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第1章 隔離病棟
白の箱庭
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真っ白な壁に真っ白な天井。真っ白な服を身に纏い真っ白なシーツの上に寝転ぶ。窓から入る生ぬるい風が真っ白な髪を揺らす。窓の外に広がる鮮やかな風景を見る度、自分の世界は隔離されているように感じる。俺はまだ白い箱の世界しか知らない。
世界には色が存在する。色彩豊かな外の世界は、俺にとっては異次元の世界に等しかった。色鮮やかな花畑も、街中に浮かぶイルミネーションも、全部全部、本の中のお話。お伽噺に近い存在だった。
病院というのは、大変つまらない所で「楽しい」もなければ「嬉しい」もない場所。そんな場所で俺は今日まで生きてきた。いつ、終わるかわからない命を抱えながら。
それは突如やってきた。死に物狂いで心臓は脈を打つ。呼吸の乱れが荒くなる。目の前の景色がぼんやりと霞む。身体中が悲鳴を上げ、軋む。これが生命の終わる瞬間なのか。ずいぶんと呑気な事を考えていた。辛いはずなのに。痛いはずなのに。やけに体が軽く感じた。
部屋から鳴り響く異音に駆けつけた周りの大人達が叫べば叫ぶほどに、俺は静けさを感じた。
何も聞こえない。何も感じない。
ふと、窓から一筋の流星が流れ落ちるのが見えた。きらきらと眩い光が俺の瞳に星を咲かす。
-あぁ、神様。俺に希望を、色を。
神様なんて信じたことなど、ただの一度も無かった。
けれど、今は、今だけは信じられずにはいられなかった。
震える手を流星に向けて差し伸ばした所で、記憶が途絶えた。
世界には色が存在する。色彩豊かな外の世界は、俺にとっては異次元の世界に等しかった。色鮮やかな花畑も、街中に浮かぶイルミネーションも、全部全部、本の中のお話。お伽噺に近い存在だった。
病院というのは、大変つまらない所で「楽しい」もなければ「嬉しい」もない場所。そんな場所で俺は今日まで生きてきた。いつ、終わるかわからない命を抱えながら。
それは突如やってきた。死に物狂いで心臓は脈を打つ。呼吸の乱れが荒くなる。目の前の景色がぼんやりと霞む。身体中が悲鳴を上げ、軋む。これが生命の終わる瞬間なのか。ずいぶんと呑気な事を考えていた。辛いはずなのに。痛いはずなのに。やけに体が軽く感じた。
部屋から鳴り響く異音に駆けつけた周りの大人達が叫べば叫ぶほどに、俺は静けさを感じた。
何も聞こえない。何も感じない。
ふと、窓から一筋の流星が流れ落ちるのが見えた。きらきらと眩い光が俺の瞳に星を咲かす。
-あぁ、神様。俺に希望を、色を。
神様なんて信じたことなど、ただの一度も無かった。
けれど、今は、今だけは信じられずにはいられなかった。
震える手を流星に向けて差し伸ばした所で、記憶が途絶えた。
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