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1章
お名前
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入ったカフェは白と木目を基調とした、シンプルな内装だった。あらゆるところに緑が飾られており、目の前に座る彼女をまるで世界で一番美しい花と錯覚させるほど引き立てている。
周りを見渡せば、他の客も性別関係なく頬を赤らめながら彼女に注目しており、改めて彼女の容姿は優れているのだと実感した。
しばらくすると注文した珈琲とアフタヌーンティーセットが小さな丸テーブルを埋め尽くした。
僕は頼んだ珈琲をちびちびと飲みながら気を紛らわす。
「先生、そんなに強張らなくても大丈夫ですよ。ここは学校からも離れていますし、今のところ怪しまれてもいませんよ」
「それでもね、先生という立場からすれば万が一を考えると胃が痛くなるよ…」
苦笑すると、彼女はそうですね、と少し考え込み何かを閃いたかのように手を合わせた。
「でしたら、先生と呼ぶのは危険ですね。お名前で呼びます。ね、琲羅さん?」
彼女がこてん、と可愛らしく首を傾げる。
その瞬間、体温が一気に上昇し、ぶわっと全身から汗が吹き出したかのようだった。
麻薬のような中毒感。鳴り止まない脈拍。キュっと締め付けられる胸。
これは、ダメだ。クセになりそうだ。
「な、な、名前はやめなさい…。せめて沼田の方でしょう。むしろそっちでお願いします」
「あらあら…せっかくお名前で呼ぶチャンスだと思ったんですけどね。お名前嫌いですか?その珈琲と同じ字が使われていてなんだかカッコいいじゃないですか」
すっ、と僕の持つ珈琲を指しながら彼女は妖艶に笑う。
そんな表情も出来たのか。学校では見ない姿に少し戸惑った。
「こんな名前…今で言うキラキラネームじゃないか。しかも時代を先取りし過ぎて散々揶揄われた思い出しかないよ…」
溜め息混じりに説明すると、僕は珈琲を一気に飲み干した。じんわりと広がる苦味で冷静さを取り戻す。
「すまないが、帰って仕事をしないといけなくてね。お釣りは要らないから先に出させて貰うよ」
お札を一枚テーブルに置いてそそくさとカフェを出た。
これ以上、彼女と一緒に居ると何かがおかしくなりそうだったからだ。
このままじゃまずいと思い、またドラッグストアへと足を運んだ。
先生が足早に帰って行った後、私は一口サイズのケーキを口へ運ぶと紅茶で流し込んだ。
「照れてるのかなぁ、可愛い」
先生は受け身タイプなのかな。少し強引な方が良い感じ。おかげでアリスさん、って名前も呼んでもらえた。本当は呼び捨てが良かったけど、これでも充分嬉しい。
「明日学校でまた会えるなんて…幸せ♡」
先生が置いて行ったお札を手に取り、ちゅっ、とリップ音を立てた。
周りを見渡せば、他の客も性別関係なく頬を赤らめながら彼女に注目しており、改めて彼女の容姿は優れているのだと実感した。
しばらくすると注文した珈琲とアフタヌーンティーセットが小さな丸テーブルを埋め尽くした。
僕は頼んだ珈琲をちびちびと飲みながら気を紛らわす。
「先生、そんなに強張らなくても大丈夫ですよ。ここは学校からも離れていますし、今のところ怪しまれてもいませんよ」
「それでもね、先生という立場からすれば万が一を考えると胃が痛くなるよ…」
苦笑すると、彼女はそうですね、と少し考え込み何かを閃いたかのように手を合わせた。
「でしたら、先生と呼ぶのは危険ですね。お名前で呼びます。ね、琲羅さん?」
彼女がこてん、と可愛らしく首を傾げる。
その瞬間、体温が一気に上昇し、ぶわっと全身から汗が吹き出したかのようだった。
麻薬のような中毒感。鳴り止まない脈拍。キュっと締め付けられる胸。
これは、ダメだ。クセになりそうだ。
「な、な、名前はやめなさい…。せめて沼田の方でしょう。むしろそっちでお願いします」
「あらあら…せっかくお名前で呼ぶチャンスだと思ったんですけどね。お名前嫌いですか?その珈琲と同じ字が使われていてなんだかカッコいいじゃないですか」
すっ、と僕の持つ珈琲を指しながら彼女は妖艶に笑う。
そんな表情も出来たのか。学校では見ない姿に少し戸惑った。
「こんな名前…今で言うキラキラネームじゃないか。しかも時代を先取りし過ぎて散々揶揄われた思い出しかないよ…」
溜め息混じりに説明すると、僕は珈琲を一気に飲み干した。じんわりと広がる苦味で冷静さを取り戻す。
「すまないが、帰って仕事をしないといけなくてね。お釣りは要らないから先に出させて貰うよ」
お札を一枚テーブルに置いてそそくさとカフェを出た。
これ以上、彼女と一緒に居ると何かがおかしくなりそうだったからだ。
このままじゃまずいと思い、またドラッグストアへと足を運んだ。
先生が足早に帰って行った後、私は一口サイズのケーキを口へ運ぶと紅茶で流し込んだ。
「照れてるのかなぁ、可愛い」
先生は受け身タイプなのかな。少し強引な方が良い感じ。おかげでアリスさん、って名前も呼んでもらえた。本当は呼び捨てが良かったけど、これでも充分嬉しい。
「明日学校でまた会えるなんて…幸せ♡」
先生が置いて行ったお札を手に取り、ちゅっ、とリップ音を立てた。
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