平成寄宿舎ものがたり

藤沢 南

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DJ能勢悠 その1

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「おいおい。そんなんで良いんかよ。」三浦先輩が呆れた顔でその放送に突っ込んだ。
「相変わらずの一刀両断。切れ味鋭いですね。」私は、変な褒め方をした。
「あれを評価するとは、尚美も変わっているなぁ。私はあんなお悩み相談に相談したくないわ。尚美、悠の番組にハガキ出してみ。きっと採用されるから。」
「採用されるとなんかもらえるんですか?」私はちょっと色気をにじませた。
「私、洗剤もらった。」関先輩は恥ずかしそうな表情で自慢した。
「なに、麗華。あの番組にハガキ出したの?」
「うん。私ペンネームってのがよくわからなくって、本名で呼ばれたよ。」関先輩はそこでちょっと胸を張った。
「私、ちょっとあんた達の感覚がわからないわ。たしかに悠の声は良いけど、あの番組ってハガキ出すまでのものかなぁ…」
三浦先輩は行動力はあるが、ささいな事でつまづいたり、悩んだりする。関先輩はいつもおおらかで楽天的だ。そして、あんまりガツガツしていない。だから行動力も三浦先輩には遅れをとっている。性格が正反対なこの2人が、仲がいいのが不思議だ。そこに、新入生の私が入ってきた。三浦先輩とはバイト仲間で先輩後輩、関先輩とは料理研究会で先輩後輩だ。いい三角関係で、居心地がいい。拘束時間が短い部活に入っているので、無所属の三浦先輩を含めて3人で寄宿舎ロビーで駄弁ることが多かった。 

翌週の土曜日、寄宿舎に珍しいお客さんがやって来た。
「あれ!悠、おはよう。」
「真知子。」
三浦真知子と顔を合わせたのは、能勢悠その人だった。彼女は段ボールを一箱、台車で持って来ていた。
「私の番組のスポンサーさんが変更になったの。それで、局でたくさん余っている番組の景品をくれたから。」
彼女は段ボールいっぱいの洗剤を取り出した。
「時代の流れね。昔ながらの粉の洗剤は重くて売れないようで。良かったら、寄宿舎で使ってくれない?」
「わぁぁ。」
三浦は顔を輝かせた。これがあれば、寮生は半年は洗剤を買わなくてよくなる。ちょっと、尚美、おいで!
私は言われるままに、寄宿舎玄関に呼び出された。
「わぁ、ありがとうございます。」
「あなたは初めて顔を見るわね。能勢悠です。2年4組。真知子とは1年の時同じ委員会で一緒だったんで。よろしくね。」
「申し遅れました元倉尚美です、1年4組です。」
私は能勢先輩のきれいな右手と握手した。温かい手だった。
「寄宿舎のみんなもきっとそうだろうけど、私や尚美のようにアルバイトをしている苦学生は、本当にこういう差し入れが助かるわ。いつもありがとう、寄宿舎のみんなに代わって御礼を言います。」三浦先輩は寄宿舎の代表者を自負するかのように、能勢先輩にお礼を述べた。
「そんな、かしこまらなくっていいから。私としても、もらってくれないと。置き場がなくて困るのよ。カラーガード部にも一箱あげたし。」
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