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第二章 小さな主
小さな主–6
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震える体を支えながら森の中を歩き回る。ついに彼一人では歩けなくなってしまった。杖を持つ手の痙攣が止まらなかった。
紅葉を拾う彼の手がとても弱々しく見えた。
「すみませんね、主」
彼は謝罪を述べた。私は気にするな、と一言呟いた。
少しの時が流れ、ついに彼は布団の上から起き上がることすら出来なくなってしまった。
しんしんと雪が降り積もり、寒さに体が凍える。
「主…」
彼は掠れた声で私を呼ぶ。私はなんだか物足りない気分だった。そして気付けば私の口は、勝手に動いていた。
「私の名は季だ」
いつぞやの両親が名付けたこの名前。
もう何百年も呼ばれていなかった名前。そしてこの先も呼ばれることはないであろう。
だから、せめて最後は彼に呼んで貰いたい。その期待に応える様に彼は僅かな力で名を呼んだ。
「す…も、も」
それきり、彼は微塵も動くことはなかった。何度、呼びかけても。何度、揺さぶっても。
「人間など、お菓子程度の物だと思っていたんだがな…」
私は幼い頃からずっとそう教えられてきた。人間は劣等生物。私達一族よりも遥かに劣っている。
「お前は格別なんだろうな、理栖」
涙がぽつぽつと零れ落ちる。拭っても拭いきれないほどの無数の涙が降り注ぐ。
「食べることが出来なかったんだから」
こいつだけは違かったんだ。部類は同じ人間でも理栖だけは違った。同じ命なのに尊く感じた。もっと一緒にいて欲しかった。
「誇らしく思うと良い。お前はきっと【究極のお菓子】だったんだ」
もうあどけない少女の姿は何処にも無かった。そこには一人の大人の女性が小さく笑いながら呟いた。
新たなる二つの命を抱えながら。
嗚呼、愛しくて堪らない。
貴方の朽ちた躯に色鮮やかな花束を添え、ねぶりまわすように見つめる。
密かに暮らす女は、与えられた短き命の最期をしかとこの目で見届けた。
黄金色の髪を靡かせながら女は、その場を去る。
弱き人間よ。私の…心を奪い去りし者よ。あの日の約束を…。
「うそつき」
烏色のリボンを風に流し、女は一筋の涙を流したのだった。
紅葉を拾う彼の手がとても弱々しく見えた。
「すみませんね、主」
彼は謝罪を述べた。私は気にするな、と一言呟いた。
少しの時が流れ、ついに彼は布団の上から起き上がることすら出来なくなってしまった。
しんしんと雪が降り積もり、寒さに体が凍える。
「主…」
彼は掠れた声で私を呼ぶ。私はなんだか物足りない気分だった。そして気付けば私の口は、勝手に動いていた。
「私の名は季だ」
いつぞやの両親が名付けたこの名前。
もう何百年も呼ばれていなかった名前。そしてこの先も呼ばれることはないであろう。
だから、せめて最後は彼に呼んで貰いたい。その期待に応える様に彼は僅かな力で名を呼んだ。
「す…も、も」
それきり、彼は微塵も動くことはなかった。何度、呼びかけても。何度、揺さぶっても。
「人間など、お菓子程度の物だと思っていたんだがな…」
私は幼い頃からずっとそう教えられてきた。人間は劣等生物。私達一族よりも遥かに劣っている。
「お前は格別なんだろうな、理栖」
涙がぽつぽつと零れ落ちる。拭っても拭いきれないほどの無数の涙が降り注ぐ。
「食べることが出来なかったんだから」
こいつだけは違かったんだ。部類は同じ人間でも理栖だけは違った。同じ命なのに尊く感じた。もっと一緒にいて欲しかった。
「誇らしく思うと良い。お前はきっと【究極のお菓子】だったんだ」
もうあどけない少女の姿は何処にも無かった。そこには一人の大人の女性が小さく笑いながら呟いた。
新たなる二つの命を抱えながら。
嗚呼、愛しくて堪らない。
貴方の朽ちた躯に色鮮やかな花束を添え、ねぶりまわすように見つめる。
密かに暮らす女は、与えられた短き命の最期をしかとこの目で見届けた。
黄金色の髪を靡かせながら女は、その場を去る。
弱き人間よ。私の…心を奪い去りし者よ。あの日の約束を…。
「うそつき」
烏色のリボンを風に流し、女は一筋の涙を流したのだった。
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