愛し方を知らない少年と愛され方を知らない少女

風蓮華

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イベリスの花-4

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 甘い雰囲気の中、春斗は長いまつ毛を震わせながら目を開ける。眉間に皺を寄せ、怪訝そうな顔で自身の指を見つめる。
親指に違和感を感じた。ベタリと貼り付いた感覚に不快感を隠せずにいた。

「ねぇ、指に何か付いたんだけど」

彩乃は言われて春斗の親指を食い入るように見る。確かに色白い肌の一部が少し赤く染まっていた。その部分は唇に触れた周辺だった。

「あぁ、口紅じゃない?」

そういえば今朝、口紅を塗ったんだった。彩乃はふと思い出す。鮮やかな桜色の口紅を。
彩乃は春斗に会いに行く時は必ずそれを付けるように習慣づけていた。なぜならあれは--。

「なんかベトベトする…ねぇそれ付けるの禁止」
「えぇ!?そんな…これ春くんがくれたのに」

彩乃の言葉に春斗は僅かに肩を揺らした。
自分が口紅をプレゼントした事があっただろうか。春斗は唸りながら必死に記憶の糸を辿っていく。
春斗が思考を巡らせている中、彩乃は何かを凝視していた。それはインディゴの瞳に映る桜色。子供染みた言葉しか出てこない程、それは綺麗だった。
そして春斗には聞こえない程、小さな声で呟いた。

「海…に舞う桜吹雪…」

私の好きな景色。
その言葉に口角を少しだけ上げた。
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