のところに戻りましょう」
ルノアはのろのろと丘を上がり、カバンを手にしたあと、遠見をした。
「これから、どこか行くあてがあるのか?さっきの話だと、帰る場所がなくなったってことだろ?」
だが、彼女は再びその質問を無視して、カバンから地図を取り出し、地面に広げた。
「あと、こんなときに言うのもどうかと思うんだけど……。実は腹が減ってるみたいなんだ」
「うるさいなあ。そんなの、拙者だって同じです。近くで安全な町がどこか、考えているんです。少し黙っていて下さい」
小難しい顔で腕を組んでいたが、やがて指で地図を弾いてそれを仕舞うと、さっさと坂を下り始めた。
置いていかれてはたまらない。慌ててあとを追う。
殿下と呼ばれている割には、扱いが軽いというか、敬意が感じられないような。いったい、彼女とはどんな関係だったのだろう。
知りたいことは、もちろん、他にも山ほどあったが、同行者の機嫌が回復するまでは、我慢することにした。
師と離ればなれになったことは気の毒ではあるが、記憶のない状況にも、同情の余地くらいはあるだろう。
そっと近づき、彼女のそばに座った。
「傷心のところ申し訳ないんだけど――。もし良かったら、オレのこと、あと少し教えてもらえないか。さっきも言った通り、何も覚えていないんだ」
彼女は目線を寄こしたあと、小さくため息をついた。
「そう、ですか……。あなたは、レーヴ・ド・ナヴァル。ナヴァル王国の第三王子だったんです」
「王子――だった?」
「王国は、昨年の夏の終わりから続いていたあの戦争で――消滅したからです」
「戦争……。それがオレが瀕死になった原因でもある、と?」
彼女は何が気に入らないのか、その質問には答えず、またにらみ返した。
「何か変なこと、言った?」
「その喋り方、演技じゃないんですよね?」
どうやら、以前のレーヴとは口調が違っているらしい。
蘇生という言葉は、人事不省になった人間に使う言葉だ。頭の中が霞んでいてはっきりしないが、意識と身体の不調和を感じるのはそれが理由だろうか。
「まあいいです。とりあえず、荷物のところに戻りましょう」
ルノアはのろのろと丘を上がり、カバンを手にしたあと、遠見をした。
「これから、どこか行くあてがあるのか?さっきの話だと、帰る場所がなくなったってことだろ?」
だが、彼女は再びその質問を無視して、カバンから地図を取り出し、地面に広げた。
「あと、こんなときに言うのもどうかと思うんだけど……。実は腹が減ってるみたいなんだ」
「うるさいなあ。そんなの、拙者だって同じです。近くで安全な町がどこか、考えているんです。少し黙っていて下さい」
小難しい顔で腕を組んでいたが、やがて指で地図を弾いてそれを仕舞うと、さっさと坂を下り始めた。
置いていかれてはたまらない。慌ててあとを追う。
殿下と呼ばれている割には、扱いが軽いというか、敬意が感じられないような。いったい、彼女とはどんな関係だったのだろう。
知りたいことは、もちろん、他にも山ほどあったが、同行者の機嫌が回復するまでは、我慢することにした。
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