愛し方を知らない少年と愛され方を知らない少女

風蓮華

文字の大きさ
上 下
9 / 9
Episode

イベリスの花-5

しおりを挟む
 春斗は眉間に寄せた皺を解き放ち、そういえば--とふと思い出した。一昨年の彩乃の誕生日に母親の助言を得て、彩乃の好きな桜色の小さな口紅をプレゼントしたんだった。綺麗にラッピングされた小包みを開けた時、彼女は目尻に涙を溜めながらも優しく微笑んで「ありがとう」と喜んでいた。
こんな小さな物で大はしゃぎする彩乃を見て、男には一生解らない。そう思った事を微かに覚えていた。
それを今も大切に使っている。その事実がとても嬉しく、春斗は高揚する気持ちを抑えるのに精一杯だった。

「…そう。なら良いよ」

やっとの思いで吐き出した言葉は短く素っ気ないが、赤らんだ柔らかな耳が全てを語っていた。
彩乃はあからさまに表情を緩め、春斗の頭を撫で始めた。それがまた春斗の顔を赤一色に染め上げる。
春斗は目を合わせないようにと必死だった。すると彩乃が集めた花が目に入る。
イベリスのもう一つの花言葉。

--甘い誘惑--

彼女はそれを理解しての行動なのかは分からない。天然なのか確信犯なのか。
まぁ、今はまだこの関係で良い。
春斗はぐっと伸びをすると硬い表情を解いた。

「帰ろうか」
「うん!」

赤色と橙色が滲んだ夕暮れが空の一部となったお話。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

狂愛のダンスを一緒におどりましょう

風蓮華
恋愛
ひらひら華麗に飛び回る蝶のように、綺麗なステップを踏みましょう。 例え中身が醜悪なる悪魔だったとしても、きっと貴方は虜になるでしょう。 さぁ、私の手を取りなさい。“愛”を教えてあげます。 狂った“愛”を、ね?

それでも幸せ

salt
恋愛
幸せとは何なのか。それぞれが思い浮かべる幸せがある中で主人公は幸せを探し始める。 生きている中で辛い事や悲しい事はあると思います。作者である私もありました。 そこで、この小説を書くことで共感してもらい、読者様の心に寄り添えたらと思っています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。 ※感想欄では読者様がせっかく気を遣ってネタバレ抑えてくれているのに、作者がネタバレ返信しているので閲覧注意でお願いします…

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...