平成寄宿舎ものがたり

藤沢 南

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名門高校の生徒会選挙

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「ねえ、あの経費って何?」
諸岡と対立している、生徒会書記の女の子(2年生)が生徒会会計担当(2人とも1年生)に尋ねた。
「あ、…あの、寄宿舎の費用です。」
その話を聞いた2年生書記は、顔色を変えた。

「何、あの子。諸岡って、1年のくせに寄宿舎予算を削ろうとしているの?」
「…私達にも詳しくは話さないけど、寄宿舎制度を、今の時代にあった形に変えていきたいそうなんです。」
「生意気な。寄宿舎制度を潰すつもりかしら。私が1年の時に、会長をやっていた黒沢先輩は寄宿舎生だったのに…。」
「いえ、潰すつもりはないようです。諸岡さんには寄宿舎生のお友達もいるようだし。」
もう1人の1年の会計担当が、おずおずと答えた。
「諸岡の友達かぁ。…あんまり友達多そうには見えないけど。」
2年の書記の女の子は、あまり諸岡のことが好きでないようだ。
「多くないと思います。諸岡さん、頭もいいし美人だけど、なんか話してて気を使うし。同じ学年なのに。」
「私も。学校帰りにコンビニやファーストフードに一緒に行く感じが諸岡さんからしないんです。」
会計担当の1年生の意見を聞きながら、2年の書記の女の子は、悪態をついた。
「私だって文化部の吹奏楽部の一員だし、英語部の友達だっているんだから、もうちょっと私に心を開いてくれてもいいのになぁ。」
「同学年の私達とも積極的に交流しないんだから、仕方ないですよ。会長や副会長が諸岡さんを可愛がっているんだって、面倒な事務仕事を引き受けてくれるからだし。好きで可愛がっているわけじゃないと思いますよ。」
「ね、先輩。私達文化部の生徒会も、諸岡さんいなくても頑張れますって。来年前期の生徒会で、今の平山会長と大滝副会長が受験で引退でしょ。あとは先輩が会長に、私達が副会長か書記に入れば、諸岡さんがいたとしても、数の論理で押し切れますって。あと半年の辛抱です。」
「そうね。でも、カラーガード部は毎年誰かしら選挙に送り込んでくるから、要注意よ。」

「しかし…先輩。さすが一女の生徒会ですね。大抵の学校は生徒会選挙は盛り上がらないと聞いています。でもこの学校は生徒会選挙が、部活のメンツをかけた一大イベントになってます。やっぱりこの学校はすごい学校ですよ。」
「そうね…。」
2年生書記は少し考え込んでいるようだった。

『諸岡だってそのくらい考えているはず。平山会長の忠犬を決め込んだのなら、きっと次の前期生徒会選挙で副会長か会長か、そのくらいのポストを狙ってくる。私だって2年前期と後期の2期生徒会を勤めたんだ。負けるわけにはいかない。私の支持層は、吹奏楽部と、可愛いこの会計担当の2人か。…一匹オオカミだが美人で優秀。今のところ英語部の半数ぐらいの部員しか支持基盤のない諸岡とは言え、次期生徒会選挙で彼女に完勝するとなると、あとはどこを味方につけるべきか。』
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