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【序章】
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敵にしては攻撃が雑だなと思いながら立ち上がると、そばに転がっていたのは、つばの広めの帽子をかぶり、腰くらいまでのマントを着た少女だった。
「もうっ……。風で移動しようなんて、試すんじゃなかった」
十代の半ばくらいだろうか。みかん色の髪を肩まで伸ばし、髪整った顔立ちだが、なぜか不満そうな表情だ。
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけ、ないでしょっ!いったいどうして、勝手に歩き回ってるんですかっ。しかも、オークに襲われてるとか、拙者の立場がなくなるじゃないですかっ」
元いた場所から離れたことはともかく、襲われたことに関しては不可抗力だったような。
ただ、その声には聞き覚えがあった。
あの木の根元まで運んでくれた人間。ルノアだ。
「オークって、その獣のこと?」
指さした先を一瞥すると、彼女は声を低くした。
「いったい何があったんですか?まさか、あなたが倒した、なんてことはないとは思いますが」
「それがよくわからないんだ。気づいたらそうなってた。きみは――ルノアって名前で合ってる?」
少女はそれには返事をせず、死体の元そばに近づき、膝をついた。
「腹部を貫通する裂傷。その周囲に焼けたあとがあります。まるで火球が通り抜けたような――。ですが、オークの外皮は防火の装備に使われるほどの耐火性能があるはず――」
早口にそう言いながら、腰から抜いた小刀で、穴から外側に向けて裂こうとしたが、皮は硬く、まるで歯が立っていない。
彼女は、本来死体があるはずの地面から、小さな墨色の石を手にして、振り返った。
「もう一度聞きますね。いったい誰が霊力を使ったんですか、レーヴ殿下」
「なるほど、やっぱりオレはレーヴなんだ」
「は?何ですか、その言い様は。さっきからくだらない質問を連発してますが、拙者をバカにしてるんですか――って、今、オレって言いました?」
「バカになんかしてない。それで、できればこれ以上、機嫌を悪くしないんでほしいんだけど――。オレの手にあるのは名前くらいで、それ以外の何も、もちろん、どうしてここにいるのかもわかってないんだ」
おそるおそるそう言うと、相手は口をぎゅっとつぐみ、顔に影を作った。
「そうですか――。やはり蘇生が完全じゃなかったってことですか。そんなの、できるはずないって。すぐに逃げようって言ったのに。こんな機会は滅多にないからって。師匠は本当に大馬鹿者です」
あの時と同じく、涙混じりにつぶやいた。
蘇生に加えて師匠という言葉に、目覚めたときの記憶が改めてよみがえる。
「君がここまで連れてきてくれたのか?」
「……ええ、そうです」
そう言うと、シャツの袖で目元を拭い、そばの木を背にして、力なく腰を下ろした。
それから、空をぼんやりと見上げたまま、人形のように動かなくなった。
「もうっ……。風で移動しようなんて、試すんじゃなかった」
十代の半ばくらいだろうか。みかん色の髪を肩まで伸ばし、髪整った顔立ちだが、なぜか不満そうな表情だ。
「大丈夫か?」
「大丈夫なわけ、ないでしょっ!いったいどうして、勝手に歩き回ってるんですかっ。しかも、オークに襲われてるとか、拙者の立場がなくなるじゃないですかっ」
元いた場所から離れたことはともかく、襲われたことに関しては不可抗力だったような。
ただ、その声には聞き覚えがあった。
あの木の根元まで運んでくれた人間。ルノアだ。
「オークって、その獣のこと?」
指さした先を一瞥すると、彼女は声を低くした。
「いったい何があったんですか?まさか、あなたが倒した、なんてことはないとは思いますが」
「それがよくわからないんだ。気づいたらそうなってた。きみは――ルノアって名前で合ってる?」
少女はそれには返事をせず、死体の元そばに近づき、膝をついた。
「腹部を貫通する裂傷。その周囲に焼けたあとがあります。まるで火球が通り抜けたような――。ですが、オークの外皮は防火の装備に使われるほどの耐火性能があるはず――」
早口にそう言いながら、腰から抜いた小刀で、穴から外側に向けて裂こうとしたが、皮は硬く、まるで歯が立っていない。
彼女は、本来死体があるはずの地面から、小さな墨色の石を手にして、振り返った。
「もう一度聞きますね。いったい誰が霊力を使ったんですか、レーヴ殿下」
「なるほど、やっぱりオレはレーヴなんだ」
「は?何ですか、その言い様は。さっきからくだらない質問を連発してますが、拙者をバカにしてるんですか――って、今、オレって言いました?」
「バカになんかしてない。それで、できればこれ以上、機嫌を悪くしないんでほしいんだけど――。オレの手にあるのは名前くらいで、それ以外の何も、もちろん、どうしてここにいるのかもわかってないんだ」
おそるおそるそう言うと、相手は口をぎゅっとつぐみ、顔に影を作った。
「そうですか――。やはり蘇生が完全じゃなかったってことですか。そんなの、できるはずないって。すぐに逃げようって言ったのに。こんな機会は滅多にないからって。師匠は本当に大馬鹿者です」
あの時と同じく、涙混じりにつぶやいた。
蘇生に加えて師匠という言葉に、目覚めたときの記憶が改めてよみがえる。
「君がここまで連れてきてくれたのか?」
「……ええ、そうです」
そう言うと、シャツの袖で目元を拭い、そばの木を背にして、力なく腰を下ろした。
それから、空をぼんやりと見上げたまま、人形のように動かなくなった。
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