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Episode
イベリスの花-5
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春斗は眉間に寄せた皺を解き放ち、そういえば--とふと思い出した。一昨年の彩乃の誕生日に母親の助言を得て、彩乃の好きな桜色の小さな口紅をプレゼントしたんだった。綺麗にラッピングされた小包みを開けた時、彼女は目尻に涙を溜めながらも優しく微笑んで「ありがとう」と喜んでいた。
こんな小さな物で大はしゃぎする彩乃を見て、男には一生解らない。そう思った事を微かに覚えていた。
それを今も大切に使っている。その事実がとても嬉しく、春斗は高揚する気持ちを抑えるのに精一杯だった。
「…そう。なら良いよ」
やっとの思いで吐き出した言葉は短く素っ気ないが、赤らんだ柔らかな耳が全てを語っていた。
彩乃はあからさまに表情を緩め、春斗の頭を撫で始めた。それがまた春斗の顔を赤一色に染め上げる。
春斗は目を合わせないようにと必死だった。すると彩乃が集めた花が目に入る。
イベリスのもう一つの花言葉。
--甘い誘惑--
彼女はそれを理解しての行動なのかは分からない。天然なのか確信犯なのか。
まぁ、今はまだこの関係で良い。
春斗はぐっと伸びをすると硬い表情を解いた。
「帰ろうか」
「うん!」
赤色と橙色が滲んだ夕暮れが空の一部となったお話。
こんな小さな物で大はしゃぎする彩乃を見て、男には一生解らない。そう思った事を微かに覚えていた。
それを今も大切に使っている。その事実がとても嬉しく、春斗は高揚する気持ちを抑えるのに精一杯だった。
「…そう。なら良いよ」
やっとの思いで吐き出した言葉は短く素っ気ないが、赤らんだ柔らかな耳が全てを語っていた。
彩乃はあからさまに表情を緩め、春斗の頭を撫で始めた。それがまた春斗の顔を赤一色に染め上げる。
春斗は目を合わせないようにと必死だった。すると彩乃が集めた花が目に入る。
イベリスのもう一つの花言葉。
--甘い誘惑--
彼女はそれを理解しての行動なのかは分からない。天然なのか確信犯なのか。
まぁ、今はまだこの関係で良い。
春斗はぐっと伸びをすると硬い表情を解いた。
「帰ろうか」
「うん!」
赤色と橙色が滲んだ夕暮れが空の一部となったお話。
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